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政治・文化・社会に関する論文

引き裂かれたヨーロッパ
―― 多数派のアイデンティティ危機

2018年10月号

エリック・カウフマン ロンドン大学・バークベックカレッジ 教授(政治学)

ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

トランプ流外交の悪夢
―― 外交と「取引」の間

2018年10月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(アメリカ外交担当)

貿易問題、関税、イラン核合意、北朝鮮問題やパレスチナ和平へのアプローチ、そして中国やヨーロッパとの関係など、トランプ政権のこれまでの外交記録は、彼のアプローチが根本的に間違っていることを示している。同時にすべての人を批判しようとする彼の本能とは逆に、外交交渉を成功させるには、どの問題を交渉するかを選び、同盟関係を維持し、慎重に決定した優先課題の実現に向けて連帯を組織しなければならない。貿易問題をめぐって容赦なく攻撃している中国やヨーロッパから、イラン問題をめぐって支持を引き出すのは難しい。どうみてもトランプは、うまく交渉ができるタイプではない。基本的事実に習熟しておらず、何を重視するかについての一貫性がない。しかも、彼は合意形成を根本的に誤解している。

プーチンを育んだロシア的価値
―― ロシア文化に配慮した外交アプローチを

2018年9月号

マイケル・キメージ アメリカ・カトリック大学教授(歴史学)

プーチンがロシア社会を自分のおもう方向へ強制しているのか、それとも、社会がプーチンを育んでいるのか。ロシアは実態のない国、つまり、古代の神話を基礎に(実態を隠そうとする)見せかけの村(ポチョムキン村)であり、民衆とは国家によって意思を授けられるポストモダンの意伝子(ミーム)にすぎないとみなされることも多い。だが現実には、プーチンがロシア社会に価値を押しつけたのではなく、ロシア社会の価値がプーチンの対外行動を支えている。多くのロシア人は、欧米はロシアに対して攻撃的かつ偽善的で自分たちを見下すような態度をとっているとみている。当然、ロシアの政治家たちにとって、欧米の要求に屈すれば、国内で重大な代償を支払わされる。欧米を公然と無視するプーチンを支えているのは、実際には、ロシア社会の価値に他ならない。

色あせた対米投資の魅力
―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

2018年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

社会民主主義は死滅していない
―― 「小さな政府」と福祉国家の間

2018年9月号

レーン・ケンワーシー カリフォルニア大学サンディエゴ校 教授(社会学)

アメリカの社会民主的な制度は、デンマークやスウェーデンと同レベルには達していないが、ゆっくりとだが着実に進化して、福祉国家への道を歩んできた。(小さな政府を標榜する)共和党がホワイトハウスと議会をともに制した結果、その歩みが停止に追い込まれているとしても、アメリカにおける社会民主主義の未来が閉ざされたわけではない。米政府の構造と、社会保障制度への世論の支持が、現在および未来の共和党多数派が唱える「小さな政府」のビジョンに大きく立ちはだかることになるだろう。いずれ、現在の試練も社会民主主義への道のりにおける行き止まりではなく、一時的な遠回りだったことが理解されるはずだ。

外国人労働者政策と日本の信頼性
―― 労働力確保と移民国家の間

2018年9月号

ユンチェン・ティアン ジョンズ・ホプキンス大学  博士候補生(政治学)
エリン・アイラン・チャング ジョンズ・ホプキンス大学  准教授(東アジア政治)

人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

中台関係の新たな緊張
―― 北京が強硬策をとる理由

2018年9月号

マイケル・マッザ アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート 客員フェロー(外交・国防政策)

この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

中国の未来と韓国の現在
―― なぜ政治的自由化が必然なのか

2018年9月号

ハーム・チャイボン 韓国・峨山政策研究院 会長

中国は政治的自由化をせずに、経済成長を持続し、社会を満足させられるだろうか。韓国の経験はそうはならないことを示している。戦後における韓国経済の成長を上から主導した朴正煕は、輸出主導型成長モデルをとる一方、欧米の価値が伝統的社会に入り込むのを阻止しようと孝行、忠誠、権威の尊重を重視する儒教復興策をとった。ここまでは完全に中国の今と重なり合う。だが、上からの産業政策ゆえに、韓国は1970年代末までに過剰生産能力を抱え込むようになり、企業倒産や労働争議が続き、大規模なストが起きた。結局、労働者と学生が連帯した社会騒乱のなかで、朴は側近の手で暗殺され、その後、韓国は民主化された。朴の韓国流民主主義は独裁主義だったし、「中国的特質をもつ社会主義」も同様だ。朴が最終的に直面したように、経済を自由化すれば、権威主義の指導者でさえ押さえ込めないような流れが作り出される。

「新冷戦」では現状を説明できない
―― 多極化と大国間競争の時代

2018年5月号

オッド・アルネ・ウェスタッド ハーバード大学教授(米・アジア関係)

今日の国際情勢は概して先が見通せず、課題も多い。しかし、21世紀の緊張した大国間関係を新たな冷戦と呼ぶことで、その本質は明らかになるよりも、むしろわかりにくくなる。冷戦の名残はまだ残されているが、国際政治を形作る要因と行動原理はすでに変化している。今日の国際政治に何らかの流れがあるとすれば、それは多極化だろう。アメリカの影響力は次第に低下し、一方で、中国の影響力が高まっている。ヨーロッパは停滞し、ロシアは、現在の秩序の周辺に追いやられたことを根にもつハゲタカと化している。そこにトレンドがあるとすれば、それは、いまやあらゆる大国が、イデオロギーではなく、自国のアイデンティティーと利益を重視する路線をとっていることだろう。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

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