Issue in this month

2005年2月号 米経常赤字とドル、米・アジア関係の行方

2005-02-10

アメリカの経常赤字とドルが、世界貿易だけでなく、国際政治をも揺るがしかねない大きな問題と化しつつある。世界各国の輸出の多くを受け止める巨大消費市場を持つアメリカが大規模な経常赤字を前に保護主義に傾斜していけば、輸出主導型のアジア経済はどうなるか。おそらくは避けられないドルの切り下げとアジア通貨の切り上げは各国にどのような影響を与えるのか。
「歴史的にみても、先進国の経常赤字がGDPの四~五%規模に達すれば、大きな問題に直面する」と指摘する国際経済研究所のフレッド・バーグステンは、すでに対GDP比七%規模の経常赤字を抱え込んでいるアメリカは危険水域に入っており、最終的に五〇%のドル切り下げに成功したプラザ合意なみの国際的調整を行う必要があると状況を分析し、通貨市場の自律的な調整を阻むアジア諸国の為替介入、そして世界経済の成長を抑え込む原油高を誘導している産油国の生産者カルテルを厳しく批判する。
もちろん、アメリカ経済の底力ゆえに、投資先としてのアメリカの魅力が失せることはなく、外貨準備をアジアの銀行がドルからユーロ建てで行うようになる危険は低いとみなす楽観的な議論もある。米国債を大量に保有する国がそれをアメリカに対する政治戦術上の武器にする危険についても、「日本や中国の中央銀行が米国債を購入するのは、自国の対ドルレートが上昇するのを避けたいからで、それをアメリカの政治戦術上の武器とみなすことはない」と日本の金融問題の専門家エドワード・リンカーンは指摘する(「台頭する中国と米・東アジア関係」)。
一方現状に大きな危機感を抱くバーグステンは、ヨーロッパに内需拡大策の採用を求めつつも、ヨーロッパやカナダの通貨の対ドルレートが上昇したのは、アジア諸国の為替介入のしわ寄せがきたからで、ヨーロッパとカナダは、アメリカとともに、中国に為替介入をやめるように要請すべきだと主張する(「アメリカの経常赤字とドルを考える」)。
バーグステンが提言するような、通貨・為替問題をめぐる米欧協調の処方箋をヨーロッパが受け入れるかどうかはわからないが、最近のブッシュ訪欧を経て、二〇〇二年以来の米欧対立は幾分緩和されつつあるようだ。
独ツァイト紙の編集長ジョセフ・ジョッファは、今回のブッシュ訪欧で、米欧和解はシンボル面でも実質面でも軌道に乗り、「氷よりも冷たかったブッシュとシュレーダーの関係」も和解へと向かい、シラクでさえも対米関係の修復に躍起となっていると指摘する。ジョッファは、米欧協調がいまや机上の空論ではなく、現実に進行している証拠として、ヨーロッパがイラクの民生部門の制度構築に全面的に協力していることを引く(「ブッシュ訪欧で米欧は和解へ向かう」)。
ブッシュ政権のイラク担当大統領特使を務めたブラックウィルも、暫定議会選挙を経たイラクは、すでに政治枠組み内での交渉が成立するような成熟度に達しているとみる(「選挙後のイラク」)。しかし、選挙をボイコットし、政治枠組みに入れなかったスンニ派などの勢力がますます暴力に訴えるようになり、選挙後のイラクが内戦に陥るという声もある。
リアリストとして知られる戦略国際問題研究所のエドワード・ルトワック、過去に大統領特使を数多くこなした実務派のジェームズ・ドビンスともに、選挙後のイラクが内戦に陥る危険を指摘し、それを回避するには、「イラクから米軍は撤退する」と表明し、紛争勢力と近隣諸国の視点を「占領後」に向けさせる必要があると言う。
ルトワックは「占領後のイラクの安定」がイラク人、近隣諸国にとっての大きな利益であることを認識させるためのショック療法として、シーア派との協力態勢を固めつつ、近隣諸国との巧みな交渉を行いながら米軍を撤退させよと説く(「アメリカはイラクから撤退せよ」)。
一方、現在ランド研究所に籍を置くドビンスはより穏健な路線を説き、撤退を前提に今後の軍事作戦を「民間人を守ることを重視した」対ゲリラ戦略に切り替えることで、イラク民衆の支持を勝ち取り、武装勢力の分断を図り、穏健派を勢いづけよと提言する(「敗れた戦争に勝利するイラク撤退戦略を」)。
イラン、北朝鮮についての米外交問題評議会のマックス・ブートの指摘も興味深い。ブッシュ政権内には交渉、経済制裁による政権交代、軍事力行使をめぐる路線対立があると指摘する彼は、「単独であれ、多国間協調スタイルであれ、交渉では北朝鮮、イランの核開発の野望を阻止することはできない」とし、政権交代策の採用を求める(「北朝鮮、イランへの政権交代策を」)。北朝鮮、イランへのブートの見方が勢いを得ていくかどうかは六者協議、イラン問題をめぐる米欧協議、とりわけ選挙後のイラクがどうなるかに左右される。●
(C) Foreign Affairs, Japan

一覧に戻る

論文データベース

カスタマーサービス

平日10:00〜17:00

  • FAX03-5815-7153
  • general@foreignaffairsj.co.jp

Page Top