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中国に関する論文

中国を揺るがす水資源危機

2014年9月号

サルマーン・カーン  タフト大学フレッチャースクール助教

1950年代以降、中国では2万7000の河川が枯渇し、消滅している。世界の人口の約5分の1の水資源需要を満たさなければならないのに、世界の水資源の7%しか中国には存在しない。しかも主要産業が集中し、南部よりもはるかに多くの水を使う中国北部には、国内の水資源の23%が存在するだけだ。その上、供給される水資源の多くが汚染されている。安価で潤沢な労働力に依存している中国の成長モデルは、一方で中国大陸の水資源を左右する生態系さえも大きな圧力にさらしている。もはや経済モデルを見直し、エコロジーバランスの回復を優先課題に据えるしかない。必要とされる遠大な環境改革を実行するのは、政治的に不可能に思えるかもしれない。だが、現在の政策を見直さない限り、中国社会はいずれ深刻な社会不安に陥り、水資源を軸に南部と北部が対立し、下手をすると内戦へと向かう恐れさえある。

物質主義と社会的価値の崩壊
―― なぜ中国で宗教が急速に台頭しているか

2014年9月号

ジョン・オズバーグ  ロチェスター大学助教

1976年に毛沢東が死亡し、文化大革命が終わると、共産党は階級闘争と集団主義のイデオロギーを放棄し、その結果、中国社会に巨大なイデオロギー的空白が出現した。政府が反体制派を弾圧し、宗教団体を抑圧したこともあって、その後の急速な経済成長という環境のなかで、人々は信仰やイデオロギーよりも、現実主義、そして物質主義に浸りきった。だが豊かにはなったが、人々はどこか薄っぺらな時代のなかで絶え間ない不安にさらされている。いまや中国人の多くは自らの人生に意義や価値を見いだそうとし、キリスト教やチベット仏教に帰依する人も多い。問題は、共産党が物質的に快適な生活だけでなく意義のある生活を求める声に対応する準備ができていないことだ。環境危機や経済危機によって安定と成長を維持できなくなれば、共産党は、民衆を管理するのはもちろん、民衆にアピールする手段がほとんどないことに気付くことになる。

中国の人工島造成戦略の意図は何か
―― 北京の戦略と南シナ海の混乱

2014年8月号

アンドリュー・エリクソン  米海軍大学准教授、オースチン・ストレンジ  ハーバード大学博士課程

中国はスプラトリー(南沙)諸島にあるかつては海水に隠れていたジョンソン南礁を、周辺から掘り出した海底の堆積物で埋め立て、人工島を誕生させている。他の礁や砂州でも同様の埋め立てを試みており、ファイアリー・クロス礁は言うまでもなく、クアテロン礁、ガベン礁、ジョンソン北礁でもすでに何らかの建造物の存在が確認されている。なぜ、中国はこのようなことをしているのか。自国の沿岸、あるいは島から200海里を排他的経済水域(EEZ)と規定する国際法で、自国の領有権の主張を強化するためだと考える専門家もいる。しかし、より重要なのは、アイランドビルディング(人工島造成)戦略によって、永続的なインフラを誕生させれば、軍事ネットワークを築き、スプラトリー諸島への領有権対立に対抗する戦略を多角化できるようになることだろう。いまや南シナ海の混乱のなかで新たな現実が急速に形作られつつある。

不満と反発が規定する世界

2014年8月号

マイケル・マザー 米国防大学教授

いまや世界の主要な安全保障リスクは、怒りや反発に支配された国や社会、あるいは、社会に疎外され、取り残されて不満を募らせる集団によって作り出されている。今後、安全保障上の脅威は、傷つけられたと感じ屈辱を抱く人々が、それを克服し、自分の価値を取り戻そうと試みるプロセスのなかで出現するようになるだろう。イラク、シリア、パキスタン、そしてヨーロッパ東部における最近の展開には、このトレンドが共通して認められる。ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナにおけるパワープレイも、これまでロシアを軽くあしらってきた欧米に対する積年の恨みを映し出している。中国も例外ではない。不満や反発が中国社会に充満していることは、メディアの報道や大衆文化、さらには教科書の記述やラディカルなネチズンによる過激な書き込みからも明らかだ。さらに日本やインド、そして西ヨーロッパでもナショナリズムが台頭している・・・

米中露・新戦略トライアングルで 何が変わるか

2014年7月号

デビッド・ゴードン  ユーラシアグループ・ グローバルマクロ分析ディレクター
ジョーダン・シュナイダー  ユーラシアグループ リサーチャー

冷戦期を思わせる戦略トライアングルが再び復活しつつある。冷戦期の米中ロ戦略トライアングルを巧みに利用したのはアメリカだったが、今回のトライアングルで強い立場を手にしているのは中国だ。北京は、ウクライナ危機に派生する米ロ対立をうまく利用できる立場にある。中国はロシアからのエネルギー供給を確保するだけでなく、ロシア市場へのアクセスの強化、ロシアからの軍事技術の供与を望んでいる。もちろん、戦略トライアングル内部の対立構図をはっきりと区分できるわけではない。中国にとってアメリカは依然として重要な経済パートナーだし、住民投票で国境線を変えたロシアのやり方を、国内に大きな火種を抱える中国が認めることもあり得ない。だがそれでも、この新環境のなかで大胆になった中国が、現在の東アジアにおける地域バランサーとしての役割をアメリカが遂行していくのを難しくするのは避けられないだろう。・・・

ロシア、中国と新しい外交課題

2014年7月号

ロバート・ゲーツ 元米国防長官、 ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPS ホスト

プーチンにとって、ウクライナにおける最終目的はキエフに親ロシアの政権を誕生させることだ。ヤヌコビッチほど、はっきりとした親ロ派である必要はない。東部がモスクワに目を向け、独立に近い大きな自治権を確保し、しかもウクライナがNATOやEUにこれ以上近づいていかなければ、おそらくプーチンはその状況で満足するのではないかと思う。すくなとも、当面はそうした状況で十分のはずだ。

そこに戦略的空白が存在すれば、(台頭する国家は)自分たちのナショナリスティックなアジェンダを模索するチャンスがあると考える。そしてひとたび行動を起こせば、それは自律的にエスカレートしていく。防空識別圏の設定、単なる監視船ではなく、戦闘機まで投入し始めた尖閣諸島をめぐる対日アプローチの激化、さらには南シナ海における石油掘削プラットホームの設置に象徴される、この18カ月から2年間の中国の攻撃的なアプローチを、私はこの文脈で捉えている。

新疆ウイグルで何が起きているのか
―― 中国のワイルドウエスト

2014年7月号

ケンドリック・クオ ジョンズホプキンス大学大学院生

新疆ウイグル自治区には中国で最大規模の石油、天然ガス、石炭資源が存在し、例えば、中国の石炭資源の40%がこの地域に集中している。北京は、この地域での資源開発をスムーズに進めることに最大限の配慮をしてきた。ウイグル族の不満を抑え込む一方で、漢民族の移住者たちのことを、教育を受けた労働力、新疆ウイグルにおける中央政府に忠実な市民として優遇してきた。こうして、1949年には22万程度だった新疆ウイグルにおける漢民族の人口はいまや840万へとふくれあがった。ウイグル族は漢民族の文化帝国主義に反発し、これが二つの民族の衝突を引き起こしている。だが多くの場合、見落とされているのは、いまや自治政府と漢民族コミュニティの間の緊張も高まっていることだ。漢民族の要望を政治的に追認し、政府が便宜を図るという漢民族コミュニティとの暗黙の了解は、すでに持続不可能になっている。

CFR Meeting
ケビン・ラッドが語る
北朝鮮危機、日中対立、
アジア重視戦略と中国

2013年4月号

ケビン・ラッド  前オーストラリア首相、ジョナサン・テッパーマン  フォーリン・アフェアーズ誌副編集長

「中国軍の高官を含む、私の中国の友人たちと話した感触では、中国政府は、面目を保つ形で、東シナ海の状況を安定化させ、長期的な問題の管理プロセスを日本との間で見いだそうと水面下で積極的に模索している。一方で、この問題をめぐる世論の高揚を前に、一体どうすれば実際に面子を失わずに危機を安定化できるか、疑問に感じ、困惑しているのも事実だろう」

アメリカのアジア重視戦略は、東アジアサミットへのアメリカの参加、アジア・太平洋での戦略プレゼンスを維持し、米海軍戦力の60%をアジア・太平洋に投入する軍事的リバランシング戦略、そして日本を含む環太平洋パートナーシップ(TPP)の構築という三つの支柱によって支えられている。こうした「アメリカの戦略を批判する中国の友人には、次のように答えることにしている。「北朝鮮を例外にして、アメリカのアジア重視戦略を歓迎しない国があれば、その国名を言って欲しい。ほとんどの場合、彼らは黙り込んでしまう」

中国は欧米秩序を拒絶する ―― 米中衝突が避けられない理由

2014年4月号

ミンシン・ペイ クレアモント・マッケンナ大学教授(政治学)

中国による防空識別圏の設定は「それなりの力を獲得すれば、北京は欧米の秩序に挑戦することを躊躇しない」とみるリアリストの警告が正しかったことを意味する。「開放性やルールに基づく行動」を基盤とする現在の国際システムと、「閉鎖的な政治と権力の恣意的行使」を特徴とする中国の国内体制とのギャップからみても、中国のエリート層が欧米秩序に正統性を見いだす日がやってくるはずはない。中国は今後さらに力をつけるにつれて、既存秩序の変更を求めるか、中国にとって好ましい秩序を構築しようとするはずだ。それは、独自のルールで動き、欧米を排除し、中国が支配的役割を果たす秩序になるだろう。もはやアメリカは「同盟国やパートナーとの関係を強化し、地域国家が中国に翻弄されないようにする」リアリスト路線をとるしかない。

中国発、環境汚染の衝撃

2014年3月号

ベイナ・シュウ  米外交問題評議会オンライン・ライター・エディター

中国の環境危機は、この国の急速な工業化が引き起こした切実な問題の一つだ。中国経済はこの10年というもの、年平均で約10%のGDP成長を遂げたが、一方で環境と公衆衛生を犠牲にしてしまった。いまや世界の温室効果ガス排出量の3分の1は中国によるものだし、世界でもっとも汚染された都市トップ20の16は中国に存在する。中国の大都市500市のなかで、WHO(世界保健機構)の大気基準を満たしている都市は1%に満たないと言われる。大気汚染のせいで、北部に暮らす人々の平均余命は5・5年短くなり、深刻な水質汚染と水不足によって人々の健康が蝕まれ、土壌の劣化、砂漠化も進んでいる。しかも、世界銀行によると、中国の環境汚染は、国民総所得(GNI)の約9%に相当するコストを経済に強いている。汚染は経済成長を脅かしているだけではない。市民たちは、環境政策の改善に向けた政府の対応が緩慢なために不満を募らせ、社会は不安定化しつつある。環境汚染は、中国の国際的地位を傷つけ、社会の安定、政治的安定さえも脅かしつつある。

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