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2011年9月号(3)アジアの政治家とフォーリン・アフェアーズ

2011-09-02

アジアの政治家とフォーリン・アフェアーズ
2011.9 .2公開

もっとも知的で分析力のあるアジアの政治家は誰かと聞かれれば、おそらく多くの人がシンガポールの初代首相を務めたリー・クアンユーの名前を挙げるだろう。リーのスケールの大きな本質を突いた議論は、フォーリン・アフェアーズに何度も登場している。

90年代にフォーリン・アフェアーズ誌の副編集長に抜擢されたファリード・ザカリアにとって最初の大きな仕事も、リー・クアンユーへのインタビューだった。ザカリアが対話の相手務め、アジア経済の台頭が注目されていた時期に発表された、「アジアの小国の巨人」によるアジア政治文化論「文化は宿命である」は世界的に大きな話題になった。

そして、この論争に参加したのが韓国の金大中だった。「文化は果たして宿命か」と題された1995年の論文で、彼は「急速な経済変化に伴う社会混乱を説明するのに、西欧文化をスケープゴートとするのは賢明ではない。アジア社会の伝統的な強さを、いかにしてより優れた民主主義へと結び付けていくかを考えるべきだ」と反論した。2年後、金大中は韓国の大統領になった。

日本人の政治家でフォーリン・アフェアーズに論文を寄稿しているのは、吉田茂、中曽根康弘(ディスカール・デスタン仏大統領、ヘンリー・キッシンジャーとの連名論文)、細川護煕の三氏。論文のタイトルはそれぞれ、「来るべき対日講和条約について」、「東西関係」、「米軍の日本駐留は本当に必要か」だった。

そして、今月号には、韓国の次期大統領有力候補の一人と言われる朴槿恵(パク・クネ)が「新しい朝鮮半島を思い描く」を寄せている。パクの場合も、金大中同様に、次期大統領の有力候補としての政治的に重要なタイミングでの論文発表だ。

大統領の座を射止めた金大中は北朝鮮関与政策(太陽政策)を採用し、その結果、すでに対北朝鮮強硬路線に転じていたワシントンとの関係は大きく冷え込んだが、パク・クネが思い描く対北朝鮮路線に同盟諸国と対立する部分はほとんど見当たらない。むしろ、彼女の論文で印象深いのは、経済成長と民主化を実現し、OECDへの加盟を果たしたという自負とプライドが論文の随所にあふれていることだ。

金大中が大統領に就任した直後から韓国はアジア経済危機の猛威に覆われた。彼はIMFの融資を受け入れるともに、大きな痛みを伴う経済改革を断行し、これを基盤に韓国経済は大きな成長を遂げた。もちろん、その前にも、パク・クネの父親である朴正煕(パクチョンヒ)の時代にも、韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長を実現している。

「北朝鮮が、かつて韓国が歩んだのと同じ道を歩けるようにしなければならない」とパク・クネは強調している。

かたや、1980-90年代に経済的脅威として世界に恐れられた日本にいまやかつての面影はない。「日本の場合、政治エリートが現実を直視しない傾向がある。・・・「極端な少子高齢化社会が到来しているのに」・・・政府は問題を先送りし、「天文学的水準に達している財政赤字の削減も待ったなし」の状態にあるのに、抜本的な対策はとられない。・・・・日本の国民は「もっとよい指導力、より良い政治に」恵まれるべきだ。これは、前国務省日本部長ケビン・メアの著作の一節だ(「決断できない日本」、文藝春秋)。

今月号には、リチャード・サミュエルズ、エリック・ヘジンボサム他が、日本政治の現状分析を試みた論文も掲載した。この論文では「もはや日米関係が未来を明確に共有しているとは言い難い」と現状が描写されている。

次にフォーリン・アフェアーズに論文を寄稿する日本の政治家が誰になるとしても、そのテーマは外交問題よりも、むしろ、国際的パースペクティブのある新国家モデル論になる のかもしれない。巨大な債務と財政赤字、円高と産業空洞化、高齢社会と社会保障、強大化する中国の経済力と軍事力。時間はかかるとしても、これらの気の萎えるような問題に対処していくには、それこそ、現代版「船中八策」、つまり、国の制度を根底から作り替える必要があるかもしれないからだ。そのたたき台にできるのは、例えば、かつてリチャード・ローズクランスが指摘した「頭だけをもち体をもたない」ダウンサイズされた「バーチャル国家」なのかもしれない。そして、未曾有の危機に直面して、その対策さえ議論しないとすれば、レオナード・ショッパが言うように、人々は改革を求めて声を上げるのをあきらめ、企業も個人も制度から退出することを選択するかもしれない。●(竹下興喜@FAJ)

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