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政治・文化・社会に関する論文

社会民主主義は死滅していない
―― 「小さな政府」と福祉国家の間

2018年9月号

レーン・ケンワーシー カリフォルニア大学サンディエゴ校 教授(社会学)

アメリカの社会民主的な制度は、デンマークやスウェーデンと同レベルには達していないが、ゆっくりとだが着実に進化して、福祉国家への道を歩んできた。(小さな政府を標榜する)共和党がホワイトハウスと議会をともに制した結果、その歩みが停止に追い込まれているとしても、アメリカにおける社会民主主義の未来が閉ざされたわけではない。米政府の構造と、社会保障制度への世論の支持が、現在および未来の共和党多数派が唱える「小さな政府」のビジョンに大きく立ちはだかることになるだろう。いずれ、現在の試練も社会民主主義への道のりにおける行き止まりではなく、一時的な遠回りだったことが理解されるはずだ。

外国人労働者政策と日本の信頼性
―― 労働力確保と移民国家の間

2018年9月号

ユンチェン・ティアン ジョンズ・ホプキンス大学  博士候補生(政治学)
エリン・アイラン・チャング ジョンズ・ホプキンス大学  准教授(東アジア政治)

人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

中台関係の新たな緊張
―― 北京が強硬策をとる理由

2018年9月号

マイケル・マッザ アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート 客員フェロー(外交・国防政策)

この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

中国の未来と韓国の現在
―― なぜ政治的自由化が必然なのか

2018年9月号

ハーム・チャイボン 韓国・峨山政策研究院 会長

中国は政治的自由化をせずに、経済成長を持続し、社会を満足させられるだろうか。韓国の経験はそうはならないことを示している。戦後における韓国経済の成長を上から主導した朴正煕は、輸出主導型成長モデルをとる一方、欧米の価値が伝統的社会に入り込むのを阻止しようと孝行、忠誠、権威の尊重を重視する儒教復興策をとった。ここまでは完全に中国の今と重なり合う。だが、上からの産業政策ゆえに、韓国は1970年代末までに過剰生産能力を抱え込むようになり、企業倒産や労働争議が続き、大規模なストが起きた。結局、労働者と学生が連帯した社会騒乱のなかで、朴は側近の手で暗殺され、その後、韓国は民主化された。朴の韓国流民主主義は独裁主義だったし、「中国的特質をもつ社会主義」も同様だ。朴が最終的に直面したように、経済を自由化すれば、権威主義の指導者でさえ押さえ込めないような流れが作り出される。

「新冷戦」では現状を説明できない
―― 多極化と大国間競争の時代

2018年5月号

オッド・アルネ・ウェスタッド ハーバード大学教授(米・アジア関係)

今日の国際情勢は概して先が見通せず、課題も多い。しかし、21世紀の緊張した大国間関係を新たな冷戦と呼ぶことで、その本質は明らかになるよりも、むしろわかりにくくなる。冷戦の名残はまだ残されているが、国際政治を形作る要因と行動原理はすでに変化している。今日の国際政治に何らかの流れがあるとすれば、それは多極化だろう。アメリカの影響力は次第に低下し、一方で、中国の影響力が高まっている。ヨーロッパは停滞し、ロシアは、現在の秩序の周辺に追いやられたことを根にもつハゲタカと化している。そこにトレンドがあるとすれば、それは、いまやあらゆる大国が、イデオロギーではなく、自国のアイデンティティーと利益を重視する路線をとっていることだろう。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

分離独立運動の未来
―― なぜ暴力路線へ向かう危険が高いか

2018年8月号

タニシャ・M・ファザル ミネソタ大学准教授(政治学)

分離独立運動が直面するジレンマは深い。国家の仲間入りを果たしたい以上、分離独立運動も主権概念を尊重している。だがそのためには、分離独立しようとする国の主権を犯すことになる。しかも、非暴力主義が独立して国家をもつための最善の道なのかどうか、はっきりしなくなってきている。国際社会と国際機関が、国家として機能できそうなクルディスタンやカタルーニャの分離独立の承認を拒絶し続ければ、これらの運動は、これまでの自制をかなぐり捨てて、いずれ、暴力路線や一方的独立宣言に踏み切るかもしれない。分離独立勢力が「(国際社会が求めるルールを守って目的の実現を目指しても、ほとんど何も得られない」と判断すれば、その帰結は忌まわしいものになる。

中国モデルとは何か
―― 権威主義による繁栄という幻想

2018年8月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

途上国は「リベラルな民主主義」よりも「中国モデル」に魅力を感じ始め、習近平自ら、「他の諸国は人類が直面する問題への対策として、中国のやり方に学ぶべきだろう」と発言している。当然、中国モデルが注目を集めているが、それがどのようなものかという質問への答は出ていない。その経済的成功が何によって実現したかも定かではない。現実には、鄧小平期の北京が、官僚制度の改革を通じて、地方の下級官僚たちが、現地の資源を用いて経済開発を急速に進めるのに適した環境を提供したことが、中国モデルの基盤を提供している。だが、こうした特質は民主国家にとっては、おなじみのものだ。懸念すべきは、中国モデルが欧米や途上世界で広く誤解されていること、そして中国のエリートたちでさえ、中国モデルを誤解していることだろう。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

多様性を受け入れる秩序へ
―― リベラルな国際秩序という幻

2018年8月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

戦後のアメリカの世界関与を促したのは、自由を世界に拡大したい、あるいは国際秩序を構築したいという思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られてのことだった。民主的な統治の価値を信じる現在のアメリカ人にとっての最大の課題も、まさに、国内で機能する民主主義を再建することに他ならない。必要なのは、アメリカは自らがイメージする通りに戦後世界を形作ったとする空想上の過去に戻ることではない。幸い、国内の民主主義を再建するために、中ロその他の国の人々にアメリカの自由主義思想を受け入れてもらう必要はないし、他国の政治制度を民主体制に変える必要もない。むしろ、1963年にケネディが語ったように、自由主義であれ、非自由主義であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないか。

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