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政治・文化・社会に関する論文

遺伝子組み換え作物で途上諸国を救うには

2000年6月号

ロバート・パールバーグ
ウェルズリー大学政治学部教授

遺伝子組み換え食糧をめぐる地球規模の闘いの主要な対立構図は「アメリカ企業」対「ヨーロッパの消費者と環境保護団体」で、この技術から最も恩恵を引きだせる貧しい諸国の農民や消費者の利害が考慮されていない。遺伝子組み換え作物に大規模な投資をすることで、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの何億という人々を貧困と栄養失調から救う新しい道を開拓できるのに、それを実現させるための行動はまだほとんどとられていない。世界銀行の調査団は、遺伝子組み換えテクノロジーを利用すれば今後一〇年以内にアジアにおける米の生産が一〇~二五%増加する、と予測している。

アジアの軍事力がアメリカの優位を脅かす

2000年4月号

ポール・ブラッケン  イェール大学政治学・経営学教授

過去二百年にわたって世界の枠組みを定めてきたのは、欧米の軍事的優位だった。かつて国力の象徴といえば砲艦だった。次いで戦艦となり、そして巡航ミサイルやステルス爆撃機へとそれは代わっていった。その間、これらの軍備を独占してきたのは、欧米諸国であった。しかし、そうした欧米による先進軍事技術の独占時代も、いまや終わりを迎えようとしている。今日では、イスラエルから北朝鮮にいたる十にものぼるアジア(東洋)の国々が、通常兵器や大量破壊兵器(WMD)を搭載した弾道ミサイルや、その他の先端技術を手にしようとしている。世界のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)が大きく変わろうとしているのだ。第二次世界大戦後の冷戦期が第一の核時代だとすれば、アジアの軍事力の台頭は、第二の核時代がやって来ることを告げている。欧米がつくりだした世界の枠組みが変わろうとしているのは、軍事面だけではない。こうした変化は、文化的・哲学的な意味においても起こりつつある。一九六○年代と七○年代に経済分野で存在感を強めたアジア諸国は、いまや軍事分野でも存在感を強めつつある。これらの諸国が保有する兵器のことを考えると、欧米によるアジアへの干渉は平時においてすら、これまでになく危険でコストの高いものになるだろう。欧米諸国の軍事力は、非欧米諸国の弱い軍隊を打ち負かす以上の意味をもっていた。それは、欧米の方針に沿って世界を構築するための手段であり、さらに、商業・技術の全般におよぶ欧米優位の象徴として先進国と後進国の格差も表してきた。欧米の掲げる世界構想に積極的に反対すれば、敗北することが目に見えていただけに、一九九○年代初期までは、そのような反対者の出現はありえないと考えられていた。しかし、ペルシャ湾や旧ユーゴで示された、圧倒的なアメリカの軍事力にもかかわらず、欧米諸国の既成概念を打ち破る国が登場しつつある。これらの国々は、先進国との軍備格差を埋めようとしたわけではない。むしろ、アメリカの軍事力の裏をかき、アジアにおける米軍の弱点をつくような、妨害・非対称テクノロジー(disruptive technology)の開発に力を入れたのだ。欧米の戦略の基本的前提は、現在の技術的・軍事的均衡を維持し、その他の分野でも欧米支配を継続させることにある。しかし、それは(インド、パキスタンの核実験に象徴される)第二の核時代の幕開けによって覆されてしまった。一例をあげると、欧米が掲げる国際的課題はもっぱら経済的な視点から語られ、「大切なのは経済だ」という主張が、一九九○年代を通じて内政と同様に外交にも大きな影響を与えた。外交の主要任務はアジアの大国を欧米主導の経済システムに組み入れることと考えられていた。「どの時点で中国のWTO(世界貿易機関)加盟を承認すべきか」「どうすればインドに海外からの投資に対する規制を緩和させることができるか」「どうすれば新たな金融危機を予防できるか」といった問題設定は今でも適切ではある。しかし、欧米が依然としてアジェンダ・セッティングをし、アジアが世界システムに参加する条件を設定できるとみなすのは、果たして妥当だろうか。

プーチンの最大の敵は石油オリガ―キーだ 

2000年4月号

リー・S・ウォロスキー 外交問題評議会フェロー

ロシア政財界の最強のプレーヤーであるオリガーキーたちは、民主主義と市場経済の確立に向けたロシアの改革路線を脅かしている。巨大なロシアの石油産業を支配する者が、世界の石油供給の大部分を支配する。そしてロシアの石油を完全に支配しているのは石油オリガーキーたちだ。オリガーキーたちの略奪行為によってロシアの富はことごとく吸い取られ、政府を含むロシア社会の広範な層が貧困化している。

民主党次期大統領のグローバル経済対策

2000年4月号

W・ボーマン・カッター 前経済政策担当次席補佐官  ジョアン・スペロ 前経済・ビジネス・農業問題担当国務次官

ネットワーク経済(電子商取引)にだけ焦点を当てた具体的な多国間プロセスを開始すべきであり、これは民主党次期大統領が取り組むべき中心的な目標の一つとなろう。アメリカは日本をたんなる同盟国としてではなく、アジア太平洋地域の経済、政治、安全保障を守り、既存の多国間枠組みを強化し、新しい多国間枠組みを構築するためのパートナーとして扱うべきである。世界貿易機関(WTO)を環境問題の多国間交渉の場とするのではなく……環境問題に関する新しい国際公約を策定・実行する『地球環境機関(GEO)』の創設を新たに提案すべきだ。

デイトン後のボスニアの現実

2000年1月号

アイヴォ・ダールダー ブルッキングス研究所上席研究員

デイトン後のボス二アがなんとか生きながらえているのは、ひとえに国際援助のおかげである。現地勢力による自力再生の見込みはまったくたっていないし、援助もいずれ打ち切られる運命にある。しかも、世界の関心はすでにボスニアではなく、コソボの再建へと向かっている。国際社会は、敵対行為の抑止だけでなく、デイトン合意のもう一つの目的である、安定した経済基盤を備え、民主的で多民族から成るのボスニアの実現という野心的な課題を、もはや放棄すべきなのだろうか。それとも、その実現にむけて関与を再度強化させるべきなのだろうか。

インドネシア大統領の政治的ギャンブル  

2000年1月号

アダム・シュワルツ   前・外交問題評議会フェロー

メガワティの副大統領起用から異なる宗教・民族・地域的背景を持つ多彩な顔ぶれの組閣に至るまで、大統領選挙以後にワヒド大統領がつくりだした政治的潮流は、ギャンブル以外の何ものでもない。新大統領はこうした内閣をつうじて、分離主義が突きつけるこの国の統合に対する脅威を緩和させる賭けに打って出たのだ。実際、分離主義に端を発する散発的な軍事紛争が続き、現政府が軍事政権化するとすれば、それはアチェの独立以上に危険な事態となる。民族・文化・言語の多様性こそがインドネシアの強みであるという信条を持つワヒドは、政治・経済的分権化を進めて、連邦制の枠組みをもって分離主義に対処しようと試みている。また、イスラム教徒でありながらイスラエルとの関係強化を公言し、一方で欧米よりもアジア重視の外交路線をとる大統領の真意は、国内政治上のリスク、経済利益、そしてインドネシアの国際的地位の向上という意図に導かれている。妥協の人であり、優れたバランス感覚の持ち主である新大統領の戦略を検証し、政治的ギャンブルの行く末を探る(本文は一九九九年十一月十一日にワシントンで開かれた外交問題評議会のミーティング・プログラムでのスピーチ。「フォーリン・アフェアーズ」誌には掲載されていない)。

バルカン経済にニューディール政策を

2000年1月号

ベン・ステイル 外交問題評議会シニア・フェロー スーザン・L・ウッドワード ロンドン大学国防研究センター上席研究員

南東ヨーロッパに長期的な安定と非民族主義的な政策が根づくかどうかは、この地域の「経済」がどうなるかによる。欧米が、バルカン危機の本質を修正可能な政策上の破綻としてではなく、この地域に特有な民族主義による紛争、民族間の敵意という構図でとらえ続ける限り、現地の改革が前進することはあり得ない。必要なのは、「南東ヨーロッパの欧州化」に向けた欧州連合(EU)の柔軟で明確なコミットメントだ。バルカンの欧州化とは、すでにEU内に根づいている、国境を超えた通貨・貿易・投資のアレンジメントをヨーロッパの南東部へと広げることで実現する。これによって育まれる南東ヨーロッパの内的統合とヨーロッパとの一体化への希望こそが、腐敗に彩られ、投資も呼び込めず、とかく民族主義に振り回されがちなバルカン地域での改革努力を喚起する唯一の処方箋である。

可哀想な国連

1999年12月号

マイケル・ハーシュ/ニューズウィーク誌記者

このままでいけば、クリントン政権は国連を無視し、国連システムを崩壊させた米政権として記憶されることになりかねない。コソボ空爆の際には北大西洋条約機構(NATO)を頼みに安全保障理事会を迂回し、その後には人道的単独介入をめぐる「クリントン・ドクトリン」の構築を試み、さらに、東ティモール問題を契機に、アジア太平洋経済協力会議(APEC)を地域的な安全保障フォーラムにする可能性も示唆されている。しかし、組織されたフォーラムであれ、富める諸国の一時的連帯関係であれ、国連という枠組みを離れてうまく問題解決にあたることはできず、この点、アメリカとて例外ではない。「唯一の超大国もひとり頂点にいるわけではない」。グローバルな問題への取り組みには国連システムが不可欠であり、今や国連とアメリカの関係修復に向けたワシントンと国連本部間の「シャトル外交」が急務だろう。

国連安保理を機能させるには

1999年11月号

リチャード・バトラー 前UNSCOM委員長

今や世界秩序を脅かしているのは、超大国間のライバル関係ではなく、大量破壊兵器の拡散である。拡散防止を目的とするさまざまな条約も存在するが、問題は条約違反が発覚したときに、実質的な条約の管理主体である国連安全保障理事会が効果的に対応できるような環境があるかどうかだ。国際的平和や安全保障のためではなく、国益絡みで拒否権が行使されたり、拒否権を盾にした恫喝策がとられることも珍しくない。こうした安保理の政策決定メカニズムは、毅然たる強制措置をとるには決してふさわしくない。常任理事国に認められた拒否権は本質的に特権であり、特権を維持するには、それを責任ある形で行使しなければならないことを常任理事国は銘記すべきであろう。世界秩序にとっての最大の脅威である大量破壊兵器の拡散を阻止するためにも、拒否権をめぐる新たなルールの導入が急務である。

Classic Selection 1999
超えられなかった過去
―― 戦後日本の社会改革の限界

1999年9 月号

ウォルター・ラフィーバー コーネル大学歴史学教授

憲法改正問題から集中豪雨的な輸出政策・官僚主導型の政治――そうした弊害の多くは実は1940年代の未完の占領革命、言い換えれば、占領政策の「逆コース」にそのルーツがある。つまり、官僚が力を持ち続け、一方では冷戦における西側陣営の一翼を担えるようにと米政府がマッカーサーに日本経済を立て直せと命じた1948年の政策転換によって、開放的で民主化されたシステムが日本に根づく可能性はなくなった。この「歴史の非継続性」は、これまでも様々な方面から議論の対象とされてきたが、今後予想される日本の国益論争・安保論争などをめぐって日本の周辺諸国と米国を巻き込んだ論争の焦点の一つとなっていく可能性は高い。

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