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政治・文化・社会に関する論文

封じ込めではなく、米中の共存を目指せ
―― 競争と協調のバランスを

2019年11月号

カート・M・キャンベル  元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)
ジェイク・サリバン カーネギー国際平和財団非常勤シニアフェロー

アメリカの対中エンゲージメント路線は、すでに競争戦略に置き換えられている。だがその目的が曖昧なままだ。エンゲージメントでは不可能だったが、競争ならば中国を変えられる。つまり、全面降伏あるいは崩壊をもたらせると、かつてと似たような見込み違いを繰り返す恐れがある。それだけに、米中が危険なエスカレーションの連鎖に陥るのを防ぐ一連の条件を確立して、安定した競争関係の構築を目指す必要がある。封じ込めも、対中グランドバーゲンも現実的な処方箋ではない。一方、「共存」はアメリカの国益を守り、避けようのない緊張が完全な対立に発展するのを防ぐ上では最善の選択肢だ。ワシントンは、軍事、経済、政治、グローバルガバナンスの4領域において、北京との好ましい共存のための条件を特定する必要がある。

日本の核ジレンマと国際環境
―― 能力も資源もあるが・・・

2019年11月号

マーク・フィッツパトリック 英国際戦略研究所 アソシエートフェロー

反核感情の強い日本の科学者コミュニティが(政府による)核開発の要請に応じるとすれば、安全保障環境が大きく悪化した場合に限られる。そして、日本の政策決定者たちが核武装を真剣に考えるとすれば、韓国が核武装するか、ピョンヤンが現在の核の兵器庫を温存したままで朝鮮半島に統一国家が誕生した場合だろう。一方で、日本が核開発に乗り出せば、北京は軍備増強路線を強化し、北朝鮮による対日先制攻撃リスクを高めるかもしれない。韓国が核開発に乗り出し、地域的な緊張が大きく高まる恐れもある。核開発への東京の姿勢は、歴史的にも、アメリカによる核抑止の信頼性をどうみるかで左右されてきた。少なくとも、トランプがそのクレディビリティを大いに失墜させているのは間違いない。

変貌したメディアと民主主義
―― ネットと商業主義と真のジャーナリズム

2019年10月号

ジェイコブ・ワイズバーグ スレートグループ 前エディター

2008年から2017年までに、新聞ジャーナリストの数はほぼ半分に落ち込んだ。報道機関に残れた者も、「社会的地位と信頼性が失われた」と感じている。2018年の調査によれば、アメリカ人の69%が、2008年以降の10年間でニュースメディアへの信頼を失っている。しかも、ジャーナリストたちは、フォックス・ニュースや米大統領の言うことを信じ、ソーシャルメディアで挑発的なメッセージを流す人々の攻撃にさらされている。世界的にみても前向きなトレンドはほとんど見当たらない。それが何処であれ、未来の報道については同じ疑問がもたれている。それは、「民主社会を機能させるために必要なジャーナリズムをどうすれば再建できるか」という問いに他ならない。

ヨーロッパが直面する中国の脅威
―― 欧州に対抗策はあるか

2019年10月号

ジュリアン・スミス 前米副大統領副補佐官(国家安全保障担当) トーリー・タウシッグ ブルッキング研究所 米欧センター フェロー(非常勤)

EUは、中国を「代替統治モデルを促進するシステミックなライバル」とみなし、域内の産業基盤を強化することを求め、中国の投資に対するスクリーニングを強化している。問題は、ベルリン、パリ、ブリュッセルで対中政策上の戦略シフトが起きているのに対して、小国の指導者たちが中国との関係強化によって得られる利益だけを依然として重視しているために、ヨーロッパ内に分裂が存在することだ。しかも、対中国の米欧協調も容易ではない環境にある。ワシントンのような対中強硬策をとる必要はないが、ヨーロッパにおける政治・経済領域での影響力を拡大しようとする中国の試みを受け入れるべきではない。リベラルな秩序の開放的で民主的な体質を中国の影響から守らなければならない。・・・

日韓対立と中国の立場
―― 東アジア秩序の流動化の始まり?

2019年10月号

ボニー・S・グレーサー  戦略国際問題研究所 ディレクター(中国パワープロジェクト) オリアナ・スカイラー・マストロ   アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所 レジデントスカラー

日韓関係の亀裂を利用しようとする中国の最終目的が何かは明確ではない。韓国にアメリカとの同盟関係を破棄するように公然と促してはいないし、第二次世界大戦期の残虐行為にペナルティを課す対日キャンペーンを展開するようにけしかけてもいない。むしろ、日韓関係の緊張をアメリカのリーダーシップの衰退として認識させようとしている。アジアにおける米同盟システムが十分に傷つくほどに緊張が高まることを望みつつも、日韓関係が完全に破たんしてしまうほど悪化することは望んでいない。とはいえ、北京は、近隣諸国が中国のことを「アメリカよりも信頼できるパートナー」と位置づけることを望んでいる。もちろん、その結果、東アジアの優先順位とパワーが大きく変化すれば、アメリカの地域的立場は形骸化し、アジアの戦後秩序は再編へ向かうことになる。

ドゥテルテの強権主義の秘密
―― ダバオモデルとフィリピンの社会契約

2019年10月号

シーラ・S・コロネル コロンビア大学 ジャーナリズム・スクール 教授

「面倒はみる。だが質問はするな」。これが、ドゥテルテがかつてはダバオ住民に、現在はフィリピン民衆に示している社会契約だ。彼はドラッグユーザーや犯罪者対策のために「殺人部隊」を使用していると言われる。法の支配と人権は明らかに無視されている。だが、その乱暴な権力行使にもかかわらず、ドゥテルテは民衆に支持されている。任期6年の半分終えた時点で、支持率は80%近い。彼の中核的支持基盤は中間層で、これには、マニラその他の都市のコールセンターで働く人々、世界各地で働くフィリピン人の子守、看護婦、船舶乗組員、建設労働者も含まれる。ドゥテルテの支持基盤はこうした勤勉で向上心をもつ人々で構成されている。この構図のなかで、彼は麻薬との戦争、そして貧困層への戦争を試みる強権者として君臨する一方、施策をミクロレベルでとらえる「フィリピン市長」として振る舞っている。・・・

習近平と中国共産党
―― 党による中国支配の模索

2019年10月号

リチャード・マクレガー  豪ローリー・インスティチュート シニアフェロー

胡錦濤の後継者として習を指名した2007年当時、共産党幹部たちも「自分たちが何をしたのか分かっていなかった」ようだ。国家を激しくかき回すであろう強権者を、彼らが意図的に次期指導者に選んだとは考えられない。「妥協の産物だった候補者が妥協を許さぬ指導者となってしまった」というのが真実だろう。最高指導者となって以降の最初の200日間で、彼は驚くべきペースで変化をもたらした。共産党への批判も封じ込めた。対外的には「一帯一路」を発表し、台湾問題を「次世代に託すわけにはいかない政治課題」と呼んだ。しかも、2017年に彼は国家主席の任期ルールを撤廃し、実質的に終身指導者への道を開いた。毛沢東でさえも政治的ライバルがいたが、習は一時的ながらもライバルがいない状況を作り出している。だが、中国経済が停滞すれば、どうなるだろうか。2022年後半の次期党大会前に、習による行き過ぎた権力集中は彼自身を悩ませることになるはずだ。・・・

プーチンとロシア帝国
―― なぜ帝国的独裁者を目指すのか

2019年10月号

スーザン・B・グラッサー ニューヨーカー誌 スタッフライター

青年期のプーチンが信じたのは、学校で強制されるマルクス・レーニンのイデオロギーではなかった。それは、英雄的な超大国のイメージ、廃れてはいても依然として野心を捨てていないホームタウン、サンクトペテルブルクの帝国的な壮大さだった。力こそが彼の信じるドグマであり、幼少期に暗記させられた「労働者の英雄主義」よりも、皇帝たちのモットーだったロシアの「正統性、独裁制、民族性」の方が、プーチンにはなじみがよかった。若手のKGBエージェントだった当時から、そうした帝国思考をもっていたとすれば、その多くが「永続的な不安」によって規定されている長期支配のパラドックスに直面しているいまや、彼の帝国への思いと志向はますます大きくなっているはずだ。

人口減少と資本主義の終焉
―― われわれの未来をどうとらえるか

2019年10月号

ザチャリー・カラベル 作家、コラムニスト、投資家

ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

中国共産党とフェミニスト
―― 国と社会と女性運動

2019年9月号

スーザン・グリーンハル ハーバード大学研究教授(中国研究)
王曦影 北京師範大学教授

中国の若いフェミニストたちは、家庭内暴力を取り締まる法制定を求め、メディアと文化における女性に対するハラスメント、攻撃、蔑視を批判し、大学入学・雇用・職場おける性差別に対する不服を唱えてきた。だが、この国では、許されることと許されないことの境目は常に動いている。新たな人物を逮捕するたびに、党と国家はこのみえない線を動かしている。フェミニスト運動を展開した5人の中国人女性、「フェミニスト・ファイブ」は、自分たちの活動が境界線の安全な側にあると思っていたが、治安当局はそれが許容できない側にあると判断した。こうして「フェミニズム」という言葉は軽蔑語にさえなった。中国のマスメディアは、フェミニストを社会でもっとも魅力のない女性として描き、フェミニストの書いたものはネット上で日常的に攻撃され、検閲されている。現在の中国は、毛沢東期のスローガン、「女性は天の半分を支えている」からは程遠い状況にある。

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