Issue in this month

2004年7月号 流動化する世界とアジアの台頭

2004-07-10

中国はますます近づいてきて大きくなり、韓国は遠ざかって小さくなり、インドがその大きな姿をついに地平線上に現して急接近しつつある。これこそワシントンの目に映るアジアの新しい現実のようだ。
「アジアの台頭」を予見するジェームズ・ホーグ(フォーリン・アフェアーズ誌編集長)の「グローバル・パワーシフト」にも、チャック・ヘーゲル(米共和党上院議員)の「共和党の外交政策」にもこうした認識が明らかにみてとれる。ただし、日本は影が薄い。ホーグはあくまで中国との関連において日本を論じ、ヘーゲルにいたっては、共和党の外交政策表明のなかでも日本についてただの一言も言及していない。
ホーグが指摘するように、経済的・政治的にもアジアにおける中国の求心力が増しつつあること、アメリカの軍事的関心がもはや太平洋岸にではなく、アジア大陸の奥深くの中央アジアの「基地ネットワーク」に移りつつあることの意味合いは大きい。アメリカがその形成の一翼を担う東アジアの現実と秩序は、対テロ戦争、中国とインドの急成長、日本の停滞、韓国の反米主義によって劇的な変化を遂げつつある。北朝鮮問題に対するワシントンの危機感さえもが、こうした変化のなかで薄れつつあるかにみえる。
それにしても、まるで民主党の政策表明であるかのようなヘーゲルの論文には驚かされる。途上国における次世代の若者の不満を二十一世紀前半の大きな課題としてとらえ、同盟関係、国際機関を中軸とする国際協調が不可欠だと説くヘーゲルの議論は、共和党の対テロ戦争の概念が大きく進化し、民主党路線と収斂しつつあることを思わせる。途上国の貧困、失業、不満をテロの遠因ととらえて対外援助、国際協調を重視する民主党、一方でテロリストやテロ支援国家を軍事的に単独ででも叩くことを重視する共和党という図式でのとらえ方はもはや時代遅れのようだ。
「誰が誰をまねしているかについては、際限なく論争できる」。ブッシュ政権は民主党の大統領候補として有力視されるケリー上院議員の発言の後追いをしているというスティーブ・クック(米外交問題評議会フェロー)の批判に、マックス・ブート(同)はこう応酬し、「論争 二〇〇四年米大統領選挙と外交政策」において「大枠では合意のある目的をどちらが効果的に達成できるか」に目を向けるべきだと主張する。
民主・共和両党のコンセンサスとして特に注目すべきは、ケリー、ブッシュのいずれも、選挙戦において「中東石油への危険な依存」からの脱却の必要性を唱えていることだろう。「仮に中東石油へのアメリカの依存度が低下していくとしても……(中東がグローバル市場の動向の大きな鍵を握っている以上)湾岸での不安定な状況と紛争にワシントンが無関心でいられるはずはない」とヘーゲルはバランス感覚をみせる。だが、アメリカが中東石油への依存度を弱め、ヨーロッパが主にロシアから石油を調達し、中東石油に依存するのがもっぱらアジア諸国ということになれば、どうなるだろうか。アジア秩序が大きく変化するなか、アメリカの石油安全保障概念が大きく変化していく可能性はないだろうか。
石油資源については別の角度からの刺激的な議論もある。開発経済の専門家であるナンシー・バードサールとアルビンド・スブラマニアンは、「石油の呪縛」で「石油資源をもっているがゆえに貧しさのなかでの生活を強いられている国のほうが多い」と指摘する。資源からの歳入を当然視する資源保有国は、資金をうまく管理して適切な公共サービスを提供しようとする動機を失い、政治経済上の透明度の高い制度を構築しようとする動機ももたない。このため、変革が阻まれ、半ば永続的に停滞から逃れられなくなる、と。二人は、この悪循環を打破するには石油からの収益を市民に直接分配する方法をとるべきだと主張する。
テロとグローバル化が秩序を揺るがし、これまでの制度や価値が流動化するなか、人々が自国の戦略だけでなく、国の自画像、そしてアイデンティティーの原点である家族のあり方を見つめ直すのは当然の流れかもしれない。アラン・ウルフの「リアリズムを捨てたハンチントンの変節」はアメリカの自画像を問う好論だし、イーサン・カプスタインが「国際的養子縁組のための多国間ルールを強化せよ」で描写するような現実に、少子化が進む日本もいずれ遭遇することになるのかもしれない。●
(C) Foreign Affairs, Japan

一覧に戻る

論文データベース

カスタマーサービス

平日10:00〜17:00

  • FAX03-5815-7153
  • general@foreignaffairsj.co.jp

Page Top