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年度別傑作選に関する論文

CFR Events 人工知能と雇用の未来
―― 人間と人工知能の共生を

2017年1月号

ジェームズ・マニュイカ マッキンゼー&カンパニー シニアパートナー
ダニエラ・ラス  マサチューセッツ工科大学(MIT)教授
エドウィン・ファン・ボメル IPsoft チーフ・コグニティブ・オフィサー

「2010年当時、自律走行車のことを議論する者はいなかったが、6年後のいまや誰もがこのテクノロジーを当然視している。この現状は、驚くべき計算処理能力の進化、優れたセンサーとコントローラー、さらには地図を作り、ローカライズする優れたアルゴリズムによって実現している。しかも、今後、技術的進化のペースはさらに加速すると考えられる」。(D・ラス)

「仕事(タスク)のすべてがオートメーション化されなくても、6割の雇用においてその生産活動あるいはタスクの30%がオートメーション化されると考えられる。これは具体的に何を意味するだろうか。雇用がなくなることはないが、仕事の内容が大きく変化する。・・・この仕事の変化がより大きな影響をもつ。機械とともに働くには、労働力に求められるスキルと能力も変化していく」(J・マニュイカ)

「(人間のようにやりとりできる人工知能プラットフォーム)アメリアが会話を担当できるようになっても、人間に残されるタスクは数多く残されている。例えば、金融部門なら、クライアントへのアドバイスにもっと時間を割くこともできるし、クライアントと今後の市場についてゆっくり話すこともできるようになる。しかも、アメリアやワトソンのような新しいプラットフォームを管理していく新世代の仕事も必要になる。具体的には、これらのシステムが適切に学習しているかどうか、規制内で活動してコンプライアンスを守っているかどうかを確認する人材が必要になる」(E・ファン・ボメル)

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

民主主義の危機にどう対処するか
―― ポピュリズムからファシズムへの道

2016年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

見捨てられた白人貧困層とポピュリズム

2016年12月号

ジェファーソン・カーウィー バンダービルト大学教授(歴史学)

テクノロジーと金融経済の進化は、東海岸や西海岸における都市の経済的・社会的バイタリティーを高めたが、製造業に支えられてきた南部と中西部にはみるべき恩恵はなかった。南部と中西部の経済が衰退して市民生活の空洞化が進んでいるのに、政治的関心がこの問題に向けられなかったために、これらの地域の「成長から取り残された」多くの人々がドラッグで憂さを晴らすようになり、なかには白人ナショナリズムに傾倒する者もいた。トランプはまさにこの空白に切り込み、支持を集めた。トランプは、政治舞台から姿を消すかもしれないが、彼が言うように、「実質的な賃金上昇がなく、怒れる人々のための政党」が出現する可能性はある。民主党か共和党のどちらか(または両方)が、貧しい白人労働者階級が直面する問題に対処する方法を見つけるまで、トランプ現象は続くだろう。

EUの衰退と欧州における
国民国家の復活

2016年10月号

ヤコブ・グリジェル 欧州政策分析センター シニアフェロー

いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの委譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

人工知能と「雇用なき経済」の時代
―― 人間が働くことの価値を守るには

2016年8月号

アンドリュー・マカフィー マサチューセッツ工科大学 首席リサーチサイエンティスト
エリック・ブリュニョルフソン マサチューセッツ工科大学 教授

さまざまな事例を検証し、相関パターンを突き止め、それを新しい事例に適用することで、コンピュータはさまざまな領域で人間と同じか、人間を超えたパフォーマンスを示すようになった。道路標識を認識し、人間の演説を理解し、クレジット詐欺を見破ることもできる。すでにカスタマーサービスから、医療診断までの「パターンをマッチさせるタスク」は次第に機械が行うようになりつつあり、人工知能の誕生で世界は雇用なき経済へと向かいつつある。今後時給20ドル未満の雇用の83%がオートメーション化されるとみる予測もある。労働市場は大きく変化していく。新しい技術時代の恩恵をうまく摘み取るだけでなく、取り残される人々を保護するための救済策が必要になる。間違った政策をとれば、世界の多くの人を経済的に路頭に迷わせ、機械との闘いに敗れた人を放置することになる。

資本主義と民主主義の緊張と妥協が相互に作用することで、これまで政治と経済のバランスが形作られてきた。民主体制のなかで、労働保護法や金融規制の導入、社会保障制度の拡大が実現することで、市場の猛威は緩和されてきた。こうして労働者は労働搾取を試みる資本家を抑え込み、企業は労働者の生産性を高めるための投資を重視するようになった。これが戦後における成長のストーリーだった。しかし「いまや政府は戦後の税金を前提とする国家から、債務を前提とする国家へと変貌している」。この変化は非常に大きな政治的帰結を伴った。政府債務の増大によって、国際資本が、各国の市民の望みを潰してでも、自分たちの意向を各国政府に強要する影響力をもつようになったからだ。格差が拡大し、賃金が停滞する一方で、政府は、資金力豊かな金融機関が問題の兆候を示しただけで救済の対象にするようになった。こうして市民たちは、いわゆる調整コストを運命として受け入れるのを次第に嫌がるようになった。・・・

ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
―― 主流派政党はなぜ力を失ったか

2016年7月号

マイケル・ブローニング/フリードリヒ・エーベルト財団 国際政策部長

ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。・・・

2016年の政治的意味合い
―― アメリカの政治的衰退か刷新か

2016年7月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学国際研究所 シニアフェロー

2016年の米大統領選挙の本当のストーリーとは、経済格差が拡大し、多くの人が経済停滞の余波にさらされるなか、アメリカの民主主義がついに問題の是正へと動き出したことに他ならない。有権者の多くは、彼らが「堕落し、自分の利益しか考えない」とみなすエスタブリッシュメントに反発し、政治を純化して欲しいという願いから急進派のアウトサイダーを支持している。社会階級がいまやアメリカ政治の中枢に復活し、人種、民族、ジェンダー、性的志向、地域差をめぐる亀裂以上に大きな問題として取り上げられている。とはいえ、ポピュリストの政策を実施すれば、成長を抑え込み、政治の機能不全をさらに深刻にし、事態を悪化させるだけだ。・・・必要なのは、大衆の怒りをすぐれた政治家と政策に結びつけることだ。

近代化と格差を考える
―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

2016年3月号

ロナルド・イングルハート ミシガン大学教授(政治学)

19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

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