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2007年10月号 核軍縮と核廃絶を一体化させるには    

2007-10-10

2007年1月、ウォールストリート・ジャーナル紙の論説ページに「核のない世界」と題した連名記事が発表された。記事をまとめたのは、ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナンというかつての冷戦の戦士たち。

「早急に行動を起こさなければ、冷戦期以上に危険に満ち、心理的混乱を伴い、経済的に多くのコストを必要とする核時代へと突入することになりかねない」。核拡散の現状に大きな危機感を抱いたことが記事をまとめた動機だったとサム・ナンは最近の米外交問題評議会(CFR)のミーティングで述べている。

「核のない世界」とは、もちろん、核廃絶を意味する。だが、核の軍縮と廃絶は、核兵器の数を少なくしていくという方向性は同じでも、その実現に向けた難易度は全く別物だ。手の届くところにある果実をもぎ取ることが核軍縮だとすれば、核廃絶は、それこそ、どこまで伸びているかわからない高木の上にある果実を落とさないように取るようなもので、同じやり方では決して実現しない。だが、核廃絶を最終目的に掲げない限り、核の軍備管理は、結局は核の部分的削減だけで終わってしまうし、核不拡散を求める主張にも説得力は出てこない。ナン自身、「核廃絶によって生じる現実面での問題に取り組んでいく準備をせずに、核のない世界の実現をいくら求めても、それが実現されることは決してない」と強調している(「核戦争の危険を低下させるには」)。

核不拡散をめぐる今日的課題は大きく分けて三つある。

第1は、現在、核軍縮どころか、インド、パキスタンに続いて、北朝鮮が核を保有し、イランも核を開発していると考えられており、ナンが指摘するとおり、中東とアジアで核拡散潮流が生じかねない情勢にあること。第2は、原油高のなか、世界的に原子力による電力生産が注目されているとはいえ、平和利用のための核技術を入手すれば、兵器級核分裂物質生産への道が事実上開かれてしまうこと。第3は、核保有国の数が増えれば増えるほど、国家間で核戦争が起きるリスクだけでなく、核を入手しさえすれば間違いなく使用するであろうテロリストが核を手に入れる確率が高まることだ。

特に、核拡散と原子力エネルギーの必要性の増大が、ある意味では同じコインの裏表とみなせる状況にあることが最大のジレンマだ。スタンフォード大学の物理学者ウォルフガング・パノフスキーが言うように、核を入手しようとする小国を思いとどまらせることができないのは、「核を保有しているだけで抑止力を手にし、その結果、かなりの政治的影響力も手にできるようになる」と考えられているからだし、しかも、そのプロセスにおいて原子力エネルギー生産能力も手にできるからだ(「核兵器を削減し、核不拡散を強化せよ」)。

ひとことで言えば、核の平和利用(原子力による電力生産)と核不拡散をいかに両立させるかが問われている。そのためには、高濃縮ウランの生産と利用を禁止するだけでなく、ウラン濃縮施設やプルトニウム再処理施設の建設を禁止し、民生用核原子炉燃料を一元的に供給する国際的管理体制を確立するとともに、核保有国が核を削減していくことが不可欠だとみなす点では、しだいにコンセンサスが形成されつつある。

ナンは「核のない世界」での提言を踏まえて、戦術核の廃絶、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准と発効、核兵器・核分裂物質の管理体制の強化、民生目的の高濃縮ウランの利用禁止と兵器級核分裂物質の生産禁止、地域的な緊張の緩和、査察能力の強化を提案し、パノフスキーもほぼ同じ提言をしている。

かつてジョナサン・シェルは、核の兵器庫の存在そのものが「核拡散を刺激」していると指摘し、「拡散刺激の連鎖を断ち切るには、「核軍縮では不十分であり、核の兵器庫を完全になくすことを明確な目的に掲げて行動を起こすほか道はない」と主張した。(注1)ウィリアム・ペリーが言うように、シェルと同じ核廃絶論を「核の兵器庫の増強を手がけてきた4人の冷戦の戦士」が展開していることの今日的意義は大きい。(注2)ペリーによれば、2007年10月に「核のない世界」に向けた詳細が議論されることになっているし、その数カ月後には、他の諸国にも同様の試みをするように呼びかける国際会議が開かれる予定だ。●

(注1)フォーリン・アフェアーズ論文
ジョナサン・シェル「核廃絶か、止めどない核拡散か」(日本語版2000年9月号)

(注2)CFRヒストリーメーカー・シリーズ
ウィリアム・ペリー「ウィリアム・ペリーが語るイラン、イラク、北朝鮮危機」(日本語版2007年8月号)

(C) Foreign Affairs, Japan

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