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2007年6月号 統合の流れと反統合の流れ  

2007-06-10

かつては米ビッグスリーの一角を担ったダイムラークライスラーの北米部門クライスラーを、自動車メーカーではなく、米投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメントが買収した。再建策を通じて短期間で企業価値を高め、転売や再上場で利益を確保することを得意とする投資ファンドが、20世紀の巨大産業の一つである自動車産業を再生の対象として買収したことは、時代の流れを示すきわめて象徴的な出来事だ。

クライスラーが他の自動車メーカーとの提携を短期的に模索していくかどうかは微妙な情勢だが、日産・ルノーの最高経営責任者(CEO)、カルロス・ゴーンは、企業再建の手法として、一方が他方を支配する形の合併や買収ではなく、双方が独自性を保ち、相互利益を最大化していくような企業の提携(アライアンス)に大きな価値を見いだしている。そして、提携であれ買収であれ、そこにおける「もっとも大きな課題は文化である」とゴーンは言う。

互いのアイデンティティーと自尊心を尊重しなければ、いかなるパートナーシップも成功しないと指摘するゴーンは、提携企業の「互いのアイデンティティーと文化を尊重し、互いを高め合い、互いの弱点を改善する相乗効果(シナジー)を探り当てることによって」大きな成果を手にできると強調している。ゴーンの対話の相手を務めたのが、サーベラス同様に、買収後、短期間で企業価値を高め、転売や再上場で利益を確保することを得意とする投資ファンド大手カーライル・グループの創業者の一人、デイビッド・ルービンスタインであることも興味深い(「国境を超えて」)。

だが、貿易に多くを依存する企業にとって、経営のマネジメントだけでなく、為替レートの変動が業績を大きく左右することもあるし、為替リスクを回避するために消費市場へと進出している企業も多い。実際、通貨・金融危機が起きれば、企業だけでなく、国の経済そのものがデフォルト(債務不履行)に陥る。米外交問題評議会(CFR)のベン・ステイルは、通貨危機を誘発する資本の自由な移動が「グローバル化の進展を阻むアキレス腱となっている」と指摘する。

実際、通貨危機が起きる危険はいまもなくなっておらず、最近も、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3の財務相会議は、金融危機防止強化策のために、為替介入のために各国が準備している外貨を一元化する構想に合意している。

だが、ステイルは、通貨介入による防衛策よりも、むしろ、これまで危機に陥った通貨が「必要とされない通貨」だったことに注目する。市場から信頼されず、必要とされない通貨の価値が下落しそうになると、その通貨を保有する国の対外債務の返還が困難になることを見越して、内外の現地通貨の保有者はこれを手放して出口へと殺到し、その結果、通貨・金融危機が起きる。とすれば、通貨危機が起きないようにするには、各国が独自の通貨を持つことが国の主権の一部であるという虚構を捨て去り、「必要とされない通貨」をなくしていく必要があるとステイルは言う。同氏は、必要とされない通貨しか持っていない政府は自国通貨をドルやユーロに置き換え、アジア諸国は単一の多国間通貨を創造するために協力していくべきだと提言している(「国家通貨時代の終わり」<日本語版2007年7月号>)。

通貨であれ、自動車メーカーであれ、グローバル化のなか、統合が必然となりつつあるというのが現実なのかもしれない。ユーロが導入され、途上国通貨の事実上のドル化も進んでいる。アジアで共通通貨が導入される可能性も、道のりは険しいとしても、ゼロではないだろうし、ASEANプラス3の外貨準備の一元化構想が、アジアの共通通貨導入の布石となる可能性もある。世界の自動車メーカー間の統合がさらに進む可能性もある。

ただし、通貨であれ、企業であれ、複数以上の存在が形式的に一つにまとまる際には、大きな拒絶反応が生じることも多く、ゴーンが指摘するようなシナジーを得るのが容易ではないのも事実だ。かつてサミュエル・ハンチントンは、グローバル化が進み、自分とは違う他者との交流、接触、統合が進めば進むほど、一方で、自己と他を区別するナショナリズムも高まっていくと指摘した。

間違いなく言えるのは、グローバル化の進展とともに、反グローバル化の流れが高まっている以上、互いの違いではなく、共有する利益に目を向ける必要性がますます高まっているということだ。企業提携に限らず、それが米中関係であれ、日中関係であれ、互いの違いに目を向けるのではなく、相手と共有する利益を最大化し、利害が衝突する部分を最小限に抑えていくための知恵が求められている(「米中関係――建設的アジェンダと責任あるコース」)。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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