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プレス・リリース 3月号No.2

2015-03-10

量的緩和と通貨安と貿易摩擦
―― TPPと米議会

Photo/Courtesy Reuters

グローバル経済・金融問題の一線級の分析者たちが指摘する通り、特定国が量的緩和を実施すれば、通貨安になる。日本の円安だけでなく、欧州中央銀行が3月に国債購入に踏み切ると、ユーロが下落し、国債利回りが軒並み過去最低を記録している。

元欧州委員会委員長経済アドバイザー、フリップ・レグレインはこの流れを次のようにまとめている。

「アメリカ以外の国々は、低成長を穴埋めするために通貨安になることを望んでいる。ここで二つの問題が出てくる。一つは、米ドルがどこまで上昇するか。もう一つは、米ドルと関連して、アメリカが金融危機前に果たしていた「最初で最後の消費者」としての役割をどの程度まで果たせるかだ」

もちろん、通貨安が期待されるような利益をもたらすとは限らない。ルイス・アレクサンダー(元米財務長官顧問)は「円安は実際には日本が期待したような利益をもたらしていない」と指摘している。さらに、アメリカが「最初で最後の消費者」としての役割をどの程度果たせるかも、各国の対ドルレートに左右される。

一方で「米ドルの上昇をワシントンがどこまで許容するか」という問題もある。

マイケル・レビ(米外交問題評議会シニアフェロー)は「為替が不公平な状態にある」と感じているタイミングで、議員や市民たちに(TPPやTTIPなどの)大型の貿易協定に合意するように求めれば、彼らは「なぜ為替問題に対処しないのか」と考えるはずだ、とコメントしている。(1)

すでにロバート・カーン(CFRシニアフェロー)は1月号で「これまでも貿易条約の批准に際しては為替レートのミスアラインメントへの対応を厳格に義務づけてきた米議会が、円安ドル高問題を取り上げれば、TPP交渉にも暗雲が立ち込めることになる」と予測し、それがすでに現実になりつつある。(2)

米上下両院は、一部の国が人為的に自国通貨の価値を下落させ、輸出競争力を高めるという不公正な手法に対して断固たる対応をとると主張している。

中国はともかく、日本はここしばらく通貨市場には介入しておらず、為替操作国にはあたらないが、すでに円安懸念を背景に、米議会ではTPPなどの通商協定に為替操作に対する制裁条項を盛り込むことを求める動きが出ている。アメリカの自動車業界も、為替操作に効果的に対応しなければTPPに反対すると表明している。

フレッド・バーグステンは「貿易問題は過去において繰り返されてきたし、これからも確実に再燃する」と今後を見通し、「米政府はアメリカ史上においてもっとも野心的な貿易構想を見事に勇敢に実施しているが、その戦略の果実を得るには、より適切に通貨問題を扱う必要がある」と主張している。(3)

TPPへの道のりには米議会という大きな障害が姿を現しつつある。

(1) 世界経済アップデート―― 原油安、ドル全面高、量的緩和、 ロシア・ヨーロッパ経済 

(2) 孤立した一本の矢―― 量的緩和の国際的政治・経済リスク

(3)米議会と環太平洋パートナーシップ 4月号掲載予定

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