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ヨーロッパに関する論文

ユーロの課題とイタリア経済の再建

2012年11月号

マリオ・モンティ
イタリア首相

ヨーロッパは深刻な統治危機に直面している。各国の指導者と財務相たちは立場を譲って明確な危機対応路線にコミットしたいと考えつつも、一方で、その政策をどのように国内の有権者に受け入れさせるかも考えなければならない。こうして閣僚たちはEUの会議での妥協に関する独自の解釈を国内向けにそれぞれに発表する。帰国して、議会の公聴会の席にたつと、また別の解釈を述べる。ブリュッセルでの長い会議を経て、議長が声明を発表しても、各国の閣僚たちが別のアングルからのコメントを出す。そして立場の違いが広がっていく。その結果、最初の数時間、あるいは数日は前向きな反応を示していた市場も、その後、再びネガティブな方向へと振れていく。・・・やらなければならないことは二つある。一つは、状況を安定化させるための政策を実施することだ。もう一つは、ユーロの将来に向けた説得力のあるビジョンを示すことだ。10年後にユーロが存在すると確信できなければ、誰もがユーロ建てで投資することを躊躇する。

独立を求めるスコットランドの真意は

2012年11月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授

スコットランドは1997年の住民投票で独自の行政府を持つことを選択し、2014年末には分離独立を問う住民投票が実施される。スコットランド議会の多数派であるスコットランド民族党(SNP)は、イギリスからの分離独立を明確に政治目標に掲げている。現代のスコットランドのナショナリストたちは、「スコットランド人の政治的・社会的価値観はイングランド、ウェールズ、北アイルランドのそれとは異なる」という理由で独立を模索している。世論調査によれば、実際に住民投票が行われても分離・独立派が勝利する可能性は低い。より「高度な地方分権」を認められるのなら、それで人々は満足なのかもしれない。しかし、地方の特質、統合された統治、そして民主的プラクティスは共存できるし、相互に補強しあうという理念を具現する存在だったスコットランドが、今後、力強い地域主義を分離独立主義に変貌させるモデルになっていくとすれば、非常に残念な事態だ。

それでもユーロは存続する
―― 欧州版IMFとしての欧州中央銀行のポテンシャル

2012年10月号

C・フレッド・バーグステン  ピーターソン国際経済研究所所長

ユーロ危機が再燃するたびに、専門家の多くがユーロの崩壊を口にする。だが、そうした予測は、不備のある制度を再構築しようと試みているECB(欧州中央銀行)の駆け引きが成功していることを見過ごしている。すでに、ECB、ドイツ、フランスを含むすべての主要プレイヤーは、共通通貨の崩壊がもたらす壊滅的なコストを認識し、これを阻止しようと試みている。最大の問題は、ユーロが財政同盟、銀行同盟など通貨同盟を支える制度やメカニズムをもっていなかったことだが、この欠陥も危機対応プロセスのなかで次第に是正されつつある。ECBは、ユーロ危機を収束させること以上に、各国の指導者たちに、ユーロ圏の制度を抜本的に改革し、各国の経済を構造的に再構築するように促している。ギリシャがユーロから離脱するとしても、いずれヨーロッパは現在の混乱から抜け出し、より明るい見通しをもって、未完のプロジェクトの実現に向けて歩み出すことになるだろう。

CFR Interview
ユーロ解体、存続の鍵を握るスペイン

2012年10月

ミーガン・グリーン
ルービニ・グローバルエコノミクス、
欧州経済担当ディレクター

ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのような比較的小さな周辺国経済の危機はなんとか管理できたが、EUはスペインとイタリア経済の双方を救える規模の資金は持っていない。つまり、スペインのケースは、ヨーロッパが危機を管理できるか、それとも、管理できなくなるかの試金石なのだ。おそらく2013年のどこかの段階で、スペインは市場から資金を調達できなくなり、この段階でスペインは全面的なトロイカの支援、つまり、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、ECBによるベイルアウトのすべてを必要とするようになる。そして、スペインにベイルアウト策がとられれば、今度は誰もがイタリアに注目する。仮に危機がスペインとイタリアに全面的に広がりをみせていけば、ソブリン危機、銀行危機がユーロゾーン全体に広がりをみせ、ユーロ圏は全面的に解体していく。問題は、ユーロゾーンを維持して持続的な成長路線に立ち返るには、各国が構造改革を進める必要があるにも関わらず、政治家は誰もが次の選挙での再選を念頭に政治ゲームを展開し、政府も本腰を入れて構造改革に取り組んではいないことだ。

統合の危機とヨーロッパの衰退

2012年10月号

ティモシー・ガートン・アッシュ
オックスフォード大学歴史学教授

戦後のドイツにとって、ヨーロッパ諸国の信頼を取り戻すことが、ドイツ統一という長期的目的を実現する唯一の道筋だった。財政同盟という支えを持たない通貨同盟が構造的な問題と崩壊の火種をはらんでいることを理解した上で、西ドイツはドイツ統一のためにあえてユーロを受け入れた。そしていまやヨーロッパはユーロ危機に覆い尽くされ、漂流している。かつてこの大陸を統合へと向かわせた戦争の記憶もソビエトの脅威も希薄化するか、消失している。瓦礫のなかから統合を目指し繁栄を手にした戦後世代とは違って、現代の若者たちは繁栄から失業へ、希望から恐れへと、まったく逆の変化を経験している。統合の維持に向けた新しい源流、エリートと市民たちを統合の維持へと駆り立てる新たな流れが生じない限り、ヨーロッパは、かつての神聖ローマ帝国同様に、ゆっくりとその効率と価値を失い、衰退していくことになるだろう。

債務ブレーキとドイツ経済のジレンマ
―― 国内投資か債務削減か

2012年9月号

アダム・トーズ イェール大学歴史学教授

ドイツ経済はどうみても持続可能な状況にはない。民間投資の多くは外国へと向かい、国内投資はかつてなく低調だ。しかも、憲法に連邦政府と州政府の双方に均衡予算の維持を求める条項が付け加えられたことで、政府による借入が事実上できなくなっている。教育、エネルギー、育児など公的投資を必要としているセクターが数多くあるにも関わらず、政府は既存のプログラムを打ち切ることで、投資資金を捻出し、あとは、民間投資の活性化に期待するしかない状態にある。持続的な財政のためには、「肥大化する支出を抑える政策」、そして一方での「成長戦略」が必要だ。財政赤字に苦しむドイツの州、そして危機によって追い込まれているヨーロッパ諸国が成長戦略も必要としていることをメルケルは忘れている。ベルリンは国債で資金を借り入れ、それを投資に用いるかつてないチャンスを手にしている。だがこのままでは、ベルリンはそのチャンスを見過ごすことになりかねない。

銀行に規律を与えるには
――LIBORスキャンダルの三つの問題

2012年9月号

ジョナサン・メイシー
エール大学法学部教授
(会社法、企業財務、証券取引法専攻)

日米欧の政府は、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利操作疑惑をめぐって大手銀行16行を調査している。一部の大手銀行は金利の不正操作を行うことで、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、デリバティブ、住宅ローンなどの金融商品の実勢価値を故意に歪め、不当な利益を得たと考えられている。今回のLIBORスキャンダルは三つの問題が重なり合っている。第1は、銀行がLIBORレートを故意に低く報告したこと。第2は、運用利益を水増しするためにLIBORを不正操作したこと。そして第3は、住宅ローンの変動金利を決める際に、米国債のほうが指標基準として望ましく、また採用にあたって何も障害がなかったにもかかわらず、LIBORを採用したことだ。さらにひどいことに、一部の銀行は自行の取引ポートフォリオで不当に利益を得るため、あるいは、損失を隠蔽するためにLIBORを不正操作したようだ。だが変動金利の根幹を成す原理は「借り入れコストの決定を市場の判断に委ねること」だ。銀行が市場の信頼を回復するにはLIBORを金利指標として使用するのをやめ、米国債金利など、市場の実勢レートを金利指標として採用するべきだろう。

金融危機で揺るがされるEUの政治的未来

2012年8月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会ヨーロッパ担当シニア・フェロー

本来であれば、通貨統合の進展に併せて政治領域での統合も深化させるべきだった。具体的には、財政統合、銀行同盟を制度化するとともに、アメリカの連邦準備制度(FRB)並の大きな能力と権限を持つ欧州中央銀行を作り上げるべきだった。だが、ヨーロッパはこれらの監督機関が必要であることを理解していたにも関わらず、ユーロ導入へと見切り発車をした。適切な監督機関がなく、しかも、北ヨーロッパと南ヨーロッパの経済体質に大きな違いが存在したことが、ユーロの命運を脅かし続け、今日に至っている。そしていまや、危機に対応するためにも、EUの統合をさらに深化させるべきかどうかが問われている。だが、イギリスがEUから脱退する可能性も排除できないし、金融危機が長期化するなか、ヨーロッパ市民の間ではEUに対する反発が高まっている。

銀行同盟でユーロゾーンを救えるか

2012年08月

ドメニコ・ロンバルディ
ブルッキングス研究所シニアフェロー

通貨同盟が存在するのに、ユーロ危機以降、資金は投資国へと舞い戻り、資金が国境を越えて動かなくなってしまった。「単一の銀行監督機関があり、しかも、窮地に追い込まれた銀行を、政府を経由せずに直接的に支える制度があれば、ユーロゾーン内での資金の流れを取り戻すことができる」。これが銀行同盟の基本的アイディアだ。・・・だが、完全な銀行同盟を立ち上げるには、かなり踏み込んだ財政同盟が必要になる。

不確実性に覆われた ヨーロッパ経済

2012年7月号

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェロー

銀行危機に介入するのはECB(欧州中央銀行)の役目の一つだ。ECBはすでに大規模な銀行部門への資金注入を行っているが、必要になれば、再度の資金注入も検討するだろう。だが、ECBがそうするには、相手国が改革への真剣なコミットメントを示すことが条件になる。いまやヨーロッパは鶏が先か卵が先かという問題に直面している。

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