1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― 欧米におけるポピュリズムの台頭に関する論文

プーチンの立場が欧米の右派のそれと似ているのは偶然ではない。実際、プーチンのアドバイザーたちは、フォックス・ニュースのキャスターなど、米保守の扇動者たちの立場やレトリックを採用している。特に、文化戦争路線を取り入れることで、ワシントンなどのポピュリスト政治家の支持を確保し、欧米社会を内部から切り崩せると考えているようだ。欧米保守派のレトリックを受け入れることで、彼らの支持を確保し、それを基盤にロシアの国際的地位を向上させたいとプーチンは考えている。要するに、20世紀前半にソビエト革命を推進した共産主義インターナショナルに似た、「極右インターナショナル」を形成しつつある。

トランプ現象とアメリカの政治文化
―― ヘンリー・フォードとトランプ

2024年1月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

トランプ現象は、アメリカの歴史・文化における三つの潮流が合流したものとして理解するのが適切だろう。反移民の社会文化やポピュリストの伝統、そして財界の裕福なパフォーマーを待望する伝統だ。つまり、トランプの魅力も、彼の出馬が国内外で引き起こす恐怖も、アメリカの政治文化の奥底に流れる衝動から生じている。誰もが名前を知っている金持ちが、民衆の多くが恐れるか不信感をもつ人々をバッシングし、国のあらゆる問題を解決するという漠然とした約束をする。こうしたトランプの行動は、彼のファンや批判者の多くが考えるほど目新しいものではない。逆に言えば、トランプが表舞台を去った後も、大げさな演説の才があり、守るべき政治的実績のない、裕福なパフォーマーが同じような役目を担うことになるのかもしれない。

欧州における右派の台頭
―― 移民と法の秩序

2024年1月号

マティアス・マタイス 米外交問題評議会シニアフェロー

右派が台頭しているフランス、ドイツ、ポーランドに続いて、オランダでもゲルト・ウィルダースが率いる(右派ポピュリストの)自由党が、オランダ議会下院の最大勢力となった。ベルギーでも、民族主義政党「フランダースの利益」が2024年の国政選挙で最大政党に躍り出ようとしている。フィンランド、ハンガリー、イタリア、スロバキアではすでに極右勢力が政権を握っており、スウェーデンでも極右政党が少数派政権を支えている。ヨーロッパにおける中道左派が支持を失い、中道右派政党が極右政党のレトリックや、時には政策さえも模倣するようになってきたために、中道の左派政党が右派政党との共有基盤を見いだすのが難しくなっている。

ハビエル・ミレイがアルゼンチンを変える?
―― 過激なリーダーシップの可能性とリスク

2024年1月号

ブルーノ・ビネッティ インターアメリカン・ダイアログ 非常勤フェロー

アルゼンチン大統領に就任したハビエル・ミレイは、中央銀行の閉鎖や米ドルを自国通貨として採用するといった極端な公約の多くからは、すでに後退をみせている。それでも、大統領としてのミレイに立ちはだかる課題は非常に大きい。この国が何十年にもわたって陥ってきた衰退と不安定の連鎖を断ち切るには、政権奪取の際にみせた大胆さだけでなく、妥協し、不必要な争いを避け、過去の改革の試みから学ぶ姿勢が必要になるし、経験と知識ある人々を迎え入れなければならない。現実的でありつつも、毅然とし、新しい概念に開放的で、掲げた目的に確信をもっている必要がある。これまでの多くの大統領と同じように、ミレイが失敗すれば、アルゼンチンはこのような改革のチャンスには長期的に巡り会えないかもしれない。

トランプ2・0の時代
―― 同盟国に恐怖を、ライバルに希望を

2023年10月号

ダニエル・W・ドレズナー タフツ大学 フレッチャー法律外交大学院教授(国際政治学)

アメリカの同盟諸国は、ドナルド・トランプが2020年後半のレームダック状況のなかで、世界から米軍を撤退させることを計画していたことを忘れてはならない。彼が敗北することが明らかにならない限り、そして実際にそうなるまでは、トランプがもたらす脅威を軽くみるのは間違っている。ロシアや中国の政府高官は、トランプの再選を望んでいる。ロシアにとっては、トランプの再登板は、ウクライナへの欧米の支援が低下することを意味し、中国にとっては、北京を懸念する日本や韓国といった国々とアメリカの同盟関係に綻びが生じることを意味するからだ。・・・

欧米の戦争疲れとロシアの偽情報
―― ウクライナ支援を維持するには

2023年6月号

ニーナ・ヤンコヴィッチ 情報レジリエンス・センター アメリカ担当副社長
トム・サザン 情報レジリエンス・センター 特別プロジェクト ディレクター

欧米の市民は、これまで「同情疲れ」することなく、ウクライナがロシアの侵略を撃退するのを支援してきたが、このコミットメントは永遠に続くものではないだろう。ウクライナに近い中東欧においてさえ、戦争への資金援助への社会的支持はやや低下している。米市民の4分の1も「アメリカはキーウに過剰な支援を与えている」と考えている。しかも、ロシアは、ウクライナへの援助が不正または違法な目的のために(現地で)乱用されているというストーリーを拡散している。各国政府は、戦争が市民に課しているコストを認めつつ、ウクライナにおける闘いで何が問われているのかを改めて人々に認識させる必要がある。・・・

リベラルな国際主義の再生を
―― 貿易の自由化と経済安全保障

2023年6月号

ピーター・トルボウィッツ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授(国際関係論)
ブライアン・ブルグーン アムステルダム大学教授(国際政治経済)

冷戦が終わると、共産主義の膨張主義や核戦争に対する懸念が後退し、欧米の有権者は、かつては論外とされてきた政党や候補、政策に賭けることも厭わなくなった。反グローバリズム感情が台頭し、貿易自由化や多国間協調を支持する政党への欧米有権者の支持率は50%近くも低下した。その結果が、ブレグジットであり、ドナルド・トランプだった。しかも冷戦後には、極右、極左勢力が、反グローバリズムと社会的保護政策を支持し、労働者階級の有権者を取り込もうと試み、これに成功した。欧米社会の反グローバリズム感情を抑えるには、国際政策が国内における労働者階級の家庭に恩恵をもたらすことを実感できるようにしなければならない。世界に国を開くことと国内の経済安全保障を守ることの間のバランスを取り戻す必要がある。

穏健化した欧州の右派ポピュリズム
―― 民主主義が勝利する歴史的理由

2022年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

「過激主義の政治集団が民主主義の大きな脅威になるかどうかは、それが登場した社会の本質に左右される」。民主主義の規範と制度が社会に力強く定着している社会では、反民主主義や過激主義をいくらアピールしても支持者はほとんど得られないために、急進派は穏健化せざるを得なくなる。効率的に民意を汲み取れる民主的社会において、反民主主義や急進主義が受け入れられる余地がほとんどないことは歴史が裏付けている。この状況下では、急進派は周辺化を受け入れるか、穏健化するかどちらかを選ばざるを得なくなる。戦後、共産党がたどった軌道、穏健化を選んで台頭した「イタリアの同胞」、「スウェーデン民主党」などの右派ポピュリスト政党の軌道は、まさにこの歴史的流れを裏付けている。問題は、アメリカ政治が逆方向に向かっていることだ。

ウクライナ・エクソダス
―― 欧州難民政策を改善するチャンス

2022年5月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授(国際関係論)

すでに欧州連合(EU)はウクライナ難民に一定の保護を与え、少なくとも3年間はEU圏に滞在できる措置をとっている。EUから離脱したイギリスでさえ、数万の市民がウクライナ難民を自宅に受け入れると申し出て、厳格なビザ発給制限を緩和するように政府に求めている。こうした大きな連帯意識は、ヨーロッパの指導者たちが、難民や移民によりうまく対処する、より公平な難民政策を導入する機会をもたらしている。シリア紛争などの戦争で荒廃した国からヨーロッパに数百万の難民が押し寄せたとき、当初の歓迎が結局は激しい反発とナショナリズムの高まりにとってかわられたことを忘れてはならない。同じような流れが起きるのを避けるための施策が必要になる。

兵器としての移民
―― その長い歴史と憂慮すべき未来

2022年4月号

ケリー・M・グリーンヒル タフツ大学准教授(政治学)

最近のベラルーシやトルコに始まり、古くはキューバにいたるまで、人為的な移民の流れを作り出して殺到させると相手国を脅し、実際にそうした手段をとってきた国は数多くある。しかも、移民を兵器として利用するこのやり方は、これまで長く成果を上げてきた。当然、すぐになくなることはないだろう。それどころか、移民の流れを兵器にしている国に立ち向かわない限り、これを好ましい政策とみなすトレンドゆえに、その利用は抑えられるどころか、ますます増加していくだろう。実際、経済制裁などの強制外交の成功率が全体のせいぜい40%程度なのに対して、兵器化された移民を使った戦術は、ほとんど成功する。

Page Top