Andrea Izzotti/shutterstock.com  

米中関係を考える
――建設的アジェンダと責任あるコース

スピーカー
デニス・C・ブレア/元米太平洋軍司令官
カーラ・A・ヒルズ/元米通商代表
司会
ジュディ・C・ウッドルフ/ジムレイラー・ニュースアワー、シニア・コレスポンデント

U.S.-China Relations: An Affirmative Agenda, a Responsible Course

2007年4月号掲載論文

アメリカは、日本、オーストラリアなどの同盟国との関係を強化し、インドや東南アジア諸国との関係も新たに構築していく必要がある。だが、これらは中国を締め出すことが目的ではない。アメリカは日米関係の文脈を踏まえて、日本に中国との関係を改善していくように慎重に働きかけるべきだろう。同様に米印関係も、一方で中国との関係に配慮する必要があり、中印を共通の課題に取り組ませ、互いに競わせるべきではない。(デニス・ブレア)

米中双方にとっての懸案である貿易や経済上の問題をめぐって協調し、中国をグローバルな機構・制度に取り込んでいけば、前向きの結果を得られる可能性を最大限に高められるし、紛争の可能性を最低限に抑え込むことができる。(カーラ・ヒルズ)

  • 米中が互いに抱く不安を緩和するには
  • 勢力均衡と大国間協調をブレンドさせた対中政策を
  • 中国は協調路線を受け入れるか

<米中が互いに抱く不安を緩和するには>

ジュディ・C・ウッドルフ 21世紀の流れを形づくるうえで非常に重要なのがアメリカと中国の関係だ。アメリカの人口は3億なのに対して中国は13億。アメリカの国内総生産(GDP)が12・5兆ドルなのに対して、中国は2・2兆ドル。そしてアメリカの対中貿易赤字が2320億ドル。
そうした米中の間に協調基盤が存在するかどうかをテーマに今日は議論する。駐米中国大使は最近の演説で、中国が平和的な台頭を心がけていることを強調するとともに、「経済成長至上主義の時代を経て、今後は、社会的正義と格差是正のために力を入れていく」と語っている。
本日のゲスト、ヒルズ・アンド・カンパニーのカーラ・ヒルズは、現在は、米中関係全米委員会の会長も務めている。デニス・ブレアは2002年まで米太平洋軍司令官を務め、その後、2006年まで国防分析研究所(IDA)の会長を務めた。では、カーラ・ヒルズから。
カーラ・A・ヒルズ われわれタスクフォースは、この35年間における中国の変化の検証に力を注いだが、なんといっても注目すべきは、グローバル化が中国に与えた影響だろう。グローバル化は中国民衆に大きな恩恵をもたらした。いまや、4億人が貧困レベルから脱出し、その結果、アメリカと中国が共有できる基盤も大きくなっている。とはいえ、米中の双方で、今後の米中関係をめぐって不安が存在するのも事実だろう。
アメリカは中国の驚異的な経済成長を前に不安を感じ、自分たちの経済的繁栄が脅かされるのではないかと心配している。中国の対外的影響力の増大が、アメリカのアジアにおけるリーダーシップにどのような影響を与えるかについても懸念が持たれているし、中国軍の近代化がアメリカの安全保障にとってのリスク要因となると考える人もいる。中国の人権問題は依然として深刻だし、中国政府の人権問題への対応に怒りを感じている人もいる。
一方で、中国もアメリカの行動に不安を感じている。アメリカの中央アジアへの影響力拡大は、中国の成長を抑え込むためではないか。同地域への軍事力展開は中国を封じ込めるためではないか。対中輸出管理策は中国が必要とする技術を意図的に遮断するためではないか。アメリカが民主化を呼びかけるのは中国を混乱に陥れ、成長路線を切り崩そうという思惑があるのではないか、といった不安だ。
われわれタスクフォースは「中国をグローバル社会へと統合する」という前向きな課題に焦点を合わせれば、こうした懸念の多くを緩和できると考えた。
ここで言う「グローバル社会への統合」とは、相互に懸念を抱く課題をめぐって中国に関与し、中国をグローバル・レジームに取り込み、一方で、中国の軍事力の高まりに対するバランスをとっていくことを意味する。われわれは、こうした路線をうまくブレンドすれば、中国側の利益認識をうまく変化させ、米中の2国間関係の協調を最大化し、摩擦を最小限に抑え込めると考えている。
中国が見事な経済成長を遂げ、貧困層の削減に成功していること、そして、中国における民間部門がこうした進歩に大きく貢献していることをわれわれは高く評価している。とはいえ、われわれタスクフォースは、中国が、経済技術面で短期的にアメリカのライバルになることはあり得ないと判断した。
むしろ、中国での砂漠化が進んでいることからも明らかなように、今後、環境悪化その他の一連の懸案への対応に北京は追われることになるだろう。実際、世界でもっとも汚染された都市トップ20のうちの16は中国にある。また中国は社会格差問題も抱えており、富裕層と貧困層のギャップはますます拡大している。
医療保険を必要とする高齢人口が増えているにもかかわらず、高齢者をカバーする社会保障制度は存在しない。中産階級の多くは、クリーンな空気、飲料水、より優れた教育の提供を求めており、中国政府も、こうした市民からの要望を満たそうと努力している。民族、宗教問題も抱えているし、腐敗の蔓延ゆえに政府の正統性は危機にさらされている。中国政府はこれらの問題の多くに取り組もうと考えているが、少なくとも、腐敗対策はうまくいっていない。こうした状況下、中国政府は秩序を保つために今後も抑圧と検閲という手段をとっていくと考えられる。
対外路線については、北京は今後も次の三つの路線を踏襲していくと思われる。第一は、対米協調路線。次に、中国共産党の正統性を支えるために、経済発展を維持する路線。北京は自らの正統性を支えるためにも、繁栄の恩恵を民衆に行き渡らせる必要があると考えており、こうした観点から特定の平和ゾーンを維持したいと望んでいる。そして第三は、エネルギーを中心とする資源確保を目的とするグローバルな資源調達路線だ。
こうした優先順位ゆえに北京は近隣諸国との関係の安定化を試みている。これまでとかく波風の立つことが多かった日本との関係改善も試みている。台湾は依然として紛争の火種だが、これまでに比べると中台関係も安定してきている。
一方で、中国の投資・援助政策には問題がある。アメリカと同盟諸国が、投資と援助を、国際ルールを無視する国を制御するための外交的手段とみなしているのに対して、中国はこれとは逆のベクトル、(特に資源を確保するためなら)国際ルールを踏みにじっている国家にも投資や援助を行っている。ここで言う国際ルールを踏みにじっている国とはスーダン、ナイジェリアなどの国々だ。
知的所有権などの領域でもわれわれは中国との間に問題を抱えている。われわれは、これらの問題が解決されないのは、中国政府の能力に問題があるのではなく、その意思が欠けているからだとみている。
われわれは、メディアで大きく取り上げられている人民元レートに関する問題は非常に複雑だと考えている。中国側は、急激な人民元の切り上げを行えば、食糧・食品価格が上昇して貧困層に打撃を与え、輸出が落ち込むことで都市部の失業問題が深刻化し、融資を焦げつかせて体力のない銀行を追い込んでしまうと考えている。こうした理由から、北京は大幅な人民元レートの切り上げには前向きではない。
また、日本の円、韓国のウォンなどアジアの通貨価値全般を見直さないことには、人民元レートを切り上げるだけではアメリカの貿易赤字を是正するうえでは大きな効果は期待できない。やみくもな人民元の切り上げは、中国経済の成長の鈍化、購買力の低下などの予期せぬ事態を引き起こし、中国国内で政治的反動を生む恐れもある。
さらに、対中貿易赤字に象徴されるいわゆる「グローバルなインバランス」を是正していくには、中国側の人民元切り上げだけでなく、アメリカも自らの行動を見直さなければならない。アメリカ人はどうみても消費しすぎだし、一方、中国人はもっと消費する必要がある。
アメリカの雇用不安は高いが、われわれタスクフォースは、米製造業における失業率の高まりは中国からの輸出の増大が主要な原因ではなく、むしろ、急速な技術革新がその原因だとみている。実際、この10年間をみると、米製造業の労働者は2200万人減少しているが、産出は30%増えている。また、対中貿易や中国への投資からアメリカは大きな利益を手にしている。中国との経済交流の結果、2010年までに、アメリカの家計所得は平均1千ドル上昇すると予測する研究もある。
ワシントンが対中政策の目標についてもっと一貫性を持ち、よりクリアーに米中の市民に表明するようになれば、地域的、グローバルな課題をめぐる米中間の協調を促進できる。この観点から、われわれは「アメリカがより緊密かつ率直で、協調的な関係を中国の指導層と築きたいと考えていること」を米大統領がもっと頻繁かつクリアーに表明することを提言した。
端的に言えば、われわれタスクフォースは、米中双方にとっての懸案である貿易や経済上の問題をめぐって協調し、中国をグローバルな機構・制度に取り込んでいけば、前向きの結果を得られる可能性を最大限に高められるし、紛争の可能性を最低限に抑え込むことができるという結論に達した。

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