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政治・文化・社会に関する論文

米外交の再生に向けて
―― 21世紀の課題に備えるには

2019年5月号

ウィリアム・バーンズ 元米国務副長官

アメリカの外交インフラのなかで混乱が生じているし、これが何を引き起こすかはほとんど検証されていない。全般的に捉えると、トランプのアプローチはたんなる衝動ではなく、ホッブス的な世界観に基づいており、戦略には程遠い。この2年で、トランプ政権はアメリカの影響力を低下させ、その理念の力を空洞化させたばかりか、アメリカの世界における役割についての国内の分断をさらに深刻にした。最近における(トランプによる)後方撹乱は言うまでもなく、米外交をここ数十年苦しめてきた予算不足、過剰展開、そして度重なるダメージを覆すには1世代はかかる。求められているのは、残存するアメリカの支配的優位という歴史的な機会を利用して、新しい現実を反映するように国際秩序を刷新していくことだ。そのためには、外交という失われた資源を再生し、取り戻す必要がある。

今回ばかりは違う
―― 米外交の復活はあり得ない

2019年5月号

ダニエル・W・ドレズナー フレッチャー法律外交大学院 教授(国際政治)

政治的二極化が常態化するにつれて、米議員たちは外交政策のことを次の選挙のためのオモチャとしかみなさなくなり、外交エリートたちは、大統領のことを部屋に残された「最後の大人」とみなし、大統領の外交権限肥大化を問題にしなかった。しかし、感情的で幼児並みの知性レベルしか示さない人物が大統領に就任する事態への準備はできていなかった。アメリカというジェンガータワーは辛うじて崩れずに建っているが、ブロックをあといくつか抜けば、ぐらつきは肉眼でもはっきりと分かるようになる。次期大統領が表面的取り繕いを超えた抜本的修復策をとるべき理由はここにある。指導者が正しいことを為すための政治的意思を示すように求めるべきタイミングでもある。しかし、今回ばかりは、本当に終わりかもしれない。

対中強硬策に転じたヨーロッパ
―― アメリカとの対中共闘路線は実現するか

2019年5月号

アンドリュー・スモール 米ジャーマン・マーシャル・ファンド  シニアフェロー(大西洋関係)

かつて中国に強硬路線をとることを選択肢から外していたヨーロッパも、いまや、より対決的な対中路線をとり始めている。習近平体制の権威主義体制の強化、ヨーロッパへの政治的影響力を拡大しようとする北京の試みなど、ヨーロッパの政治、安全保障上の懸念がこの変化の背景にある。しかし、最大の懸念は経済領域にあるようだ。「いずれ中国も経済システムを改革し、その市場へのより大きなアクセスを認めるようになる」とこれまでのように期待できなくなった。しかも、ヨーロッパがその経済的未来にとって重要と考える産業部門で、国が支援し、補助金を提供している中国の国有企業のプレゼンスが高まっている。これが対中警戒論を浮上させている。

新「ドイツ問題」とヨーロッパの分裂
―― 旧ドイツ問題を封じ込めた秩序の解体

2019年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

アメリカの安全保障コミットメント、国際的な自由貿易体制、民主化への流れ、ナショナリズムの封じ込めというリベラルな戦後秩序の四つの要因によって、ドイツ問題は地中深くに葬り去られた。問題は、ドイツ問題を封じ込めてきたこれら戦後秩序の要因が、いまやすべて曖昧化していることだ。ヨーロッパ全域でナショナリズムが台頭し、民主主義はあらゆる地域で逆風にさらされている。国際的な自由貿易体制もトランプ政権に攻撃され、アメリカのヨーロッパへの安全保障コミットメントもいまや疑問視されている。ヨーロッパそしてドイツの歴史からみて、このように変化する環境が、ドイツ人を含むヨーロッパ人の行動パターンを変えないと言い切れるだろうか。アメリカと世界が現在のコースを歩み続ければ、穏やかな時代があとどれくらい持ち堪えられるのかについて、考えざるを得なくなるはずだ。

ブレクジットプロセスの破綻
―― 北アイルランドというジレンマ

2019年5月号

ブレンダン・オリリー ペンシルベニア大学教授(政治学)

2017年、欧州連合(EU)と英政府は、北アイルランドがEUの関税同盟と単一市場に残る一方で、イギリスが関税同盟と単一市場から離脱できるようなルールを考案した。悪くない妥協だった。EU残留を望む北アイルランドの民意も尊重される。だが、閣外協力でメイ政権を支えている、北アイルランドの民主統一党(DUP)がこの妥協に難色を示した。このために、北アイルランドだけでなく、イギリスもEUとの関税同盟に留まるという方策「バックストップ」が持ち出され、これが、現在の窮地につながっている。「バックストップ」が適用されれば、イギリス全体がEUとの関税同盟に留まらざるを得なくなり、アメリカなどとの自由貿易協定を締結できなくなる。一方、「バックストップ」を回避する方法の一つは「合意なき離脱」でしかない。・・・

異質な他者に如何に接するか
―― 近くと遠くをともに重視する

2019年5月号

クワメ・アンソニー・アッピア ニューヨーク大学教授(哲学・法律)

「今日、権力ポストにある人の多くは、近くで暮らす人々、・・・道を行く人よりも国際エリートたちとより多くを共有している。だが、自分が世界市民であると認識すれば、いかなる国の市民でもなくなる」。このテリーザ・メイ英首相の発言は間違っている。「われわれの社会を機能させている絆と責務」は、グローバルレベルでも、ローカルレベルでも存在する。外国人との交流は、相手がわれわれと違うだけに、新しい可能性をもたらしてくれるし、われわれも彼らに新たな機会を与えることになる。グローバル市民というメタファーを理解するには、「見知らぬ人への懸念と好奇心」をともにもつことが重要だ。それは何かを共有することだ。与えるものを何ももっていなければ、何かを他者と共有することもできない。

動き出したクルド統一国家への流れ
―― クルドの覚醒と中東の未来

2019年4月号

アンリ・J・バーキー リーハイ大学教授(国際関係論)

これまでクルド人は中東各国で分かれて暮らし、しかも内部対立を抱えていた。だが、シリア紛争とイスラム国勢力が作り出した混乱と騒乱のなかで国境を越えた連帯を形成したクルド人は、いまやイラク、トルコ、シリアで明確な政治的プレゼンスを確立し、ヨーロッパでも力強いディアスポラ・コミュニティが誕生している。クルド語によるソーシャルメディアと文化作品も登場している。これらの流れが重なり合うことで、汎クルドのアイデンティティが強化されている。もちろん、イラン、トルコというクルディスタン統一への障害は存在する。しかし最近のイベントによって、クルド人国家の建設プロセスはすでに始まっている。統一された、単一の独立したクルディスタンが存在しなくても、クルド人の覚醒が始まっている。・・・

さようなら、国際主義のアメリカ
―― トランプ時代の歴史的ルーツ

2019年4月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学教授(戦略研究)

トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

現実主義志向の国際システムを
―― 民主国家の拡大志向を抑えよ

2019年4月号

ジェニファー・リンド ダートマスカレッジ 准教授(政治学)
ウィリアム・C・ウォールフォース ダートマスカレッジ 教授(政治学)

世界が直面する課題を「現状の維持を試みる自由主義国家」と「不満を募らせ、秩序を覆そうとする(リビジョニストの)権威主義国家」間の抗争として捉えるのは間違っている。権威主義国家のリビジョニズムとは異なるが、自由主義国家も、民主主義を輸出し、民主的空間の幅と奥行きを拡大するリビジョニスト路線をとってきた。むしろ、アメリカとパートナー諸国は民主主義の拡大路線を止め、これまでの成果を固めるために現実を見据えた保守路線をとるべきだろう。非自由主義的大国との長期的な競争的共存の時代に備えるには、民主空間の拡大策からは手を引き、既存の同盟関係を強化する必要がある。リベラリズムを基盤とする秩序を守るには、保守主義を取り入れなければならない。

解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか

2019年4月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策)
ジェレミー・シャピロ 欧州外交問題評議会 リサーチディレクター

トランプ政権の最初の2年間にわたって、ヨーロッパの指導者たちは「虐げられた配偶者」のような状態に追い込まれた。酷い扱いを受けながらも、離婚を恐れ、状況は改善すると見込みのない期待に思いを託してきた。しかし、離婚は避けられなかった。トランプ政権にとって、大西洋関係の統合とは、ヨーロッパがアメリカの言う通りに動くことを意味するに過ぎなかった。すでに同盟は死滅している。今後、アメリカが、ヨーロッパのノスタルジックな幻想のなかに存在する利他的なパートナーになることはあり得ない。新しい大西洋関係には、同盟の価値を認識する米大統領と、域内の分裂を克服し、米欧の平等なパートナーシップにコミットするヨーロッパ人が必要になる。

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