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アジアに関する論文

新興国という無責任な利害共有者 ―― 時代は「協調なき、多極化」へ

2010年12月号

スチュワート・パトリック / 米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカのパワーが衰退していくにつれて、台頭する新興国は既存の制度を試し、弱め、改革して自分たちの目的に合致するように作り替えようと試み始めている。既存の大国と新興大国の間だけでなく、新興大国どうしの戦略的ライバル関係も高まりをみせている。各国が演じているゲームは一つではない。金融改革や対テロでは協調するかもしれないが、市場シェア、戦略資源、政治的影響力、軍事的優位をめぐっては競いあっている。問題は、アメリカを含む先進国が、パートナー、そしてライバルとしての二つの顔を持ち、国際社会での発言権を強化したいと望みながら、一方では自国を途上国と定義する新興諸国との関係をどのように管理していくかだ。新しい国家を制度に取り込む一方で、可能な限り、これまでの秩序を維持していくには、2世紀前のヨーロッパの大国間協調がそうだったように、常に綱渡りをしているような細かな配慮が必要になる。

アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない

2010年12月号

キショール・マブバニ シンガポール国立大学行政大学院院長

アジアの国際環境は多極化していく。中国が台頭しているとはいえ、誰もがアメリカがアジアでの強固なプレゼンスを維持していくことを願っているし、インドもパワーをつけて台頭しているからだ。この環境では、中国は地政学的に非常に慎重な行動をとらざるを得ない。中国にとっての悪夢のシナリオは、あまりに高圧的な路線をとって反発を買い、アメリカ、日本、ロシア、インド、さらにはベトナム、オーストラリアを結束させてしまうことだ。当然、中国はこの悪夢のシナリオが現実と化すのを避けようとするだろうし、自国の行動をもっと慎重に考えるようになると思う。誰もが唯一の超大国として中国が台頭してくるのではないかと心配しているが、私はそうはならないと考えている。(K・マブバニ)

CFRインタビュー
コレラ流行はパンデミック化している

2010年12月号

ローリー・ギャレット / 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

大地震が発生してまだ一年も経ってないハイチでコレラが発生し、感染が大きな広がりをみせている。汚染された水によって人間に感染するコレラは、適切な水分補給と抗生物質投与によって治療できる感染症だが、ハイチがこれまでも水道と公衆衛生インフラをうまく整備できていなかったこと、そして地震後のインフラ再建が遅れていることが災いして、問題がさらに深刻になっている。コレラが発生した場所に適切な公衆衛生、清潔な飲料水供給システムがなければ、感染は瞬く間に広がっていく。ハイチだけでなく、ナイジェリアでも、パキスタンでも同じタイプのコレラが流行している。「実際には、これはパンデミックだ」とギャレットは言う。今回のコレラ発生は、世界各地で実施されている平和維持活動、危機地域を移動する人道支援活動にとっての新たな課題を浮上させている。平和維持活動、人道支援活動が実施されるのは、往々にしてそうした公衆衛生インフラが存在しない地域だからだ。聞き手は、デボラ・ジェローム (Deputy Editor, CFR.org)

欧米とアジアの相互依存は成立するか
―― 中国、インド、欧米の相互作用とアジアの未来

2010年10月号

サイモン・タイ シンガポール国際問題研究所(SIIA)理事長

中国とインドを中心とするアジア経済は、このままめざましい成長を続け、欧米世界からは距離をおくようになるのか、それとも、依然としてアジアは欧米を必要としているのか。経済・金融危機が起きるまでは、アジア経済の統合が進めば、アメリカの消費者に頼らずとも、アジア経済は成長を維持できるという立場の「ディカップル論」に合理的な根拠があるようにも思えた。しかし、危機が深刻化するにつれて、アジア経済と欧米経済のディカップルなどあり得ないことが明らかになっていく。アメリカの需要が急速に落ち込むと、アジア全体、特に中国の生産がすぐさま打撃を受けた。だが、アメリカ市場への依存を抑えようとするアジアの取り組みも始まっている。内需を高め、アジアの貯蓄を米国債の購入にばかりあてずにアジアにとどまるようにするための、新しい金融メカニズムの構築が試みられている。流れはどちらへと向かうのか。そして、地域的、そして世界的に経済モデルとして注目されるのは中国経済、インド経済のどちらなのか。

平壌という北朝鮮民衆の悪夢

2010年9月号

マーカス・ノーランド ピーターソン国際経済研究所シニア・フェロー

北朝鮮の経済は今後も停滞を続け、人々は食糧不足に苦しみ、2004~2005年以降の反改革路線もおそらくは継続されるだろう。憂鬱な停滞が続くはずだ。平壌は、人々を奈落の底に突き落とすような政策をとりつつも、それでも権力を維持していくだろう。これは北朝鮮の悲劇だ。現在の北朝鮮の体制はとにかく秘密主義だし、民衆を悲惨な目に遭わせるという点では無限大の能力を持っている。・・・だが、北朝鮮に対する金融制裁はそれなりの効果を期待できる。各国の金融機関が自行のイメージが傷つくことを恐れて、北朝鮮との取引を自主的に制限し始めることは過去のケースからも明らかだし、中国政府も金融制裁については、中国の銀行がアメリカ市場へのアクセスを失うことを恐れて、積極的に協力するからだ。今後の鍵を握るのは、制裁とともに、大きな変化をもたらすポテンシャルを秘めている北朝鮮の非公式経済がどうなるかだ。もちろん、北朝鮮政府は、今後も、この国における経済活動の多くを直接的な管理下に置こうと試みるだろう。だが問題は、経済を運営する能力を政府が持っていないこと、人々が食卓に食事を並べるための食糧を提供できないことだ。

新たな核拡散潮流を阻止するには
――北朝鮮、イランよりも、周辺国への核開発の連鎖を封じ込めよ

2010年8月号

グレゴリー・シュルテ 前国際原子力機関・ ウィーン国際機関米政府代表部大使

核拡散を阻止しようとする国際的な試みは、多くの場合、北朝鮮やイランの核の野望を封じ込めることに焦点が合わせられている。だが、このやり方を続けてもおそらくうまくはいかない。制裁や交渉をさらに試みても、北朝鮮やイランの現在の指導者たちの計算を変えることはできないからだ。むしろ、今後、核開発を試みかねない諸国に対する監視と説得を重視し、北朝鮮とイランに対しては、外交、制裁措置を、内からの変革を促すように戦略を再設計する必要がある。認識すべきは、いまや、特定国による核開発だけでなく、多国間による核開発の試みに備えていく必要があることだ。これ以上の核拡散を阻止するには、核施設の有無を突き止めるだけでなく、核開発の動機、核武装の模索の決断を促した計算についても解明を試みなければならない。核兵器を保有することによって得られると一般に考えられている恩恵と価値を引き下げ、新たな核の脅威に直接的にさらされている国が安心できるような安全保障環境を提供すれば、拡散のリスクを低下させることができるだろう。

CFR朝鮮半島タスクフォース・リポート Part2
外からの変革ではなく、北朝鮮の内からの変革を促せ

2010年8月号

共同議長
チャールズ・プリチャード 朝鮮半島経済研究所会長
ジョン・H・ティレリ 元在韓米軍・米韓連合軍最高司令官
ディレクター(リポート執筆者)
スコット・スナイダー 米外交問題評議会非常勤シニア・フェロー

アメリカと韓国は、民主的で市場経済志向の統一された朝鮮半島を実現していくためのそれぞれの責務を特定するための議論を深め、北朝鮮の体制が崩壊した場合に介入が必要になる基準について合意を形作っておかなければならない。両国は北朝鮮の体制、制度、国家破綻というシナリオに対してどのような対応を取り得るかについての政治的協力を模索し、米韓の政治、軍事指導者が協力する「包括的同盟」枠組みを設計する必要がある。・・・アメリカの同盟国であり、朝鮮半島の不安定化への軍事的対応をめぐって後方支援を提供する立場にある日本も、早い段階から協議に参加させる必要がある。・・・一方、朝鮮半島の未来に関する米韓の目的が何であるかに関する明確な了解を基盤に、アメリカは北朝鮮の将来について、・・・中国とのハイレベルでの戦略対話を試みるべきだ。

北朝鮮はなぜチョナン号事件への 関与を否定しているのか

2010年7月号

チャールズ・プリチャード 朝鮮半島経済研究所(KEI)会長

チョナン号沈没事件は、北朝鮮と韓国の同海域で2009年に起きた衝突事件に対する、北朝鮮の直接的な報復攻撃と考えるべきだ。・・・北朝鮮側は報復作戦を命じていた。平壌が事件への関与を否定しているのは、一つには中国との関係をうまく管理していくためだろう。また、国際社会の(不当な)批判の生け贄にされた犠牲者と自己規定することで、ナショナリズムを高揚させる意図もあるかもしれない。この戦術は国内的には成功だった。北朝鮮の後継体制への移行をスムーズにし、国内の連帯を高めるために利用されている部分もある。後継問題をめぐっては、金正日は張成沢を国防委員会副委員長に昇進させ、事実上、北朝鮮のナンバー2にした。これは、金正日が死亡するか、あるいは、表舞台から姿を消した場合に備えて、張成沢が権限を握って後継問題をスムーズに管理していくための短期的措置だが、三男が北朝鮮を支配する第3世代として自らの地位を確立するまで、彼が権力を中・長期的に管理していくことになるのかもしれない。(C・プリチャード)

21世紀は新興市場国の世紀に
― G20、世銀、IMFの未来

2010年7月号

スピーカー
スチュワート・M・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー国際機関およびグローバル統治プログラム責任者
司会
デビッド・E・サンガー  ニューヨーク・タイムズ ワシントン支局長
パネリスト
ホイットニー・デベボイス 元世界銀行 理事
アルビンド・サブラマニアン ピーター・ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー
アントニー・フォン・アットマール 新興市場マネジメントLLC会長兼チーフ・インベストメントオフィサー

最終的には、アメリカ、ヨーロッパ、日本のような、すでに確立されたパワー、中国、インド、ブラジルのような新興大国、さらには新興のミドルパワーの間でタフな取引と交渉が行われ、その結果、新しい秩序が形成されていくことになる(S・パトリック)

G20は新しいG7に至る通過点にすぎない。新しいG7は、アメリカ、EU、日本、BRICs諸国で構成されることになるだろう(アットマール)

CFR朝鮮半島タスクフォース・リポート Part1
北朝鮮に対する巻き返し策を

2010年7月号

共同議長
チャールズ・プリチャード 朝鮮半島経済研究所会長
ジョン・H・ティレリ 元在韓米軍・米韓連合軍最高司令官
ディレクター(リポート執筆者)
スコット・スナイダー 米外交問題評議会非常勤シニア・フェロー

われわれタスクフォースは、アメリカと韓国は、一体感のある同盟の形成に向けた議論を深め、この枠組みができたら、北朝鮮の政治的不安定化に迅速に対応できる態勢を強化するために、日本、中国、ロシアを取り込んで枠組みを拡大させていくことを提言する。朝鮮半島の将来を議論するために、アメリカは中国との戦略対話を試みる必要もある。

これまで北朝鮮は、核実験を含む、アメリカが定義するレッドラインをことごとく公然と越えてきたが、それでも懲罰措置の対象とされることはなかった。・・・残された唯一のレッドラインとは、「北朝鮮がNPTの枠組みに復帰しない限り、非国家アクターによる核テロが起きた場合に、アメリカは北朝鮮のことを主要な容疑者とみなし、アメリカの即時報復攻撃の対象とする」と警告することだ。・・・オバマ政権にとっての課題は、アメリカの警告の信頼性をいかに高めるかにある。

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