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アジアに関する論文

北朝鮮の崩壊を恐れるな
―― リスクを上回る半島統一の恩恵に目を向けよ

2014年7月号

スー・ミ・テリー 元米中央情報局(CIA)上席分析官

朝鮮半島の統一が韓国を経済的・社会的に押しつぶすわけでも、アメリカ、中国、日本に受け入れがたいリスクを作り出すわけでもない。たしかに、朝鮮半島の統一はドイツ統一以上にコストがかかり、多くの課題を伴うだろう。例えば、北の崩壊シナリオとしてもっとも現実味があるのは北朝鮮が内破し、体制が崩れていくことで、この場合、核兵器の安全な管理をいかに確保し、人道的悲劇を回避して大規模な難民が発生しないようにすることが大きな課題となる。だからといって、半島の統一を回避すべきだと考えるのは間違っている。崩壊を経た半島統一の最大の恩恵は、北東アジアにおける主要な不安定化要因が消失することだが、特に韓国は大きな経済的恩恵を手にできる。これまで各国は、平壌が挑発的行動を前にしても、北朝鮮を不安定化させることを懸念して、経済制裁の強化や、対抗策をとることを躊躇ってきたが、今後はそのような配慮をすべきではない。統一の恩恵はリスクやコストを遙かに上回るのだから。

中ロは本当に現状変革国家か? ―― 現状をどうとらえるべきか

2014年6月号

G・ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授

プーチンは局地的な勝利を手にしたかもしれないが、大局的には敗北を喫しつつある。ロシアは台頭しているのではなく、最大規模の後退を余儀なくされている。中国も民主国家に取り囲まれている。中国とロシアがアメリカのリーダーシップに強く反発し、それに対抗する路線をとることでより大きな地域的影響力を確立したいと望んでいるのは事実だろう。しかし、中国とロシアはせいぜいパートタイムのスポイラーに過ぎない。アメリカにときに反発しつつも、基本的には現秩序のロジックを受けいれている。両国とも国益を現秩序に依存しているからだ。たしかに、中ロは現秩序内で自国の立場を強化しようと試みているが、それを別のシステムに置き換えようとはしていない。

民主化から遠ざかる東南アジア
――タイのクーデターだけではない

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会フェロー(東南アジア)

タイが軍政へと逆戻りすることが運命づけられていたわけではない。むしろ、専門家の多くは、1980年代末から2000年代末まで、東南アジア諸国の多くを「途上世界における民主化の優等生」とみなしてきた。だが、この時期以降、東南アジアの民主化プロセスは停滞し、この地域で経済的、戦略的にもっとも重要な諸国が民主化からの逆コースをたどり始めた。この10年で、タイは急速に民主化からの逆コースをたどり、いまや軍事政権がこの国を支配している。マレーシアの民主的制度と文化もこれまでの民主化の流れから逆行している。カンボジアとミャンマーでも、劇的な民主化への期待はいまや色あせつつある。

命運尽きた、タイの政治

2014年6月号

ダンカン・マッカーゴ 英リーズ大学政治学教授

インラック・チナワット首相の解任は予想外の出来事ではない。特定の見方をすれば、近年在任中にポストを追われたこの国の4人目の首相となったに過ぎない。退陣を余儀なくされた首相たちは、すべて同じ政治派閥の出身者たちだ。インラックの兄、タクシン・チナワット元首相は、2006年9月、軍のクーデターで政権の座から追放された。他の2人、サマック・スントラウェートと、ソムチャーイ・ウォンサワットは、2008年に憲法裁判所の判決によって失職している。こうした追放劇がこの国の政治課題の解決に役立つはずはない。その結果、国内の対立を悪化させる正当性を欠いた政権を誕生させ、抗議運動の下地を作ることになる。インラックの失脚も、これと同じ展開をたどるだろう。

CFR Update インド経済とインフラプロジェクト

2014年5月号

ベイナ・シュウ オンラインライター・エディター

新興経済としてのインドの経済パワーは、中国経済同様に、過去数十年間の大きな経済成長によって支えられてきた。しかし、インフラ投資が十分ではない状況が長期的に続いたために、交通システムと送電網がうまく機能しなくなり、いまやインフラの不備が経済を停滞させかねない状況にある。効率に欠けるインドの港湾施設は急拡大する貿易取引にうまく対処できず、信頼性の低い送電網と水道ネットワークも急激に進展する都市化に対応できずにいる。交通・輸送インラフも大きな不備を抱え込んでいる。しかも、規制と政治腐敗がインフラ投資には不可欠な外資を遠ざけている。・・・・多くの制約と障害を克服し、インドはインフラの修復と整備を進めることができるか。これが21世紀のインド経済を大きく左右することになる。

アジア重視戦略の本質

2014年5月号

カート・M・キャンベル
前米国務省国務次官補
(東アジア・太平洋担当)イーライ・ラトナー
新アメリカ安全保障センター シニアフェロー

東シナ海での問題を超えて、日本の安倍晋三首相は、日本を数十年に及ぶ経済停滞から解き放ち、市民に国にもっと新たなプライドと、影響力ある国としての自覚をもたせたいと考えている。安倍首相は、第二次世界大戦の戦犯を含む戦没者を称える靖国神社を2013年末に参拝した。その国際的コストは高かった。日本と韓国の関係はさらに険悪になり、中国は安倍首相が権力ポストにある限り、日本との直接交渉には応じないという路線をさらに固めた。・・・・外交的緊張が高まっているとはいえ、アメリカは、日本がもっと地域的にも世界的にも積極的な安全保障上の役割を担えるように、自衛隊との協力関係を強化していくだろう。実際には完全に合理的な措置であり、むしろもっと早く手をつけてもおかしくなかった「日本憲法の再解釈と軍事的の近代化」を「反動的で軍国主義的だ」と批判する中国のプロパガンダに対抗していくことも必要だ。一方で、アメリカは日本と韓国の関係を改善するためにかなりの政治資源を投入する必要がある。・・・

北東アジアにおける歴史戦争
―― アメリカの関与がなぜ必要か

2014年5月号

ギウク・シン
スタンフォード大学教授(社会学)
ダニエル・C・シュナイダー
スタンフォード大学アジア太平洋研究センター
アソシエート・ディレクター

第二次世界大戦に由来する未解決の歴史問題が、北東アジアの地域的緊張の背景に存在する。歴史問題が日本と韓国というアメリカの主要な同盟国を反目させ、日本と中国のライバル関係を再燃させている。だが、この現状をめぐって、東アジアの戦後秩序を形作ったアメリカにも責任があることを認識する必要がある。アメリカは、冷戦という特有の環境のなかで戦後処理を行い、以来、状況を放置してきた。日本は「ドイツがいまも謝罪の必要性を認識し、自己検証の試みを続けていること」から教訓を学ぶ必要があるし、アメリカも戦争と過去に正面から向き合い、米大統領はヒロシマあるいはナガサキを訪問し、日本に原子爆弾を投下した結果、非常に多くの人命が奪われたことに対する自らの考えを示すべきだ。そうしない限り、北東アジアの歴史問題にアメリカが介入することは正当化できない。・・・・

CFR Meeting
ケビン・ラッドが語る
北朝鮮危機、日中対立、
アジア重視戦略と中国

2013年4月号

ケビン・ラッド  前オーストラリア首相、ジョナサン・テッパーマン  フォーリン・アフェアーズ誌副編集長

「中国軍の高官を含む、私の中国の友人たちと話した感触では、中国政府は、面目を保つ形で、東シナ海の状況を安定化させ、長期的な問題の管理プロセスを日本との間で見いだそうと水面下で積極的に模索している。一方で、この問題をめぐる世論の高揚を前に、一体どうすれば実際に面子を失わずに危機を安定化できるか、疑問に感じ、困惑しているのも事実だろう」

アメリカのアジア重視戦略は、東アジアサミットへのアメリカの参加、アジア・太平洋での戦略プレゼンスを維持し、米海軍戦力の60%をアジア・太平洋に投入する軍事的リバランシング戦略、そして日本を含む環太平洋パートナーシップ(TPP)の構築という三つの支柱によって支えられている。こうした「アメリカの戦略を批判する中国の友人には、次のように答えることにしている。「北朝鮮を例外にして、アメリカのアジア重視戦略を歓迎しない国があれば、その国名を言って欲しい。ほとんどの場合、彼らは黙り込んでしまう」

ミャンマーの少数民族問題と国際投資
―― 政治的和解に向けた国際企業の役割

2014年3月

スタンレー・A・ワイス 「ビジネスエグゼクティブのための国家安全保障」 創設者、 ティム・ハイネマン 元米特殊部隊将校

(日本や)欧米では、木材、ヒスイ、石油、天然ガスなど、ほぼ手つかずの膨大な天然資源を持つ、新生ミャンマーはアジアにおける次の成長国になると考えられている。問題は、有望視されるミャンマーの天然資源の多くが、この国の国境地帯沿いの少数民族地域に存在することだ。2011年以降、ミャンマー政府は12の主要民族グループのうちの11グループとの停戦交渉を試みているが、少数民族はほとんど権利を持たない二級市民とみなされていることもあって、交渉で紛争を完全に終結に持ち込めるとは考えにくい。ミャンマーに投資する日本を含む欧米諸国は、いまも続く残虐行為と差別に象徴される民族対立に直接的に関わっていくことになる。・・・外国からの投資に促され、政府と少数民族が公平な連邦制を採用したときこそ、ミャンマーと世界は、民主的で自由なミャンマーで正当な利益を確保できるようになる。そこには、国際企業が果たせる重要な役割がある。・・・

タイの政治的解体
―― 崩壊した密約と終わらない混迷

2014年3月号

ダンカン・マッカーゴ
英リード大学政治学教授

2011年7月の総選挙で、タクシン元首相の妹インラック・チナワットが首相に選ばれると、反タクシン派とタクシン派の対立は一時的に後退した。現実的で物腰の柔らかなインラックは、妥協を受け入れる柔軟な路線をとって批判者を当惑させ、旧敵である王室と軍のいずれともうまくやっていけることを立証した。特に軍は国防大臣ポストに人材を提供してインラック政権を支えてきた。インラックの働きかけで、政府と既得権益層は政治取引を交わした。インラックが王室の権威や軍事予算などのデリケートな問題をめぐって強引な行動をとらない限り、既得権益層は、彼女が政権を維持することを認めた。ドバイで逃亡生活を送っているタクシンがタイに帰国するのを認めないことも暗黙の了解とされた。取引が公にされることはなく、野党の民主党、黄シャツ隊・赤シャツ隊の指導者もこの取引の存在は知らなかった。2013年後半までは、すべてがうまくいっているかにみえた。少なくとも表面的にはタイは平常を取り戻していた。だが、それを揺るがす二つの展開があった。・・・

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