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中東に関する論文

紛争の一方で進む中東の和解と協調
―― ポストアメリカの中東秩序へ

2024年3月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンジェルス校 バークル・センター シニアフェロー
サナム・ヴァキル 英王立国際問題研究所 中東・北アフリカプログラム ディレクター

アラブ世界の主要国は、トルコのような地域大国とともに、ガザ戦争前に存在した和解の流れとその後誕生した協調の機運を固定化するために、この瞬間を生かし、この地域に安定をもたらせる力強い安全保障メカニズムの確立をめざすべきだ。中東は清算の時を迎えている。ガザ戦争からみても、いまや中東におけるアメリカパワーに限界が生じていることは明らかであり、今後の中東の和平と安全保障をめぐって主導権をとるのは、地域の指導者や外交官たちでなければならない。危機と紛争にさらに陥っていく危険もある。だが、別の未来を築き始めることもできる。中東の指導者たちが暴力のスパイラルを食い止め、この地域をより前向きな方向へと導ける可能性は存在する。

戦後のガザ統治に備えよ
―― 自治政府をどう改革するか

2024年3月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学 外交政策大学院教授

アフガニスタンやイラクなどの紛争から得た教訓の一つは、敵対的な体制を排除することはそれほど難しくなくても、現地における民衆の暮らしを立て直し、長期的な平和を確保できる新政府を構築することは、はるかに難しいということだ。ハマスという選択肢もイスラエルという選択肢もない。アラブ諸国も戦後ガザへの関与は嫌がるだろう。国際的テクノクラートによる統治は、政治基盤をもたないという大きな欠陥がある。自治政府は、西岸においてさえ、イスラエルのかなりの支援がなければ、ハマスを抑え込み、暴力を阻止することもできずにいるが、それでも、ガザの統治という任務を担う上でもっともましな選択肢だ。しかし、現在の自治政府を改革していく必要がある。・・・

抵抗の枢軸という新脅威
―― ミサイルとSNSで戦う敵の目的は

2024年3月号

ナルゲス・バジョグリ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 アシスタント・プロフェサー(中東研究)
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニが設計し、シリア紛争で具体的なつながりをもち、ガザ戦争で一気に連帯を深めた「抵抗の枢軸」とは、いかなる軍事ネットワークなのか。欧米は、イランが(ハマス、ヒズボラ、フーシ派などを含む)「抵抗の枢軸」の黒幕だとみているが、実際には、それぞれが自立した、より緩やかなネットワークだ。それでも、メンバーたちは、イスラエル、そして間接的にはアメリカに対する同じ戦争を戦っていると信じている。それだけに、抵抗の枢軸を簡単に解体することも、それを生み出した思想を粉砕することもできない。ガザの銃声が静まり、住民への圧力が緩和され、パレスチナの主権と自決への確かな道筋が描かれない限り、アメリカは危険なエスカレーション・スパイラルから抜け出すことはできないだろう。

中東を一変させたガザ戦争
―― 混乱をいかに安定と秩序に導くか

2024年1月号

マリア・ファンタッピー イタリア国際問題研究所 アソシエートフェロー
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院 教授(国際関係論)

ついに実現しつつあるかにみえた、イスラエルとアラブ世界の関係正常化を中心とするアメリカの中東構想も、イスラエル・ハマス戦争によって根底から覆されてしまった。もはやパレスチナ問題は無視できないし、パレスチナ国家への信頼できる道筋がみえるまでは、アラブ・イスラエル関係の今後を含めて、アメリカがこの地域の他の問題に取り組むのは不可能だろう。さらに、中東を動揺させているテヘランの台頭にも対処しなければならない。このためにも、ワシントンは、イラン、イスラエル、アラブ世界全体と実務的な関係を維持しているサウジとのパートナーシップを、新たな中東ビジョンの基盤に据える必要がある。

紛争後のガザを誰が統治するのか
―― 紛争から外交への長い道のり

2024年1月号

ヨースト・ヒルターマン 国際危機グループ プログラムディレクター(中東・北アフリカ)

ハマスの軍事能力とガザの統治体制を破壊するという目標だけでなく、イスラエルは、ガザを再占領し、ガザ住民を直接統治することにも行き詰まるだろう。結局、国連その他の人道支援機関が基本的なアメニティーを提供し、ほとんどのガザ住民が避難生活を続けることになると考えられる。ハマスの粉砕を最優先課題としているために、イスラエルは、もっとも必要で価値あるもの、つまり、安全な環境、治安をいかに取り戻すかという目的を見失っている。しかも、イスラエルが2国家解決策を拒否しているために、イスラエルとパレスチナの双方が納得できる交渉による解決を達成するのを阻む、ほほ克服できない課題が存在する。

ハマス・イスラエル戦争の現状
―― 人道問題、ヒズボラ、ハマス後のガザ(11/2)

2023年12月号

<スピーカー>
マックス・ブート 米外交問題評議会シニアフェロー(国家安全保障研究)
スティーブン・A・クック 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)
リンダ・ロビンソン 米外交問題評議会シニアフェロー(女性と外交政策担当)
レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)

<プレサイダー>
マイケル・フロマン 米外交問題評議会会長

イスラエルの行動は戦争犯罪だと広く批判されている。ターゲットをもっと注意して選ぶ必要がある。一方、ハマスの行動が戦争犯罪であることも明らかだ。・・・彼らは、民間人地域のなかや地下に軍事施設を作り、イスラエルがハマスに攻撃をするたびに巻き添え犠牲が出る可能性を最大化している。これは、非常に残忍で醜い戦争形態だ。(M・ブート)

イランの戦略的第3の支柱は、国連であれ、イスラム協力機構であれ、国際社会を動員することだ。要するに、国際社会を動員してイスラエルに停戦に応じるように圧力をかける。目的はもちろん民間人の犠牲を回避することだが、実際には、ハマスを存続させることにある。
(R・タキー)

難しいとしても、(ハマス後のガザには)パレスチナ人による解決策が求められる。但し、ひどく人気のないマフムード・アッバス議長の権限を西岸からガザ地区まで拡大できるかは、わからない。ガザ地区でまとまり、ガザ地区を管理できる指導者が他にいるはずだ。アッバスはガザを統治できるような人物ではない。(S・クック)

戦争とソーシャルメディア
―― もう一つの戦争(10/27)

2023年12月号

ファラ・パンディス 米外交問題評議会 非常勤シニアフェロー(対テロ、イスラム研究)

ハマスはイスラエルの破壊とユダヤ人の根絶を求めているが、「西洋はイスラムを憎んでいる」というアルカイダが持ち出したストーリー(物語)が、ハマスの世界観を可能にするエコシステムの基盤に存在する。しかも、普通の人々がソーシャルメディアのコンテンツを制作し、感情を煽り、ストーリーを強化している。すでに、10月7日以降、イラクとシリアで米軍に対する攻撃が相次いでいる。米国内でも新たなリスクが生じるだろう。国土安全保障省は、ガザ紛争が進むにつれて、イスラエル人、パレスチナ人、ユダヤ教徒、イスラム教徒、そしてシーク教徒のようなこれらの宗教の信者と誤認された人々に対する暴力が米国内で増加する危険があると警告している。米政府は反イスラムや反アラブのヘイト、そして反ユダヤ主義に対抗していくために、道徳的、戦略的にもっと努力する必要がある。

イスラエル・イラン戦争のリスク
―― ガザ紛争が長期化すれば(10/19)

2023年12月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンジェルス校 バークル・センター シニアフェロー

これまで、イスラエルとイランは、制御不能なエスカレーションリスクを冒すことなく、定期的に相手を挑発できると考えてきた。だが、いまやガザにおける戦争が、そうした微妙な計算を狂わせつつある。テヘランは、イスラエルとハマスの戦争を、レバノンやシリアでの代理(傀儡)勢力の攻撃によってイスラエルの能力を低下させるチャンス、あるいはイラクやシリアの米軍に対する武装勢力による攻撃の再開を促すチャンスとみなすかもしれない。こうした作戦はすでに進行しているのかもしれない。紛争が長引けば、安定化へのインセンティブは低下し、イスラエルとイランの衝突リスクは高まっていく。戦争がまだこの地域に広がっていないとしても、世界の指導者たちは、戦争の拡大はあり得ないと錯覚してはならない。

紛争と人道的危機
―― イスラエル・ハマス戦争(10/17)

2023年11月号

クリスティーナ・ブーリ CFR リサーチ・アソシエーツ(中東研究)
ダイアナ・ロイ ライター・エディター www.cfr.org

ガザ住民の避難場所は限られている。イスラエルは封鎖の一環として、ガザとの2つの境界を閉鎖した。ガザとラファ検問所(国境)を共有するエジプトが唯一の避難先だ。しかし、アメリカや国連の要請にもかかわらず、エジプト政府は民間人のための避難回廊を設置することに消極的で、イスラエルの空爆によってラファはすでに機能不全の状態にあるとしている。「もはや、食料、電気、燃料を気にしている段階ではない」と人道支援団体パレスチナ赤新月社のスポークスマン、ネバル・ファルサフはAP通信に語っている。「今心配なのは、生き残れるかどうかだ」

大いなる誤算
―― ガザ侵攻というイスラエルの間違い(10/14)

2023年11月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学)

ガザ侵攻は、人道的、道徳的、戦略的な大惨事を引き起こすことになるだろう。イスラエルの長期的な安全保障を損ない、パレスチナ人に計り知れない人的ダメージを強いるだけでなく、中国との競争におけるアメリカの核心的利益さえも脅かす。作戦を先に進めるイスラエルの動きは、国際社会の激しい批判にさらされる。しかも、この紛争は、新たなパレスチナ人の強制移住の引き金となる恐れがあるし、ガザ侵攻はヒズボラを行動に駆り立てるレッドラインになるかもしれない。イランについては、これまでのところ、アメリカもイスラエルも自制的な立場をとっているが、長期化する戦争のダイナミクスが何を引き起こすは分からない。戦争が長引けば、世界はイスラエル人とパレスチナ人の犠牲者の映像を目の当たりにし、さらに予期せぬ混乱の事態に直面することになるかもしれない。

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