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アジアに関する論文

北東アジアにおける歴史戦争
―― アメリカの関与がなぜ必要か

2014年5月号

ギウク・シン
スタンフォード大学教授(社会学)
ダニエル・C・シュナイダー
スタンフォード大学アジア太平洋研究センター
アソシエート・ディレクター

第二次世界大戦に由来する未解決の歴史問題が、北東アジアの地域的緊張の背景に存在する。歴史問題が日本と韓国というアメリカの主要な同盟国を反目させ、日本と中国のライバル関係を再燃させている。だが、この現状をめぐって、東アジアの戦後秩序を形作ったアメリカにも責任があることを認識する必要がある。アメリカは、冷戦という特有の環境のなかで戦後処理を行い、以来、状況を放置してきた。日本は「ドイツがいまも謝罪の必要性を認識し、自己検証の試みを続けていること」から教訓を学ぶ必要があるし、アメリカも戦争と過去に正面から向き合い、米大統領はヒロシマあるいはナガサキを訪問し、日本に原子爆弾を投下した結果、非常に多くの人命が奪われたことに対する自らの考えを示すべきだ。そうしない限り、北東アジアの歴史問題にアメリカが介入することは正当化できない。・・・・

CFR Meeting
ケビン・ラッドが語る
北朝鮮危機、日中対立、
アジア重視戦略と中国

2013年4月号

ケビン・ラッド  前オーストラリア首相、ジョナサン・テッパーマン  フォーリン・アフェアーズ誌副編集長

「中国軍の高官を含む、私の中国の友人たちと話した感触では、中国政府は、面目を保つ形で、東シナ海の状況を安定化させ、長期的な問題の管理プロセスを日本との間で見いだそうと水面下で積極的に模索している。一方で、この問題をめぐる世論の高揚を前に、一体どうすれば実際に面子を失わずに危機を安定化できるか、疑問に感じ、困惑しているのも事実だろう」

アメリカのアジア重視戦略は、東アジアサミットへのアメリカの参加、アジア・太平洋での戦略プレゼンスを維持し、米海軍戦力の60%をアジア・太平洋に投入する軍事的リバランシング戦略、そして日本を含む環太平洋パートナーシップ(TPP)の構築という三つの支柱によって支えられている。こうした「アメリカの戦略を批判する中国の友人には、次のように答えることにしている。「北朝鮮を例外にして、アメリカのアジア重視戦略を歓迎しない国があれば、その国名を言って欲しい。ほとんどの場合、彼らは黙り込んでしまう」

ミャンマーの少数民族問題と国際投資
―― 政治的和解に向けた国際企業の役割

2014年3月

スタンレー・A・ワイス 「ビジネスエグゼクティブのための国家安全保障」 創設者、 ティム・ハイネマン 元米特殊部隊将校

(日本や)欧米では、木材、ヒスイ、石油、天然ガスなど、ほぼ手つかずの膨大な天然資源を持つ、新生ミャンマーはアジアにおける次の成長国になると考えられている。問題は、有望視されるミャンマーの天然資源の多くが、この国の国境地帯沿いの少数民族地域に存在することだ。2011年以降、ミャンマー政府は12の主要民族グループのうちの11グループとの停戦交渉を試みているが、少数民族はほとんど権利を持たない二級市民とみなされていることもあって、交渉で紛争を完全に終結に持ち込めるとは考えにくい。ミャンマーに投資する日本を含む欧米諸国は、いまも続く残虐行為と差別に象徴される民族対立に直接的に関わっていくことになる。・・・外国からの投資に促され、政府と少数民族が公平な連邦制を採用したときこそ、ミャンマーと世界は、民主的で自由なミャンマーで正当な利益を確保できるようになる。そこには、国際企業が果たせる重要な役割がある。・・・

タイの政治的解体
―― 崩壊した密約と終わらない混迷

2014年3月号

ダンカン・マッカーゴ
英リード大学政治学教授

2011年7月の総選挙で、タクシン元首相の妹インラック・チナワットが首相に選ばれると、反タクシン派とタクシン派の対立は一時的に後退した。現実的で物腰の柔らかなインラックは、妥協を受け入れる柔軟な路線をとって批判者を当惑させ、旧敵である王室と軍のいずれともうまくやっていけることを立証した。特に軍は国防大臣ポストに人材を提供してインラック政権を支えてきた。インラックの働きかけで、政府と既得権益層は政治取引を交わした。インラックが王室の権威や軍事予算などのデリケートな問題をめぐって強引な行動をとらない限り、既得権益層は、彼女が政権を維持することを認めた。ドバイで逃亡生活を送っているタクシンがタイに帰国するのを認めないことも暗黙の了解とされた。取引が公にされることはなく、野党の民主党、黄シャツ隊・赤シャツ隊の指導者もこの取引の存在は知らなかった。2013年後半までは、すべてがうまくいっているかにみえた。少なくとも表面的にはタイは平常を取り戻していた。だが、それを揺るがす二つの展開があった。・・・

中国の対外強硬路線と TPP交渉

2014年2月号

トマス・ボリキー  米外交問題評議会シニアフェロー(経済・開発担当)

2014年11月の米中間選挙が近づくにつれて、米議会のメンバーは政治的反発が予想される貿易協定への批准をためらうようになる。それだけに、交渉で残された難題を解決するには、現時点でハイレベルな外交努力を行う必要がある。中国は、TPP(環太平洋パートナーシップ)交渉が山場を迎えつつあったタイミングでADIZ(防空識別圏)の設定を発表し、そうした必要性への各国の政治家の意識を一時的に遠のかせた。だが、中国が地域的影響力を強めていることへの対抗バランスを形成するという思惑からTPPを含む一連の貿易合意を模索している東南アジア諸国にとって、中国によるADIZの設定は、そうした貿易合意の必要性を再確認させたことになる。・・・今後、中国がリスクを冒して、南シナ海に新しいADIZを設定するかどうかも予断を許さない状況にある。・・・中国の指導者は、東シナ海におけるADIZ設定に対して(国際的に)大きな反発が起きたことに驚いているようだ。だが、北京は中国市民のナショナリズムが高揚していることも考慮する必要がある。・・・

大陸部東南アジアの統合と成長
―― メコン流域地帯のポテンシャル

2014年2月号

ティティナン・ポンスティラク チュラロンコン大学准教授

地理的なロケーションと天然資源に恵まれた大陸部東南アジアは、内的な結びつきを深め、統合されつつある。だがそのポテンシャルを理解するには、地域内の相互的なつながりの強化だけでなく、その人口動態にも目を向ける必要がある。すべてを合わせると、大陸部東南アジアは3億を超える人々で構成される消費市場、労働市場をもち、所得レベルも上昇している。地域的なGDP合計は、2020年までに1兆ドルを上回ると予測されている。たしかに、教育や医療部門、そして格差や政治腐敗という深刻な問題を抱えているし、援助の呪縛という罠も待ち受けている。だが、中国南部とタイが資本と専門知識を提供し、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムが労働力、土地、天然資源を提供するという棲み分けが存在する。インフラプロジェクトや製造業は外国投資家に魅力的な投資機会を、そして外国企業は現地が切実に必要とする専門知識と技術を提供できる。大陸部東南アジアの未来は大きく開かれている。

韓国経済のポテンシャルとリスク

2014年1月号 

マーカス・ノーランド ピーターソン国際経済研究所 上席副会長(研究部長)

韓国を新興国と呼ぶのは、もはや時代遅れかもしれない。この国は豊かだし、技術面でも洗練され、イノベーション、経済改革、健全なリーダーシップという面で見事な成果を上げている成熟した民主国家だ。しかし、それでも韓国を先進国市場とみなすのは無理がある。経済の貿易依存度が高いために、主要先進国と比べて、市場の変動に翻弄される度合いが大きく、これは韓国経済が克服すべき重要な課題の一つだ。企業部門への集中度が高く、社会の高齢化が進んでいること、政府と企業の不透明な関係、そして、北朝鮮という政治的に危険な隣国を抱えていることも大きな課題だ。北の隣国が唐突に崩壊する可能性は現に存在する。その場合、韓国が大規模な資金を北に援助するか、北朝鮮の民衆が韓国へと流れ込むかのいずれかが現実になる。・・・

フィリピンとインドネシア
――何が軌道を分けたのか

2014年1月号

カレン・ブルックス
米外交問題評議会非常勤シニアフェロー(アジア研究)

いまやASEANの主要5カ国は、世界のいかなる地域経済圏よりも急速な成長を遂げている。なかでも有望なのがインドネシアとフィリピンだ。巨大な市場をもつインドネシアは、この5年で大きな経済成長を遂げた。しかし、資源に依存し、構造改革を先送りしてきた経済はここに来て雲行きが怪しくなり、最近では(通貨危機リスクの高い)「脆弱5カ国」の一つへと転落してしまった。一方、フィリピン経済は多くのエコノミストの予測を上回る成長をみせ、2013年上半期も7・6%と、世界有数の成長を遂げている。フィリピンは家電輸出に加えて、いまや世界有数のアウトソースビジネスの拠点へと変貌している。出稼ぎ労働者の仕送りが貧困層の消費と通貨の安定を支え、改革志向の大統領もいる。今後のインドネシア経済は2014年の大統領選挙に、一方、フィリピンの今後は、構造改革で外資を魅了できるかどうかに左右されることになるだろう。・・・

タイの最終局面とは
―― 軍と民衆の事実上のクーデター?

2014年1月号

ジョシュア・クランジック/ 米外交問題評議会フェロー(東南アジア担当)

タイの政治危機は、反政府勢力が社会と政府双方を完全に掌握するという最終局面に近づきつつある。バンコクや南部の一部地域ではデモ参加者たちが投票所を封鎖しようと試み、民衆の怒りと暴力が激化している。いまや事態が制御不能な状態に急速に陥りつつあるのは間違いない。状況は「事実上のクーデター」であり、クーデターはすでに進行している。「軍は中立を保つ」と主張しているかもしれないが、デモを前にしても行動を控えていること自体、デモ隊の立場を支持しているという軍の明確な政治的メッセージだ。政府はますます弱くなり、そこに政治的空白が生じる。そして(デモ隊が設置を求める)「人民評議会」、軍部、あるいはこの二つの組み合わせによってこの空白は埋められていくことになるだろう。

CFR Briefing
ミャンマーを脅かす宗教紛争

2014年1月号

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会シニアフェロー(東南アジア担当)

ミャンマーの社会不安と社会暴力は、2013年の秋から冬にかけて劇的に悪化した。10月半ばに原因不明の爆破事件がヤンゴン、マンダレー、ミャンマー北東部など各地で相次いだ。11月に公表されたミャンマー警察の報告書によれば、ラカイン州出身者とみられる仏教徒グループが、ミャンマー各地のイスラム寺院(モスク)の爆破を計画していた。爆破事件やモスク爆破計画は、この国の深刻な社会不安を映し出している。民族・宗派対立を別にしても、改革が治安や生活レベルの改善に結びついていないという失望感が社会に蔓延している。こうした社会不安、社会不満を背景に深刻化する民族・宗教を軸とする対立は、改革を中断へと追い込み、開発に不可欠な投資を抑え込み、国境線を越えて周辺国へと飛び火し、地域的な緊張を高めつつある。・・・・

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