1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

政治・文化・社会に関する論文

EUのもう一つの移民問題
―― 東中欧の人口流出危機

2017年5月号

テジ・パリク ノバヨーロッパ・アナリスト

優れた人材が欧州連合(EU)内のより裕福な加盟国に定住しようと西ヨーロッパに吸い寄せられた結果、東ヨーロッパは経済停滞と人口減そして高齢化という問題に直面している。1990年代初頭以降、約2000万人の優秀な労働者が中央・東ヨーロッパから流出している。人口が流出している大きな理由はEU内部に大きな賃金格差が存在するからだ。現状でも東ヨーロッパの労働者の平均月給は、フランスやドイツ、イギリスの半分に満たないレベルにある。そして、国外移住者の殆どは母国に戻ることはない。問題は、EUが拡大を続け、そして西ヨーロッパの暮らし向きの方が東ヨーロッパのそれよりもよく思える限り、移民の流出を阻止するのが難しいことだ。

目的地 ヨーロッパ
―― 難民危機を管理するには

2017年5月号

エリザベス・コレット 移住政策研究所ヨーロッパ所長

政策決定者が対応に奔走したにも関わらず、冬季を含め、現在も毎月数千人が地中海を渡ってヨーロッパを目指している。2年前と状況は変わっていない。中東や南アジアの破綻国家を逃れてくる人々には、ヨーロッパを目指す以外に長期的な代替策はないに等しい。とはいえ、ギリシャとイタリアにたどり着いた人々も、相変わらず悲惨な状況に置かれている。一時的な受入センターに数千人が押し込まれている。EUとトルコとの合意が破綻すれば、ギリシャは再びその対応能力を超える人の洪水に飲み込まれるだろう。フランス、ドイツでの重要な国政選挙が近づくにつれて、難民危機の捉え方は変化していく。今後、欧州統合の中核理念である人の移動の自由、そして難民保護制度に対するEUのコミットメントが試されることになる。・・・

切り崩されたリベラルな秩序
―― 格差を是正し、社会的連帯を再生するには

2017年5月号

ジェフ・D・コルガン ブラウン大学准教授(政治学)
ロバート・O・コヘイン プリンストン大学教授(国際関係論)

欧米におけるポピュリズムの台頭は、リベラルな民主社会の社会契約が破綻していることを物語っている。経済格差が人々を異なる生活環境で暮らす集団へ分裂させ、社会の連帯感そのものが損なわれている。中間層や労働者階級を犠牲にしてグローバル化の恩恵を富裕層が独占する状況が続けば、米経済が依存するグローバル・サプライチェーンや移民受入への政治的支援は今後さらに損なわれていくだろう。ポピュリズムは、タフさとナショナリズム、さらには移民排斥論を基盤とする、人受けのするはっきりとしたイデオロギーをもっている。開放的なリベラルな秩序の支持者たちがこれに対抗していくには、同様に明快で、一貫性のある代替イデオロギーを示し、労働者たちが切実に感じている問題を無視するのではなく、それに対応していく必要がある。

トランプから国際秩序を守るには
―― リベラルな国際主義と日独の役割

2017年5月号

G・ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授(国際関係論)

古代より近代まで、大国が作り上げた秩序が生まれては消えていった。秩序は外部勢力に粉砕されることでその役目を終えるものだ。自死を選ぶことはない。だが、ドナルド・トランプのあらゆる直感は、戦後の国際システムを支えてきた理念と相反するようだ。国内でもトランプはメディアを攻撃し、憲法と法の支配さえほとんど気に懸けていない。欧米の大衆も、リベラルな国際秩序のことを、豊かでパワフルな特権層のグローバルな活動の場と次第にみなすようになった。すでに権力ポストにある以上、トランプがそのアジェンダに取り組んでいくにつれて、リベラルな民主主義はさらに衰退していく。リベラルな国際秩序を存続させるには、この秩序をいまも支持する世界の指導者と有権者たちが、その試みを強化する必要があり、その多くは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている。・・・

日本のプラグマティズム外交の代償
―― 安倍外交の成果を問う

2017年5月号

トム・リ ポモナカレッジ助教授

フィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領のようなとかく論争のある指導者たちと進んで接触する安倍首相は、長期的な経済・安全保障上のアジェンダのためなら、自らの信条を傍らに置き、短期的に政治リスクの高い動きをとることも辞さないつもりのようだ。確かに、世界的にネオリベラルな規範が衰退するなか、反リベラル主義を掲げる指導者たちと関わりを持つことの政治リスクが少なくなっているのは事実だろう。しかし、こうした権威主義的指導者と付き合うことで、果たして結果を出せただろうか。さらに、民主国家としての日本の名声を危機にさらしてはいないだろうか。権威主義的な指導者たちと付き合うことに派生するリスクからみれば、安倍首相にとっては世界の民主主義のリーダーという日本の名声を守ることがよりプラグマティックな路線ではないだろうか。そうしない限り、いずれ彼は歴史の間違った側にいる自分を見出すことになるだろう。・・・

マクロンとル・ペン
―― 仏大統領選の行方

2017年5月号

マーチン・A・シャイン ニューヨーク大学名誉教授(政治学)

フランス大統領選挙の決選投票に進むと考えられているのは、これまで一度も政府に参加したことのない政党の候補たち、つまり、国民戦線のマリーヌ・ル・ペンと「前進!」のエマニュエル・マクロンだ。共和党公認のフランソワ・フィヨンは、公的資金乱用のスキャンダルによって、党内でも支持を失いつつある。現政権党の社会党候補のブノワ・アモンも、真剣に考慮すべき候補とは考えられていない。マリーヌ・ル・ペンが手堅い支持を得るなか、社会党や共和党の両方の政治家は公然とマクロンに歩み寄っていく可能性が高いが、社会党政権の元経済相であるマクロンに対しては、主要両党の議員たちが大きな不信感をもっているのも事実だ。マクロンがヨーロッパを支持しているのに対して、ル・ペンはEUからもNATOの統合軍事コマンドからも脱退した方が良いと考えている。だが、フランスにとって最大の問題は、どちらが選ばれるにせよ、政治を運営していく能力があるかどうか、だろう。・・・

専門的見解に対する不信と反発
―― 根拠無き意見への追随が民主主義を脅かす

2017年4月号 

トム・ニコルス  米海軍大学教授(国家安全保障)

専門家は、自分たちが民主社会に仕える身であることを常に忘れてはならない。しかし、民主社会の主人である市民も国の運営に関与し続けるのに必要な美徳・良識を身に付ける必要がある。専門知識をもたない市民は専門家なしでは事をなし得ないのだから、エリートへの憎しみを捨ててこの現実を受け入れる必要がある。同様に専門家も市民の声を相手にしないのではなく、それに耳を傾け、自分たちのアドバイスが常に取り入れられるとは限らないことを受け入れなければならない。現状では、システムを一つに束ねてきた専門家と市民の絆が危険なまでに揺るがされている。ある種の信頼と相互尊重を取り戻さない限り、世論における議論は、根拠なき意見への追随によって汚染されてしまう。そのような環境では、民主主義の終わりを含む、あらゆるものが現実となっても不思議はない。

依存人口比率と経済成長
―― 流れは中国からインド、アフリカへ

2017年4月号

サミ・J・カラム  Populyst.net エディター

「人口の配当」として知られる現象は経済に大きな影響を与える。この現象は合計特殊出生率が低下し、その後、女性が労働力に参加して人口に占める労働力の規模が拡大し(依存人口比率が低下することで)、経済成長が刺激されることを言う。本質的に、人口の配当が生じるのは、生産年齢人口が増大する一方で、依存人口比率が減少したときだ。実際、出生率の低下と労働力規模の拡大、そして依存人口比率の減少というトレンドが重なり合ったことで、1983年から2007年までのアメリカの経済ブーム、そして中国の経済ブームの多くを説明できる。問題は、先進国だけでなく、これまでグローバル経済を牽引してきた中国における人口動態上の追い風が、逆風へと変わりつつあることだ。人口動態トレンドからみれば、今後におけるグローバル経済のエンジンの役目を果たすのはインド、そしてサハラ砂漠以南のアフリカになるだろう。

経済一辺倒だった社会に、どうすれば社会的一体感や価値を取り戻せるだろうか。この数十年にわたって、中国では宗教的伝統が激しく弾圧され、そこにあるのはむき出しの資本主義だけだった。精神的な支えを求めるのは人間の普遍的な願望だ。中国人も世界の人々と同じように、自分の希望は政府や法律を超えた何かによって支えられていると信じている。現在の中国では、多くの人が社会に疑問を抱き、宗教色の希薄なこの国の世俗的な社会では見つからない答えを求めて宗教や信仰に目を向けている。彼らは、良い生活とはどのようなもので、物質的な豊かさを超える大切なものがあるのかどうかを知りたがっている。問題は、中国では歴史的に、宗教とはアイデンティティではなく、コミュニティに関わるものとみなされてきたこと、しかも、「多様な宗教を背景とするコミュニティ」が近代化の途上で破壊されてしまっていることだ。

トランプと日本
―― 潜在的紛争の火種としての認識ギャップ

2017年4月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・リポート エディター

2月の日米首脳会談は成功だったとみなされている。日本は、安全保障面の要望についてはほぼ満額回答を得たし、トランプは日本防衛へのコミットメントを再確認した。為替操作や安全保障のタダ乗りといった、かねてトランプが主張してきた対日批判に安倍首相がさらされることもなかった。共同声明でも為替問題への言及はなく、共同記者会見でもトランプは、為替を含むいかなる貿易問題への注文もつけなかった。ただし、共同声明の中には「二国間の枠組み」という曖昧な表現があり、この点で認識にずれがあれば、将来的に対立の火種となりかねない。しかも、トランプにとって厄介なのは、公約どおり貿易赤字を解消して、日本などの外国に奪われたと主張してきた雇用を「取り戻すこと」など、とうてい不可能なことだ。トランプ支持基盤の多くが反日感情を抱いていることも、今後の日米関係における不安材料だろう。・・・

Page Top