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プレス・リリース 5月号

2015-04-30

壮大な地政学ゲーム
――中国、ヨーロッパ、ロシア、そして日米

 ユーラシアをめぐるロシア、ヨーロッパ、中国のせめぎ合いが水面下で進行している。ロシアが攻勢に転じ、ヨーロッパは追い込まれ、中国はきらびやかなシルクロード構想を表明した。そして日米は同盟の強化を確認し、環太平洋を束ねる貿易構想TPPも合意に近づきつつあると報道されている。奇妙にも、この流れのすべてが直接・間接につながっている。

ロシアはウクライナへの介入を通じて、ヨーロッパの統合モデルを近くに寄せ付けない決意を、この上ない形で見せつけ、逆に、ヨーロッパ分断作戦をとっている。クラステフとレナードは次のように指摘している。「モスクワはギリシャの急進左派連合やフランスの国民戦線など、ヨーロッパの反EU政党を支援している」。すでにハンガリーのオルバン首相は「ハンガリーはロシアをモデルに非自由主義国を目指す」とさえ表明した。キプロスやギリシャなど、他の困難な状況に直面するメンバー国が、ロシアのアメとムチの餌食とされていく危険もある。(1)

これまで欧州連合(EU)は、周辺国のEU加盟に条件をつけることで、ヨーロッパ的価値の拡大を試み大きな成功を収め、その主要なツールがNATO加盟と単一市場へのアクセスだった。一方、ヨーロッパモデルを明確に拒絶したロシアは、ユーラシア経済連合構想とエネルギー資源をツールに、ヨーロッパへの影響力拡大、別の言い方をすれば、EUを切り崩そうと試みている。


 一方で、いまやもっとも大きな関心をあつめているのが中国のシルクロード構想だ。「アメリカのアジア・リバランシング戦略への対抗策」として、中国の研究者が西方への拡大構想を示したことをきっかけに具体化した「陸と海の新シルクロード」に沿って巨大な経済圏を形成しようとするこの構想は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)による資金的裏付けももっている。

ロバート・カーンが言うように、このAIIBは、BRICS銀行とともに、既存の国際経済秩序に対する中国の明らかな挑戦とみなされている。(2)

ジェイコブ・ストークスが指摘するように、AIIBという財的基盤をもつシルクロード構想は、中国が主導する非欧米型秩序の構築という北京の野望を実現することが目的かもしれない。

だが彼は、ロシアとインドの対外構想と直接的に衝突することを問題の一つとして指摘し、西方への道のりは長く険しいものになると結論づけている。「中央アジアや中東で紛争に引きずり込まれて、中国のパワーを広く薄く拡散し、引き受けるつもりもない重荷を背負わされる危険が高い」。(3)

一方で、中国が政治的、経済的に危機的な状況にあると指摘する専門家もいる。「現在の中国の権威主義的枠組みのなかで、さらなる進化のポテンシャルはほとんど存在しない」。むしろ、停滞を持続させるバランスがすでに形作られている。「しかも、これまで政府の正統性を支えてきた成長率は鈍化し、経済のハードランディングシナリオへの懸念が高まっている」とヨーウェイは匿名論文で告発している。(4)

イェール大学のエコノミスト、シブ・チェンも、「地方政府と国有企業が抱える膨大な債務問題を克服できなければ、中国経済に壊滅的な打撃を与える危機が起きるのは避けられなくなる」と予測している。(5)

国内が深刻な政治・経済的危機にあるなかで、北京が遠大な対外構想を打ち出した意図は何か。専門家の間でもコンセンサスはないが、それが非常に大きな賭であることはおそらく間違いないだろう。


 この状況でヨーロッパはどう動くだろうか。「ヨーロッパもアメリカも、習近平の遠大なビジョンの実現を許すわけにはいかないはずだ」とクラステフとレナードは言う。したがって、(ヨーロッパは)ロシアの裏庭である中央アジアでの影響圏拡大をめぐって、「ロシアが中国と競い合うことを許容すべきだ。そのためにもヨーロッパはロシアのユーラシア経済連合を認め、ロシアに一定の譲歩をすべきだ」と提言している。(6)

中国のシルクロード構想がアメリカのアジア・リバランシング戦略への対抗策だったとしても、そのアジア・リバランシング戦略はどうなっているだろうか。安倍首相は訪問先のワシントンで日米同盟の強化をアピールし、アジア・リバランシング戦略の重要な一部であるTPPも合意に近づきつつあるようだ。

中国は日本のAIIBへの参加を打診し、一方でワシントンはTPPに最終的に中国を参加させたいと考えている。日本は、この壮大な秩序再編の流れを左右する鍵を握る国家の一つになっているかもしれない。●

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