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年度別傑作選に関する論文

ロボットが人の日常を変える
―― パソコンからパーソナルロボットへ

2015年7月号

ダニエラ・ラス マサチューセッツ工科大学コンピュータサイエンス&人工知能ラボディレクター

ロボットが日常化した世界では、人は目を覚ますと、自分専用のお使いロボットにスーパーマーケットで朝食用のフルーツとミルクを買ってくるように命令するかもしれない。ロボットはスーパーマーケットで、自分で買い物をしている人間に出会うかもしれないが、彼らもスーパーまで自律走行車を利用し、店内でも欲しいモノがある場所に連れて行き、商品の新鮮さ、生産地、栄養価値の情報を提供してくれる自動カートを利用している。・・・ロボット工学の目的は、ロボットが人間を助け、人間と協力する方法を見つけることにある。ロボットが人間の生活の一部となり、現在のコンピュータやスマートフォンのように一般的、日常的なものになればどうなるだろうか。現在の研究課題はロボットがモノをどのように扱うか、いかに推定するか、環境をどのように知覚するか、そしてロボット同士で、そして人間といかに協力するかを進化させていくことにある。

このままでは中国経済は債務に押し潰される
―― 地方政府と国有企業の巨大債務

2015年5月号

シブ・チェン イェール大学教授(金融論)

これまで中国政府は、主要銀行の不良債権が経済に悪影響を与えないようにベイルアウト(救済融資)や簿外債務化を試み、一方、地方の銀行については、地方政府が調停する「合意」で債務危機を抑え込んできた。だが、もっともリスクが高いのは地方政府そして国有企業が抱え込んでいる膨大な債務だ。不動産市場が停滞するにつれて、地方政府がデフォルトを避けるために土地をツールとして債務不履行を先送りすることもできなくなる。経済成長が鈍化している以上、国有企業がこれまでのように債務まみれでオペレーションを続けるわけにもいかない。しかも、債務の返済に苦しむ借り手は今後ますます増えていく。中国が債務問題を克服できなければ、今後の道のりは2008年当時以上に険しいものになり、中国経済に壊滅的な打撃を与える危機が起きるのは避けられなくなる。

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

アサド大統領、シリア紛争を語る

2015年3月号

バッシャール・アサド シリア大統領

そこには二つの反政府武装勢力がいる。多数派はイスラム国とヌスラ戦線・・・。もう一つはオバマが「穏健派の反政府勢力」と呼ぶ集団だ。しかしこの勢力は穏健派の反政府勢力というよりも、反乱勢力だし、その多くがすでにテロ組織に参加している。そしてテロ集団は交渉には関心がなく、自分たちの計画をもっている。一方でシリア軍に帰ってきた兵士たちもいる。・・・紛争は軍事的には決着しない。政治的に決着する。・・・問題はトルコ、サウジ、カタールが依然としてこれらのテロ組織を支援していることだ。これらの国が資金を提供し続ける限り、障害を排除できない。・・・

緊縮財政が民主主義を脅かす
―― ルビコン川を渡ったヨーロッパ

2015年3月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)、コーネル・バン ボストン大学大学院助教(政治学)

単一通貨を共有しつつも、財政政策を共有していなければ、危機に直面した国は緊縮財政を実施せざるを得なくなる。だがその結果、GDP(国内総生産)はさらに大幅に縮小し、それに応じて債務は増えていく。これがまさに、最近のヨーロッパで起きていることだ。問題はドイツが主導するヨーロッパ当局がデフレの政治学を債務国に強要し、債権国の資産価値を守るために、債務国の有権者が貧困の永続化を支持するのを期待していることだ。どう見ても無理がある。このような環境では、本来は安定している国でも急進左派と急進右派が、われわれが考えているよりも早い段階で急速に台頭してくる。ギリシャの「チプラス現象」がヨーロッパの他の国で再現されるのは、おそらく避けられない。ルビコン川を最初に渡ったのはギリシャだったかもしれない。しかしその経済規模ゆえにゲームチェンジャーになるのは、おそらくスペインだろう。・・・

イスラム国の全貌
―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

2015年3月号

オードリー・クルト・クローニン ジョージ・メイソン大学教授(国際安全保障プログラム)

イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

きっかけはウクライナの政変とロシアの介入だった。ロシアがクリミアを編入し、ウクライナ東部の紛争に介入すると、冷戦後の秩序を揺るがす大きな地政学のうねりが生じた。アメリカのリーダーシップの衰退、ウクライナやロシアを含む、各国における社会不満の増大がこの流れを加速した。今後、注目すべきは米ロ対立や中ロの接近がどう展開するかだけではない。米独関係を中心にアメリカとヨーロッパの関係が不安定になっていく恐れもある。しかも、ヨーロッパは経済的にも政治的にも危険水域へと突入しつつある。中東でもイスラム国の台頭によって秩序の流動化が加速している。中東での宗派間構想の構図は固定化されつつあり、すでにイラクとシリアは破綻途上国家と化している。一方、アジアでも中国における社会不満が、今後、何をどう変えていくか、その途上で地域的に何が起きるかが問われている。・・・

嵐の前の静けさ
―― 次にブラックスワン化する国は

2015年1月号

ナシーム・ニコラス・タレブ ニューヨーク大学教授
グレゴリー・F・トレバートン 米国家情報会議議長

国家の脆弱性の基準は五つ存在する。中央集権型の統治システム、画一的で硬直的な経済体制、過大な債務とレバレッジ、政治的硬直性、そして近い過去に衝撃から立ち直った経験をもっていないことだ。この基準に照らせば、世界地図は大きく違ってみえてくる。意外にもいつも混乱しているイタリアに脆弱性を示す兆候はない。政治危機が間欠泉のように吹き出すにも関わらず、うまく分権化されており、その都度、立ち直っている。一方、サウジは石油資源に経済を依存し、政治的に硬直的で、高度な中央集権国家だ。日本も「穏やかな脆弱性」を抱える国に分類できる。非常に大きな対GDP比債務残高を抱え、その多くの時期を通じて一つの政党が政治を支配し、輸出に依存し、「失われた10年」から完全には立ち直れずにいる。そして中国だ。過去の混乱で培った中国の体力は、債務や集権化という弱点を補うほどに強靱だろうか。おそらく答はノーだ。時が経つにつれて、北京がブラックスワン化するリスクは高まっていく。・・・・

論争 悪いのは欧米かロシアか
―― ウクライナ危機の本質は何か

2014年12月号

マイケル・マクフォール スタンフォード大学政治学教授
スティーブン・セスタノビッチ コロンビア大学国際関係大学院教授
ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

本当のストーリーを知るには何が同じで、何が変わったかに目を向ける必要がある。何が変わったかといえば、それはロシアの政治に他ならない。プーチンは支持層を動員し、野党勢力の力を弱めようと再びアメリカを敵として位置づけた。(M・マクフォール)

モスクワはヤヌコビッチに対して反政府デモを粉砕するように促したが、結局、彼の政権は崩壊し、ロシアのウクライナ政策も破綻した。プーチンがクリミアの編入に踏み切ったのは、自分が犯した大きな失敗からの挽回を図るためだった。(S・セスタノビッチ)

EUとの連合協定は、重要な安全保障合意という側面ももっていた。協定文書は「外交と安全保障政策の段階的な統一を、ウクライナをヨーロッパ安全保障へより深く組み込むという目的に即して進めること」を提案していた。これは、どうみても裏口からNATOに加盟させる方策だった。(J・ミアシャイマー)

米軍部隊の投入は避けられない?
――シリア・イラクにイスラム国に対抗できる集団は存在しない

2014年12月号

フレデリック・ホフ 前米政府シリア問題担当特別顧問

イラクには一定の戦闘能力をもつ軍事アセットは存在するが、イスラム国に対抗していく力はもつ集団は存在しない。シリアの自由シリア軍もアサドのシリア軍とイスラム国勢力の双方から攻撃を受け、大きな圧力にさらされている。最優先課題はイスラム国とシリア軍の双方を相手に戦いを続けている自由シリア軍を中心とするナショナリスト勢力を支援することだ。彼らが力を失えば、われわれは非常に深刻なジレンマに直面する。シリアの主要な部隊は(ともに欧米が敵視する)シリア軍とイスラム国の部隊だけになってしまうからだ。・・・トルコ政府はクルド労働者党(PKK)とシリアの「民主統一党」(PYD)をともにテロ集団とみなしているために、有志連合への参加に二の足を踏み、イスラム国に包囲されたコバニ情勢を静観している。これが国内のクルド人の反発を買っている・・・今後、イラクとシリアのいずれにおいても力強い地上戦力が存在しないことが大きな問題として浮上してくる。オバマ政権は「地上軍は送り込まない」と主張してきたが、いずれこの立場を再検討せざるを得なくなるだろう。

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