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アジアに関する論文

北朝鮮に対する包括的強制策を
―― 外交で脅威を粉砕するには

2018年5月号

ビクター・チャ 元米国家安全保障会議アジア部長
カトリン・フレーザー・カッツ 元米国家安全保障会議 ディレクター(日韓担当)

米朝サミットへの流れは劇的だが、結局は長期的なゲームへと姿を変えるだけかもしれない。平壌がオファーしている核・ミサイル実験の凍結は、(アメリカを)交渉に応じさせるための誘因に過ぎない。交渉が終わった翌日から実験を再開できるし、核プログラムを水面下で進めることもできる。しかも、核保有国としての認知を取り付け、韓国から米軍を締め出し、韓国へのアメリカの軍事コミットメントを形骸化させるという長期的な目的を平壌が見直したと信じる理由もない。ワシントンは今後も平壌に最大限の圧力をかけ、北朝鮮との交渉をより広範な地域戦略に紐付けなければならない。軍事オプションを回避しつつ、むしろ、日韓という同盟諸国との緊密な協調を通じて、地域的抑止体制と拡散防止策のための新たな試みを開始すべきだ。

トランプの台湾カードと台北
―― 急旋回する米中台関係

2018年5月号

ダニエル・リンチ 香港城市大学教授(アジア・国際研究)

中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。

グローバル「#MeToo」ムーブメント
――女性の権利確立を促すグローバルな好循環

2018年5月号

ルディス・マーダビ デンバー大学 国際関係大学院 上席副学部長

「#MeToo」はアメリカで起きている出来事と結びつけられたグローバルなムーブメントだ。ソーシャルメディアで流された#ミィトゥーというハッシュタグがもつ意味合いを世界は直ちに受け入れ、アラビア語、ペルシア語、ヒンディー語、スペイン語を含む複数の言語で、同じムーブメントが展開されている。現在、85か国の女性たちがこのハッシュタグを使って、変革を求めている。メッセージの拡散を刺激しているのは、ソーシャルメディアだけではない。過去に築かれてきた各国の女性運動の基盤が今回のグローバルムーブメントを支えている。女性たちが団結して声を上げるなか、あまりに長い間抑え込まれてきた彼女たちの痛ましいストーリーが、変革を促す一貫した、断固たる流れを作り出しつつある。

北朝鮮崩壊後の危機に備えよ
―― 飢饉と難民流出を回避するには

2018年3月号

ジョーンバム・バエ ホバート&ウィリアム・スミスカレッジ 客員アシスタント・プロフェッサー
アンドリュー・ナチオス テキサスA&M大学 教授

北朝鮮の体制崩壊は、北朝鮮民衆が25年にわたって耐えてきた慢性的な食糧不足を一気に悪化させ、感染病や公衆衛生上の問題をさらに深刻にするはずだ。これによって、大規模な北朝鮮難民が中国に押し寄せる危険が生じる。このシナリオを回避するには、米韓は北朝鮮に食糧を供給し、北朝鮮民衆が中国との国境地帯に向かうのではなく、国内に留まるように仕向ける必要がある。そのためには食糧や医療物資を迅速に届け、感染症による犠牲を引きおこす汚染水対策をとる必要がある。治安を安定させ、人道支援団体の安全を確保し、食糧・医療物資を人々に届けるには、北朝鮮内に11万5000人から40万人の部隊を展開させる必要がある。問題は、38度線以北での米・韓国軍の活動が必要になるこのミッションを、中国が受け入れるかどうかだ。

中国が支配するアジアを受け入れるのか
―― 中国の覇権と日本の安全保障政策

2018年3月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授(政治学)

現在のトレンドが続けば、そう遠くない将来に、中国はアメリカに代わって、東アジアの経済・軍事・政治を支配する覇権国になるだろう。そして、地域覇権国は近隣諸国の内政にかなり干渉することを歴史は教えている。中国に対抗できるポテンシャルをもつ唯一の国・日本は、特に重要な選択に直面している。日本人は軍備増強には懐疑的で、むしろ、経済の停滞と高齢社会のコストを懸念しており、引き続き、銃よりもパンを優先する決断を下すかもしれない。だが実際にそうした選択をする前に、中国が支配するアジアにおける自分たちの生活がどのようなものになるかについて日本人はよく考えるべきだろう。北京は尖閣諸島の支配権を握り、日米関係を弱体化させ、中国の利益を促進するために、さらに軍事的・経済的強制力をとり、日本の政治に干渉してくるかもしれない。

北朝鮮危機に外交で対処するには
―― 非核化は棚上げし、核武装国家の脅威削減を

2018年2月号

マイケル・フックス 前米国務副次官補(東アジア・太平洋担当)

北朝鮮は、対米抑止に必要な態勢を整えたと確信するまで、交渉には関心を示さないかもしれない。しかし、平壌がミサイルと核実験を停止することに応じ、ワシントンが韓国との合同軍事演習を停止することを受け入れれば、双方が交渉テーブルに着く道も空けてくる。北朝鮮が報復攻撃を試み、大規模な犠牲者が出ると考えられる以上、アメリカの先制攻撃を前提とする受け入れ可能な軍事オプションは存在しないし、(外交交渉を通じて)北朝鮮が核兵器を近い将来に手放すこともあり得ない。それでも、平和を維持するには外交を機能させる必要がある。少なくとも現状では、非核化は(交渉を実現するためにも)棚上げにせざるを得ない。むしろ、交渉を通じて、核武装した北朝鮮が突きつける脅威を低下させることを短期的目的に据えるべきだ。・・・

ロヒンギャ危機の解決に向けて
―― 国際社会が果たすべき役割

2018年2月号

ジョナー・ブランク(ランド研究所 上席政治学者)、 シェリー・カルバートソン(ランド研究所 上席政策リサーチャー)

ミャンマー政府はバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還を認めると発表しているとはいえ、大規模な難民を発生させた集団暴行にミャンマーの治安部隊や政治家たちが果たした役割を考えると、政府のコミットメントを額面通りに受け取るわけにはいかない。基本的な市民権のはく奪、そしてロヒンギャが国を後にせざるを得なくなった暴力という問題に対処しなければ、帰還を認めるとしたミャンマー政府の約束も永続的な解決策にはならない。国際社会はミャンマー政府に対してロヒンギャを再び国に受け入れるだけでなく、他の全ての少数民族が享受している安全と市民権を与えるように求めるべきだし、大規模な難民流入に直面するバングラデシュを支える必要がある。これらが実現しない限り、100万を超える人々が安心して暮らせる国をもたずにさまよい続けることになる。

北朝鮮限定攻撃論の悪夢
―― 結局は全面戦争になる

2018年2月号

アブラハム・M・デンマーク 前米国防副次官補(東アジア担当)

取り沙汰されている「北朝鮮に対する限定攻撃」の目的は、「アメリカの軍事対応というリスクを伴わずに、核・ミサイル実験を続けることはできない」と平壌にメッセージを送ることにあるようだ。しかし、この戦略の問題は「アメリカの圧倒的な通常戦力と核戦力ゆえに、北朝鮮の最高指導者・金正恩は、攻撃されても報復攻撃を思いとどまる」と想定されていることだろう。攻撃が計画どおりに機能する可能性は低い。北朝鮮の核・ミサイル能力をうまく破壊できる保証はなく、平壌は限定的な攻撃に対しても反撃せざるを得ないと判断するかもしれない。いかなる攻撃も朝鮮半島における全面戦争へのエスカレーションを辿るリスクがあり、数百万の命が危険にさらされる。北朝鮮との戦争は、アメリカが第二次世界大戦以降に経験したいかなる紛争よりも破滅的なものになる危険がある。日韓との同盟関係も大きく揺るがされ、最終的にはアメリカの影響力も大きく形骸化する恐れがある。

北朝鮮の核戦力の現状
―― ICBMによる核ミサイル能力は完成していない

2018年1月号

ジークフリード・S・ヘッカー 前米ロスアラモス国立研究所 所長

核分裂性物質の生産、核爆発装置の製造、そしてさまざまなタイプのミサイル開発をめぐって大きな進展を遂げている以上、北朝鮮はこれらを一つにまとめて核戦力を完成させ、ワシントンに対する抑止力を形成したのだろうかと懸念しても不思議はない。北朝鮮が、韓国や日本に到達可能なミサイルに核弾頭を搭載できることはほぼ間違いない。しかし、ICBMを用いた攻撃に必要とされる核・ミサイル能力をマスターするには、少なくとも後2年間の実験が必要だと私は考えている。一方で、このタイミングで外交交渉の機会が生まれていることを見落としてならない。

金正恩とICBM
―― なぜ必要なのか、完成のタイミングはいつか

2018年1月号

ジェフリー・ルイス ミドルベリ国際問題研究所 スカラー

日韓の駐留米軍に対して核兵器を使用するという恫喝は、北朝鮮に対米直接攻撃能力がなければ信頼できるものにはならない。北朝鮮の核戦略にとって、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が不可欠なのはこのためだ。すでに北朝鮮はICBMに搭載できる核弾頭の小型化には成功していると考えられ、むしろ、残された課題は宇宙空間に打ち上げられた後に地球の大気圏に再突入する軌道で核弾頭が遭遇する衝撃や振動、極度の高温に耐えられるようにできるかどうかだ。大気圏再突入の際に発生する極度の高温から弾頭を保護する「再突入体」の耐久性が必要になる。この意味では、北朝鮮は依然としてICBMを完成させてはいない。しかし、そう遠くない将来に、北朝鮮がICBMの開発に成功する可能性は高い。

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