1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

ヨーロッパに関する論文

解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか

2019年4月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策)
ジェレミー・シャピロ 欧州外交問題評議会 リサーチディレクター

トランプ政権の最初の2年間にわたって、ヨーロッパの指導者たちは「虐げられた配偶者」のような状態に追い込まれた。酷い扱いを受けながらも、離婚を恐れ、状況は改善すると見込みのない期待に思いを託してきた。しかし、離婚は避けられなかった。トランプ政権にとって、大西洋関係の統合とは、ヨーロッパがアメリカの言う通りに動くことを意味するに過ぎなかった。すでに同盟は死滅している。今後、アメリカが、ヨーロッパのノスタルジックな幻想のなかに存在する利他的なパートナーになることはあり得ない。新しい大西洋関係には、同盟の価値を認識する米大統領と、域内の分裂を克服し、米欧の平等なパートナーシップにコミットするヨーロッパ人が必要になる。

国家を支えるナショナリズム
――  必要とされる社会契約の再定義

2019年3月号

アンドレアス・ウィマー コロンビア大学教授(政治哲学)

国家への忠誠が、外国人、反抗的とみなされている国内の少数派などの他者を悪魔視することにつながるのは事実だ。だがナショナリズムとは、啓蒙的な教育を通じて現代政治から消し去れるような不合理な感情ではない。ナショナリズムは近代世界における基本原則であり、評論家が認める以上に広く受け入れられている。実際、民主主義、福祉国家、公的教育のような制度にイデオロギー的基盤を提供してきたのはナショナリズムだ。これらのすべてが、目的と相互義務を共有する統合された民衆の名の下に正当化されてきた。新旧の国民国家にとっての課題は、網羅的な連帯を構築、あるいは再構築することで、社会的盟約を刷新することだろう。政治的参加が拡大すれば、より穏やかなナショナリズムが育まれる。

次の金融危機に備えよ
―― なぜ危機は繰り返されるのか

2019年1月号

カーメン・ラインハート ハーバード大学ケネディ・スクール 教授(国際金融システム)
ヴィンセント・ラインハート スタンディッシュ チーフ・エコノミスト

一般的に金融危機は特定の資産価値が暴落し始め、それに引きずられて他の資産の価値が下落することで始まる。広く経済で大きな役割を占めている限り、いかなる資産の暴落も危機のきっかけを作り出す。2007年の危機は、金融危機が「普通のリセッションよりもはるかに大きなダメージを引き起こし、ダメージからの回復にもより長い時間がかかること」をわれわれに改めて認識させただけでなく、「政府が迅速かつ決意に満ちた対応をみせれば非常に大きな違いをもたらせること」も示した。結局、金融メルトダウンがもたらす災難の背後には、貪欲、恐怖、歴史を忘れがちであるという重要な人的要因が存在する。あれほど衝撃的だった直近の金融危機が最後の金融危機にならない理由はここにある。

ポピュリズムとカトリック教会の分裂
―― リベラルな教皇フランシスコへの反発

2019年1月号

R・R・レノ ファースト・シングズ誌編集長

カトリック教会はいまや世俗政治の泥沼に引きずり込まれている。欧米諸国の政治を揺るがしている「エスタブリッシュメントに対するポピュリストの反乱」がカトリック教会にも影響を与えている。実際、教皇フランシスコは、カトリック教会を、「開放性」を支持する欧米の文化や政治エスタブリッシュメントの立場と一体化させている。結婚に関する教会のルール見直し、移民について教皇が示してきた見解は、どちらも欧米のアッパーミドルクラスのエリートの考え方と一致する。これに対する反動が教会内で起きている。欧米諸国の政治文化を揺るがしているポピュリズムが、いまや、カトリック教会も揺るがしている。

幻想に覆われたイギリス政治
―― ブレグジットと果たされなかった約束

2019年1月号

ピーター・A・ホール ハーバード大学教授(ヨーロッパ研究)

幻想に包み込まれてしまったイギリス政治というファンタジーランドの住民たちには、現実が見えてないようだ。保守派、つまり、頑迷な離脱派は、テリーザ・メイがまとめた離脱合意を非難し、まるでもっと良い選択肢があるかのように、これでは「ヨーロッパへの隷属」と同じだと批判している。一方、左派の労働党は、伝統的な支持基盤である労働者階級が望むとおり、ブレグジットは受け入れるとしつつも、但し、それはEUメンバーだったときと同様に好ましい条件をEUから引き出した場合だけだと条件をつけている。現状は政治的ホラームービーのようなものだ。主要な政治プレイヤーが目を通している台本に書かれていることと現実の関連がほとんどないだけに、どのような結末になるかはまったくわからない。

カトリック教会の重大な危機
―― 宗教改革以来最大の危機とは何か

2018年12月号

マッシモ・ファジョーリ 米ビラノバ大学教授(神学・宗教学)

カトリック教会は制度改革を切実に必要としていたタイミングで、政治的・神学的・地政学的な亀裂の拡大に直面し、いまや宗教改革以来最大の危機に直面している。聖職者による性的虐待が新たに明らかになり、世界に衝撃を与えている。ビガノ大司教は「教皇フランシスコは長年マカリックの性的虐待を知っていたにもかかわらず、その隠蔽を助けてきた」と告発する書簡を発表し、教皇の辞任さえ求めている。いまやカトリック教会は、進歩派と保守派の間で大きく割れている。それでも、おそらく現在の状況は、16世紀の宗教改革のようなカトリックの分裂や、新しい教会の設立にはつながっていかないだろう。より現実性が高いのは、ローマ・カトリック教会が、中央とのつながりが緩く、より国家に根ざした東方正教会のような制度構造に向かっていくことだ。・・・

資本主義の暴走をどう是正するか
―― 現状に対応できる政治連合とは

2018年11月号

スザンヌ・バーガー マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

グローバル化の衰退とともに、経済ナショナリズムが復活し、いまや多くの人が「堅固に守られた国境線が、社会の安定と繁栄を脅かす外国からのサービス、資金、人の流れを遮断していた時代」にノスタルジーを感じている。だがその黄金期がどの時代だったのかを彼らは特定していない。一方、左派の知識人は、アメリカの黄金期は、「資本主義、平等、民主主義間のバランスをうまくとれることを示した」1930年代のニューディール改革以降、1960年代まで続いた時代だったとみている。しかし、ニューディール連合の経済的盟約は消滅している。「野放しの資本主義」をどうすれば制御できるのか。グローバル化と社会がともに進化していけるようにするには、どのような政治的連合と盟約を新たに構築すればよいのか。

外交的経済パワー乱用の果てに
―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

2018年11月号

ジェイコブ・ルー 前米財務長官
リチャード・ネフュー 前国務省次席コーディネーター(経済制裁政策担当)

経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

中ロによる民主国家切り崩し策
―― 台頭する権威主義モデルと追い込まれた欧米

2018年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター シニアフェロー
デビッド・シュルマン  国際リパブリカン研究所 シニアアドバイザー

民主主義を切り崩していけば、欧米の影響力低下というトレンドを加速し、ロシアと中国の地政学的目標を促進できる。これが、中ロが共有している中核ビジョンだ。自国のパワーをアメリカのそれと比較して相対的に捉えるモスクワと北京は、欧米民主国家を衰退させれば、自国の国際的な地位向上につながると考えている。ロシアが民主体制を様々な方法で混乱させ、切り崩す一方で、中国が欧米民主主義の代替モデルを示し、困難な状況にある国に援助や投資を提供することで、弱体な民主国家が欧米から離れていく環境が作り出されている。これが侮りがたい権威主義モデル台頭の潮流を作り出しつつある。

長期化する金融危機の政治的余波
―― 極右政党の勢いが止まらない理由

2018年11月号

マヌエル・フンケ 独キール世界経済研究所 リサーチャー
モリッツ・シュラリック ボン大学 教授(経済学)
クリストフ・トレベック 独キール世界経済研究所 教授(経済学)

なぜ金融危機は大きな政治的混乱を伴うのか。それは、危機に人が介在しているからだ。民衆は、危機を回避できなかったエリートたちを糾弾する。実際、富と権力をもつ者たちが政策上の失敗を犯し、縁故主義に走ることは多く、この場合には、既存の政治システムへの信頼が損なわれ、極右のポピュリストが台頭する。もっとも、危機から5年もすれば、議会における政党の乱立と分裂現象は影を潜め、極右勢力は勢いを失う。だが2008年の金融危機は違う。10年を経ても、政治勢力の細分化や分裂、極右勢力の台頭が続き、確立されていた政治システムが一連の衝撃によって波状的に揺るがされている。その理由は・・・

Page Top