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政治・文化・社会に関する論文

働き口とよりよい生活を求めて、数多くのアフリカの人々が、危険を顧みずに、ヨーロッパを目指して地中海の旅へと繰り出している。アフリカからの移民・難民が殺到しているヨーロッパ諸国は、経済移民および政治・経済難民の受け入れ制度を改革し、域内で調和させる必要性に直面しつつあり、欧州連合(EU)も、これを経済、人道上の緊急課題と捉えだしている。だが、ヨーロッパ各国がこの問題をめぐって、立場を共有しているわけではない。殺到するアフリカからの難民に特に悩まされているのが、地中海沿岸に位置する南ヨーロッパ諸国だ。一方、移民、難民の増大に悩まされる一方で、ヨーロッパ社会の高齢化が進み、出生率が低下するなか、EUは、近い将来に労働力不足に陥ると考えられている。つまり、そこには、アイデンティティーを脅かすアウトサイダーとしての移民、貴重な労働力としての移民という認識上のジレンマがあるだけでなく、その受け入れをめぐって加盟国間に立場の違いがある。

トルコとイラク北部のクルド人との対立がここにきて再燃しており、イラク北部とトルコの国境地帯で紛争が起きる危険が指摘されている。問題は、トルコからの分離独立を求めるクルド労働者党(PKK)の武装勢力が、イラク北部を聖域にトルコへの攻撃を行っていることに派生している。最近ではトルコ軍の高官は、「イラク北部におけるPKKの反乱勢力を一掃するためなら、イラク北部への軍事侵攻も辞さない」と発言している。この他にもアンカラは、イラクのクルド人がイラクからの独立を試みれば、トルコ国内のクルド人分離独立運動を大きく刺激することになると懸念している。そして、これら一連の流れの鍵を握るのが、イラクの石油都市キルクークの帰属問題だ。キルクークの帰属を問う住民投票が、2007年末に予定されているが、すでに、トルコとスンニ派アラブ国家は住民投票の実施に反対し、一方、イラクのクルド人勢力は、投票が実施されなければ、イラクからの独立も辞さない可能性も示唆している。クルド人地域がキルクークとともにイラクから独立すれば、イラン、イラク、トルコ、シリア、アルメニアに広がる広大なクルディスタン地方のクルド人がどう反応するか。悪くすれば、中東はこれまでとは全く別次元の大きな問題に直面する恐れがある。

CFRミーティング
アーノルド・シュワルツェネッガーが語る
環境保護と経済成長

2007年4月号

アーノルド・シュワルツェネッガー
カリフォルニア州知事

これまで長い間、環境保護運動は、「環境を汚染しているのはわれわれ人類だ」という罪悪感によって突き動かされてきたが、いかなる運動であれ、それを成功させるのは人々の熱意であって、罪悪感ではない。「必要なのは熱意と確信、そして健全な危機意識だ」と指摘するシュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事は、環境保護運動が市民への苦情や批判としてではなく、生活を明るくする前向きの活動とみなされるようになれば、大きな転換点を超えられると強調する。政府が環境に配慮した基準や規制を導入することで、市場での技術革新を促すことができることを立証したカリフォルニア州は、「環境経済」の枠内で、「環境か経済かのどちらかを選ぶのではなく、双方を両立させられること、つまり、環境を守り、経済を成長させられることを立証している」。カリフォルニア州はこの点で前向きなメッセージを世界に発しているとシュワルツェネッガーは語る。邦訳文は英文からの抜粋・要約。

インフルエンザ・パンデミックへの備えはできているか

2007年4月

マイケル・T・オスタホルム/ミネソタ大学感染症研究政策センター所長

いまや、H5N1ウイルスが、遺伝子の再集合プロセスを経ずに独自に変異を繰り返すことで、人から人への感染力を持つようになる可能性も浮上してきている。いつ次なるパンデミックが起き、それがどれほど重大な事態を引き起こすかを予見するのは不可能だが、それは間違いなく起きるし、緊密な相互依存を特徴とするグローバル経済のなかでパンデミックが起きれば、相互依存関係は引き裂かれ、これまでのパンデミック以上の甚大な被害を引き起こすことになる。これまで大規模な人への感染が起きていないとしても、このままパンデミックへの備えが進まなければ、最終的に世界は最悪の事態に直面することになる。

中国のパワーを検証する
――軍事、経済、ソフトパワーの実態と課題

2007年1月号

デビッド・M・ランプトン 米中関係全米委員会前会長

アメリカを含む世界各国は、中国の軍事パワーを過大評価し、経済面でも、売り手、輸出業者としての中国の役割を過大評価し、買い手、輸入業者、投資家としての中国の活動を過小評価している。そして、中国のソフトパワーの拡大はおおむね無視されている。一方の中国は、経済成長を持続させることこそ、現在の共産党政府の政治的正統性を維持していくうえでの不可欠の要因とみている。そのために、(技術、投資、戦略物資などの)資源を可能な限り国際社会から調達し、対外的脅威を緩和させようと心がけている。だが、国内での政治的緊張に直面すると対外的ナショナリズムのカードを切ろうとする傾向があるし、経済パフォーマンスが低下すれば、政府の正統性も、中国のソフトパワーも損なわれていく。状況が流動的であるがゆえに、中国のパワーの実態を明確に把握しておく必要がある。

議会の多数派となった民主党が、2国間貿易協定の批准を拒絶し、保護貿易路線を強化していくのではないかとの懸念が浮上している。事実、民主党議員のなかには、自由貿易合意に否定的な公約を掲げて当選した者もいるし、アメリカの労働者を守るために、途上国との自由貿易合意に労働基準、環境基準を盛り込むように圧力をかけることを示唆する有力者もいる。過小評価されたままの人民元レートをバックに、中国がアメリカに対する貿易上の優位を高めつつあるとみなす危機感も米議会では高まっている。山積する貿易問題に民主党議会はどう対処していくのか。

CFRミーティング
次期台湾総統候補
呂秀蓮台湾副総統が語る台湾と中国

2007年1月号

スピーカー 呂秀蓮(アネッタ・ルー)  台湾副総統
司会 ジェローム・A・コーエン  米外交問題評議会(CFR) アジア担当非常勤シニア・フェロー

台湾と中国は別の存在であり、ともに独立している以上、国際社会は、もはや時代にそぐわず、とかく誤解をまねくだけの「一つの中国」政策を再検証する必要がある。こうした再検証作業を行って初めて、海峡間論争の効果的な解決策を見いだすことができる。われわれは、台湾の歴史を検証するにつけて、台湾の運命は中国によってではなく、世界情勢によって左右されていると確信している。北京にしてみれば、中国を台湾に再編するのは必然なのかもしれない。しかし、グローバルな視点でみれば、台湾が中国に帰属しないこと、台湾はむしろ世界の一部であることがわかるはずだ。(アネッタ・ルー)

ブッシュの一般教書演説を読み解く
――イラクとガソリン消費の削減

2007年1月号

ナンシー・E・ローマン 米外交問題評議会(CFR) ワシントンプログラム・ディレクター

ブッシュ大統領が一般教書演説でイラクへの米軍増派戦略への支持を強く求めたのは、予算承認権を持つ議会が、増派策を予算面から切り崩そうと試みる危険があることを認識していたからだ。実質的に大統領は「しばらくの間、この戦略にチャンスをくれないか」と議会に訴えかけたと指摘するナンシー・ローマンは、大統領がイランの核開発問題についても簡単なコメントに留めたのは、増派によって「バグダッドの治安を確保して流れをつくりだし、イラク問題で活路が見えてくれば、イランについても有利な状況をつくりだせる」と考えているからだと指摘する。また、外交ではなく、国内領域のアジェンダを重視し、ガソリン消費の削減に向けて包括的で大胆な措置をとると約束したのは、「外交領域ではレームダックに陥らざるを得ない」ことを大統領が認識しているからだろうとコメントした。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

感情の衝突
―― 恐れ、屈辱、希望の文化と新世界秩序

2007年1月号

ドミニク・モイジ フランス国際関係研究所上席顧問

西洋世界は「恐れの文化」に揺れ、アラブ・イスラム世界は「屈辱の文化」にとらわれ、アジア地域の多くは「希望の文化」で覆われている。アメリカとヨーロッパは、イスラム過激派テロを前に恐れの文化を共有しながらも分裂し、一方、イスラム世界の屈辱の文化は、イスラム過激派の思想を中心に西洋に対する「憎しみの文化」へと姿を変えつつある。かたや、さまざまな問題を抱えているとはいえ、中国、インドを中心とするアジア地域の指導者と民衆は、西洋とイスラムの「感情の衝突」をよそに、今後に向けた期待を持っており、経済成長が続く限り、アジアでは希望の文化が維持されるだろう。恐れの文化、屈辱の文化、そして希望の文化のダイナミクスと相互作用が、今後長期的に世界を形づくっていくことになるだろう。

現代版奴隷貿易を阻止するには

2006年12月

イーサン・B・カプスタイン 仏欧州経営大学院(INSEAD)教授

人身売買業者は、貧しい国の貧しい人々に遠い国での高賃金の仕事を約束してその気にさせ、渡航手続き、必要書類の整備、渡航先での仕事を見つけるための資金を法外な金利で貸しつける。しかし、渡航先には仕事はなく、何千ドルもの借金だけが残る。被害者はその後すべての渡航書類を奪われ、偽名を使っての強制労働を強いられる。当局に訴えたり逃亡を試みたりすれば、痛めつけるか殺すと、被害者とその家族は脅される。国連の推計によると、人身売買産業が得る利益は年間約320億ドル。いまや「127カ国の出身者が、137カ国において強制労働を強いられ、搾取されている」。

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