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中東に関する論文

エジプトの混乱とモルシ大統領の独善
――ムスリム同胞の自負とエリート主義

2012年12月

スティーブン・クック
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

大統領権限を強化する憲法令が出されて以降、エジプトは大きな混乱に包み込まれている。ルール、規制、法律が存在しないために、革命を経ても、エジプトは無能な将軍たち、そして現在は権威主義的なイスラム主義者の気まぐれに翻弄されているとみる専門家もいる。だが、問題はより深いところに存在する。モルシ大統領の誤算は、大統領選挙を含む一連の「選挙結果は、有権者がムスリム同胞団への全面的信任を与えたことを意味する」と自分たち同様に、エジプトの民衆が考えていると信じ込んでしまっていることだ。民衆は大統領と自由公正党に、少数意見など気にしなくても済むような、大きな信任を与えたと同胞団は信じてしまっている。もう一つの問題は、「エジプトがどの方向に向かうべきかについては、自分たちが一番良く理解している」と、ムバラク同様にモルシが自負していることだ。この意味で、モルシを「新しいムバラク」と呼ぶ反対派の主張は間違っていないだろう。ムバラクもモルシも唯我独尊的なハイモダニストの世界観をもっている。このエリート意識ゆえに旧体制下では政治改革が進まなかったし、現在も、問題が作り出されている。

モルシ・エジプト大統領のムバラク主義
―地域紛争の調停と国内強権体制の強化の関連

2012年12月

ロバート・ダニン
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

エジプトのモルシ大統領は、ガザ問題をめぐってバラク・オバマと詳細な対応策を電話で協議し、イスラエル・ガザ紛争の停戦に向けて見事に立ち回った。彼は水面下でハマスの指導者に「危機をエスカレートさせて、イスラエル軍の侵攻というリスクを高めるのではなく、紛争を終わらせるために柔軟な路線をとるように」と圧力をかけた。実際、中東の地域問題をめぐるアメリカとエジプトの協調という面でみれば、ワシントンが中東危機の安定化に向けてムバラクに支援を要請した時代と何ら変わらないかにみえる。だが、エジプトが地域問題の解決をめぐってアメリカと協力することの見返りに、エジプトに援助を与え、国内での抑圧にアメリカが目をつぶるというファウスト的な取引はもう止めるべきだ。ガザの調停が終わると、モルシは大統領権限を拡大し、大統領の決定が司法の審査を受けなくてもすむようにする憲法令を発布し、国内で大規模な抗議行動が起きている。これは、革命と真の民主化からの逆行であり、「ムバラクなきムバラク主義」の再来だ。

レバノン化するシリア
――反体制派の統合は幻想に終わる

2012年11月

エド・フサイン
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

シリアの反体制派の統一組織「シリア国民連合」が誕生したが、シリア国内の反体制派がこの新しい組織と協調するかどうかは、はっきりしない。欧米にとって厄介なのは、シリア国内の反体制派武装勢力にアルカイダの戦士が入り込んでいることだ。どうすれば、自由と民主主義のために戦っているシリア人とアルカイダの戦士を区別できるだろうか。この二つの集団を明確に区別しない限り、アメリカとヨーロッパが反政府勢力を全面的に支持すると公言するのは難しい。たしかに、フランスがシリア国民連合を承認したことで、いまや反体制派は国際コミュニティの支持を獲得しつつある。だが、本当の戦場がシリア国内にあることを忘れてはいけない。今後の多くは、国民連合が反体制派武装勢力を統制できるか、アルカイダを締め出せるか、そして、多数派であるスンニ派とその他の少数派の調和と統合を実現できるかに左右される。現実には、これらが実現する見込みは乏しい。どうみても、シリア内の各勢力が政治的妥協を求めるような情勢にはないからだ。・・・すでにシリアは、レバノン同様に外部パワーの代理戦争の場所と化しつつある。あと3-4年は内戦が続くだろうし、アサド政権が倒れても、そこに台頭してくるのは、もう一つの殺人集団であるスンニ派イスラム主義組織だろう。

ムハンマド侮辱動画が 誘発した世界的騒乱
――怒りを煽ったエジプト政府の真意は

2012年10月号

ジュッテ・クラウセン ブランダイス大学教授で専門は比較政治学、著作に『世界を揺るがした風刺画』がある。

ムハンマドを侮辱する動画がユーチューブで公開され、世界各地でイスラム教徒の抗議行動が起きている。今回の事件は、2005年にデンマークの新聞ユランズ・ポステンに預言者ムハンマドの風刺画12枚が掲載されたことをきっかけに、世界的な抗議運動へとつながっていった事件のリプレイのようにもみえる。今回の動画同様に、ムハンマドの風刺画も掲載された当時はほとんど注目されず、問題とみなされることもなかった。だが、当時のエジプト政府(ムバラク政権)が「デンマークでムハンマドを冒涜する行為が行われた」と発表すると、イスラム世界の多くの人がこの問題に関心を示すようになった。今回も同じパターンの動きがみられる。現在のエジプト政府を率いているムスリム同胞団の指導者も、仇敵であるムバラク同様に「本当の問題から目を背けさせる政治」戦術をとっている。

イランではなく、イスラエル に対するレッドラインを設定せよ
――アメリカのネタニヤフ問題

2012年10月号

マイケル・C・デッシュ ノートルダム大学教授

「イランに対してレッドラインを示せなかった国際社会(アメリカ)に、イスラエルの行動を縛る道義的権限はない」。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランに対するレッドラインを示すことを拒絶したオバマ政権への怒りを露わにし、単独でのイラン攻撃を明確に示唆する発言を繰り返している。だが、怒りを感じるべきはアメリカ人のほうかもしれない。アメリカにイランに対するレッドラインを示すように求め、それが受け入れられなければイランの核施設への単独攻撃も辞さないと表明したネタニヤフは、これまであらゆる面でイスラエルを支援してきたアメリカを、イランとの戦争に巻き込もうとしている。現状でレッドラインを定義して、適用するとすれば、それはイランに対してではなく、イスラエルの指導者たちに対してだろう。イスラエルはアメリカの国内政治に干渉すべきではないし、アメリカを不必要な戦争に引きずり込むのをやめるべきだ。

CFR Interview
イランの核開発プログラム
――曖昧な意図と空爆の可能性

2012年10月号

デビッド・オルブライト 科学国際安全保障研究所(ISIS)会長

これまでイランは自国のウラン濃縮について「小規模な研究炉のための核燃料を生産している」という立場を示してきた。だが、すでに研究炉用の核燃料は十分すぎるほどに生産されている。つまり、民生部門用だけなら、もう核燃料(濃縮ウラン)をつくる必要はない。ここに矛盾がある・・・すでに、イランは相当量の兵器級ウランを生産できる状態にある。核兵器生産を決断すれば、すぐにでも兵器級ウランの生産(濃縮)に取りかかれる。だが、今のところテヘランは核兵器を作ると明確には決断していないようだ。・・・イランの立場は曖昧だ。可能であれば、核兵器を生産したいと考えている。だが、実際に核兵器の開発に乗り出せば、(武力行使を含めて)非常に大きな力がかかってくること、核兵器を手に入れる前に体制が崩壊してしまう危険があることをテヘランは理解している。

CFR Interview
2012年秋、イスラエルはイランを攻撃する?

2012年10月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イスラエルは、イランの核開発によって危機にさらされるものは非常に大きいと考えている。このため、アメリカの説得によってイスラエルに攻撃を思いとどまらせることができるかどうかはわからない。重要なのは、米大統領選挙前の秋にイスラエルがイランに対する予防攻撃を実施する可能性をもはや誰も否定できない状況にあることだ。このシナリオが現実にならないとしても、イスラエル、あるいはアメリカが2013年に行動を起こす可能性は十分にある。問題はイスラエル、あるいはアメリカが軍事力を行使すれば、不可知の連鎖が生じ、どのような事態になるかわからないことだ。だからこそ、多くの人は経済制裁と外交を組み合わせた強硬策が成功することを期待している。だが、これまでのところ、楽観を許すような状況にはない。

CFR Interview
出口のないシリア紛争
――何がバッシャール・アサドを変えたのか

2012年10月号 

デビッド・W・レッシュ トリニティ大学教授(中東史)

政府側にも反政府勢力側にも相手に屈服する意図はなく、双方とも長期戦を覚悟している。加えて、ともに相手に致命的な打撃を与える力を持っていない。このために、シリア紛争は明確に定義できる戦線の存在しない内戦と化している。・・・しかも、反政府勢力が一枚岩でないために、政府が掌握していない地域が軍閥に支配されたり、特定勢力の拠点にされたりしていく危険もある。外部勢力の介入によってこの均衡が崩れない限り、この状況が変化することは当面あり得ないし、現状では外部勢力の介入があるとは想定できない。・・・介入しても、より大きなダメージと混乱、そして不安定化がもたらされるだけだろう。最終的には不可能になるかもしれないが、レバノン、イラクその他へと紛争が飛び火しないように、あるいは、イスラエルやトルコは引きずり込まれないように、誰もがシリア紛争を国境内に封じ込めようと試みている。

トルコの反シリア路線と地域紛争化のリスク

2012年10月

スティーブン・ハイデマン
米平和研究所
中東イニシアティブシニア・アドバイザー

モスクワからダマスカスへと向かっていたシリアの民間旅客機を(武器を輸送している可能性があるという理由で)トルコ政府は国内に強制着陸させ、積み荷から武器弾薬が見つかったと発表した。このエピソードだけをみても、トルコが(シリア政府を支援する)ロシアとイランを敵に回してもかまわないと考えているのは明らかだ。いまやトルコは、近隣諸国との関係のすべてをシリアというレンズでとらえている。国境地帯での緊張の高まりによって小規模の戦闘が大きな紛争へとエスカレートしていく危険はあるが、トルコの指導者は、シリアとの戦争は、他に選択肢がない状況に陥らない限り回避したいと考えている。・・・すでに、トルコ南部には、シリアから10万規模の難民が流入しており、シリアと戦争になった場合の社会的、経済的帰結が心配されている。・・・シリア軍の士気と能力は大きく低下し、一方反政府勢力は戦闘経験を重ねることで、戦闘能力を高めている。アサド政権が生き残るには、もはやヒズボラ、そしてイランに援軍を求めるしかない状況にある。

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

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