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経済・金融に関する論文

テロ組織はどのように資金を調達しているか
―― なぜ銀行システムの監視は無意味なのか

2017年8月号

ピーター・ノイマン ロンドン大学キングズ・カレッジ教授(安全保障研究)

各国は長年、テロには金がかかるという思い込みゆえに、テロ組織が国際金融システムにアクセスするのを阻止しようと試みてきたが、このアプローチでテロを抑止できた証拠はない。ほとんどのテロは、数百ドル単位のごくわずかなコストでも決行でき、テロ組織の多くは国際金融システムを使うことはない。骨董品や石油、タバコ、模倣品、ダイヤモンド、象牙などの密輸から資金を得ることもあれば、イスラム国(ISIS)のように支配地域の天然資源を食い物にして資金を確保することもある。あるいはヨーロッパのジハーディストのように、社会保障給付や個人的な借入れでテロを決行する人物たちもいる。国際金融システムに焦点を合わせるのは、時間と資金を浪費するだけで、テロの抑止にはつながらない。

中国債務危機のグローバルな衝撃
―― 「政治的」サプライサイド改革の限界

2017年8月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト  ユーロゾーン・エコノミスト

中国企業の債務レベルは、対国内総生産(GDP)比170%と、歴史的そして世界的にみても、危険水域に突入しつつある。危機を回避しようと北京は中国流サプライサイド改革、つまり、生産制限と(極端に安い融資を通じた)需要管理策を組み合わせたポリシーミックスをとっている。たしかに、このやり方で債務に苦しむ企業も一時的な収益増を期待できるが、工場渡し価格の上昇によっていずれ消費者はインフレに直面する。同時に、衰退する国有企業を対象とする救済策は、必要とされる産業システムの再編を先送りし、しかも最終的にはより深刻度を増した債務問題に直面することになり、その余波は世界に及ぶだろう。北京が危機の先送り策をとっているのは、国有企業が倒産すれば、金融も政治も社会も不安定化することを恐れているからだが、債務の肥大化を放置すれば、共産党の支配体制だけでなく、世界経済を大きな危険にさらすことになる。

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

スマート化するエネルギー・電力産業
―― 技術革新がもたらす機会とリスク

2017年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 カッシア・ヤノセック マッキンゼー&カンパニー アソシエートパートナー

水圧破砕、水平掘削という技術革新によってシェール資源の開発が可能になったことは広く知られているし、これらのテクノロジーが、2008年7月の1バレル145ドルというかつてない高値から、いまやその約3分の1へと原油価格を引き下げることに一役買ったのは間違いない。だが、これは始まりに過ぎなかった。現在では、「複雑なシステムのよりスマートな管理」や「データ分析」、そして「オートメーション」によってエネルギー産業は再び変貌し始め、エネルギー企業の生産性と柔軟性はさらに高まっている。しかもこれらの変化は資源開発企業だけでなく、電力を生産・供給するセクターも変貌させ始めている。より分権化され、消費者にフレンドリーで、さまざまな資源で生産した電力をきわめて信頼性の高い送電ネットワークに統合する力をもつ、新しい電力産業が誕生しつつある。・・・

女性と経済活動
―― 有給出産休暇の大いなるポテンシャル

2017年7月号

アレクシス・クロー PwC地政学投資チーム アメリカアドバイザリー・リード

OECD諸国のなかで唯一、アメリカには普遍的な(連邦レベルでの)有給出産休暇制度がない。データが存在する世界170カ国のなかで、出産休暇中の女性に対する金銭的保証をまったく与えていないのは、アメリカとニューギニアの2カ国だけだ。問題の解決策が有給出産休暇制度の導入であることはすでに分かっている。女性たちは、出産休暇をとる段階ではすでにある程度のキャリアを積んでいる可能性が高く、組織の内外で価値ある関係を築き、専門知識を身に付けている。出産休暇中にも報酬を受け取っていれば、その女性が同じ企業に戻ってくる可能性は高くなり、企業パフォーマンスにも好ましい影響を与える。アメリカ女性の労働参加率が、手厚い有給休暇制度や家族にやさしい制度をもつカナダやドイツと同程度の参加率へ上昇すれば、少なくとも500万人の女性が労働力に参加し、アメリカ国内で年間5千億ドル以上の新たな経済活動が生み出されることになる。

ブレグジット後の連合王国
―― 先進小国のケースから何を学べるか

2017年7月号

マイケル・オサリバン クレディスイス チーフ・インベストメントオフィサー、デビッド・スキリング ランドフォール・ストラテジーグループ ディレクター

連合王国を構成するイングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズそして隣接する独立国家アイルランドが、ブレグジットの混乱に翻弄されるのは避けられないだろう。特に、スコットランドや北アイルランドがイギリスからの独立を目指した場合、さらに大きな混乱に直面する。幸い、ブレグジット後に備える上で、これら連合王国の構成国や近隣国が参考にできるモデルがある。スウェーデンからニュージーランドまでの小規模な先進諸国(先進小国)だ。これらの国は教育を通じた人材育成、良質なインフラへの投資、危機に備えた規律ある財政政策の実施を心がけてきた。独立を目指すスコットランド、北アイルランドだけでなく、ブレグジットの大きな余波にさらされるアイルランドも、これら先進小国の叡知に学ぶべきだろう。

軍隊と経済的技術革新
―― なぜイスラエル軍は経済に貢献できるのか

2017年6月号

エリザベス・ブラー アトランティック・カウンシル 非常勤シニアフェロー

「徴兵された若者たちにとって、イスラエル国防軍・技術諜報部門での経験はハーバード大学で学んでいるようなものだ」。(国防軍でスキルを学び)ネットワークを形作り、いずれ、ともにビジネスをするようになる。徴兵した兵士たちにイスラエル国防軍が与える訓練はイスラエル経済に大きな恩恵をもたらしている。実際、ブームに沸き返るイスラエルのハイテク部門の多くを軍出身者たちが支えている。兵役を経験しているイスラエル人が成人人口の60%なのに対して、ハイテク部門人材に占める兵役経験者の比率は90%に達している。例えば、若年労働者の失業率が高く、持続可能な雇用を創出する方法を模索しているヨーロッパは、イスラエルのやり方に学ぶことができる。イスラエルの実例から適切な教訓を引き出して応用すれば、世界の多くの国が、近い将来に、兵役を終えた若者たちが軍隊で身に付けた人的資本、社会資本、文化資本を生かして、民間部門との絆を形作っていくだろう。

オートメーション時代の失業と社会保障

2017年6月号

ジョディ・グリーンストーン・ミラー ビジネス・タレントグループCEO
エデュアルド・ポーター ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト
ハイジ・シアーホルズ 前米労働省 チーフエコノミスト プレサイダー
スーザン・ルンド マッキンゼー・グローバル・インスティチュート パートナー

ロボットの導入による失業が現実に起きれば、その一方で、膨大な富が作り出され、それがかつてなく一部へ富を集中させることはすでに分かっている。雇用喪失の一方で、巨大な富が集積されていくことのバランスをどうとるか、広く富を共有していくにはどうすればよいかを考えなければならない。(J・ミラー)

今後10年間でより多くの雇用を創出する産業は何かに関する予測のトップ10のうちの四つは看護・介護に関係した職業で、介護、看護師、在宅介護、看護師補助(ヘルパー)などだ。問題はこれらの雇用の質(と賃金)がとても低いことだ。(E・ポーター)

私はオートメーションによって大量失業時代が引きおこされるとは考えていないが、経済的に困難な状況に直面する個人が出てくるのは避けられないだろう。これは対処すべきとても重要な問題だ。だが(その対応策としては)、普遍的な最低所得保障ではなく、雇用保障の方がよいと思う。この場合、政府がすべての人の「最後の雇用主」ということになる。(H・シアーホルズ)

トランプの貿易政策は何を引きおこす
―― 保護主義の連鎖と自由貿易の危機

2017年6月号

ダグラス・A・アーウィン ダートマス大学教授(経済学)

「アメリカファースト」の貿易政策が、製造業に新たな雇用をもたらすことも、貿易赤字を縮小することもあり得ない。トランプの貿易政策の最大のリスクは、WTO(世界貿易機関)を含む、アメリカが第二次大戦以降推進してきたオープンな国際貿易体制に、取り返しのつかないダメージを与えてしまう恐れがあることだ。1930年代に象徴される過去の貿易政策の失敗の教訓は、保護主義が(他国の)保護主義を呼び込んでしまうことだ。実際、カナダの世論調査によると、アメリカがカナダ製品に関税をかければ、貿易戦争に応じるべきだと答えた人が58%に達している。歴史は、貿易障壁は作るのは簡単だが、取り除くのが難しいことを教えている。そのダメージを修復するには、数十年単位の時間が必要になる。

経済成長への期待と憂鬱な現実
―― 「奇跡の世界後」の経済に備えよ

2017年6月号

ルチル・シャルマ モルガン・スタンレー  チーフ・グローバルストラテジスト

人口減少、レバレッジの解消、脱グローバル化が成長を阻む大きな障害となっている以上、各国の政策決定者たちは経済的成功の定義を見直し、力強い経済成長の指標を1―2%引き下げるべきだろう。この基準でみれば、中国の場合、成長率4%で比較的力強い成長とみなせるし、アメリカのような先進国の場合、1・5%を上回る成長率なら健全な状態にあると考えるべきだ。問題は、こうした経済的成功の新しい定義を理解するか、受け入れている政治指導者がほとんどいないことだ。中国は6%の経済成長を維持しようと試み、アメリカの政治指導者も4―6%の経済成長を目指すと発言している。こうしたレトリックは期待と現実の間のギャップを作り出してしまう。世界のいかなる地域も2008年前のような急速な経済成長を遂げることはあり得ないし、そう期待すべきでもない。われわれは「奇跡の世界後」に備えるべきタイミングにある。

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