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アジアに関する論文

資源開発技術の進化とアジアの海洋資源争奪戦

2012年10月号

マイケル・クレア ハンプシャー・カレッジ教授

中国の政治・経済的影響力の拡大を憂慮する日本人にとって、尖閣諸島をめぐる中国との対立は国の将来を左右する重要な試金石だし、同様に、竹島(韓国名・独島)の主権を主張する韓国政府の立場は、日本の朝鮮半島支配に対する愛国主義的な反発として国内で評価されている。だが、領土ナショナリズムよりも、東アジアの海域に膨大な石油と天然ガス資源が存在すると考えられていることが一連の問題の中枢にある。深海でも稼働できる掘削技術が開発されたこともあって、各国は海洋資源への自分たちの権利をこれまで以上に強く主張するようになった。事実、中国が強硬路線を取り始めたのは、中国海洋石油総公司(CNOOC)が深海資源掘削装置を手に入れた時期と一致している。今後、北京とハノイ、マニラ、ソウル、東京の関係が改善していくと考える理由はほとんどない。自国の近くの海洋に存在する安価なエネルギー資源を手に入れたいという願望はますます高まり、アジア経済がさらに成長していくにつれて、各国のナショナリスティックな衝動はますます大きくなっていく。

慎重なミャンマー投資を
―― 急成長の弊害に目を向けよ

2012年9月号

ブライアン・P・クレイン 前米通商代表部東南アジア担当ディレクター

コカコーラ、GE、石油企業、天然ガス企業はすでにミャンマーへの進出に強い関心を示し、すでに2011年には、中国、香港、タイを中心とする諸国が、約200億ドル規模のミャンマー投資を行っている。大きな人口と豊かな資源、そして資本流入の増大によって、いまやミャンマーは、経済ルネッサンスに必要な環境を手にしつつある。だが、急速な開放政策は大きな富をもたらすだけでなく、社会を不安定化させる。ミャンマーは「急成長」と「バランスのとれた成長」の岐路にさしかかっている。指導者たちは短期的な富を模索するのではなく、力強い中間層を育んでいくやり方を選択すべきだろう。必要なのは、国全体の必要性をバランス良く満たし、広範な経済成長を実現するのに不可欠な司法、徴税、国境管理、情報公開をささえる制度を構築することだ。制度を構築して民主的な体制を整備していかない限り、これまで同様に、恩恵のすべてを権力者が横取りし、民衆は放置されることになる。

南シナ海対立の新構図と紛争の危機
――中国の影響力拡大とASEANの内部対立

2012年9月号

ジョシュア・クランジック
米外交問題評議会東南アジア担当フェロー

南シナ海の島嶼群の領有権を主張する中国と東南アジア諸国は、誰も住んでいない岩の塊を新しい州や県あるいは市として自国の法管轄に組み入れ始めている。すでに中国は、西沙諸島や南沙諸島を含む海域を三沙市として行政管轄に組み入れ、行政を担当する役人まで任命している。その後中国は、実効支配の確立を意識してか、海域の石油と天然ガス資源に対する主権を主張するようになり、自分たちの意思をアピールするために「漁船」を係争海域へと送り込むようになった。・・・ 7月のASEAN外相会議の決裂以降、現実に南シナ海で紛争が起こりかねない状況にある。専門家は、中国が公的に新しい領土とした三沙市をめぐって今後、どのような動きをみせるかに注目している。・・・一方、ASEAN加盟国の一部が中国に急接近しつつあるために、フィリピン、ベトナム、ブルネイは、カンボジア、ラオス、そしてタイまでもが中国に取り込まれてしまうのではないかと懸念している。・・・

韓国市民の多くは、(竹島訪問という)李明博大統領の行動に大きな意義を見出したかもしれない。だが、彼が国家安全保障問題や世界における韓国の役割というアジェンダをめぐってこれまでスケールの大きな発言と行動をみせてきただけに、今回の行動には大きな違和感を覚えざるを得ない。竹島を訪問し、日本は歴史問題を含めて大国にふさわしい行動を取るべきだと示唆する発言をしたことで、李明博は韓国の地域的、グローバルな利益を犠牲にして、竹島という特定の限られた問題に不当なまでに大きな政治資源を注ぎ込んでしまった。しかも日韓両国の国益が収斂しつつあるタイミングで、トレンドにそぐわない国際環境を作りだしてしまった。李大統領の竹島訪問で(悪しき)先例が作られてしまったとはいえ、韓国の次期大統領が大きなビジョンを示してくれることを期待したい。そうすれば、日本の指導者も大所高所からの判断ができるようになる。

北朝鮮、中国、イランに対する毅然たる対応を
―― キューバミサイル危機の教訓

2012年8月号

グレアム・アリソン
ハーバード大学ケネディスクール教授

ケネディは、ソビエトがキューバに核ミサイルを配備しているという事実を前に、「長期的な戦争のリスクを低下させるには、短期的に戦争リスクを高める必要がある」と考えた。キューバ危機の教訓の一つは、戦争、そして核戦争のリスクでさえも引き受ける覚悟がなければ、巧妙な敵に対立局面において何度も裏をかかれてしまうということだ。イラン、中国、北朝鮮と相手が誰であれ、その一線を越えれば戦争も辞さないという「レッドライン」を設定しているのなら、その事実を敵対勢力に認識させ、実際に行動する決意をみせるべきだ。そうしない限り、警告は相手にされなくなる。

アジアシフト、アラブの春、北朝鮮とイラン
―― オバマ外交の功罪を検証する

2012年7月号

マーチン・インディク ブルッキングス研究所副会長 / ケニス・G・リーバーサル ブルッキングス研究所中国センターディレクター / マイケル・オハンロン ブルッキングス研究所外交政策研究ディレクター

オバマ政権が2011年末に表明したアジアシフト(リバランシング)戦略はアメリカのリーダーシップを変化させていくための試金石だ。アジアシフト戦略を成功させれば、貿易促進と投資の枠組みが形成されるだけでなく、現地の部隊と緊密に連携するより小規模で柔軟な戦力へと米軍を再編することもできる。だが、オバマがそのような新しい秩序への移行をうまく模索していけるかは、イランの核開発問題をうまく決着させられるかどうか、そして、アメリカの政治・経済力を再生できるかどうかに左右される。イラン問題が制御不能になり、再び中東の安全保障がアメリカ外交の最優先課題にされるような事態になれば、他の重要な問題が再び後回しにされてしまう。また、アメリカの経済基盤がこのまま劣化していけば、長期的な国力、そして賢明な外交政策は維持できなくなる。国内的衰退を食い止めなければ、現状を大きく上回る厄介な事態にアメリカと世界は直面することになる。

マフィア国家の台頭
―― 融合する政府と犯罪組織

2012年7月号

モイセス・ナイーム
カーネギー国際平和財団
シニアアソシエート

もっとも多くの利益をもたらす違法行為に手を染めているのは、犯罪のプロだけではない。いまや政府高官、政治家、情報機関や警察のトップ、軍人、そして極端なケースでは国家元首やその家族たちも違法活動に関わっている。世界各地で、犯罪者がこれまでにないレベルで政府に食い込み始める一方で、パワフルな犯罪組織を取り締まるどころか、政府が犯罪組織に代わって違法活動を行っている国もある。こうして犯罪組織と政府が融合した「マフィア国家」が誕生している。実際、ブルガリア、ギニアビサウ、モンテネグロ、ミャンマー(ビルマ)、ウクライナ、ベネズエラなどでは、国益と犯罪組織の利益が結びついてしまっている。犯罪組織が最初に狙うのは、腐敗した政治システムだ。中国とロシアは言うまでもなく、アフリカや東ヨーロッパ、そしてラテンアメリカ諸国の犯罪者たちは、従来の犯罪組織では考えられなかったような政治的影響力を手にしている。もちろん、政府そのものが犯罪行為を行う北朝鮮のような国もある。

変化の時代における米陸軍の役割
―― 予算削減、アジアシフト、展開能力の強化

2012年6月号

レイモンド・T・オディエルノ 米陸軍参謀総長

アメリカはアジア太平洋地域における安定の擁護者として重要な役割を果たしている。特に陸軍は平時においても重要な地域的役割を担っている。陸軍のプレゼンスは、潜在的敵対勢力の侵略に対する抑止力形成に不可欠だし、相手の軍事計画立案を複雑にするとともに、われわれのプレゼンスを無視して相手が他の軍事領域へ投資するのを阻む歯止めにもなる。・・・アジア・太平洋地域の軍事力は陸軍が主流であり、それだけに米陸軍が地域パートナーと力強い関係を維持することが、さまざまな事態に対処していく上できわめて重要だ。地域的な同期化には、言語や文化に関する教育、そして特有の装備も必要になる。・・・予算削減という現実に対応していくには、戦力の規模、装備、訓練と即応態勢という三つのバランスを均衡させていく必要がある。

インドの果たされなかった約束
―― 成長の一方で拡大する格差

2012年6月号

バシャラート・ピア
ジャーナリスト

タタ・モーターズは、2008年に英名門ブランドのジャガーとランドローバーを買収し、リライアンス財閥もスティーブン・スピルバーグの映画製作会社ドリームワークスの株の50%を取得した。大都市には派手な大型ショッピングモールが乱立している。だが、急成長を遂げる一方で、インドは依然として世界最大の貧困層を抱えている。貧困と差別は密接に関連している。蔓延する政治腐敗の問題もある。知識人のアシス・ナンディは、インドの民主主義は、選挙での勝敗しか考えない政治家によって「シフォクラシー(選挙第一政治)」に堕落したと嘆いている。政治家が選挙のことしか考えないため、紛争は放置され、インフラを再建することも、農業生産性を高めることも、医療ケアを弱者に拡大することもできずにいる。そして、こうした危機のすべての根底にあるのが、持てる者と持たざる者の格差の拡大なのだ。

Z・ブレジンスキーとの対話
――イラン抑止、ロシアの欧米化、 アジア外交の非軍事化を

2012年5月号

ズビグニュー・ブレジンスキー カーター政権大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、サム・ファイスト CNN 副会長

われわれがかつてソビエトを抑止し、現在も北朝鮮を抑止できているとすれば、イランを抑止できないと考える理由はあるだろうか。イランに対しては空爆ではなく外交と抑止路線を重視していく必要がある。・・・一方、ロシアについては、この国で市民社会が台頭していることに注目すべきだろう。帝国としての過去にこだわるプーチンも、市民社会が作り出す圧力の前に、路線を見直さざるを得なくなるはずだ。・・・・東アジアについては、中国との衝突を避けるべきで、アメリカはこの地域の軍事紛争には関与すべきではない。必要なのは、紛争を阻止するために介入することだ。もちろん、今後も維持していくべき軍事的利益も残されているが、こうした路線の前提として日本と中国の和解を促す必要がある。われわれの極東政策における軍事的色彩を弱めていく必要がある。・・・・

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