1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ドナルド・トランプに関する論文

トランプと地政学
―― 変化し始めた同盟国と敵対国の立場

2024年2月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授

バイデンと彼の外交チームは厄介な状況に直面している。交渉相手国が、あらゆる問題をめぐって、1年後にはまったく異なる米政府を相手にしている可能性を考慮した上で、ワシントンの意向を判断し始めているからだ。ロシアを含む敵対国は、いずれ、ワシントンとよりよい条件で交渉できるようになるという期待から、現状での判断を先送りしている。一方、ヨーロッパ諸国などは、トランプが大統領に返り咲けば、より劣悪な選択肢に直面する可能性が高いと考え、それに応じた対応を進めている。実際、ウクライナに送る戦車や砲弾の数をめぐっても、「トランプが当選すれば、自国の防衛のためにそれらが必要になるのではないか」と考え込むヨーロッパの指導者もいる。・・・

共和党外交の再建はできるか
―― アメリカファーストと国際主義の相克

2024年2月号

ジェラルド・F・セイブ 戦略国際問題研究センター シニアメンター

共和党の政治家たちが外交政策をめぐって火花をちらすなかで、われわれが注目すべきは、「レーガン時代の国際主義」と「トランプ時代のアメリカファースト」の衝動が一貫した戦略と世界ビジョンへまとめられていくかどうかだ。共和党系外交専門家の多くは、二つの立場の間に共通基盤は存在するし、政治家たちの発言ほどには、共和党支持層は新孤立主義に傾倒していないとみている。そうした統合を実現するには、中国や台湾、貿易、同盟国の責任分担を含む一連の中核アジェンダについての党としてのコンセンサスが必要になる。もちろん、2024年に誰が指名候補になるかで流れは大きく左右される。例えば、共和党の予備選でトランプではなく、国際派のヘイリーが勝利すれば、党にとって大きく異なる道が開けてくる。・・・

トランプ現象とアメリカの政治文化
―― ヘンリー・フォードとトランプ

2024年1月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

トランプ現象は、アメリカの歴史・文化における三つの潮流が合流したものとして理解するのが適切だろう。反移民の社会文化やポピュリストの伝統、そして財界の裕福なパフォーマーを待望する伝統だ。つまり、トランプの魅力も、彼の出馬が国内外で引き起こす恐怖も、アメリカの政治文化の奥底に流れる衝動から生じている。誰もが名前を知っている金持ちが、民衆の多くが恐れるか不信感をもつ人々をバッシングし、国のあらゆる問題を解決するという漠然とした約束をする。こうしたトランプの行動は、彼のファンや批判者の多くが考えるほど目新しいものではない。逆に言えば、トランプが表舞台を去った後も、大げさな演説の才があり、守るべき政治的実績のない、裕福なパフォーマーが同じような役目を担うことになるのかもしれない。

欧米はウクライナを見捨てるのか?
―― キーウは欧米の心変わりに備えよ

2023年10月号

リアナ・フィックス 米外交問題評議会 フェロー(ヨーロッパ担当)
マイケル・キマージ 米カトリック大学 歴史学部 教授

アメリカではウクライナ支援が政治論争の対象とされ、「外国のパートナーや同盟国への支援にどれだけ配慮し、そのためにどの程度支出すべきか」という歴史的論争の最新のテーマに据えられている。もちろん、トランプが大統領に再選されれば、ウクライナにとっては壊滅的な事態になるだろう。経済的圧力にさらされているヨーロッパでも、勝利への楽観論が揺らぎ始め、ウクライナで展開される大規模で全面的な戦争に対する不安が高まっている。だが、ロシアを封じ込め、ウクライナの主権を守ることは、欧米の第一の利益であること、そして、欧米の無関心と焦りが、この戦争におけるプーチンの最終兵器であることを忘れてはならない。

トランプ2・0の時代
―― 同盟国に恐怖を、ライバルに希望を

2023年10月号

ダニエル・W・ドレズナー タフツ大学 フレッチャー法律外交大学院教授(国際政治学)

アメリカの同盟諸国は、ドナルド・トランプが2020年後半のレームダック状況のなかで、世界から米軍を撤退させることを計画していたことを忘れてはならない。彼が敗北することが明らかにならない限り、そして実際にそうなるまでは、トランプがもたらす脅威を軽くみるのは間違っている。ロシアや中国の政府高官は、トランプの再選を望んでいる。ロシアにとっては、トランプの再登板は、ウクライナへの欧米の支援が低下することを意味し、中国にとっては、北京を懸念する日本や韓国といった国々とアメリカの同盟関係に綻びが生じることを意味するからだ。・・・

中東における宗派対立の再燃
―― カギを握るイラン核合意の再建

2022年3月号

ヴァリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

中ロが中東への関心を高め、イランが頑迷な路線を崩さず、スンニ派アラブ諸国がアメリカの安全保障コミットメントをかつてなく疑いだしたタイミングで、ワシントンは中東における活動を手控えようとしている。シーア派イランの優位を覆そうとするスンニ派の動きが地域的に広がりをみせている。しかも、混乱のなかで各国の社会契約が破綻し、国が機能不全に陥るなか、過激派の動きが勢いづいている。より安定した地域秩序への道を切り開かない限り、アメリカは遠ざかろうと試みても、結局、中東の地域紛争に引きずり込まれるだろう。大きな鍵を握るのが、イランとの核合意を再建できるかどうかだ。交渉が決裂すれば、イランとアメリカは危険な対立の道を再び歩み始め、アラブ世界を巻き込んで、宗派対立もさらに激化することになるだろう。

トライバリズムを克服するには
―― 寸断されたアメリカのパワー

2021年4月号

ルーベン・E・ブリガティー サウス大学副総長

先の米大統領選は、アメリカ社会の深い亀裂を露わにし、警戒すべきレベルのトライバリズム(政治とアイデンティティをベースとする集団主義)政治が存在することを明らかにした。それは、まるで異なる集団間の抗争のようだった。有権者は政策への関心ではなく、アイデンティティに基づく党派主義の立場をとった。民族的・イデオロギー的アイデンティティが政党を蝕んでいる。アメリカの外交官や専門家たちが、現在のアメリカのような現象を外国に見出した場合、問題を解決するための外交的介入を訴えるかもしれない。重要なのは、違いを取り除くことではない。違いを管理する方法を学ぶことだ。

なぜ世界はパンデミックに敗れたのか
―― 国際協調を阻んだナショナリズムと保護主義

2021年3月号

ヤンゾン・ファン  米外交問題評議会シニアフェロー (グローバルヘルス担当)

「協調性のない、混沌とした国中心の反応」。これが、世界のCOVID19パンデミック対策の特徴だった。必要とされる「グローバルな危機へのグローバルな対応」からはかけ離れていた。国際協調体制がうまく築かれなかったことについて、世界保健機関(WHO)を非難する分析者もいる。しかし、最大の理由は、米中対立によって対応が政治化され、ナショナリスティックで保護主義的な対応がとられたことにある。米中間の緊張は、アウトブレイクに関する調査だけでなく、ウイルスの拡散を封じ込めるための協調行動をまとめるWHOの能力も抑え込んでしまった。必要なのは、パンデミックコントロールを、あらゆる国が貢献すべき「グローバルな公共財」として位置づけることだろう。

米外交再創造のとき
―― 路線修復では新環境に対応できない

2021年3月号

ジェシカ・T・マシューズ  カーネギー国際平和財団前会長

世界もアメリカもあまりにも大きく変わってしまった以上、トランプ前の時代に戻るのはもはや不可能だ。長年の同盟関係に疑問を投げかけ、権威主義的な支配者にエンゲージし、国際組織や条約から離脱するに及び、アメリカ外交の基盤は大きく切り裂かれてしまった。しかも、社会が二極化し、上下院ともほぼ政治的に二分されている。ほとんどの政策変更が政治論争化するのは避けられない。そして、グローバル世界のパワーは分散し、アメリカの国際的名声は失墜している。バイデンが直面するのはとかく慎重で、ときにはアメリカに懐疑的な姿勢を示す外国のパートナーたちだ。ワシントンが自らの目標を達成したければ、米社会の傷を癒すとともに、世界を説得する力を取り戻さなければならない。

カルト集団とポスト真実の政治
―― アメリカの政治的衰退

2021年3月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学 「民主主義・開発・法の支配」センター所長

ソーシャルメディアは民主的議論の前提となる共通の事実認識さえ消滅させてしまった。実際、共和党員の77%が2020年の米大統領選挙で大きな不正があったと考え、4分の1近くが、Qアノンが主張する異様な陰謀論を信じている。しかも、民主党、共和党の政策の違いをめぐる対立が、文化的アイデンティティをめぐる分断線として硬直化している。そして、共和党はもはやアイデアや政策に基づく政党ではなく、カルト集団のような存在と化してしまった。大きな不確実性は、今後、共和党内で何が起きるかにある。共和党の主流派が権限を再確立するのか、それともトランプが基盤を維持するのか。

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