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アジアに関する論文

中国の対外強硬路線と TPP交渉

2014年2月号

トマス・ボリキー  米外交問題評議会シニアフェロー(経済・開発担当)

2014年11月の米中間選挙が近づくにつれて、米議会のメンバーは政治的反発が予想される貿易協定への批准をためらうようになる。それだけに、交渉で残された難題を解決するには、現時点でハイレベルな外交努力を行う必要がある。中国は、TPP(環太平洋パートナーシップ)交渉が山場を迎えつつあったタイミングでADIZ(防空識別圏)の設定を発表し、そうした必要性への各国の政治家の意識を一時的に遠のかせた。だが、中国が地域的影響力を強めていることへの対抗バランスを形成するという思惑からTPPを含む一連の貿易合意を模索している東南アジア諸国にとって、中国によるADIZの設定は、そうした貿易合意の必要性を再確認させたことになる。・・・今後、中国がリスクを冒して、南シナ海に新しいADIZを設定するかどうかも予断を許さない状況にある。・・・中国の指導者は、東シナ海におけるADIZ設定に対して(国際的に)大きな反発が起きたことに驚いているようだ。だが、北京は中国市民のナショナリズムが高揚していることも考慮する必要がある。・・・

大陸部東南アジアの統合と成長
―― メコン流域地帯のポテンシャル

2014年2月号

ティティナン・ポンスティラク チュラロンコン大学准教授

地理的なロケーションと天然資源に恵まれた大陸部東南アジアは、内的な結びつきを深め、統合されつつある。だがそのポテンシャルを理解するには、地域内の相互的なつながりの強化だけでなく、その人口動態にも目を向ける必要がある。すべてを合わせると、大陸部東南アジアは3億を超える人々で構成される消費市場、労働市場をもち、所得レベルも上昇している。地域的なGDP合計は、2020年までに1兆ドルを上回ると予測されている。たしかに、教育や医療部門、そして格差や政治腐敗という深刻な問題を抱えているし、援助の呪縛という罠も待ち受けている。だが、中国南部とタイが資本と専門知識を提供し、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムが労働力、土地、天然資源を提供するという棲み分けが存在する。インフラプロジェクトや製造業は外国投資家に魅力的な投資機会を、そして外国企業は現地が切実に必要とする専門知識と技術を提供できる。大陸部東南アジアの未来は大きく開かれている。

韓国経済のポテンシャルとリスク

2014年1月号 

マーカス・ノーランド ピーターソン国際経済研究所 上席副会長(研究部長)

韓国を新興国と呼ぶのは、もはや時代遅れかもしれない。この国は豊かだし、技術面でも洗練され、イノベーション、経済改革、健全なリーダーシップという面で見事な成果を上げている成熟した民主国家だ。しかし、それでも韓国を先進国市場とみなすのは無理がある。経済の貿易依存度が高いために、主要先進国と比べて、市場の変動に翻弄される度合いが大きく、これは韓国経済が克服すべき重要な課題の一つだ。企業部門への集中度が高く、社会の高齢化が進んでいること、政府と企業の不透明な関係、そして、北朝鮮という政治的に危険な隣国を抱えていることも大きな課題だ。北の隣国が唐突に崩壊する可能性は現に存在する。その場合、韓国が大規模な資金を北に援助するか、北朝鮮の民衆が韓国へと流れ込むかのいずれかが現実になる。・・・

フィリピンとインドネシア
――何が軌道を分けたのか

2014年1月号

カレン・ブルックス
米外交問題評議会非常勤シニアフェロー(アジア研究)

いまやASEANの主要5カ国は、世界のいかなる地域経済圏よりも急速な成長を遂げている。なかでも有望なのがインドネシアとフィリピンだ。巨大な市場をもつインドネシアは、この5年で大きな経済成長を遂げた。しかし、資源に依存し、構造改革を先送りしてきた経済はここに来て雲行きが怪しくなり、最近では(通貨危機リスクの高い)「脆弱5カ国」の一つへと転落してしまった。一方、フィリピン経済は多くのエコノミストの予測を上回る成長をみせ、2013年上半期も7・6%と、世界有数の成長を遂げている。フィリピンは家電輸出に加えて、いまや世界有数のアウトソースビジネスの拠点へと変貌している。出稼ぎ労働者の仕送りが貧困層の消費と通貨の安定を支え、改革志向の大統領もいる。今後のインドネシア経済は2014年の大統領選挙に、一方、フィリピンの今後は、構造改革で外資を魅了できるかどうかに左右されることになるだろう。・・・

タイの最終局面とは
―― 軍と民衆の事実上のクーデター?

2014年1月号

ジョシュア・クランジック/ 米外交問題評議会フェロー(東南アジア担当)

タイの政治危機は、反政府勢力が社会と政府双方を完全に掌握するという最終局面に近づきつつある。バンコクや南部の一部地域ではデモ参加者たちが投票所を封鎖しようと試み、民衆の怒りと暴力が激化している。いまや事態が制御不能な状態に急速に陥りつつあるのは間違いない。状況は「事実上のクーデター」であり、クーデターはすでに進行している。「軍は中立を保つ」と主張しているかもしれないが、デモを前にしても行動を控えていること自体、デモ隊の立場を支持しているという軍の明確な政治的メッセージだ。政府はますます弱くなり、そこに政治的空白が生じる。そして(デモ隊が設置を求める)「人民評議会」、軍部、あるいはこの二つの組み合わせによってこの空白は埋められていくことになるだろう。

CFR Briefing
ミャンマーを脅かす宗教紛争

2014年1月号

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会シニアフェロー(東南アジア担当)

ミャンマーの社会不安と社会暴力は、2013年の秋から冬にかけて劇的に悪化した。10月半ばに原因不明の爆破事件がヤンゴン、マンダレー、ミャンマー北東部など各地で相次いだ。11月に公表されたミャンマー警察の報告書によれば、ラカイン州出身者とみられる仏教徒グループが、ミャンマー各地のイスラム寺院(モスク)の爆破を計画していた。爆破事件やモスク爆破計画は、この国の深刻な社会不安を映し出している。民族・宗派対立を別にしても、改革が治安や生活レベルの改善に結びついていないという失望感が社会に蔓延している。こうした社会不安、社会不満を背景に深刻化する民族・宗教を軸とする対立は、改革を中断へと追い込み、開発に不可欠な投資を抑え込み、国境線を越えて周辺国へと飛び火し、地域的な緊張を高めつつある。・・・・

Foreign Affairs Update
ロシアのアジアシフト戦略という幻想

2013年10月号

フィオナ・ヒル
ブルッキングス研究所 シニアフェローボボ・ロー
英チャタムハウス アソシエートフェロー

アメリカに続いてロシアもアジアへと軸足を移そうと試みている。伝統的なヨーロッパ市場ではなく、アジア太平洋市場との関係を強化することで、ロシアの経済成長を刺激したいとプーチンは、考えている。モスクワのアジアシフト戦略は、アジアに影響力を行使したいという願いだけでなく、極東ロシアの人口がまばらであることへの恐れにも突き動かされている。この意味で、その鍵を握るのが中国との関係だ。だが、モスクワにとって中国との貿易関係は、次第に(中国による)新植民地主義的な様相を帯びてきている。ロシアからの主な輸出は原材料で、中国からは製品や消費財を輸入しているからだ。北京は、兵器を別とすれば、ロシアから工業製品を輸入することに関心はなく、武器輸入でさえも、近年は低調で、2006年以降、大がかりな武器貿易契約は交わされていない。アジアシフト戦略をとれば、いずれロシアは「自国の帰属しない東」と「うまく適合できない西」の間で漂流していることを見いだし、失望することになるだけだろう。

アメリカか中国か
―― 韓国のジレンマ

2013年10月号

スコット・スナイダー
米外交問題評議会シニア・フェロー(朝鮮半島担当)

中国の台頭を前に、韓国は戦略ジレンマに直面している。経済成長の多くを中国との経済関係に依存しつつも、安全保障領域では依然としてアメリカとの同盟関係を必要としているからだ。ソウルは、ワシントンと北京のいずれかを選択するような事態を回避するのが戦略的に好ましいと考えているようだ。当然、韓国は、良好な米中関係が維持されることに大きな利益を有している。だが、仮に韓国がアメリカではなく、中国との関係強化を戦略的に優先させるとすれば、それはどのような環境においてだろうか。

インドを支える州経済の台頭
―― 経済再生を主導する州経済の躍進

2013年9月号

ルチル・シャルマ/モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント 新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

グローバル経済が低迷するなか、ニューデリーは政治的な機能不全に陥っているかにみえる。二桁台に達していたGDP成長率も、いまや5%に落ち込み、インドの首都は政治腐敗、停電、無能な警察といったスキャンダラスなニュースで埋め尽くされている。だが、ダイナミックな州が急速かつ持続可能な経済成長を遂げ、いまやインドは力強い地方によって成り立つ国であることが再認識されつつある。主要な州経済がいまでも二桁近い経済成長を実現していることは、中国、ブラジル、インドネシア、メキシコなどの他の新興諸国とインドが競争していく上での大きな力になる。州指導者が中央に対して連邦構造を受け入れさせ、経済政策上の権限をさらに州政府に委譲させることに成功すれば、インド経済は再度復活の道のりを歩み始めるだろう。

CFR Update
TPPと米韓FTAの教訓
―― 経済もパートナーシップも強化する

2013年9月号

シーン・コネル/在ワシントン東西センターフェロー(日本担当)

日本にとってのTPPと、韓国にとっての米韓自由貿易協定(KORUS)には多分に重なり合う部分がある。実際、TPPが時に「KORUSプラス」と呼ばれることからも明らかなように、TPPの交渉アジェンダの多くがKORUSを下敷きにしている。TPPは新たに経済成長を刺激するだけではない。KORUSが米韓関係を刷新したように、TPPは日米パートナーシップを刷新するポテンシャルも秘めている。TPP交渉を通じて、日米は相互認識を刷新し、その経済的つながりからいかに大きな恩恵を引き出しているかをより的確に理解することになるはずだ。強いリーダーシップ、困難な決断を下す気概、貿易交渉者によるクリエーティブなソリューション、両国で合意を支える利益認識を形成する努力、これらのすべてがKORUSを成功へと導いた。日米の政策決定者が、TPPのポテンシャルを十分に生かして、両国のパートナーシップを強化し、新たな成長領域を形作るには、こうしたKORUSの教訓を認識する必要がある。

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