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中東に関する論文

「イスラム国」の衝撃
―― 包括的空爆作戦の実施を

2014年9月号

バラク・マンデルソーン  ハーバーフォード大学准教授(国際政治)

「イスラム国」はイラクでの最近の軍事的成功を追い風に、シリアでも支配地域の拡大を試み、数日間だったとはいえ、レバノンの国境地帯の町アルサルさえも攻略した。自信を深めた彼らは、いまやイラク、シリア、レバノンの軍隊を相手に戦闘を繰り広げている。その目的は、支配地域を拡大し、戦費を調達するのに有用な石油施設やダムを押さえ、厳格なイスラム主義を制圧地域住民に強要し、ジハード主義集団内で自分たちの優位を確立することにある。すでにアルカイダ系のジハード組織のメンバーが「イスラム国」に参加しつつあることを米情報機関は確認しており、今後、その流れはますます大きくなっていくと考えられる。「イスラム国」の拡大をこのまま放置すべきではない。「イスラム国」と正面から対峙するタイミングを先送りすればするほど、その対応コストは大きくなる。

ガザ地区封鎖の解除を
―― 第3次インティファーダを回避するには

2014年9月号

カレド・エルギンディ ブルッキングス研究所フェロー

第2次インティファーダを「われわれが犯した最大の間違いの一つ」とみなすパレスチナ自治政府のアッバス議長は、インティファーダ(暴力的抵抗路線)を復活させれば、前回同様にイスラエルの激しい対応を招き入れ、アメリカとの関係も悪化することを理解している。一方、ハマスも抵抗路線を西岸へと広げるよりも、イスラエルとの紛争が終わった後は傷を癒やして、ガザにおける立場の再建に専念したいと考えている。だが近いうちに、二つのグループはイスラエルに対する全面的な抵抗路線をとることへのためらいを払拭するかもしれない。別の言い方をすれば、現在進行しているガザでの戦争を前に、ハマスとファタハは異なるアジェンダをそれぞれが追い求めることの不毛を理解するようになるかもしれない。イスラエルもエジプトも、ハマスを信頼していない以上、第3次インティファーダを回避するには、ガザ地区の封鎖を解除し、その境界線をパレスチナ自治政府に監視させるしか手はないだろう。

レバノン化する中東
―― 重なり合う宗派主義と地政学の脅威

2014年9月号

バッサル・F・サルーク レバノン・アメリカ大学准教授(政治学)

2014年は中東におけるリアリストの地政学抗争に感情的な宗派対立が重なり合う新しい地域秩序が誕生した時代としていずれ記憶されることになるかもしれない。宗派対立へと中東の流れを変化させるきっかけを作り出したのは、2003年のアメリカのイラク戦争だった。その後、地政学抗争と宗派アイデンティティの重なり合いはシリア内戦によってさらに固定化され、これが紛争の破壊性と衝撃を高めている。最近のイラクにおける「イスラム国」(ISIS)の軍事攻勢と勝利も、「排他的で視野の狭い宗派、民族、宗教、部族主義の政治化」という2003年以降のトレンドを映し出している。いまや中東全域がレバノン化しつつある。

CFR インタビュー
イラクの混迷と流動化
― 分裂か統合の維持か

グレゴリー・ゴース ブルッキングス研究所ドーハセンター シニアフェロー

バグダッドを攻略し、多くの石油資源が存在する南部を支配し、新たに政府を樹立することがイラク・シリア・イスラム国(ISIS)にとっての勝利の定義だとすれば、彼らが勝利を収めることはあり得ない。そうした目的を実現するにはISISの組織規模は小さすぎるし、すでに多数派であるシーア派は対抗戦略をまとめている。問題は、マリキ首相がスンニ派の政治家だけでなく、一部のシーア派の同盟勢力も切り捨て、影響力を抑え込み、権力を一元的に管理していることだ。マリキ個人の問題だけでなく、サダム・フセイン時代に遡るイラクの民族・宗派間の対立が根深いことも考慮する必要がある。要するに、イラクの政治階級は国をうまくまとめられずにいる。今回の危機をきっかけに、互いに対する反感を克服し、ISISの脅威に対抗できる政府を形作れる可能性は低いだろう。(報道によれば、ISISは6月下旬に「カリフ」を指導者とするイスラム国家を樹立すると一方的に宣言し、クルド自治政府も6月下旬に、今後の政治状況を見極めた上で、独立を目指す考えを示している)。・・・・(聞き手はMohammed Aly Sergie、Online Writer/Editor)

トルコ国境とシリア内戦
―― なぜトルコはシリア政策を見直しているか

2014年8月号

カレン・レイ シリア・ディープリー編集長

シリアが内戦に陥って以降、トルコ政府はシリアの反政府勢力がトルコ南部を兵士や物資の調達ルートとして利用することを認めてきた。問題は、穏健派集団とヌスラ戦線やイラク・シリア・イスラム国(ISIS)などのジハード主義集団を区別しなかったことだ。これによって、トルコと欧米との関係も悪化した。ここにきてアンカラがヌスラ戦線をテロ組織と認定したことで、欧米との関係は少しばかり改善するかもしれない。だが、ヌスラ戦線をこの段階で切り捨てても、もはや、シリアにおけるイスラム過激派の拡大を抑え込むのは難しいだろう。一方では、シリア難民の大規模な流入によって、トルコは大きなコスト負担を余儀なくされており、トルコ市民の苛立ちは高まっている。・・・・

なぜ国は分裂するのか
―― 国境線と民族分布の不均衡

2014年8月号

ベンジャミン・ミラー ハイファ大学教授(国際関係論)

「戦争か平和か」が問われる事態となると、民族集団は、国内のライバル集団よりも、他国における宗教・民族的な同胞と共闘しようとする。ウクライナ市民の多くは、自分たちにとって「異質なロシア」の支配から独立することを望んでいるが、一方でクリミアやウクライナ東部に暮らす人々は、(欧米志向の)「異質なウクライナ」による支配からの解放を望み、ロシアの一部となるか、ロシアと深く結びついた国を作る必要があると考えている。中東でも同じストーリーが展開している。すべてのレバント諸国は、シリアの内戦をめぐって内に分裂を抱えている。スンニ派国家はスンニ派率いる武装勢力に戦士、武器、資金を供給し、シーア派国家は、(シーア派の分派とみなせる)アラウィ派のアサド政権に同様の支援を提供している。こうした国と民族の間の不均衡を解決するには、さまざまな方法があるものの、厄介なのはそのすべてが問題を伴うことだ。

ガザ侵攻とイスラエルの戦略的敗北
―― ハマスはすでに勝利を手にしている

アリエル・イラン・ロス イスラエル・インスティチュート エグゼクティブ・ディレクター

ハマスとイスラエルの紛争がいつどのような形で決着しようと、イスラエルが戦術的な勝利を収めること、そして戦略的に敗北を喫することはすでに明らかだ。イスラエル側は、「今回の紛争の終結時に有利な政治状況は作り出せないかもしれないが、少なくともハマスが戦略目的を達成することはない」と考えているようだ。「イスラエル人の犠牲者が少ない以上、それはハマスの敗北を意味する」と。だが、この見方は間違っている。ハマスの戦略目的は「イスラエル人の日常を揺るがすこと」にある。「パレスチナ問題が政治的膠着状態に陥っても、大きなコストを抱え込むことはない」というイスラエル市民の幻想はすでに突き崩されている。しかも、ハマスのロケット攻撃の被害者としてのイスラエルは、侵攻策をとったことでいまや加害者とみなされている。・・・・

イラクの混乱と石油市場

2014年8月号

ジョン・スファキアナキス MASIC チーフインベストメントストラテジスト

スンニ派武装勢力の攻勢がイラク原油の供給を混乱させ、原油価格は大きく変動することになるのか。すでに原油価格は過去10カ月で最高のレベルへと上昇している。しかし、パニックに陥る必要はない。仮にイラクからの輸出が今後長期的に大きく混乱しても、需給ギャップを埋めるためにできることは数多くある。その最大のツールがサウジの生産調整能力だ。しかも、産油国の財政を均衡させるために必要とされる原油産出(輸出)レベルは上昇し続けている。リヤドは、イラク危機が供給の混乱を生じさせるかどうかに関係なく、自国の財政上の理由から生産を強化せざるを得ない状況にある。・・・

イラク・シリア問題にどう対処するか ―― 分割による連邦国家化を

2014年7月号

レスリー・ゲルブ 米外交問題評議会名誉会長

オバマ政権は明確な戦略をもつ必要がある。包括的な戦略枠組みを意識した行動をとらない限り、結局は何をしてもうまくいかない。先ず、イラクの混乱に関連する本当の脅威を作り出しているのが誰であるかを特定しなければならない。答えは、シリアでもイラクでも脅威を作り出しているのは(スンニ派の)ジハーディストだ。したがって、この脅威に対抗することに利益を見いだす勢力を特定し、連帯を組織する必要がある。それは皮肉にもアサド政権やロシア、イランに他ならない。アサド政権もイランもロシアも、スンニ派の過激主義集団を敵視している。私なら、現在の問題に対処するためにイランと取引する。スンニ派のジハード主義者がイラクとシリアで大きな影響力を手にすれば、将来における和平への道筋を描くための政治的解決策を模索するのは不可能になる。実際、シリア、イラク双方における見込みのある平和への道筋を描くには、(ジハード主義勢力を抑え込んだ上で)連邦制を導入するしかないだろう。(聞き手はバーナード・ガーズマン、consulting editor@cfr.org)

CFR Meeting
イラクと中東の宗派間紛争
―― イラク分裂の意味合い

2014年7月号

◎スピーカー
  スティーブン・ビドル ジョージワシントン大学教授
マックス・ブート 米外交問題シニアフェロー(国家安全保障担当)
ミーガン・オサリバン ハーバード大学教授
◎プレサイダー
リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イラクの混乱は中東におけるより大きな危機の一部であり、最終的にはこれによって中東の地図が書き換えられることになるかもしれない。(R・ハース)

(イラクにおける)過酷な民族・宗派間紛争は数週間、数カ月という単位ではなく、数年という長期的なスパンで続くだろう。その途上で人道危機も起きるだろうし、この環境のなかでテロが起きる危険もある。だがもっとも厄介なのは、イラクの長期的な内戦が地域的に拡散していく危険が非常に高いことだ。(S・ビドル)

イラクの統一を保つことがわれわれの目的だと言い続けるだけで、その一方でイラクの分裂をいかに管理するかを考えないとすれば、政策決定者としての責任を放棄することになる。(M・オサリバン)

すでに事実上の分裂は始まっている。イランの革命防衛隊(IRGC)がその傘下組織を使って南部のシーア派地域を支配し、ISISと旧バース党メンバーがスンニ派地域を支配している。・・・クルド地域はうまく統治されるとしても、他のイラク地域は紛争に覆われつくすことになりかねない。(M・ブート)

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