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ロシアに関する論文

経済戦争時代と制裁
―― 抑止力としての経済制裁に目を向けよ

2018年1月号

エドワード・フィッシュマン 前国務省政策企画本部 経済制裁担当リードエキスパート

一部の諸国は、大国間戦争を引き起こさないように配慮しつつも、リベラルな世界秩序への挑戦を試みるようになり、もはや経済領域での抗争は避けられなくなっている。ワシントンがより多くの制裁措置を発動する政治的動機も高まっている。制裁措置は、イランの核開発など、「すでに存在する問題行動」を見直させる上で一定の成功を収めているが、いまや制裁を通じて「未来の問題行動」を抑止することを考えるべきだ。ここにおける課題は、危機が起きる前に、ワシントンの官僚たちが制裁システムを設計したことはなく、同盟諸国と制裁について事前に交渉したこともないことだ。しかし、いまや国際的軋轢の多くが生じているのは「戦争と平和の間のグレイゾーン」であり、この領域におけるもっともパワフルな「抑止力としての制裁システム」を確立する必要がある。

民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか
―― モスクワの策略に立ち向かうには

2018年1月号

ジョセフ・R・バイデン 前米副大統領
マイケル・カーペンター 前米国防副次官補

ロシア政府は政治腐敗まみれの泥棒政治システムを守ろうと、その生存を外から脅かす最大の脅威と彼らがみなす「欧米の民主主義」に対する国境を越えた闘いを挑んでいる。欧米を攻撃することで国内の政治腐敗や経済的停滞に人々が目を向けないようにし、ナショナリズム感情を煽り立てて国内の反体制派を抑え込み、民主主義国家を守勢に立たせることで欧米諸国が国内の分断線対策に専念せざるを得ない状況を作り出そうとしている。この環境なら、モスクワは国内の権力基盤を固めることに専念し、「近い外国」に対して思うままに影響力を行使できる。だが、プーチンとその取り巻きたちは、アメリカの民主主義の最大の強さは市民の政治参加にあることを理解していない。米大統領が対策を拒んでも、われわれが行動を起こす。

レーニン主義と習近平の中国モデル
―― 北京のボリシェビキ

2017年12月号

ニック・フリック イエール大学大学院  博士候補生(アジア研究)

ボリシェビキそして彼らが形作ったソビエトという国家は、中国共産党にとってモデルであり、反面教師でもあった。ソビエト崩壊の記憶ゆえに(その二の舞になるのを避けようと)中国共産党指導部は権力維持に向けた決意を固め、党が軍部を支配することの重要性を肝に銘じた。なぜ習近平が個人への権力集中や民衆の生活のより多くの側面への党の介入路線の強化へと動いているかも、これである程度説明できる。だが目的は変化した。習の「中国の夢」が約束するのは、ボーダーレスなプロレタリアの楽園ではなく、党の支配の下で、中華文明の栄光を取り戻すことだ。こうした固有のナショナリズムとレーニン主義の鉄の規律の組み合わせは、トルコからフィリピンにいたるまでの権威主義の指導者たちにとって、代表制民主主義に代わる魅力的な選択肢なのかもしれない。

民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
―― 中ロによる情報操作の目的は何か

2017年12月号

クリストファー・ウォーカー 全米民主主義基金 副会長(分析・研究担当)
ジェシカ・ルドウィッグ 全米民主主義基金 リサーチオフィサー

民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

関係修復へと動いたロシアとサウジの思惑
―― 中東の影響力をめぐる攻防

2017年12月号

アンナ・ボーシェフスカヤ ワシントン近東政策研究所 フェロー

1932年の王国誕生以降、サウジアラビアとソビエト・ロシアは、中東におけるほぼすべての戦争や対立をめぐってことごとく別の立場をとってきた。しかし、2000年5月にロシアの権力者となったプーチンは、米サウジ関係の緊張をうまく利用しようと、2007年にリヤドを訪問した。プーチンはリヤドとの経済関係を強化し、アメリカと中東同盟国の関係に楔を打ち込みたいと考えている。停滞するロシア経済が外国投資を必要としていることも理解している。一方サウジは、「経済的インセンティブを与えることで、ロシアがイランに距離を置くように仕向けられる」と考え、シリア問題をめぐっても、ロシアとの関係を通じて一定の機会を確保したいと考えている。今後の展開は予断を許さないが、少なくとも、プーチンはサウジの国王や皇太子以上に多くのカードをもっている。

ロシアの軍事的復活と地政学的野望
―― 偶発戦争を回避するには

2017年12月号

アイボ・H・ダールダー 元米NATO大使

軍備を増強し、軍事態勢を刷新したモスクワは「ロシアは再び重要な国となり、国際社会が無視できない存在になった」と、新たに自信をもち始めている。プーチンは「今後もロシア人と、外国で暮らすロシア系住民の権利を積極的に守り続ける」と主張し、「私が対象としているのは、自分を幅広いロシア・コミュニティーの一員と考えている人々だ」とさえ語っている。この発言を前に、1930年代のドイツの声明を想起した人は多いはずだ。プーチンは、近隣諸国を脅かし、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させようと、ロシア軍の近代化を大がかりに実施し、公然と軍事力を使って既成事実を作り上げつつある。しかも、この行動はヨーロッパとの境界線に留まるものではない。北は北極海から、南は地中海までの広い地域へロシアは軍事的影響力を拡大している。

民主国家に浸透する権威主義
―― 蝕まれるリベラルな民主主義

2017年11月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所  ディレクター

欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・

米天然ガス輸出が変える欧州の地政学
―― ロシア対アメリカ

2017年10月号

アグニア・グリガス アトランティック・カウンシル  シニアフェロー

2014年末にLNG輸入インフラを建設するまで、リトアニアはロシアからパイプラインで供給される天然ガス資源に完全に依存してきた。ロシアは、この状況につけ込み、政治的緊張が高まると、東中欧諸国向けの天然ガス価格を引き上げ、資源を政治ツールとして用いてきた。だが、いまやアメリカのLNGがヨーロッパ市場に流れ込み始めた。8月に実現したテキサス州からリトアニアへのLNG輸出は、アメリカが天然ガスをめぐるパワフルなグローバルサプライヤーとなりつつあることを示しているし、米企業はガスプロムの伝統的市場でも市場競争を積極的に展開していくつもりだ。これによって、米ロ間の地政学に新たな変数が持ち込まれる。ロシアというサプライヤーへ依存し続けることを長く心配してきたヨーロッパの資源輸入国は、その不安から解放されることになるだろう。

バルカンに対するロシアの野望
―― クロアチアはロシアの攻勢を阻めるか

2017年9月号

ダグマール・スキルペック 南東ヨーロッパ分析者

プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。すでにボスニアでは、プーチンの財政支援によって勢いづいたスルプスカ共和国のミロラド・ドディク大統領が分離独立を強く求めている。これが実現すれば、1990年代のバルカン紛争のような事態が再現されかねない。救いは、クロアチアがハンガリーやポーランドで勢力を拡大しつつあるナショナリズムを寄せ付けていないことだ。クロアチアは今やヨーロッパ南東部のリーダーであり、この国の政治状況が地域のダイナミクスに大きな影響を与えている。欧米はクロアチアの穏健派政府が、ロシアの影響力拡大に対抗していく上でのもっとも力強い(防波堤、そして)同盟相手であることを認識する必要がある。

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

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