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米国に関する論文

トランプ流外交の悪夢
―― 外交と「取引」の間

2018年10月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(アメリカ外交担当)

貿易問題、関税、イラン核合意、北朝鮮問題やパレスチナ和平へのアプローチ、そして中国やヨーロッパとの関係など、トランプ政権のこれまでの外交記録は、彼のアプローチが根本的に間違っていることを示している。同時にすべての人を批判しようとする彼の本能とは逆に、外交交渉を成功させるには、どの問題を交渉するかを選び、同盟関係を維持し、慎重に決定した優先課題の実現に向けて連帯を組織しなければならない。貿易問題をめぐって容赦なく攻撃している中国やヨーロッパから、イラン問題をめぐって支持を引き出すのは難しい。どうみてもトランプは、うまく交渉ができるタイプではない。基本的事実に習熟しておらず、何を重視するかについての一貫性がない。しかも、彼は合意形成を根本的に誤解している。

色あせた対米投資の魅力
―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

2018年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

カーボンプライシングという幻想
―― より直接的な二酸化炭素削減策との組み合わせを

2018年9月号

ジェフリー・ボール スタンフォード大学 レジデントスカラー

炭素税や二酸化炭素排出権取引の前提として二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシングを導入することで、政策決定者や市民が、自分たちは地球温暖化対策に有意義な貢献をしていると幻想を抱いている限り、このシステムは無力なだけでなく、非生産的だ。このソリューションだけでは問題解決には至らないという現実を認識する必要がある。地球が摂氏2度の気温上昇という臨界点を超えるのはもはや避けられないが、それでも温暖化を最小限に食い止める方法はある。石炭の段階的利用停止、二酸化炭素回収貯留(CCS)技術開発のスピードアップ、原子力発電の継続、再生可能エネルギーコストの削減、化石燃料価格の値上げは効果がある。「カーボンプライシングは地球温暖化防止のために社会が用いる主要ツールであるべきだ」という考えには、ほとんど根拠がないことをまず認識する必要がある。

サイバー攻撃から米インフラを守るには
―― ロシアのサイバー攻撃に備えよ

2018年9月号

ロバート・ネイク 米外交問題評議会 シニアフェロー(サイバー政策担当)

情報機関やセキュリティ企業は、ドイツの製鋼所のネットワークシステムへの侵入、90万人のドイツ人が影響を受けた電話回線とインターネットサービスの切断だけでなく、ウクライナで発生した2度の停電にも、ロシアのハッカーが関与していたとみている。2016年大統領選挙へのロシアの介入からワシントンが学ぶべき教訓は、アメリカの(中間)選挙を守ることだけではないだろう。ロシアがサイバースペースを使って旧ソ連諸国に仕掛けている攻撃を、ワシントンはアメリカを待ち受けている未来への警鐘と捉えるべきだ。実際、ウクライナに対するロシアのサイバー攻撃は単なる実験で、相手国の電力網の遮断でロシアが戦略的あるいは戦術的優位を得ることに備えた演習にすぎなかった可能性がある。・・・

米中貿易戦争の安全保障リスク
―― 対立は中国をどこへ向かわせるか

2018年9月号

アリ・ワイン ランド・コーポレション  政策アナリスト

ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。

日本の新しい防衛戦略
―― 前方防衛から「積極的拒否戦略」へのシフトを

2018年9月号

エリック・ヘジンボサム
マサチューセッツ工科大学国際研究センター 首席リサーチサイエンティスト
リチャード・サミュエルズ マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

日本本土が攻撃されても、日米の部隊は中国の攻撃を間違いなく押し返すことができる。しかし、中国軍が(尖閣諸島を含む東シナ海の)沖合の島に深刻な軍事問題を作り出す能力をもっているだけに、東京は事態を警戒している。実際、中国軍との東シナ海における衝突は瞬く間にエスカレートしていく危険がある。最大のリスクは、尖閣諸島や琉球諸島南部で日本が迅速な反撃策をとれば、壊滅的な敗北を喫し、政府が中国との戦闘を続ける意思と能力を失う恐れがあることだ。日本は東シナ海における戦力と戦略を見直す必要がある。紛争初期段階の急変する戦況での戦闘に集中するのではなく、最初の攻撃を生き残り、敵の部隊を悩ませ、抵抗することで、最終的に敵の軍事攻撃のリスクとコストを高めるような「積極的拒否戦略」をとるべきだろう。ポイントはこの戦略で抑止力を高めることにある。

「新冷戦」では現状を説明できない
―― 多極化と大国間競争の時代

2018年5月号

オッド・アルネ・ウェスタッド ハーバード大学教授(米・アジア関係)

今日の国際情勢は概して先が見通せず、課題も多い。しかし、21世紀の緊張した大国間関係を新たな冷戦と呼ぶことで、その本質は明らかになるよりも、むしろわかりにくくなる。冷戦の名残はまだ残されているが、国際政治を形作る要因と行動原理はすでに変化している。今日の国際政治に何らかの流れがあるとすれば、それは多極化だろう。アメリカの影響力は次第に低下し、一方で、中国の影響力が高まっている。ヨーロッパは停滞し、ロシアは、現在の秩序の周辺に追いやられたことを根にもつハゲタカと化している。そこにトレンドがあるとすれば、それは、いまやあらゆる大国が、イデオロギーではなく、自国のアイデンティティーと利益を重視する路線をとっていることだろう。

米ロ関係の真実
―― 何も期待できない理由

2018年8月号

マイケル・マクフォール スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所 ディレクター

2011年までには、2期目にプーチンがロシア市民と交わした暗黙の社会契約、つまり、「政府が経済成長を提供する代わりに、民衆は政治に口出しをしない」という契約の前提は崩れ始めていた。こうしてプーチンは外に敵を定める戦術を採り始めた。悪意に満ちた欧米から祖国を防衛することを訴え、反プーチンデモの指導者たちを「アメリカのエージェント」と批判するようになった。いまや彼は、「退廃した欧米」と闘う新しいナショナリズムのリーダーを自認し、この立場が彼を政治的に支えている。プーチンが権力の座にある限り、ロシアを変化させるのはほぼ不可能だろう。ワシントンが望み得る最善は、選択的協調路線をとりつつも、基本的には、モスクワの外国での行動を牽制し、ロシアが内側から変化するのを待つ、辛抱強い封じ込め政策をとることだろう。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

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