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2010年2月号(3)中国人研究者が表明した「北京コンセンサス」の終わりとは

2010-02-10

中国人研究者が表明した「北京コンセンサス」の終わりとは
2010.2.10公開

フォーリン・アフェアーズのウェブで最近、公開された「『北京コンセンサス』の終わり」が世界のメディア、フェースブック、ツィッターで取り上げられ、話題となっている。
http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020801000560.html
http://www.foreignaffairs.com /articles/65947/the-end-of-the-beijing-consensus(英文)

「中国の体制内学者による政治改革の必要性を唱えた論文」が、ウェブ版とはいえ、フォーリン・アフェアーズに取り上げられたことの意味合いはたしかに大きい。

姚洋(ヤン・ヤオ)北京大学国家発展研究院・副所長の議論をまとめると、次のように要約できる。

一般に途上国の一人当たりGDPが3000~8000ドルに達すると、経済成長は頭打ちになり、所得格差が拡大して社会紛争が起きがちとなる。中国もこの危険水域に入っており、すでに厄介な社会兆候が現れている。要するに、経済は拡大しているが、人々は貧しくなったと感じ、不満を募らせている。国有企業などの特権を持つパワフルな利益団体や、まるで企業のように振る舞う地方政府が、経済成長の恩恵を再分配して、社会に行きわたらせるのを阻んでいるからだ。経済成長路線と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る中国共産党の戦略はもはや限界にきている。CCPが経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今後も望むのであれば民主化を進める以外に道はない。

欧米の研究者が、こう主張しても、何の違和感もないが、北京大学国家発展研究院・副所長の主張となると話は違ってくる。より、具体的に論点を追うと、次のようになる。

・正統性のない共産党政府が、民衆の政治的支持を勝ち取るには、社会不満を抑え込んで経済成長を何としても持続させるしかない。これを北京は絶対的な最優先課題に据えてきた。

・こうした思惑から、大規模な財政出動を行い、2009年の成長率は9%に達し、多くの人がこれを賞賛しているが、長期的にみれば、政府の介入は、経済効率を低下させ、より生産性の高い民間投資を締め出して、結局は経済成長を抑え込むことになる

・中国の経済成長路線が当初から輸出主導型で、製造業をもっぱら重視し、農業を軽視してきたために、都市と地方の所得格差が拡大してしまった。格差是正対策は場当たり的で、抜本的な解決にはならない。

・しかも、中国には所得・富の再分配構造が存在しない。

・中央政府は、地方政府に与えているのはほとんどインフラ投資用の予算で、しかも、地方政府は、自らを企業のようにみなして自己利益の確保に余念がなく、人々に恩恵が行きわたらない。

・より多くの人が参加できるような制度を、政治改革をつうじて導入しない限り、人々の不満と怒りは抑えられなくなる。

・これまでのような、経済成長至上主義で体制を維持するのは難しくなってきており、中国共産党が経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今後も望むのであれば、民主化(政治改革)を進める以外に道はない。

これは、欧米の専門家たちとまったくといっていいほど同じ見方だ。

フォーリン・アフェアーズ リポートの最近の号だけをみても、2009年12月号のスティーブン・ローチ「中国経済は本当に成長しているのか」、スティーブン・デュナウェイ「中国経済の今後が明るくない3つの理由」、1月号のミンシン・ペイ「今後をめぐる中国指導層の自信と不安」の論調と大筋ではほぼ同じだ。

ただ、興味深い点は、ヤン・ヤオが現在の中国共産党政府は社会紛争を捉えるのにイデオロギーを持ち込んでいないと指摘していることだ。「特定の社会層や政治集団を保護し、さらに豊かにしようとする他の権威主義諸国の政府とは違って、中国政府は対象を選ぶ場合に、政治的、社会的「アイデンティティ」を基準にせず、経済成長という観点を重視することを心がけた」と指摘している。だが、このやり方が問題を作り出している以上、もはや路線を継続できない、と同氏は述べている。

2009年12月号の論文「中国経済は本当に成長しているのか」で、「2010年半ば以降、中国経済の成長は鈍化する」と予測したS・ローチは、中国政府の次なる一手を次のように予測している。

「この段階になれば、経済が停滞し、失業が増大した2009年末同様に、中国は再び銀行の融資を増やす手段に訴え、これによって中国の産業バランスは、ますますおかしくなっていくはずだ」。

そうなった場合、中国の人々の不満や怒りがますます大きくなるのは容易に想像がつく。

現状の路線を続けても、人々の不満を抑えられない。したがって、政治改革、民主化路線をとるしかない。「北京コンセンサスの終わり」は、中国人研究者による(国を前へと進めようとする)リベラルな立場にたった内側からの告発とみなせる。 市場経済と民主主義は車の両輪のようなもので、どちらかだけを長期的に続けることはできないと長く言われてきた。だが、一方で持続可能な「権威主義的資本主義モデル」が存在するのではないかという議論もある。(「21世紀は権威主義的資本主義大国の時代になるのか」アザル・ガット2007年8月号掲載)加えて、金融危機以降の流れは「国家資本主義」へと向かいつつあるとする見方もある。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/archive/kaidai/200906.htm

ヤン・ヤオが発表した論文の意味合いは、この文脈に照らしても深い。

3月10日発売のフォーリン・アフェアーズ リポートで、この論文の全文とその後の議論の展開を追いたいと思う。
(Koki Takeshita)

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