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プレス・リリース 3月号

2015-03-10

シリア紛争「誰が誰とどのような目的で戦っているのか」
―― 形骸化した国家と準軍事国家とテロ組織

<空洞化した自由シリア軍>

シリア紛争を戦うさまざまな軍事勢力は一体何を目的に戦闘を繰り広げているのか。

当初はアサド政権に対するデモとして始まった民主化運動をシリア政府が弾圧したことで、デモは国内紛争そして内戦へとエスカレートしていった。そしていまやアサド政権のシリア軍、イスラム国、ヌスラ戦線、自由シリア軍が入り乱れて終わりなき戦闘が展開されている。

アサド政権は、シリア内戦は「外国政府による陰謀」によって引き起こされていると主張してきた。専門家の多くは、自由シリア軍と呼ばれるさまざまな軍事集団の一部にアルカイダ系メンバーが入り込んでいることを認めつつも、自由シリア軍の活動をアサド政権がなぜ「外国政府による陰謀」と呼ぶのか、疑問に感じてきた。(1)

だが紛争におけるテロ組織の台頭とともに、皮肉にも、アサド政権の言い分が裏付けられつつある。バッシャール・アサドは3月号のインタビューでも、反政府勢力の「多数派はイスラム国とヌスラ戦線というテロ集団だ。・・・問題はトルコ、サウジ、カタールが依然としてこれらのテロ組織を支援していることだ」と語っている。

一方、シリア軍からの離脱者と民主化デモに参加した若者たちで構成されてきた自由シリア軍は空洞化しつつある。メンバーが組織を離れて、アサド政権の打倒という目的を共有するイスラム国などのテロ集団へと参加しているからだ。アサド大統領は、アメリカが「穏健派の反政府集団」と呼ぶ組織のメンバーたちはテロ集団に参加しているだけでなく、シリア軍に戻ってきていると語っている(2)

つまり、自由シリア軍が空洞化している以上、シリア紛争を戦っている主な軍事勢力は、(ともに欧米が敵視する)シリア軍とテロ組織(イスラム国、ヌスラ戦線)だけということになる。もはや米地上軍の投入しか道はないと一部で言われる理由の一つはここにある。(3)

現在米軍は、空爆作戦と連動して地上戦を遂行する部隊をイラクで訓練している。イラク治安部隊、クルド自治区の武装組織ペシュメルガを支援・強化するとともに、5000人のシリア人をイラクで訓練している。5月にはこのシリア人部隊がシリアで活動を開始すると言われている。だが、アサド大統領は「そうした勢力と戦う」と明言している。(4)

<トルコの立場>

さらに話が複雑になるのは、トルコがヌスラ戦線を支援し、現在も接触を保っていると言われていることだ。

トルコは国内にクルド労働者党(PKK)というテロ組織を抱えている。政治的にはクルド人の支持を必要としながらも、トルコ政府はPKKを大きな脅威とみなし、この意味で、近隣国におけるクルド人の動向にも非常に神経質にならざるを得ない。

当然、PKKの関連組織であるシリア北部の「民主統一党(PYD)」が自治宣言を表明したり、一方で、(コバニのように)PYDがイスラム国に包囲されたりすると、その対応をめぐってトルコ政府は非常に苦しい立場に追い込まれる。クルディスタン地域のクルド人の連帯や危機感が高まると、トルコの統一が脅かされかねないからだ。

「アサド政権の打倒に役にたつだけなく、シリア北部のクルド人に対する対抗バランスを形成できる」。これが、トルコがヌスラ戦線を支援した理由だと言われている。(5)

一方、アルカイダ系のヌスラ戦線は、スンニ派武装集団として、(シーア派に近い)アラウィ派のアサド政権に戦いを挑んでいる。

<イスラム国と解体する中東秩序>

アサドはインタビューで興味深い発言をしている。「われわれの地域・中東では。国境を越えて社会、イデオロギー、部族など多くが共有されている。これらの一つの要因や側面で影響力をもっていれば、それは国境を越えた影響力となる」。一方、イスラム国はこの現実を超える空間をつくりだそうとしている。「中東の国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている」。

この意味で、シリア紛争はもはや宗派戦争の枠組みを超えている。 オードリー・クローニンは3月号で「イスラム国はテロ集団の定義では説明できない」とし、それは「伝統的な軍隊が主導する純然たる軍事国家だ」と指摘している。(6)

破綻国家と化したシリア内に残されているのは、領土の半分程度しか管理できていないシリア政府(軍)、準軍事国家のイスラム国、そして、ヌスラ戦線というテロ組織でしかない。「いまや問うべきは、世界秩序が今後も解体していくかどうかではなく、いかにそれが奥深く迅速に進展するかだ」というリチャード・ハースの指摘は(7)、いまやシリア紛争の現実によって明確に裏付けられつつある。●

(1) 「シリア紛争の憂鬱な現実―― 出口のない対立と極度の混乱」
(2)「 イスラム国に参加した民主活動家たち―― シリアで何が起きているのか 」
(3) 「米軍部隊の投入は避けられない?――シリア・イラクにイスラム国に対抗できる集団は存在しない」
(4) 「アサド大統領、シリア紛争を語る 」
(5) 「トルコの対シリア戦略とヌスラ戦線―― なぜトルコはテロ集団を支援するのか」
(6) 「イスラム国の全貌―― なぜ対テロ戦略は通用しないか」
(7) 「解体する秩序―― リーダーなき世界の漂流」

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