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2008年2月号 政府系ファンドと投資保護主義  

2008-02-10

原油価格高騰、サブプライム問題、ドル安、米経済の景気減速がグローバル経済の危険因子としてクローズアップされるなか、政府系ファンドの活動が世界的に大きな注目を集めている。その活動実態は依然として闇のなかだが、中国、クウェート、ノルウェー、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、韓国、アラブ首長国連邦が政府系ファンドを保有しており、日本でも政府系ファンドの立ち上げを求める声が聞かれる。

原油価格が高騰するなか、世界規模での富の移転が進んでおり、巨大な資金が今も中東へと向かっている。一方、アメリカの巨大な経常赤字が物語るように、主要な対米輸出国は巨大な貿易黒字を計上し、ドル建て外貨準備を積み上げている。政府系ファンドを保有している国の多くが産油国、そして東アジアを中心とするアメリカの貿易相手国であるのは偶然ではないし、手元に大規模な資金があれば、それを投資したいと考えるインセンティブが市場経済のなかで働くのも無理もない。

だが、買われる側の心中は複雑だ。かつて、三菱地所がロックフェラーセンターを買収したことで、アメリカで日本脅威論が政治的に台頭したことがある。最近でも、2005年にアラブ首長国連邦の政府系企業であるドバイ・ポーツ・ワールドによるアメリカの港湾運営権の買収をめぐって米議会で大きな論争が起きた。この二つのケースの大きな違いは、前者が民間企業による買収だったのに対して、後者が政府系企業による買収だったことだ。今後は、もっぱら、他国の政府が管理する資金が政府系ファンドという形で自国経済に入り込んでくることをどう判断するかが問われることになる。

米政府内で政府系ファンド対策を取り仕切っているロバート・M・キミット米財務副長官は、政府系ファンドの資金を、外貨(国際)準備、公的年金基金、国有企業、「外貨準備を原資としながらも、外貨準備とは別に管理される」資金の四つに区別したうえで、そこには、大きく分けて、コモディティ(産油国)系政府系ファンドと(外貨準備の一部を転用する)非コモディティ系政府系ファンドの二つがあると指摘している。

キミットは政府系ファンドの利点として、その投資の多くが「長期投資であり、短期的なボラティリティー(変動)に直面しても、独自の戦略的資産配分から逸脱せず、……投資資金の借入比率が少ないために、唐突にポジションを崩して投資を回収しようとするリスクが少ない」ことを挙げ、この意味では、政府系ファンドは「市場に流動性を供給し、資産価格を引き上げ、投資相手の借入金利を低下させることで、金融の安定化をもたらす」と指摘している。
一方、問題点としては、活動の透明性が確保されていないことに加えて、投資を通じて政府系ファンドが民間企業の経営に対して大きな影響力を持ってしまうことを挙げている。同氏は政府系ファンドが株式を取得するだけでなく、取締役を派遣したり、議決権を取得したりするリスクについて触れ、とりわけ、安全保障にかかわってくるようなインフラに外国の政府系ファンドが影響力を持つことを問題視している。

現在のところ、こうした潜在的問題を裏づけるような政府系ファンドの目立った動きはないとしつつも、政府系ファンド、投資の受け入れ国双方が受け入れられるような政策原則を、国際機関を交えて確立する必要がある、とキミットは強調している。その真意は、政府系ファンドを規制するよりも、政策原則を導入し、むしろ、政府系ファンドが一定のルールのもとで活動していることを市場そして議会に納得させることで、「投資保護主義」の台頭を抑え込むことにあるようだ(「政府系ファンドとグローバル金融市場」)。

いまやグローバル経済の曖昧さと複雑さはますます大きくなりつつある。ドル安はアメリカの経常赤字を縮小させ、景気を刺激することにもつながるが、大規模なドル建て外貨準備を持つ大手産油国や東アジア諸国にとっては実質的な資産減となる。一方、ドル安が続けば、米経常赤字を事実上補填してきた、諸外国による米国債購入のインセンティブを弱め、基軸通貨としてのドルの役割さえ弱めてしまう恐れもある。こうした曖昧で複雑な環境のなか、大きな注目を集めている政府系ファンドは、救世主なのか、悪魔なのか。まずは市場に判断を委ねるというのが、アメリカの路線のようだ。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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