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北朝鮮に対する強硬策を
―― 外交やエンゲージメントでは問題を解決できない

ジョシュア・スタントン 弁護士
サン=ヨン・リー タフツ大学フレッチャースクール 教授
ブルース・クリングナー ヘリテージ財団 シニアリサーチフェロー

Getting Tough on North Korea

Joshua Stanton ワシントンの弁護士。2016年北朝鮮制裁強化法の草案を中心になってまとめた。
Sung-Yoon Lee タフツ大学 フレッチャースクール教授(朝鮮半島研究)
Bruce Kingsner ヘリテージ財団シニアリサーチフェロー(北東アジア担当)

2017年6月号掲載論文

金正恩は「父親と祖父が数十億の資金と数多くの人命をつぎ込んできた核の兵器庫を完成させることで、自分の政治的正統性が確立される」と考えている。仮に核の解体に応じるとすれば、体制の存続そのものを脅かすような極端な圧力のもとで、それに応じざるを得ないと考えた場合だけだろう。外交やエンゲージメントがことごとく失敗してきたのは、平壌が核の兵器庫を拡大していくことを決意しているからに他ならない。あと少しで核戦力をうまく完成できるタイミングにあるだけに、平壌が核・ミサイル開発プログラムを断念するはずはなく、交渉を再開しても何も得られない。北朝鮮の非核化を平和的に実現する上で残された唯一の道筋は「核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている」と平壌に認識させることだ。ワシントンは「平壌が核兵器以上に重視していること」を脅かす必要がある。それは北朝鮮体制の存続に他ならない・・・

  • 決意に満ちた行動を
  • 交渉と援助の時代
  • 制裁の効果を相殺した無意味な政策
  • 金融制裁と中国の銀行
  • 外交がなぜ無駄なのか
  • もう我慢すべきではない

<決意に満ちた行動を>

 

米韓は、この25年にわたって北朝鮮が核開発の野望を断念するように説得を試みてきた。1990年代初頭以降、ワシントンは外交交渉を試み、一方のソウルは経済エンゲージメントを模索することで、平壌が依然として核開発を続けていたにも関わらず、北朝鮮に援助と投資を提供してきた。

2006年に平壌が核実験を実施して以降、国連安保理は、アメリカの主導によって一連の対北朝鮮経済制裁を発動してきた。しかし、韓国側の要請を受け入れる一方で、中国の怒りを買うことを警戒したワシントンは、その金融力と外交力をフルに活用して制裁の厳格な履行を各国に求めることはなかった。アメリカの目的は、当初から、外の世界に向けてこの国を開放させ、核・ミサイルプログラムを解体させることにあった。しかし、こうした(穴のある)経済制裁と援助(エンゲージメント)という組み合わせはどうみても失敗だった。

すでに北朝鮮は日本や韓国を核兵器で攻撃する能力を手に入れ、近い将来にアメリカを核攻撃できる能力を手に入れると考えられている。金正恩は、ワシントンやソウルの一部が期待混じりに考えているような改革者ではない。「父親と祖父が数十億の資金と数多くの人命をつぎ込んできた核の兵器庫を完成させることで、自分の政治的正統性が確立される」と考えている。核の解体に応じるとすれば、体制の存続を脅かすような極端な圧力のもとで、それに応じざるを得ないと考えた場合だけだろう。

北朝鮮の脅威からアメリカと同盟諸国を守り、核拡散を阻止するには、トランプ政権は、経済制裁を継続する一方で、平壌を助けるような一貫性に欠けるこれまでのアメリカの戦略を繰り返してはならない。むしろ、北朝鮮の高官や企業による対外金融取引を粉砕し、北朝鮮を援助している諸外国を告発する必要がある。いまや世界は、キューバミサイル危機以降の核の緊急事態に直面しつつある。遅ればせながら、アメリカは決意に満ちた行動をとらなければならない。

 

 

<交渉と援助の時代>

 

この数十年にわたって、北朝鮮はアメリカにとって二線級の脅威に過ぎなかった。核拡散の阻止という点ではイランが、人道的対応という点ではスーダンが、そして安全保障課題としてはイラクが最優先にされてきた。ビル・クリントン以降の歴代米大統領が、平壌の体制を本気で揺るがすような手段をとることはなかった。体制の崩壊を願うばかりで、思い切った行動はとらなかった。それどころか、制裁を緩和し、援助を提供することさえあった。

最近におけるアメリカの歴代三政権は一連の合意を平壌と交わし、結局は果たされなかった約束の見返りにキャッシュを注ぎ込んできた。北朝鮮は何度も核開発プログラムの凍結に応じつつも、約束を果たすことはついになかった。

1994年、クリントン政権は平壌との初めて合意となった「枠組み合意」を締結した。重油を提供し、大きなコストのかかる軽水炉を建設する代わりに、北朝鮮の指導者、金正日(当時)は、ウランとプルトニウムを用いた核開発プログラムを凍結することを約束した。平壌が合意を破って水面下でウラン濃縮を試みていることを知らされたジョージ・W・ブッシュ大統領は、2002年に支援を打ち切り、その後、金正日は合意を放棄して核不拡散条約(NPT)からの離脱を表明し、プルトニウム生産のために原子炉を再稼働させた。

こうした経緯があったにも関わらず、ブッシュ政権は2007年に再び北朝鮮との合意をまとめ、北朝鮮企業によるドルシステムへのアクセスを認め、より多くの援助を与えることを約束しただけでなく、制裁を緩和し、テロ支援国家のリストからも外した。だが、1年もしないうちに、平壌は査察プロトコルへの調印を拒み、ブッシュ大統領が任期を終えるとともに、合意は崩壊した。

その後、バラク・オバマは、「金正日が対話に応じるつもりなら、手を差し伸べる」と約束してホワイトハウス入りした。数カ月後、金正日は長距離ミサイルと核実験を実施し、この呼びかけを(この上ないやり方で)拒絶した。その後、2012年の合意で平壌は援助の提供を条件に核及びミサイル実験の凍結に応じたが、合意締結からわずか6週間後に長距離ミサイルの実験を行った。

こうした経験から学ぶべき教訓は明らかだろう。それは「いくら合意をまとめても、アメリカと北朝鮮の立場の違いを埋めることはできない」ということだ。

結局、平壌は国際原子力機関の保障措置協定、NPTからの離脱を一方的に表明し、1991年の朝鮮半島非核化宣言、1994年の枠組み合意、2005年の共同宣言、そして2007年、2012年の米朝合意をことごとく踏みにじってきた。

(韓国の政策はどうだっただろうか)1991年から2015年までにソウルは少なくとも70億ドル規模の援助を平壌に与えてきた(アメリカもすでに13億ドル規模の援助を提供し、中国、韓国、ヨーロッパからの民間投資もおそらく10億ドルを超えると考えられる)。金大中、盧泰愚両政権が主導した「太陽政策」を中心とする韓国の積極的な北朝鮮エンゲージメント(関与)政策は、1998年から2008年まで続けられた(皮肉にもこの政策は、北朝鮮軍内部の反乱を引き起こした深刻な経済危機から金正日を救いだした)。

枠組み合意同様に、エンゲージメント政策が破綻するのは当初から明らかだった。「資本主義的要素を持ち込めば、独裁国家にもリベラリズムが根付く」という考えそのものが間違っていた。実際、ロシアと中国は、資本主義を慎重に受け入れつつも、この20年にわたって国内の反体制派を弾圧し、アメリカと同盟諸国に脅威を与え続けてきた。北朝鮮も同じだった。ソウルからの援助を受けとる一方で、平壌は2003年に「攻撃を開始する前に、相手国にイデオロギー的・文化的な浸透を試みるのは、帝国主義者の古くからのやり方だ」と朝鮮労働党幹部に呼びかけている。

平壌の眼には、外部からのエンゲージメント政策は「狡猾で悪意に満ちた攻撃であり、介入、支配のための手段」としか映っていなかった。こう考えると、金正日が決して国を開放しなかったことも理解できる。エンゲージメント支持派が標榜した北朝鮮の政治的変化は、まさに彼がもっとも警戒するところだった。

確かに、平壌は国内に資本主義の特別区を立ち上げることに合意し、これによって経済的恩恵を手に入れたが、この特別区が他の国内地域に影響を与えないように十分に配慮していた。

2002年以降、韓国人旅行者たちは、法外なカネさえ支払えば、厳格に監視されている北朝鮮の観光地への旅行を認められるようになったが、国内南東部にある金剛山登山道への立ち入りは認められなかった(北朝鮮の兵士が、許可を受けずに朝の散歩をしていた韓国の女性観光客に発砲し、この女性が死亡する事件が起きた2008年に観光ツアーの許可は突然打ち切られた)。

2004年以降、韓国企業は非武装地帯の北、数マイルのところに作られた開城(ケソン)工業団地に進出し、数千の北朝鮮労働者を雇い入れ、2015年までには、その数は5万4000人に達していた(但し、北朝鮮政府は労働者の賃金の大半をかすめ取っていたと考えられる)。

北朝鮮が4度目の核実験とミサイルの試射を行った後の2016年、朴槿恵政権はついに北朝鮮人労働者の賃金が核開発プログラムに流用されている可能性を認め、工業団地プロジェクトからの撤退を決断した。2017年に韓国の大統領選挙で勝利を収めた文在寅(ムン・ジェイン)は、ケソン工業団地の再開と拡大を選挙戦で求めてきたが、2016年に採択された国連安保理決議は、工業団地プロジェクトを持続させるのに必要な北朝鮮との貿易のための「官民の金融支援」を禁じており、国連の委員会による承認がない限り、これは実現しない。アメリカは委員会による承認を当然阻むだろう。

エンゲージメント路線では相手を変えられなかっただけではない。北朝鮮はエンゲージした側をしばしば政治腐敗へ巻き込んできた。

AP通信のケースを例に引こう。2012年、平壌に支局を開いて「より大きな理解への道筋を示す」と約束したAPは「北朝鮮民衆の生活を正確に伝えるために、世界の他の支局と同じ基準で報道をする」と表明した。しかし、結局、立場を譲ったのは北朝鮮ではなく、APの方だった。検閲を受け入れ、北朝鮮政府のプロパガンダを世界に伝える一方で、支局からわずか数分のところにあるアパートの崩壊やホテルの火災さえ報道しなかった。

「グラスノスチ(情報公開)に向けたエージェントの役割を果たす」とした外国の北朝鮮ツアー会社も同様だった。平壌にキャッシュ、そしてときに人質を提供する以外には、ほとんど何もできなかった。結局、観光客をプロパガンダツアーに送りこんだにすぎない。

2010年に韓国のキリスト教系財団が中心となって設立した平壌科学技術大学も同様だ。設立人の言葉を借りれば、「北朝鮮が国際社会のメンバーとなるのを助けること」を目的とするこの大学を、「北朝鮮政府はハッカーを訓練するために利用している」と脱北者たちは証言している。国外に追放されたり、収監されたりするのを警戒する北朝鮮内の国際的援助活動家たちも、政府の差別的な配給システム、つまり、国への忠誠度が高いと政府がみなす市民への配給を優先させる平壌の政策に配慮せざるを得ない状況にある。

エンゲージメント政策を通じて実現できると言われたことは、何一つ実現しなかった。父親である金正日がこの世を去って以降、その後継者となった金正恩は核実験とミサイル実験のペースを加速し、外国メディアを締め出し、国境をさらに閉鎖的にしている。政治収容所を拡大し、血なまぐさいパージを行い、マレーシアの空港にいた自分の異母兄である金正男を殺害するための暗殺チームを送り込んだとさえ考えられている。

平壌の労働党幹部たちは10年前と比べて豊かな暮らしをしているが、それでも、指導者ににらまれることを恐れて国外に脱出する幹部が増えている。1990年代にこの国の地方を襲ったような大規模な飢饉は起きていないが、北朝鮮人のほとんどは依然として十分な食糧を調達できずにいる。

この約20年間で、北朝鮮社会が大きく変化したのは事実だ。多くの食糧や消費財そして情報が「市場を通じて」供給されるようになった。しかし、エコノミストのマーカス・ノーランドとスティーブン・ハガードが分析するように、こうした変化は、「政府の努力によって」ではなく、「政府の努力にもかかわらず」実現した。

この変化をもたらしたのは、生活を支えるために命がけで密輸ビジネスに関わるようになった、北朝鮮でもっとも貧しく、周辺に追いやられた人々だった。アメリカとその同盟諸国は、結局は忌まわしい現状を永続化させるだけの平壌との合意をまとめようと試みるのではなく、民衆がその原動力である真の変化の兆候にもっと注意を払うべきだろう。

 

 

<制裁の効果を相殺した無意味な政策>

 

10年に及んだ外交交渉と援助の時代を経て、2006年に北朝鮮は最初の核実験を強行し、国連安保理は一連の経済制裁を盛り込んだ決議を採択した。アメリカは北朝鮮の(核)武装解除を目的に掲げつつも、制裁については手ぬるい策しかとらなかった。さらに悪いのは、経済援助と投資が続けられたために、制裁の効果が相殺されてしまったことだ。

制裁が厳格に履行されないために、平壌はアメリカ国内の銀行を経由して、核開発資金のロンダリング(洗浄)を続け、人道に対する罪に相当する国内政策を続けた。平壌は資金の大半を違法活動によって調達し、これを合法的な収益と一緒にして資金を洗浄し、違法資金の出所を突き止められないようにしていた。国連の報告や米司法省の文書が確認しているように、北朝鮮は資金のほとんどをドルで決済して管理している。逆に言えば、ドル建て決済がアメリカの銀行を経由して行われている以上、米財務省は平壌のやり方を阻止する力を十分にもっている。

2005年末から2007年初頭にかけては、まさにそうした厳格な強制措置がとられた。米財務省は各国の銀行に対して「北朝鮮の資金の一部は麻薬取引、偽札(や偽薬)、武器輸出によるもので、そうした資金の決済を扱えば、ドルシステムのアクセスを失うことになる」と警告した。

財務省は本気であることを示すために、北朝鮮のために不法資金の洗浄(マネーロンダリング)を手がけていたマカオの小さな銀行、バンコ・デルタ・アジアをターゲットにし、同銀行のドルシステムへのアクセスを遮断した。その後、制裁対象にされることや悪い評判がたつことを恐れた各国の銀行は、北朝鮮関連の口座を凍結するか、閉鎖した。

北京はバンコ・デルタ・アジアから送られてきた資金を、平壌が管理する別の口座に移すように国内の銀行に要請したが、国有銀行でさえ、政府の要請を拒絶した。元米財務官僚のジュアン・ザラーテは、当時の措置を「国際金融システムから平壌を孤立させるためのかつてなく踏み込んだ試み」と描写している。

さらにこのエピソードは、中国の銀行が、政府との利害が一致しない場合、政府の意向よりも「ドルシステムへのアクセス」を優先することを示している。ザラーテが述懐するように、このケースに関するもっとも重要な教訓は「中国の金融機関は、それが自国の外交、政治利益に反するとしても、(ドルシステムへのアクセスを重視し)米財務省のイニシアティブに従う可能性があること」だろう。

しかし、2007年初頭、ブッシュ政権が北朝鮮の非核化を目指す政策を試みるなか、米財務省は、平壌のドル資金の多くがアメリカの銀行システムに自由に流れ込むのを放置する従来のやり方を復活させてしまった。

2014年7月までに、財務省が北朝鮮の資産を凍結したケースはわずか43件で、しかもこれらは北朝鮮のほぼ無名の個人や企業の資産だった。一方、ベラルーシについては、米財務省が資産凍結を行った口座数は50に達し、これには大統領や閣僚の口座も含まれていた。ジンバブエの凍結された口座は161、ミャンマーが(軍事政権の口座や主要銀行の口座を含めて)164、キューバが400。イランとなると凍結された口座数は800を超えている。

キューバ、イラン、ミャンマーのために決済を処理していた外国銀行は「二次的な制裁」の対象とされ、莫大なペナルティを課された。当然、世界の銀行はこれら3カ国との取引を避けるようになった。しかし、北朝鮮との資金決済をめぐる取引にそうしたリスクはなく、少なくとも、米議会が北朝鮮制裁強化法を成立させた2016年2月までは、この状態が続いた。

制裁強化法は北朝鮮の銀行がドルシステム内で支払処理を行うことを禁止しているが、この法律が発効したのは2016年11月になってからで、現段階でその効果を判断するのは時期尚早だろう。イラン制裁のケースでは、力強くうまく強制された制裁の効果が出るのに3年の時間がかかっている。

決議文書の表現でみる限り、国連の制裁は力強いが、加盟国政府、特に北京は制裁措置を支持しつつも、制裁措置を順守しないことが多い。中国の国有企業は輸送起立発射機(ミサイルトラック)を平壌に売却し、銀行も北朝鮮資金の洗浄を手がけている。政府も2014年にソニーピクチャーを攻撃して国連の制裁対象にされている企業や北朝鮮のハッカー集団が国内で活動するのを黙認している。港湾当局も、北朝鮮の核・ミサイルプログラムのための兵器や物資、そして高官用の贅沢品の積み替えを実質的に認めている。こうした行動をとっても、北京のお咎めはない。

この他にも、責められるべき国はある。国連決議によって、北朝鮮が韓国の資金を核開発に利用できないようにすることを求められていたにも関わらず、ソウルは2016年まで、ケソン工業団地プロジェクトを通じて年間約1億ドルの資金が平壌に流れ込むのを放置し、その使途を質すこともなかった。

(この他にも平壌は国際的つながりをもっている)北朝鮮が兵器の密輸に用いている一連の船にはカンボジアやモンゴルの旗がたなびいている。北朝鮮の核・ミサイルプログラムの開発を担当する科学者たちはインドやロシアの研究所を訪問し、一方で、カタールの建設現場、マレーシアの鉱山、ポーランドの造船所では北朝鮮人労働者が平壌の命令によって苛酷な奴隷労働に従事している。さらに北朝鮮軍はウガンダのパイロットを訓練し、イランやナミビアのために兵器を生産している。

医師は偽薬をタンザニアで販売し、一方で将軍たちはスイス製の時計を購入している。さらに米議会委員会での証言で研究者のラリー・ニクシュが語ったように、北朝鮮はイランとの「さまざまなタイプの協力関係」から20億ドル越える資金を受けとっている可能性がある。経済制裁の裏をかくことで平壌が得ているキャッシュは、グローバルな基準でみれば、それほど膨大な資金ではないかもしれない。それでも、権力を維持し、核開発プログラムを進める十分な資金を得ていることに変わりはない。

 

 

<金融制裁と中国の銀行>

 

2016年1月の4度目の核実験を前に、米韓はより一貫した金融・外交上の圧力を行使せざるを得なくなった。ケソンプロジェクトによって自ら制裁措置を破っていたソウルは他の諸国に制裁の順守を呼びかけられる立場にはなかったが、このエンゲージメント・プロジェクトを打ち切ることで、北朝鮮を抑え込むように同盟諸国を説得しようと、かなり努力するようになった。

北朝鮮制裁強化法が成立した結果、オバマ政権も重い腰を上げ、(国際的な資金洗浄の排除を規定している)愛国者法を基盤に北朝鮮を資金洗浄の主要な懸念先として特定し、金正恩を含む複数の北朝鮮指導者を「人権犯罪者」として金融制裁の対象にした。

現状で、米財務省は北朝鮮企業約200社のドル資産を凍結している。この数字は一定の進歩を意味するが、それでも、イランに対する圧力のレベルには到底及ばないし、北朝鮮の資金洗浄ネットワークを特定して凍結するための決意に満ちた試みをしているとはみなせない。

2016年11月にも、対北朝鮮制裁を破っている諸国に、逸脱行為を止めさせることを目的とする安保理決議が採択されたが、結局「二次制裁」の適用が明示されない限り、フィジーやタンザニアは北朝鮮の船に自国の旗をつけることを認め、イランとシリアも北朝鮮から兵器を購入し続ける。ナミビアも、北朝鮮の軍需工場の国内での生産活動を許容し、中国の銀行も北朝鮮資金のロンダリングを続けるはずだ。

北朝鮮が5度目の核実験を行った後の2016年9月、アメリカは初めて、「国連やアメリカの経済制裁を破っている中国企業がある」と批判し、米財務省は中国当局に対して鴻祥実業発展有限公司の国内の銀行口座凍結を要請した。告発によれば、この企業は、制裁の対象とされている北朝鮮の銀行が米銀行を通じて数百万ドルを資金洗浄するのを助けてきた。だが、オバマ政権の対策は十分ではなかった。国連決議や米財務省の規制は、各国の銀行が鴻祥実業発展有限公司のような疑わしい行動をとる企業を調査するように義務づけているが、資金洗浄を手がけてきた中国の複数の銀行に対してワシントンがルールの順守を厳格に求めることはなかった。こうした態度は間違っている。中国の銀行が今後も制裁破りを続ければ、経済制裁が機能することはない。そしてアメリカが制裁破りに対して(二次的)懲罰を与えない限り、中国の銀行が制裁措置を履行することはない。現実には、2005年から2007年まで北朝鮮を孤立させ、2012年にミャンマーに政治改革を受け入れさせ、2014年にイランを交渉テーブルに引き戻したのは、そうした「二次的制裁」だった。

 

 

<外交がなぜ無駄なのか>

 

アメリカや韓国のハト派は、経済エンゲージメント策に回帰し、米韓軍事演習を止めることを条件に、北朝鮮が核開発プログラムの凍結要請に応えることを期待している。しかし、オバマ政権が何度も交渉の機会を模索したが、結局は無駄だった。2009年、クリントン元大統領は金正日と会談するために平壌を訪問し、これを機に北朝鮮政府は2人のアメリカ人ジャーナリストの釈放に応じた。クリントンは非核化交渉への復帰を呼びかけたが、平壌はこれを拒絶した。2009年にはアメリカの北朝鮮特使、スティーブン・ボスワースも平壌を訪問し、交渉テーブルへの復帰を求めたが、これも徒労に終わっている。

オバマ政権は2013年にもロバート・キング北朝鮮人権特使の平壌派遣を打診したが、北朝鮮は土壇場になってその受け入れをキャンセルした。2016年1月に北朝鮮が核実験を行う直前にも、米朝の高官たちは和平条約の交渉を開始する可能性について話しあっていた。しかし北朝鮮側が「核開発プログラムをアジェンダとして取り上げないこと」を強く主張したために、結局、合意はまとまらなかった。

外交の試みがことごとく失敗してきたのは、平壌が核の兵器庫を拡大していくことを決意しているからだ。あと少しで核戦力をうまく完成できるタイミングにあるだけに、平壌が核・ミサイル開発プログラムを断念するはずはなく、交渉を再開しても何も得られない。引き戻すことのできない核軍縮コースに平壌を載せない限り、アメリカが譲歩しても有害無益に終わる。

米韓合同軍演習を止めれば、北朝鮮のミサイルが韓国の都市をターゲットにしている現状で、米韓合同軍の即応体制が損なわれる。しかも、(演習を停止した後に)それを再開すれば、北朝鮮は原子炉を再稼働させ、ミサイル実験を行う口実にする。国連安保理決議の強制措置、北朝鮮の兵器輸出船の臨検・拿捕、脱北者の受け入れ、人権問題に対する批判と、それが何であれ、平壌はこれらのすべてを逆手にとって利用するだろう。

北朝鮮は、米韓が朝鮮戦争を公式に終わらせるための和平交渉が実現すれば、非核化に応じると主張している。だが平壌は平和も和平条約も望んでいない。むしろ、結論の出ない、和平プロセスに長期的にアメリカを引きずり込むことを狙っている。

アメリカを和平プロセスに引きずり込めば、北朝鮮は人道に対する罪を犯しているという国際的批判を和らげ、政権の正統性を強化し、韓国の防衛レベルを引き下げ、アメリカと国連に経済制裁の解除を働きかけられるようになる。最終的に、米軍を朝鮮半島から撤退させることにも道が開かれるかもしれない。しかし、平壌は最終的には、アメリカによる査察要請を拒絶し、いかに新たな譲歩をしても、さらに要求を高めて、挑発行為を繰り返すはずだ。

 

 

<もう我慢すべきではない>

 

北朝鮮の非核化を平和的に実現するための残された唯一の道筋は、「核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている」と北朝鮮に強く認識させることだろう。そのためには、容赦なき政治的後方攪乱と金融孤立に向けたキャンペーンを展開する必要がある。

まず、「北朝鮮の銀行と違法取引している、もしくは、北朝鮮の疑わしい取引を米財務省に報告していない中国の銀行」に対して罰金と制裁を課すべきだ。財務省は銀行に対してオフショアアセットについても報告を求めるべきだ。

さらに米韓は、2016年に平壌の資金洗浄ネットワークを暴くことにつながった北朝鮮外務省高官たちの亡命をもっと促す必要もある。米海軍のフレデリック・ビンチェンツ司令官が2016年10月の論文で指摘したように、米韓は平壌のエリートたちに「統一された自由で民主的な朝鮮半島という未来があることを説得する一方で、戦争となった場合には、ターゲットとされた韓国の民間人の犠牲について責任をとらせることを理解させるべきだ」。さらに、平壌が北朝鮮民衆に対して続けている人道に対する罪に加担した高官を国際法廷で裁くと警告し、一方で、弾圧の緩和に努めた者には寛大な措置を約束すべきだろう。

これまでことごとく合意を破ってきた以上、検証可能かつ永続的な核の解体に応じるまで、ワシントンは北朝鮮政府の資産を締め上げる必要がある。国連の援助機関と連携して、購入できるのは食料、医薬品その他、北朝鮮民衆の人道的必要性を満たすための物資に限定するべきだ。凍結資金の解除には、核・ミサイルプログラムの不可逆的な凍結、核の無力化と解体に平壌が応じることを条件にしなければならない。とはいえ、北朝鮮が閉鎖社会であり続ける限り、外部の査察官がその軍縮状況を検証するのはほぼ不可能だろう。したがって、ミャンマー同様に、北朝鮮社会を段階的に開放へと向かわせる妥当なチャンスを作り出せるのは金融強制だけだろう。

効果的な制裁には、数年単位の時間をかけた調査と国際的連帯の形成が必要になる。制裁を即時的に発動したり、解除したりはできない。したがって、この戦略には時間と決意が必要になる。米朝関係の関係改善には、それに先立つ緊張が避けられないことを受け入れなければならない。

ワシントンと北京との関係にも同じことが言える。北朝鮮への厳格な経済制裁を適用すれば、中国は韓国、日本、アメリカからの輸入関税を引き上げ、国内での反米レトリックを強化し、太平洋でより軍事的な行動をとるようになるかもしれない。さらに、平壌に食料その他を送り込んで、制裁の効果を弱めようとする恐れもある。しかし、北京は大規模な貿易戦争や軍事紛争は望んでいない。中国の銀行や貿易企業が北朝鮮とのビジネスよりも、アメリカ経済へのアクセス確保を重視していることはすでに明らかだ。

自らが不作為を決め込めばアメリカが国境の北東部にある北朝鮮の体制を不安定化させると確信すれば、北京も平壌に外交、金融的な圧力をかけるだろう。

ワシントンは金正恩と習近平に対して、北朝鮮が核武装国家として安定するよりも、極度の混乱に陥って崩壊していく方が好ましいと考えていると明確に伝えるべきだ。アメリカの対北朝鮮政策に欠けているのは信頼ではなく、目的を踏まえた戦術、そしてそれを行使していく意思だ。ワシントンは平壌が核兵器以上に重視しているものを脅かす必要がある。それは体制の存続に他ならない。●

 

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