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2006年7月号 アメリカの覇権の黄昏に揺れる世界  

2006-07-10

世界各国がアメリカの覇権の黄昏を感じ取り、活発な動きを見せている。朝鮮半島の統一を目指す韓国はすでにアメリカと距離を置き始めているし、ヨーロッパのなかにも脱米入欧をはかる国がある。途上国との連帯を深めたイランは、中ロに接近しつつ、核開発を進め、中東におけるシーア派圏の確立を試みている。北朝鮮も、中韓との一定の関係を保ちつつ、最近では対米強硬路線に転じた。ロシアも欧米に背を向けて中国に接近しつつあり、中国とは相思相愛の関係にある。米議会で非民主的なロシアをG8から排除する声が出ても、アメリカにロシアを排除する力がないことを知っているロシアの指導者は、これをほくそ笑んでいた、とドミトリ・トレーニンは指摘する(「欧米世界に背を向けたロシア」)。
「アメリカのパワーが低下していくにつれて、対米協調によって得られる利益も、反米路線をとるためのコスト同様に低下していき、最終的には反覇権連合出現の可能性を高める」。サミュエル・ハンチントンがこう指摘したのは今から7年前だった。
ブッシュ政権自身、アメリカのパワーの衰えを痛感しているようだ。9・11を境に「世界を変えるために何か手を打たなくては」という危機感を抱くとともに、「世界を変えることができるかつてないパワーを手にしている」と確信した結果、ブッシュ政権はそれまでの現実主義路線から、ネオコン路線に転じたと分析するブルッキングス研究所のフィリップ・ゴードンは、ここにきてブッシュ政権が現実主義路線へと回帰しているのは、彼らの思想ではなく、アメリカのパワーに陰りが見えてきたからに他ならないと主張する。事実、イラク戦争によってアメリカの正統性は大きく損なわれ、2001年当時は2千億ドルの年間財政黒字だった米財政も、2006年初頭には4千億ドルを超える赤字へと転じている。
ただし、可能性は低いとしながらも、何かの事件をきっかけに、再度単独行動主義路線への揺り戻しが起きないとは言い切れないとゴードンは言う。その理由を彼は、ブッシュ政権高官の外交思想が「アメリカの決意、楽観主義、そしてパワーが最終的には勝利を収める」とするレーガン政権時代以来の外交理念に根ざしていることに求めている(「ブッシュ外交革命の終わり」)。
問題は、こうした秩序の過渡期に各国が相手の意図を見誤って、誤算を犯す危険が高まることだ。中国が自国の平和的台頭をアピールしているのも、こうした歴史の教訓を踏まえてのことだし、ロシアの台頭にアメリカは過剰反応すべきではないとトレーニンが諫めるのも、世界秩序が流動期に入っているからに他ならない。一方、これまでの独自のゲームルールに即して強硬策に転じた北朝鮮は大きな誤算を犯しているのかもしれない。
経済秩序も大きな流動期に入りつつある。専門家の多くが、巨大な経常赤字を抱えるアメリカ経済が調整期に入る一方で、ヨーロッパと日本が経済的に立ち直り、中国、ロシア、インドの経済成長は当面続くとみている。特にインド経済が注目されている。製造業を中心に台頭している中国よりも、サービス部門を中心に台頭しているインド経済に注目すべきだと考えるエコノミストは多い。サービス部門の「生産性の改善」によってインド経済は成長していると指摘するグーチャラン・ダスは、インドの場合、東アジア諸国のように労働集約型商品を欧米市場に輸出して経済発展を遂げたのではなく、輸出よりも国内市場を、製造業よりもハイテク産業を重視して成長を達成していると、新しい「経済成長モデル」の誕生を示唆している。印象深いのは、インド経済成長の特徴を「国の介入によって成長を遂げたのではなく、国の介入にもかかわらず、成長を遂げた」点にあるとし、まだ改革の余地、つまり成長の余地がかなり残されていると彼が指摘していることだろう(「インド経済モデルの誕生か」)。
だが、どこに落とし穴があるかはわからない。インド経済、そして世界経済の今後は、エネルギー供給の鍵を握る中東情勢に左右される。そして、いまや中東における宗派間抗争と核不拡散の行方を左右する力を持っているのはシーア派国家のイランである(「中東は宗派間抗争で引き裂かれるのか」)。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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