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ウクライナ危機に関する論文

私がウクライナ侵攻で思い知ったことの一つは、それまでの20年間に目撃してきたことに大いに関係していた。ゆっくりとだが、政府が自らのプロパガンダにとらわれ、歪められてしまっていた。ロシアの外交官は長年、ワシントンに対決路線をとり、嘘とつじつまの合わない言葉を並べて、ロシアの対外的干渉を正当化するように強いられてきた。私たちは仰々しいレトリックを使って、モスクワに命じられたことをそのまま繰り返すように教育されていた。だが、最終的に、外国だけでなく、ロシアの指導部もこのプロパガンダに感化されるようになった。・・・この戦争は、エコーチェンバーで下された決定がいかに裏目に出るかを明確に示している。

ロシアの衰退という危険
―― 脅威がなくならない理由

2022年12月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 新アメリカ安全保障センター 大西洋安全保障プログラム・ディレクター
マイケル・カフマン 米海軍分析センター ロシア研究プログラム・ディレクター

ロシアのパワーと影響力が衰退しているとしても、その脅威が今後大きく後退していくわけではない。プーチンが敗れても、ロシアの問題は解決されないし、むしろますます大きくなっていく。欧米は、この現実を認識し、ロシアがおとなしくなることへの期待を捨て、モスクワの標的にされているウクライナへの支援を続けなければならない。ロシアは往々にして再生、停滞、衰退のサイクルを繰り返す。ウクライナ戦争でそのパワーと世界的地位が低下しても、ロシアの行動は、今後も反発、国境沿いの勢力圏の模索、そして世界的地位への渇望によって規定されていくだろう。ヨーロッパが単独でこの問題を処理できると考えてはならない。ロシアの脅威は変化するとしても、今後もなくならない。

対中露二正面作戦に備えよ
―― 新しい世界戦争の本質

2022年12月号

トーマス・G・マンケン 戦略予算評価センター会長

アメリカが東欧と太平洋で二つの戦争に直面すれば、米軍は長期的なコミットメントを強いられる。北京の影響圏が広がっているだけに、対中戦争の舞台が台湾と西太平洋に限定されることはなく、それは、インド洋から米本土までの複数の地域に広がっていくだろう。そのような戦闘で勝利を収めるには、アメリカの国防産業基盤を直ちに拡大・深化させなければならない。部隊をどのように動かすかなど、新しい統合作戦概念も必要になる。(第二次世界大戦期同様に)多数の戦域における戦争という戦略環境のなかで、アメリカの軍事的焦点を、どのタイミングでどこに向かわせるかも考えなければならない。そして、世界レベルでの軍事紛争を勝利に導くには、アメリカにとってその存在が不可欠な同盟諸国との調整と計画をもっと洗練していく必要がある。

ウクライナは冬を越せるのか
―― 欧米の支援疲れ、難民危機、電力不足

2022年12月号

メリンダ・ヘリング アトランティック・カウンシル ユーラシアセンター副部長
ジェイコブ・ヘイルブラン ナショナル・インタレスト誌編集長

キーウが直面している問題は、資金不足だけではない。ロシア軍によるエネルギーインフラ攻撃で、ウクライナ全土で停電が起きている。モスクワは空爆によって、この冬、ポーランドなどの周辺国に新たにウクライナ難民を流出させ、政治的混乱を起こし、その多くがプーチンと立場を共有する極右政党を勢いづけたいと考えている。しかも、アメリカの支援はやり過ぎだと考える共和党支持者の割合は48%に達している。それでも欧米は、資金援助、電力と暖房の復旧に必要な機器の提供、ウクライナのインフラをミサイル攻撃から守る防空システムの供与など、さまざまな対策をとることで、ウクライナがこの冬を乗り切れるように助けなければならない。ワシントンと同盟国がウクライナ支援に失敗すれば、今度はヨーロッパの別の戦場でプーチンと再び対峙することになる。

大国間のライバル関係を制御する
―― 競争と協調の間

2022年11月号

ダニ・ロドリック ハーバード大学ケネディ・スクール 教授(国際政治経済学)
スティーブン・M・ウォルト ハーバード大学ケネディ・スクール 教授 (国際関係論)

国際社会の中央における権限が確立されていない世界では、競争のインセンティブがあらゆるところに存在し、強国は互いに相手を警戒する。主要国のいずれかが経済的・地政学的優位の獲得を優先課題に据えれば、穏やかな世界秩序が実現する可能性は遠のいていく。だが、ライバル国や敵対する国であっても、合意や調整を探るように促す枠組みがあれば、問題を管理できるようになる。「対立する二国が合意できる部分や禁止すべき行動を特定し、互恵的な妥協点を探り、単独行動は合理的な範囲内に収めるように促す」。たとえ、合意を形成できないとしても、この枠組みは国家間のコミュニケーションを促し、合意できない理由を明らかにし、自国の利益を守ろうとするときも他国を傷つけないように配慮するインセンティブを高めることができるだろう。・・・

帝国の衰退と歴史の教訓
―― 米中ロの衰退と混乱に備えよ

2022年11月号

ロバート・D・カプラン 米外交政策研究所 地政学担当チェアー

米中ロという大国は、一般に考えられる以上に脆弱な存在なのかもしれない。政策破綻を回避するために必要な「悪いシナリオに備える姿勢」、つまり、悲劇を回避するために未来を悲観的に考える能力が北京、モスクワ、ワシントンでは不十分などころか、どこにもみあたらない。実際、帝国や大国はこうして自滅的な戦争を決断し、それによって歴史を左右する大きな節目が作り出されてきた。帝国や大国が突然終わりの時を迎えると、混乱と不安定化が続く。ロシアがこの運命を避けるのは、おそらくもう手遅れだろう。中国はその運命を切り抜けられるかもしれないが、容易ではないはずだ。アメリカも、先行きを悲観して現実的なアプローチに転換する時期が遅れれば、状況はさらに悪化していく。

領土「併合」とプーチンの賭け

2022年11月号

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー(ロシア、ユーラシア担当)

主要国がロシアによる「併合」を認めないとしても、モスクワが、これらの地域をロシアの領土と位置づければ、「領土」を守るための試みを強化することが正当化される。部分的な動員、将来におけるより全面的な動員、そして潜在的な核兵器の使用もこの文脈に位置づけることができる。もっとも、モスクワが総動員を回避したのは、ロシアの若者がウクライナにおけるプーチンの目標のために実際に戦い、死ぬ準備ができているかどうかを疑っていたからだという見方が広がっている。だが、最近におけるロシア軍の撤退とウクライナ戦争での進展のなさから、強硬派の批判を緩和するために部分的であっても動員を実施せざるを得なかった。紛争が続くにつれて、モスクワはこの二つの課題間で今後もバランスをとることを強いられるだろう。実際、プーチンが直面しているもっとも深刻な抵抗は、より攻撃的な行動を求める強硬派かもしれない。・・・

クレムリンのクーデター?
―― ソビエトの権力抗争史とプーチンの未来

2022年11月号

セルゲイ・ラドチェンコ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 特別教授

プーチンがウクライナ戦争の劣勢を覆せぬなか、潜在的な後継者たちが、ライバルの動向を窺い、後継シナリオをあれこれ考えているのは間違いないだろう。プーチンの打倒を目指す者は数多くいる。おべっか使いの側近や危機マネージャーなど、後継候補たちは多彩な顔ぶれだ。大統領への忠誠心で選ばれた人物たちだとしても、裏切りが横行する環境ではそれは相対的なものでしかない。プーチンを完全に信頼している者はいないし、側近たちが互いに相手を信頼しているわけでもない。事実、ソビエト時代のクーデターは、権力中枢における人間関係、ライバルたちの野心と裏切りによって引き起こされてきた。行動を突き動かしたのは、指針とするイデオロギーや政治的な原則ではなく、赤裸々な野心だった。成功はタイミングと流れに左右される。その鍵は、現職の指導者が弱気になったときに素早く、果敢に動けるかどうかだ。・・・

アフリカのウクライナ・ジレンマ
―― ロシアと欧米の狭間で

2022年10月号

ナンジャラ・ナイアボラ 政治アナリスト

アフリカ諸国の多くがウクライナ支持を明言しないことに、欧米の指導者は苛立ちを募らせている。実際、大規模な兵器供給国であるロシアに配慮するアフリカ諸国は多い。理由はこれだけではない。欧米がかつての植民地宗主国としての負の遺産をひきずっているのに対して、アフリカの多くの国にとって、共産主義は欧米の植民地主義に代わる選択肢だった。つまり、ソビエトの後継国家であるロシアは、アフリカの歴史の正しい側にいるかのように装うことができる。だが、立場を明確にしないのは、数世代にわたって紛争を続けてきたアフリカ諸国の紛争疲れのせいでもある。可能ならば、ウクライナ戦争のどちらか片方に与するのを避けることが、アフリカ諸国の支配的な態度となっている。その戦争が、アフリカを新たな代理戦争の舞台にする恐れがあるとすれば、なおさらだろう。

欧州はエネルギー危機に屈するのか
―― 短期的危機を長期的機会に

2022年10月号

スーシ・デニソン ヨーロッパ外交評議会 上級政策研究員

イタリアではロシアエネルギーからの離脱を唱える政権が倒れ、その後、フランスのマリーヌ・ルペンは、ロシアに対する「無意味な制裁」に終止符を打つように訴えた。経済的・政治的な圧力の下、これまでウクライナ戦争に対するヨーロッパの反応の特徴だった連帯が脅かされている。重要なのは集団的な対応を維持していくことだ。例えば、(共同債の発行などによって)大規模な資金を調達して、よりクリーンで信頼性の高いエネルギー源を迅速に強化し、この冬以降のエネルギー需要にも応えられる共同リソースを構築することを検討すべきだ。足並みの揃った行動をとらなければ、ヨーロッパはいつまでたっても、自由主義的価値観と市民の基本的必要性の間で揺れ動くことになり、このままでは欧州統合そのものが打撃を受けることになりかねない。

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