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アジアに関する論文

北朝鮮を変化させるには
――内からの変化を促す交流を

2009年11月号

アンドレイ・ランコフ 韓国国民大学歴史学准教授

交渉に入ることに合意し、段階的な譲歩に応じることで国際社会から援助を引き出し、その後、交渉から離脱して挑発行動を取り、より大きな見返りが期待できる状態になってから、再び交渉テーブルに戻る。北朝鮮の指導者は15年にわたってこのやり方を繰り返してきた。・・・援助なしでは生きていけない北朝鮮が援助を引き出すツールである核やミサイル開発プログラムを放棄することはあり得ない。認識すべきは、外からの圧力には効果がなく、変化は北朝鮮の内側からしか起こりえないということだ。必要なのは、アメリカと同盟国が、北朝鮮民衆に対して自分たちの生活とは違う、非常に魅力的な代替策が外の世界に存在するのを教えていくことだ。

エリート集団内の新興勢力と旧勢力が権力闘争を繰り広げ、都市生活者と農村部が反目し、北部と東北部がバンコクや南部と対立し、貧困層と富裕層の亀裂も深まっている。しかも、これまで社会を束ねる役目を果たしてきた王室も、王位継承問題を抱えている。これに経済危機が重くのしかかるようになれば、タイの将来はますます不透明化していく。タイの政治危機が社会闘争の様相を呈するようになった最大の理由は、タクシンが貧困層、特に貧しい東北部の苦境を権力抗争に利用したからだ。しかし、タクシン派同様に、反タクシン派も大きな問題を抱えている。現在の闘争は、経済階級闘争というよりも、政治闘争や地域闘争の色彩が強く、政治危機も二つのエリート集団間の権力闘争と考えるのが真実に近い。現状では、タイの危機が収束していくとは考えにくい。

Classic Selection 2008
グローバル化のたそがれ?
―― アジアからアメリカへの貿易の流れは停滞する

2009年8月号

マーク・レビンソン
エコノミスト 元ニューズウィーク誌経済担当ライター

グローバル化の後退を促している要因は二つある。運輸コストの上昇と国際物流への信頼性の低下だ。原油価格の高騰に加えて、これまでグローバル化を支えてきたコンテナ輸送を受け入れる港湾インフラ、国内輸送インフラが逼迫し、テロ対策、環境対策もとらざるを得ない状況にある。これらのすべてがグローバルなサプライチェーンの流通・輸送コストを引き上げている。その結果、世界の反対側にある工場から部品を調達し続けることが賢明なのかどうか、企業も疑問に感じるようになり、グローバル規模でのアウトソーシングもかつてのような魅力を失いだしている。すでに先進国市場のための製品や部品を作ってきたアジアに進出している企業はこれまでのビジネスモデルを見直し、工場から商店の棚に並ぶまでのサプライチェーンの距離を短くしようと試みている。実際、アメリカのメーカーは国内、そして、メキシコ、中央アメリカなど、米市場に近い地域へと生産拠点を移そうとするかもしれない。いまや「グローバル化の黄金時代」は終わりつつある。

輸出主導型経済成長モデルの終わり?
―― アジア経済が苦境に陥っている本当の理由

2009年8月号

ブライアン・P・クライン/外交問題評議会国際関係(日立)フェロー
ケネス・ニール・クキエル/英エコノミスト・ビジネス・金融担当東京駐在特派員

輸出依存型のアジアの経済成長モデルはこれまでうまく機能したし、20世紀最後の25年間にグローバル貿易が世界のGDP成長率の2倍のペースで拡大するという幸運にも恵まれた。しかし、輸出主導型経済成長の時代はすでに終わっている。・・・「アジア経済は欧米経済からほぼ独立した経済圏になった」という見方が一時は浮上したが、実際には、アジアの地域内輸出の約60%は中間財で、中国を経由して最終的には欧米諸国へと輸出されるグローバル・サプライ・チェーンの一部だった。その結果、アメリカの消費需要の激減という事態を前に、アジアの製造業も崖から突き落とされてしまった。アジア諸国が、貿易不均衡を是正し、国内消費を増大させ、社会のセーフティーネットを整備するといった必要不可欠な経済改革を実施しなければ、アジア地域は、長期にわたる低成長から抜け出せなくなる恐れがある。

途上国への農業援助を見直せ
―― 飢えに苦しむ人々を救うには

2009年7月号

キャサリン・ベルティニ 元国連食糧計画 エグゼクティブ・ディレクター
ダン・グリックマン 元米農務長官

(経済成長に伴う)アジアの食糧需要増、長期に及んだオーストラリアでの干ばつ、一次産品を対象とする投機、エネルギー価格の高騰および穀物がバイオ燃料の原料として転用されたことなど、2008年に穀物価格がこの数十年でもっとも上昇した背景にはさまざまな要因が重なり合っていた。その後、多くの穀物や食糧価格は低下したが、世界の貧困地域ではいまも多くの人々が十分な食糧を確保できずにいる。……国際社会は、飢えや栄養失調に派生する疾病が世界の公衆衛生にとっていまや最大の脅威であり、AIDS、マラリア、結核の犠牲者総数を上回る規模の人々を死に追いやっていることを忘れている。……金融危機のなか、この問題に目を背けることは簡単だが、その帰結は甚大なものになる。

CFRミーティング
4人の専門家が分析する
北朝鮮の核、権力継承、経済制裁、外交交渉の行方

2009年7月号

チャールズ・ファーガソン/米外交問題評議会シニア・フェロー
ポール・B・スターレス/米外交問題評議会シニア・フェロー兼予防行動センター・ディレクター
デビッド・C・カング/南カリフォルニア大学朝鮮半島研究所ディレクター
チャールズ・プリチャード/コリア経済研究所会長 北朝鮮問題担当米特使(2001~2003)

北朝鮮は、2006年10月に続いて、2009年5月25日にも核実験を行い、北東アジアの安定、そして国際的な核不拡散レジームを脅かしている。核実験が作り出した今回の危機は北朝鮮の政権の意図、核兵器の能力、権力継承プロセスが今もはっきりとせず、北朝鮮が制裁措置に対する複雑な盾をもっていること、そして、非核化に向けた多国間外交に制約があることなどの厄介な問題を再び浮上させている。以下は、4人の専門家による北朝鮮の今後に関する分析。

「核のない世界」と核拡散という現実
――北朝鮮、イランと核不拡散

2009年7月号

スピーカー
 ウィリアム・ペリー
元米国務長官
ブレント・スコークロフト
元国家安全保障担当大統領補佐官
司会
ジャクソン・ディール
ワシントン・ポスト紙論説ページ副編集長

「核のない世界の実現にもっぱら焦点を合わせれば、戦争や危機を回避するという目的に目がいかなくなってしまう。・・・私に言わせれば、核兵器が存在しなかった時代とは、第一次世界大戦、第二次世界大戦に象徴される時代だ。核廃絶という目的にコミットする前に、それが何を意味するかをもっと具体的に検討する必要がある」。(B・スコークロフト)

「核のない世界を実現するという目的を表明し、それに取り組んでもイランや北朝鮮の行動を変えることはできないだろう。だが、イランや北朝鮮に対処していく上でその協力が必要な諸国の支持を得ることができる。だからこそ、核のない世界という目的は重要だし、私が核のない世界を支持しているのもこうした理由からだ」。(W・ペリー)

核の脅威を誇張するのは止めよ
―核の惨劇を回避できる見込みはかつてなく高まっている

2009年6月号

マイケル・クレポン ヘンリー・スチムソンセンター共同設立者 

今も世界は核の危険にさらされているが、脅威を削減するのに、脅威を過大視する必要はない。政治家と核不拡散の専門家が警告を発するのに、人々の危機意識をことさらに高める必要はない。国際政治において核を保有することの重要性と意味合いはかつてなく低下している。辛抱強く、一貫した外交を展開してきたことで、いまや核不拡散はグローバルな規範となり、これを受け入れていないのはごく一部の諸国に過ぎない。しかも、すべての安保理常任理事国、そしてインド、イスラエル、パキスタンは「核によるテロリズム」という共通の脅威に直面しており、この共通の脅威の存在が、核不拡散を試みていくための国際的協調基盤を提供している。

CFRブレス・ブリーフィング
最大の脅威はタミフルが
効かないウイルスへと
A(H1N1)が変異していくことだ

2009年6月号

ローリー・ギャレット CFRシニア・フェロー(グローバル・ヘルス担当)、ロバート・マクマホン www.cfr.orgのアクティング・エディター

「なぜ若年成人層がA(H1N1)のリスク・グループになっているかを考える必要がある。この場合に、免疫の弱っている人々、HIV感染者にどう作用するかを考えることも重要だ。次に、致死率を把握する必要がある。そしてウイルスの特性を突き止めなければならない。とくに、2008年9月からアメリカに姿を現し始めた豚インフルエンザとの関係を明らかにしなければならない。そしてタミフルへの耐性を持っているかどうかをつねに警戒しなければならない。すでにタミフルへの耐性を持っている季節型H1N1ウイルスと、今回の新型ウイルスが結びつけば非常に厄介なことになる」。

邦訳文は豚インフルエンザの発生直後、WHOが警戒レベルを4に引きあげるさなかの4月28日(現地27日)に開かれたCFRのプレス・ブリーフィングからの要約。現状でも関連性が高いと思われる部分だけを訳出した。全文(英文)はwww.cfr.orgからアクセスできる。

国家資本主義の台頭と市場経済の終わり?

2009年6月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ会長

グローバルな金融危機にもかかわらず、国営石油企業が依然として世界でもっとも戦略性の高い資源の75%を支配し、国有企業そして政府の後ろ盾を持つ民間の覇権企業が、民間のライバル企業に対する競争上の優位を持っている。しかも、政府系ファンドは依然として潤沢な資金を持っている。本当に大きすぎて潰せないのはこれらの企業や組織のほうだろう。いまや市場経済の勢いは弱まり、国と政府が主要な経済アクターとして、主に政治的利益のために市場を利用しようとする「国家資本主義」が台頭し始めている。(冷戦期のような)政治的イデオロギーではなく、「市場経済」と「国家資本主義」という2つの経済モデルをめぐるグローバルな抗争という構図が生まれつつある。しかも、グローバルな金融危機とリセッションによって、「国が管理する資本主義」という強力なブランドが突きつける問題と課題はますます大きくなってきている。

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