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2011年3月号 リビアの混迷とアメリカの覇権の黄昏 ――世界はG2ではなく、Gゼロへ

2011-03-11

リビアの混迷とアメリカの覇権の黄昏
――世界はG2ではなく、Gゼロへ
2011.03.11公開

リビア危機に国際社会は介入するのか。そこには、人道問題、原油価格高騰問題以外にも、考えるべき要因が数多くある。ともすれば、リビア危機への対応をめぐる今後数週間の展開が、今後の国際秩序を中期的に左右することになるかもしれない。

ペンタゴンは直接介入には否定的だと伝えられる。仮に軍事介入して成功を収めても、その後に、イラクのような困難に満ちた「国家建設作業」が待ち受けているからだ。

しかも、リビアの場合、「正統性のある公的制度も、機能する市民社会も存在しない」とすれば、米軍部隊がリビアに直接介入することはまずあり得ない。

リチャード・ハースが言うように、「アメリカの自由裁量による軍事介入の時代は終わりつつあるのかもしれない(「緊縮財政か、金融市場によるペナルティか」=3月10日号)。

すでに専門家の多くが、財政赤字の制約からアメリカの「軍事介入と国家建設の時代」は終わっていると分析している。そこで起きたのがリビア内戦だった。「アメリカは少なくともリビア介入の主役になってはならない」。これが、ワシントンで浮上しつつあるコンセンサスだ。

リビア内戦への対応主体をめぐって新聞のヘッドラインを飾るのは、「オバマ政権」という言葉ではなく、アラブ連盟、国連、ヨーロッパ、NATO、米欧、国際社会という定義の難しい言葉になりそうだ。

イラン・ブレマーとノリエル・ルービニが「金融危機が出現させたGゼロの世界=3月10日号」で指摘しているように、リビア危機を契機に、今後明らかになっていくのは「国際的リーダーシップの空白」なのかもしれない。

アメリカの覇権(G1)は衰退し、その国際的影響力にも国際公共財を担っていく力にも陰りがみえる。一方、台頭途上の新興国は国内問題と経済成長を気にかけるばかりで、国際公共財を積極的に担っていくつもりはない。

マイケル・マンデルバームは「緊縮財政か、金融市場によるペナルティか」で次のように指摘している。「世界が経済だけでなく、安全保障面でも、ある程度うまく機能しているのは、世界の経済と軍事にコミットしているアメリカの積極的な外交政策によるところが大きい。この役割が(財政危機を前に)国内的に疑問視されるようになると、アメリカの利益だけでなく世界の平和と繁栄が危険にさらされる」。

まさに、この危険が現実になろうとしている。

今後、われわれが中期的に目にするのは、様々なアングルから議論されてきた「アメリカから中国の覇権の移行」ではなく、ブレマーとルービニが描写する「Gゼロの世界」なのかもしれない。

竹下興喜
フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

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