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アジアに関する論文

無謀な中国と無分別なアメリカの間
―― トランプ時代のオーストラリア外交を考える

2017年10月号

マイケル・フリラブ ローウィ研究所 エグゼクティブ・ディレクター

ドナルド・トランプにはプラスサム志向が乏しい。グローバル秩序の頂点にあることでもたらされる優位の価値を忘れ、同盟関係の価値も疑っている。この状況下、オーストラリアにとっての本当の課題とはグローバルゲームの観客になるか、プレイヤーになるかを決めることだ。米大統領に焦点を合わせるのでなく、ワシントンの他のプレイヤーとも連携することで、古くからの同盟国であるアメリカと可能な限り緊密に協力する一方で、アジアとのつながりを深めていく必要がある。利益が重なるときには中国と協力し、一方で、日本、韓国を含むアジアの民主国家との絆を大きくしていかなければならない。似たような考えを共有するアジア諸国との協調を強化していくことは、無謀な中国と無分別なアメリカに対する重要な保険策となる。

核武装国北朝鮮にどう向き合うか
―― 核不拡散の脅威から核抑止の対象へ

2017年10月号

スコット・D・セーガン スタンフォード大学教授(政治学)

北朝鮮、そして米韓は、いずれも相手が先制攻撃を試みるのではないかと疑心暗鬼になっている。このような不安定な環境では、偶発事故、間違った警告、あるいは軍事演習の誤認が戦争へつながっていく。しかも、金正恩とドナルド・トランプはともに自分の考える敵に衝動的に向かっていく傾向がある。ペンタゴンとホワイトハウスの高官たちは、北朝鮮の指導者・金正恩の行動を抑止する一方で、トランプ大統領が無為に戦争への道を突き進んでいくことも諫めなければならない。北朝鮮にとって核兵器は取引材料ではない。自国に対する攻撃を阻止するための力強い抑止力であり、あらゆる策が失敗した時に、敵対する諸国の都市を攻撃して復讐するための手段なのだ。しかし、危機に対するアメリカの軍事的オプションは実質的に存在しない。金正恩体制が自らの経済的、政治的弱さによって自壊するまで、忍耐強く、警戒を怠らずにその時を待つ封じ込めと抑止政策をとるしかない。

なぜTHAADが必要なのか

2017年10月号

アズリエル・ベルマント テルアビブ大学国際関係講師
イゴル・スチャーギン 英国王立防衛安全保障研究所 シニアリサーチフェロー

THAAD防衛システムは、アジアに展開する米軍と同盟国である韓国と日本を防衛することを意図している。しかし、韓国民衆は防衛システムの配備に反対してきたし、中国もTHAADのレーダーシステムは中国の領土を監視できるために、軍事的な脅威になると強く反発している。とはいえ、THAADミサイル防衛システムは、抑止状況が崩れた場合の保険として捉えるべきだろう。ミサイル防衛は、北朝鮮のようなリビジョニスト国家による攻撃を抑止する効果がある。平壌は、防衛システムの存在によって韓国の反撃能力が温存されるシナリオを検討せざるを得なくなるからだ。これが「拒否的抑止」として知られる機能だ。THAADが完璧な防衛を提供できるわけではないが、平壌に対して、韓国の都市部に対するミサイル攻撃の成功は保証されないというメッセージを送ることができる。

北朝鮮危機と韓国のトリレンマ
―― 経済と安全保障のバランスをどうとるか

2017年10月号

キャサリン・H・S・ムーン ウェルズリー大学 教授(政治学)

韓国は追い込まれている。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、核実験も強行した。米戦略への同調を求めるトランプ政権ともうまくいっていない。文在寅は北朝鮮とアメリカ、双方の戦略に巻き込まれるのを回避しようと、両国に対して今後さらに自国の立場を明確に主張していくつもりかもしれない。韓国の安全を守るためのTHAAD配備に反発する中国には、実質的な経済制裁の対象にさえされている。そして、韓国の大統領にとって現状における最大の課題は、アメリカの戦術核の再配備、あるいは独自の核開発をつうじて国を核兵器で守ることを求める国内の声にどのように対処していくかだろう。実際、2016年9月のギャラップ社の調査では、韓国人の58%が国内での核開発を支持すると回答し、反対派はわずか34%だった。・・・

北朝鮮のもう一つの脅威
―― 日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ

2017年10月号

ベネット・ランバーグ 元国務省分析官

北朝鮮が日韓の原子力施設を攻撃すれば、何が起きるか。両国の政府はそれに備え、態勢を整えておかなければならない。これは想定外のシナリオではない。中東では建設中の原子炉をターゲットとする攻撃が起きているし、ボスニア紛争でも、インド・パキスタンの対立状況のなかでも、原子炉攻撃のリスクは意識されていた。原子力施設に対する北朝鮮のミサイル攻撃の帰結よりも、数十万人が犠牲になるかもしれない(人口密集地帯への)通常ミサイル攻撃による脅威の方が深刻だと考える者もいるだろう。しかし、原子炉が攻撃され、炉心や使用済み核燃料のプールにダメージが及べば、原子炉は、殺戮兵器ではないにしても、実質的にテロ攻撃や大量破壊兵器と同じ作用をする。日韓はアメリカとともに防衛計画をまとめていく上で、原子力発電施設の脆弱性を無視してはならない。・・・

金正恩のもう一つの顔
――北朝鮮CEOとしての金正恩の成功

2017年9月号

デビッド・カン 南カリフォルニア大学教授(国際関係論)

金正恩は道化師ではないし、そのような見方にとらわれれば、北朝鮮とその指導者が突きつけている脅威を誤解することになる。特に、平壌とワシントンの緊張が高まりをみせているだけに、深刻な間違いを犯すことになりかねない。道化師の独裁者としてではなく、むしろ、金正恩を「北朝鮮株式会社を引き継いだ新しい最高経営責任者(CEO)」と考えるべきだろう。金正恩はすでに組織(国家)を束ねるビジョンを示し、組織の手続きを再確立し、人材編成も見直している。実際、彼はすでに権力基盤を固めているようだし、外からの圧力に動じる気配もない。欧米では、金正恩は権力にしがみついているだけの弱い独裁者で、その体制は崩壊の瀬戸際にあるとみなす憶測が絶えない。しかし、CEOとしてみれば、彼も彼の政府も脅かされてはいない。むしろ、安定度を高めている。・・・

1965年の独立以降、リー・クアンユーが中心となって組織した人民行動党政権は中央集権的な国家運営を行ってきた。その権力に対する監視体制も厳格ではなく、野党、市民社会、メディアは概しておとなしい。実際、この中央集権体制が効率的な統治を実現していると考える者は多く、シンガポール市民の大半は、「経済成長と引き換えに市民的・政治的自由が制限される」という暗黙の社会契約を長く受け入れてきた。だが、それも変化しつつある。すでに、シンガポールのさらなる発展にはさまざまな制約を緩和する必要があると考える改革派の要求とこれまでの中央集権型の枠組みを両立させるのは難しくなっている。近代国家シンガポールの原点を象徴するリー・クアンユーのオクスリー・ロードにある家の扱いをめぐるお家騒動は、まさに、この国の未来に関する二つのコースを描き出している。

中国の覇権確立を阻止するには
―― 南シナ海とアメリカの対中抑止策

2017年8月号

イーライ・ラトナー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国研究)

南シナ海における米中衝突を回避しようとするあまり、ワシントンは、中国による国際法を無視した南シナ海における行動を前にしても、緊張緩和措置をとり、結果的に、中国がじわじわと既成事実を作り上げるのを許してしまった。アメリカの軍事力と同盟関係には、米中の軍事衝突を抑止する効果はあっても、中国の勢力圏拡大を抑止する作用は期待できない。このために、中国による覇権確立がアメリカのアジアにおける最大の脅威シナリオとして浮上してきている。「中国が人工島の建設を続け、あるいはすでに建設した人工島に長距離ミサイルや戦闘機など強力な軍事資産を配置し続けるようなら、アメリカは中立を捨てて、領有権を主張する他の諸国が中国に対抗する能力を獲得することを支援する」と表明すべきだ。外交を抑止策で支え、「中国が覇権を握ることは容認できない」と、ワシントンは態度を明らかにすべきだろう。

ミンダナオ島危機とイスラム国
―― 共通の敵で変化した米比関係

2017年8月号

リチャード・ジャバッド・ヘイダリアン デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

貧困や失業に苦しみ、イスラム教徒が社会の周辺に追いやられているミンダナオ島では、イスラム主義者や共産主義者などの反政府勢力がフィリピン軍と衝突する流血の惨事が数十年にわたって繰り返されてきた。そこには、イスラム主義のイデオロギーやテロ集団を許容する社会的素地が存在した。しかも、中東で軍事的に追い込まれたイスラム国(ISIS)勢力はアジアへ軸足を移そうと試みている。イスラム教徒が多数派で、イスラム国勢力のシンパが多いマレーシアやインドネシアとミンダナオ島との国境線が監視の難しい海洋上にあることも事態を複雑にしている。一方、テロ勢力という共通の敵が現れたことでアメリカとの関係は雪解けの時を迎えている。マニラが共通の敵に対するワシントンの軍事支援を受け入れるにつれて、両国政府の立場の違いはゆっくりとだが、着実に埋められつつある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

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