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ヨーロッパに関する論文

人口の高齢化と生産性

2016年6月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

高齢社会は若年層が多い社会に比べて生産性が低くなる。この問題に正面から対峙しなければ、人口が減少し、高齢化が進むだけではなく、豊かさを失うことになる。生産性は45歳から50歳のときにピークに達するが、その後、下降線を辿る。つまり、高齢者がうまく利用できない高度な技術を導入してもその生産性を向上させることはできない。むしろ、人口動態の変化と生産性のダイナミクスとの関連を断ち切ることを目指した政策を併用すべきだ。例えば、ロボティクスやIoT(インタネット・オブ・シングズ)のような技術への投資を増やし、高齢者に関連する生産性の低い労働をこれらの技術で代替していくべきだろう。すでに日本の安倍晋三首相は、この視点から高齢者のための介護ロボットや自律走行車の開発技術を日本再生戦略の中核に位置づけている。・・・

クリーンエネルギー投資の強化を
―― 温室効果ガスの削減では惨劇を回避できない

2016年6月号

バルン・シバラム / 米外交問題評議会フェロー(エネルギー担当)
テリン・ノリス / 前米エネルギー省特別顧問

クリーンエネルギー技術が大きく進化しない限り、各国が現在の温室効果ガス排出量削減の約束を実行しても、おそらく地球の温度は2・7―3・5度、上昇する。この場合、(異常気象の激化や海面水位の上昇による水没など)グローバルレベルでの惨劇に直面するリスクがある。一方、新しい原子炉の設計によって、核燃料のメルトダウンリスクを物理的になくせる可能性もあるし、ナノテクノロジーによる膜を利用すれば、化石燃料発電所からの二酸化炭素排出を防げるかもしれない。壁紙と同価格で太陽光発電できるコーティング素材ができれば、消費する以上に電力を生産できるビルが立ち並ぶだろう。問題はこうした夢のようなクリーンエネルギーテクノロジーへの投資が十分でないことだ。投資を促すには、政府が投資を主導するとともに、その枠組みを国際的に広げていく必要がある。

大西洋同盟の未来
―― トランプが投げかけた波紋

2016年5月号

ヤンス・ストルテンベルグ NATO事務総長

「われわれは(NATOメンバー国を)守っている。彼ら(ヨーロッパ)はあらゆる軍事的保護を受けているが、アメリカ、そして納税者であるあなたたち(アメリカ市民)に、法外な資金を負担させている。これは問題がある。過去の分を含めて、(ヨーロッパのメンバー国は)資金を完済するか、同盟から出て行くべきだ。それがNATOの解体を意味するのなら、それはそれでかまわない」。予備選挙の共和党大統領候補、ドナルド・トランプはNATO批判を強めている。NATO事務総長、ヤンス・ストルテンベルグは、これに対する直接的なコメントは避けつつも、ヨーロッパ側が防衛予算を増やす必要があることを認めた上で、「より危険な世界に対処していく答は、これまで大きな成功を収めた強靱な同盟関係(NATO)をダウングレイドすることではなく、同盟関係をもっと強化することだ」と主張する。・・・(聞き手は、フォーリン・アフェアーズ誌のデュピティ・マネージングエディター、ジャスティン・ヴォグト)

CFR Events
苦悩するヨーロッパ

2016年5月号

スピーカー
ペテル・バラージュ 中央ヨーロッパ大学 ディレクター
ハイジ・クレボ=レディカー  米外交問題評議会シニアフェロー
アナンド・メノン キングス・カレッジ・ロンドン 教授(ヨーロッパ政治)
プレサイダー
ローラ・ゼレンコ  
ブルームバーグ エグゼクティブエディター(マーケット)

「EUからの完全な脱退を望む人」と「片足を抜くべきだ」と考える勢力の間でキャンペーンが展開されている。そこに、残留することの利点を重視する勢力は存在しない。・・・但し、国民の判断を仰いだ後、政府が何をするかが法的に定められていない。僅差で(脱退を支持する)結果が出た場合でも、イギリス政府は(EUに脱退を申請するのではなく)、むしろ、(残留を前提に)ブリュッセルでイギリスとEU間の問題の是正を再度試みるかもしれない。(A・メノン)

「ヨーロッパは、自分が作り出した問題を解決することについては長けている。共通通貨ユーロの危機がそうだったし、欧州憲法の起草もそうだった。一方、ヨーロッパのシステムは28カ国のメンバーを前提に作られているために、ロシアであれ、難民であれ、想定外の国や人が入り込むとうまく機能しなくなる。これは外部要因が入り込むと、28カ国間の責任分担、コストと利益の分配のためのメカニズムが混乱するためだ」(P・バラージュ)

「イスラム教徒たちは、トランプの立場がヨーロッパ全域での反イスラム感情を煽り立てることになりはしないかと警戒していた。実際、トランプの立場は、反移民の立場をとる右派、反EU政党の立場を勢いづけている。とはいえ、ヨーロッパでもアメリカでも格差問題が根底にあり、これがグローバル化に取り残されたと感じている右派と左派を勢いづかせている」(ハイジ・クレボ=レディカー)

文明は衝突せず、融合している
―― 将来を悲観する必要はない

2016年5月号

キショール・マブバニ シンガポール国立大学 リー・クアンユースクール学院長
ローレンス・サマーズ  ハーバード大学名誉学長

昨今の欧米世界ではイスラム世界の混乱、中国の台頭、欧米の経済・政治システムの硬直化といった一連の課題に派生する悲観主義が蔓延している。とにかく欧米人の多くが自信を失ってしまっている。しかし、悲観主義に陥る理由はない。悪い出来事にばかり気を奪われるのではなく、世界で起きている良いことにもっと目を向けるべきだ。この数十年で非常に多くの人が貧困層から脱し、軍事紛争の数も低下している。とりわけ、世界の人々の期待が似通ったものになってきている。これは、グローバルな構造の見直しをめぐる革命ではなく、進化へと世界が向かっていることを意味する。現在のペシミズムの最大の危険は、悲嘆に暮れるがゆえに悲観せざる得ない未来を呼び込んでしまい、既存のグローバルシステムを再活性化しようと試みるのではなく、恐れに囚われ、欧米がこれまでのグローバルなエンゲージメントから手を引いてしまうことだ。

ローマ史はわれわれに何を問いかける
―― 近代政治への教訓

2016年4月号

マイケル・フォンテーヌ コーネル大学准教授(古典)

ローマ人はすでに5世紀末までに、その後、19世紀半ばまで西洋世界が実現できなかった高度な生活レベルを享受していた。そこには水洗トイレ、大理石のキッチンカウンター、屋内暖房、美容歯科まであった。ローマはこのライフスタイルを「元老院とローマの市民」(SPQR)として知られる、市民と選挙で選ばれる指導者との関係を通じて保障していた。そうした古代ローマの歴史には近代政治の教訓とできるエピソードが数多くある。移民問題、予防攻撃、ポリティカル・コレクトネス、宗教集団への対応、マイノリティの扱いなどだ。紀元前146年にローマがカルタゴ相手に最終的に勝利を収めて以降の歴史は、新たな一極世界における覇権が伴う問題が何であるかもわれわれに教えている。その後、ローマでは対外的な敵の消失によって、内的な権力抗争が展開されるようになり、小さな脅威でさえも帝国の存続を脅かす脅威とみなされるようになった。・・・

グローバル化したイスラム国
―― 増殖する関連組織の脅威

2016年4月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

欧米諸国が、国内の若者たちがイラクやシリアへ向かうことを心配していればよかった時代はすでに終わっている。ジハード主義者たちが、中東だけでなく、中東を越えたイスラム国のさまざまな「プロビンス」を往き来するようになる事態を警戒せざるを得ない状況になりつつある。「プロビンス」を形づくる関連組織の存在は、イスラム国の活動範囲を広げる一方で、地域紛争における関連組織の脅威をさらに高めており、いずれ関連集団による対欧米テロが起きる恐れもある。だが、われわれは「コア・イスラム国」の指導者と、遠く離れた地域で活動するプロビンスの間で生じる緊張をうまく利用できる。適切な政策をとれば、アメリカとその同盟国は「プロビンス」と「コア・イスラム国」に大きなダメージを与え、相互利益に基づく彼らの関係を破壊的な関係へと変化させることができるだろう。

「ドイツ主導のヨーロッパ」に挑むイタリア
―― マッテオ・レンツィはヨーロッパに代替策を提供できるか

2016年3月号

アンドレア・マモーン ロンドン大学ロイヤルホロウェイ 歴史学講師

ドイツが主導するヨーロッパ政治への反発はかつてなく高まっている。親ヨーロッパ派であるはずの経済エリートたちでさえ、ドイツが主導するヨーロッパ政治に不信感を募らせ、(緊縮財政にこだわるベルリンの頑迷な路線がヨーロッパ各国の投資と経済の再生を阻んでいると考えている。こうしたドイツ批判の急先鋒を担いでいるのが、イタリアのマッテオ・レンツィ首相だ。実際、ドイツ主導で進められた経済政策は景気を浮揚させることに成功していないし、失業率も低下していない。ローマはようやく、ベルルスコーニ政権期に失った信頼性と外交的停滞を回復しようと試み、巻き返しを図りつつあるようだ。実際、レンツィがEU内部で力を結集できれば、ナショナリズム、極右、反EU勢力とは関係のない、ドイツパワーへの代替策を提供できるかもしれない。

ヨーロッパの価値を救うには
―― イスラム系難民とヨーロッパ的価値の危機

2016年3月号

アレクサンダー・ベッツ オックスフォード大学教授 (国際関係論、強制移住策)

ヨーロッパ市民がイスラム系移民を歓迎していないのは事実だが、問題は、極右政党がこうした市民の不安につけ込んで、排外主義を煽り立てているのに対して、その他の政治的立場をとる政治家が、沈黙を守っていることにある。大衆がイスラム教徒に懸念をもつ社会環境のなかで、パリでの同時多発テロ、そしてケルンでの女性を対象とする性的暴行・強奪事件が起き、これがヨーロッパの難民問題の決定的なゲームチェンジャーとなった。だがヨーロッパにとっての真の問題は、市民がヨーロッパのイスラム教徒をどうみなすべきか、「難民や移民」と「テロリストや犯罪者」の区別をどうつけるかについて、政治家たちがビジョンを示してこなかったことにある。彼らは、選挙に悪影響がでたり、メディアにレッテルを貼られたりすることを懸念し、口を閉ざしてきた。こうして市民の反応は混乱し、思い込みに囚われるようになり、ヨーロッパの価値が脅かされている。・・・

イギリスの新しい国際的役割とは
―― 衰退トレンドを克服するビジョンを

2016年3月

ピーター・マーチン APCOワールドワイド アソシエート・ディレクター

イギリスの政治階級は、バックミラーを見ながら、将来を考えようとしている。このために、変化する世界におけるイギリスの地位について考えることができずにいる。この現状の根底にあるのは、国家アイデンティティの危機だ。歴史的に、イギリスは世界の覇権国からの凋落を正面から受け止めてこなかった。この国の世論調査では依然として「我が国は大国であり続けることを望むべきか」という問いかけがなされる。2015年の調査でも63%がイエスと答えているが、世界は、大国としてのイギリスの時代が終わっていることを知っている。イギリスの衰退を覆すには、過去を前提にするのではなく、未来から現在を捉える必要がある。ロンドンは、イギリスのことを「グローバル化を促進するとともに、その問題に対処していくことを目的とする思想と議論を提供し、橋渡し役を担う存在にすること」を考えるべきだろう。

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