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政府系ファンドとグローバル金融市場
――政府系ファンドは脅威なのか

ロバート・M・キミット/米財務副長官

Public Footprints in Private Markets

2008年2月号掲載論文

政府系ファンドが多くの注目を集めているのは、政府系ファンドの活動がグローバル経済を構造的に変化させる可能性を秘めているからだ。実際、投資を通じて他国の安全保障インフラや民間企業の経営に対して大きな影響力を持つようになる可能性もある。だが、これまでの行動から判断すると、政府系ファンドは政治的な論争を誘発するような行動を慎んでいる。政府系ファンドの投資活動が自由で公正な活動である限り、政府系ファンドからの投資に対して開放的な路線をとり、国内および外国での成長と繁栄を促進すべきだろう。むしろ、必要なのは、政府系ファンドとファンドの受け入れ国が適用できる一連の政策原則を国際的に確立することだ。逆に、最大の脅威は「投資保護主義」の台頭だろう。

  • 政府系ファンドをめぐる混乱
  • 政府による投資の四つのタイプ
  • 政府系ファンドの潜在的問題
  • 投資がもたらす利益に目を向けよ
  • 政府系ファンドへの政策原則は
  • 構造的な変化

<政府系ファンドをめぐる混乱>

イギリスから独立する8年前の1953年、クウェートは(現在の投資庁にあたる)「クウェート投資理事会」を設立し、原油輸出による黒字を利用して投資活動を開始した。当時、政府系ファンドという言葉は用いられていなかったが、おそらく、これが世界で初めての「政府系ファンド」(SWF)の誕生だった。政府系ファンドという言葉が用いられるようになったのはごく最近になってからだ。政府系ファンドとは、政府が管理する膨大な額の公的資金のことを意味し、いまや、この公的資金が外国の資本市場へと投資されている。実際、政府系ファンドの数と規模はここにきて急速に拡大している。2005年以降に設立された12の政府系ファンドだけでも合計で2・5兆ドルを運用しており、年間1兆ドルのペースで運用規模が拡大しているとする分析もある。

政府系ファンドの急速な拡大という現象を過度に警戒すべきではないが、この現象に政策的な関心が向けられるのも無理はない。だが各国政府は、政府系ファンドの影響力の増加の意味合いを正確かつ冷静に検討する必要がある。政策論争の場やメディアでよく示される懸念は、政府系ファンドやその他の政府資産の外国投資に関する理解不足に根ざしており、誇張されている部分がある。

政府系ファンドの歴史、目的、規模、成長のペース、そして、金融市場に与える影響を総合的に把握しなければならない。これらの点での理解が進み、政府系ファンドおよびファンドの受け入れ国の双方が一連の明確な政策原則を確立できれば、外国投資への開放性を維持しながら、世界金融の安定性を促進することができるはずだ。

 

<政府による投資の四つのタイプ>

政府系ファンドに関する政策論争の枠組みを整理するために、ここでは、政府による投資を(外貨準備を含む)国際準備、公的年金基金、国有企業、政府系ファンドによる投資の四つに区別してみよう。

国際通貨基金(IMF)の定義によれば、国際準備とは、国際収支の不均衡を直接的に埋め合わせるために財務省と中央銀行が管理・運用する準備資産のことだ。国家は通常、輸出の減少、金融危機の際の通貨防衛に対応するために外貨準備を用意している。外貨準備は、流動性の高い有価証券、通常は高格付けの先進国の国債に投資される。

公的年金基金とは、将来の公的給付のための市民の積み立て資産を運用する投資手段のことだ。公的年金基金が政府系ファンドと異なるのは、公的年金基金が各国通貨建てで積み立てられ、通常は外国資産への投資運用が少ないこと。しかし、年金基金の外国への投資は今後増加していくと予想されており、政府系ファンドを使って年金基金が運用されるケースが増えてくると考えられる。
国有企業(SOE)とは、国が全株式、過半数株式、あるいは多数の株式を所有する企業のことで、その経営に対して政府は大きな影響力を持っている。SOEが外国に投資することもあり、その対象は、製造業、金融業を含む多様な領域の企業におよんでいる。

最後に政府系ファンド。このファンドは、外国為替資産を原資に運用されるが、外貨準備とは別個に管理されている。実際、政府系ファンドのマネジャーは外貨準備運用のマネジャーと比べ、より大きなリスクを引き受けて、より大きなリターン(配当)を模索することが多い。

一般的に政府系ファンドは、外国為替資産の出所に応じて二つに分類される。(資源輸出をおもな原資とする)コモディティ系(産油国系)政府系ファンドは、国が所有あるいは課税するコモディティ(石油、天然ガス、その他の原材料)の輸出が資金源とされている。この資金は、財政の安定、世代間貯蓄の調節、そして、外資の流入がインフレを誘発することを回避するための国際収支の調整(不胎化)など、さまざまな目的に利用されている。現在、コモディティ価格が高騰しているために、財政の安定や国際収支の調整といった当初の目的のために設立された多くの政府系ファンドは、世代間貯蓄ファンド (intergenerational savings fund) へと進化している。

一方、非コモディティ系政府系ファンドは一般的に、外貨準備からの資金の一部を移転して運用される。コモディティ(原材料)を輸出していない国も、巨額の国際収支の黒字があれば、「余剰」外貨準備を独立した投資ファンドへ移譲して投資に回すことで、より大きなリターンを模索できるようになった。非コモディティ系政府系ファンドの原資である外資準備の多くは、為替介入によって得られる。一方で為替介入は過剰流動性をもたらすことが多く、過剰流動性に対しては望まないインフレを回避するために国債を発行して流動性を低下させる必要がある。このため、実質リターンは、政府系ファンドの投資から得られるリターンと国債の金利支払いとの差によって決まることになる。つまり、このタイプの政府系ファンドの資産は、蓄えられた富ではなく借入金と考えることもできる。

このように政府による投資活動にはさまざまな形態があるが、どうして政府系ファンドだけが多くの注目を集めているのだろうか。一つには、政府系ファンドが今後急速かつ長期にわたって拡大していくと考えられているためだ。もう一つは、政府系ファンドが、他の形態の国による投資に対する問題をつくりだすとみなされている。実際、政府系ファンドによって金融市場が変化すれば、必然的にその余波は国際準備や公的年金基金に及ぶし、投資パターンの変化はSOE関連の投資にも影響を与える。

 

<政府系ファンドの潜在的問題>

クウェートだけでなく、アラブ首長国連邦やシンガポールなどの国も25年以上前から、政府系ファンドを運用してきたが、最近における政府系ファンドの数と規模の拡大は際立っている。定義にもよるが、いまや世界には40の政府系ファンドが存在すると考えられる。内部情報が公開されていないことが多いために、その規模を推定するのは難しいが、IMFの推定によれば、現在、政府系ファンドが運用する資産は1・9兆ドルから2・9兆ドル。その資産規模は、コモディティ価格と為替レートに大きく左右されるため、今後どうなるかを予測するのは難しいが、政府系ファンドの資産は2015年までに10兆ドルから15兆ドルに達していると予測する民間金融機関もある。

政府系ファンドの資産規模が大きいのか、小さいのかは、その大きさを評価する方法で左右される。政府系ファンドの資産規模を大きくとらえたいのなら、S&P500(米国市場の代表的な500銘柄)の現在の時価総額がおよそ12兆ドルであることと比較すればよいし、小さく見せたいのなら、12兆ドルといっても、推定190兆ドルにもなる世界中の金融資産総額のごく一部でしかないと指摘すればよい。

また政府系ファンドを他の投資機関と比較することもできる。例えば、政府系ファンドの資産規模を大きく見せたいのなら、ヘッジファンドの運用資産が推定1・5兆ドルであることと比較すればよいし、小さく見せたいのなら、(例えば年金基金や財団基金などの)成熟した機関投資家の運用資産規模がおよそ53兆ドルであることと比べればよい。

しかし、こうした評価方法とは関係なく、二つの問題を避けて通ることはできない。一つは、政府系ファンドがすでに市場全体に影響を与えるほどの規模に達していること。もう一つは、政府系ファンドが今後、絶対的にも相対的にも規模を拡大していく可能性が大きく、そうした規模の拡大が国際金融システムに与える影響についての議論が求められていることだ。

まず考えるべきは、政府系ファンドが設立されることで、好ましくないマクロ経済政策および金融政策を固定化させ、永続化してしまうかどうかだ。為替レート介入によって積み増された余剰外貨準備を、自国通貨の高騰を抑えるためにさらに積み増すために、政府系ファンドを利用するのは問題がある。一方、好ましくない政策の永続化という問題は、コモディティ系政府ファンドにとっては大きな問題ではない。なぜなら、資源保有国政府は基本的に(資源という)地中にある実物資産を、政府系ファンドを通じて将来の世代が引き出すことになる金融資産に変えているだけだからだ。しかし、コモディティ輸出国も、自国の政府系ファンドがしっかりとした国内財政政策、金融政策、為替レート政策の枠組み内で運営されるように留意しなければならない。

もう一つは、政府系ファンドも国内および国際的な経済政策と金融政策の延長線上にある以上、政府系ファンドが金融の安定性に与える潜在的な影響を考える必要がある。この点での安心材料もある。政府系ファンドによる投資は基本的に長期投資であり、短期的なボラティリティー(変動)に直面しても、独自の戦略的資産配分から逸脱しないのが一般的だからだ。政府系ファンドの借入比率は低いし、規制当局による新たな制約を受けたり、唐突にポジションを崩して投資を回収しようとしたりするとも考えにくい。この意味では、政府系ファンドは、市場に流動性を供給し、資産価格を引き上げ、投資相手の借入金利を低下させることで、金融の安定化をもたらすと考えることもできる。

それでも、責任のある公共政策を実施するには、政府系ファンドが金融市場に与える可能性のある影響を検証する必要がある。政府系ファンドは金融市場において大規模で集中的かつ不透明なポジションをとることも多く、例えば、流動性の少ない市場に突然大きな資金が投入されれば、価格のボラティリティーを高めてしまう。さらには、政府系ファンドの多くが自らの投資方針をほとんど公表しないため、政府系ファンドの動向に関するたんなる噂にさえ民間部門が反応してしまう危険がある。

第3の、そしておそらくもっとも重大な問題は、政府系ファンドが投資を通じて民間企業の経営に対して大きな影響力を持つようになることだ。もっともはっきりしているのは安全保障に与える問題(つまり、投資を通じて国家安全保障にかかわってくるインフラへの影響力を持つこと)だ。通常の外国投資同様に、政府系ファンドから投資を受け入れる国は、そうした投資の経済利益を不必要なまでに制限することなく、安全保障上の懸念に対処していかなければならない。

相手国企業の多くの株式を正式に取得するだけでなく、政府系ファンドが取締役を派遣したり、影響力を及ぼし得る規模の議決権を取得したりすることもある。純粋な受動的投資以外のあらゆる投資に派生するこうした権限に対しても懸念が持たれている。

アメリカには、開放的な投資環境を維持することと安全保障問題に配慮することの間のバランスをとるために、対米外国投資委員会(CFIUS)がある。CFIUSは、アメリカへの投資に対する不必要な障壁、逆効果になるような障壁を巡らすことなく、国の安全保障を確保するという観点から外国投資を審査することを任務としている。CFIUSは「安全保障にかかわる外国の投資案件だけ」を審査の対象とすることで、開放的な投資環境を維持することに配慮している。

中国の国有石油企業である中国海洋石油総公司=CNOOCによるアメリカの石油企業の買収の試み、ドバイ・ポーツ・ワールドによるアメリカの港湾運営権の買収の試みなどの買収案件が論争を巻き起こしていたときでさえ、CFIUSが審査していた外国投資の大半は30日間の審査期間中に迅速に処理され、その判断をめぐって論争が起きることもなかった。アメリカにおける2006年の合併・買収案件は約1万件。そのうちの1730件がクロスボーダー(国際投資)案件で、CFIUSの審査対象となったのはわずか113件(クロスボーダー案件の約6・5%)。しかも、差し止められた案件は一件もなかった(注:ドバイ・ポーツ・ワールドはCFIUSにアメリカの港湾運営権を認可されたものの、米議会の猛反発に遭い運営権を米企業に売却している)。

米議会は2007年の夏、外国政府が国内企業への影響力を持つような投資案件に対して追加的な調査とより厳格なハイレベルでの承認を義務づける法律を可決した。だが、この追加措置も、投資家のための安定した環境の整備、アメリカ政府の説明責任の強化、CFIUSと議会とのスムーズな連絡の確保がおもな目的だった。現実には、新しい法律によって、安全保障上の懸念が本当に存在する、非常に少数の案件にCFIUSが注力できるような規律あるアプローチが強化されたといえよう。

外国政府が関係するファンドが自国の民間企業の株式を所有したり、所有権を拡大させたりすることには安全保障以外の問題も存在する。まず、政府よりも民間企業の方が資本を効率的に配分できるというアメリカの信条からみて(企業に政府の資金が入り込むことは)問題がある。次に、たとえ安全保障には直接的な影響を与えなくても、外国政府がビジネスの発想から外れ、政治的に問題になるようなやり方で巨額な資本を動かすリスクもある。例えば、政府系ファンドが、自国の外交政策や社会政策を有利にするという観点から投資判断を下す恐れもある。第3は、民間部門に対して不公正な競争上の優位性を持つ可能性があることだ。外国政府は自国の情報組織や公安組織を利用して、民間投資家が入手できない情報を基に投資の決定をするかもしれない。また政府系ファンドは、国家主権による保護のもと、(必要ならば)民間投資家では利用できないような金利で資金を調達するかもしれない。さらに政府系ファンドが、自国の国有企業に外貨をまわし、その国有企業が外国投資を行うという間接的なアプローチをとる危険もある。

 

<投資がもたらす利益に目を向けよ>

アメリカを含めて政府系ファンドの投資を受け入れる国は、拡大する政府系ファンドの重要性にどのように対処していくべきなのか。

第1に指摘すべきは、政府系ファンドに対する障壁を導入すべきではないということだ。これまで政府系ファンドが金融市場を混乱させたことはないし、政府系ファンドが投資を通じて企業の経営に部分的にでも関与している事例はほとんどない。投資を通じて、経営に対する影響力を得た場合でも、そこに隠された外交政策的な意図が働いていることを示す証拠はほとんどない。

投資受け入れ国は、国際投資活動への開放的な路線を維持していくことを再確認すべきだろう。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2007年5月10日、米大統領としては16年ぶりに「開放的経済に関する声明」を発表し、アメリカが長年にわたって続けてきた投資支援政策を再確認している。実際、市場志向の開放的な投資活動がもたらす恩恵は数多くある。米企業が国際資本を利用して事業を拡大すれば、繁栄も拡大する。また受け入れ国のマクロ経済の観点から考えると、投資の流入は、経常赤字を埋め合わせることにも役立つ。また、結果的に生じる企業間の競争強化がもたらす利益も重要だ。財・サービスの価格が低下し、アクセスと多様性が拡大し、国内経済の生産性と効率性が向上する。

アメリカ経済は、外国からの直接投資、そして外国への直接投資から大きな利益を引き出してきた。外国に投資しているアメリカの多国籍企業は、アメリカの全般的な生産性の向上に寄与し、その結果、アメリカ市民の生活水準の向上にも大きく貢献してきた。1977年から2000年までのアメリカの生産性の向上の半分以上、1995年から2000年までの生産性の向上の半分は、アメリカの多国籍企業がもたらしている。実際、1995年から2000年までの5年間でアメリカの多国籍企業の生産性の伸び率は年間6%にも達している。

一方で、ある調査によれば、アメリカ国内の外資系企業は、アメリカの雇用の4・5%、国内総生産(GDP)の5・7%をつくりだし、輸出の19%、研究開発費用の13%、生産設備投資の10%を担っている。また外資系企業の報酬(賃金および福利厚生費)は、平均するとアメリカ国内の同業他社と比べて30%以上も高い。アメリカの全雇用のなかで製造業が占めるのは10%以下だが、外資企業の雇用の30%は製造業だ。

外国直接投資の恩恵を脅かす最大の脅威は「投資保護主義」の台頭だ。ヘンリー・ポールソン米財務長官が指摘するように、投資と貿易双方の保護主義はアメリカ経済の成長と雇用の創出を妨げてしまう。これはアメリカだけの懸念ではない。ヨーロッパを含めた先進諸国、新興経済諸国においても保護主義が台頭しつつある。投資保護主義は、安全保障上の懸念という名目で取り繕われ、外国からの投資からはじき出された企業によって扇動されることが多い。

 

<政府系ファンドへの政策原則は>

政府系ファンドをめぐるこうした議論から明らかに言えるのは、政府系ファンドが投資受け入れ国にもたらす恩恵は、政府系ファンドの投資がどの程度経済的な意図に基づいているかに左右されるということだ。政府系ファンドの投資活動が政治的な意図ではなく経済的な意図に基づいている限り、投資受け入れ国も、政府系ファンドの投資活動に自由で、透明性が高く、予測可能な環境を提供することで大きな利益を得ることができる。

とはいえ、政府系ファンドと政府系ファンドの投資受け入れ国の双方は、一定の責任を負っており、双方とも政策上の原則を持つ必要があり、現在アメリカ政府は、政府系ファンドを保有する国と投資の受け入れ国との2国間対話を強化している。

SWFの投資受け入れ国が指針とすべき基本原則は四つある。第1は保護主義を回避することだ。政府系ファンドが国内主要企業への支配的影響力確立への関心を持っているかどうかに関係なく、投資受け入れ国は、政府系ファンドの投資に対する障壁を巡らすべきではない。そうしたやり方は逆効果だ。

第2は公正で透明性の高い投資環境を維持することだ。投資に関する政策と審査プロセス、特に安全保障上の懸念に関連するものは公共の場で議論し、見解を明確にし、予測可能で非差別的なものとしなければならない。

第3は、この枠組みにおいて、投資家の意思決定を尊重することだ。基本原則を確立している投資受け入れ国は、政府系ファンドの投資判断に口出しすべきではない。投資によって利益だけではなく損失が生じるリスクがある以上、投資を国別、資産タイプ別にどのように配分するのかという意思決定は投資ファンドのファンドマネジャーが決定すべきことだ。

最後に投資家を平等に扱わなければならない。課税と規制をめぐって外国と国内の投資家を差別してはならない。

一方で政府系ファンドも五つの政策原則に従う必要がある。第1は政治的思惑ではなく経済利益を念頭に投資することだ。政府系ファンドの投資の意思決定は、政治や外交政策に関する思惑ではなく、経済的な判断に基づいて行われなければならない。政府系ファンドは、基本投資管理政策の一環としてこの点を明確にすべきだ。

第2は世界レベルの投資機関としての基準を誠実に守り、投資政策に関する透明性を保ち、強固なリスク管理システム、企業統治構造、内部統制基準を持つべきだろう。政府系ファンドが原則的には借り入れに大きく依存することはなく、長期投資を行うとしても、規模が大きく集中的で不透明なポジションをとることもできる以上、システミック・リスク(金融市場全体に影響を与えるようなリスク)を発生させかねない。

第3は民間部門と公正に競争することだ。政府系ファンドは、買収案件に対して市場よりも低金利で資金を調達できることを含めて、競争していくうえでの不公正な優位を利用して、民間部門と競合しているように見られないように注意すべきだろう。

第4は国際金融の安定を促進することだ。健全なグローバル市場から恩恵を引き出せる公的機関として、政府系ファンドは、国際金融の安定を維持することへの大きな利害と責任を持っている。政府系ファンドは、市場が混乱した場合にはその問題に対応すべく、公的機関とうまく意思疎通を図りながら行動すべきだろう。

最後に、投資受け入れ国のルールを尊重しなければならない。政府系ファンドは、投資受け入れ国のすべての関連規制と情報公開ルールの対象とされるし、そのルールを順守しなければならない。

これらの原則はすべて、そもそも政府系ファンドが投資を通じて「資産を蓄積していくことは間違っていない」という前提に基づいている。しかし、政府系ファンドの資産をつくり上げたマクロ経済政策については、その政策が政府系ファンド保有国と国際金融システムにとって適切かどうか、常に検証を続けていくべきだろう。

政府系ファンドを保有する国の多くが外国からの投資に対して非常に閉鎖的であるにもかかわらず、投資活動をめぐる相互主義をあえてこれらの原則のリストに入れなかったのは、たとえ相手国がそうでないとしても、投資に対する開放性を維持しておくことが、アメリカの民間部門にとっても、公的部門にとっても利益になるからだ。しかし相互主義を全く考慮しなくてよいということではない。現実には、投資に関する政策の意思決定は知的財産や物的財産の保護と同様に、相互主義を前提とする幅広い政治的な文脈のなかで行われているからだ。

ヘッジファンドの透明性と政府系ファンドの透明性を頻繁に比較するのもよい方法だろう。どちらにとっても透明性は非常に重要な要素だが、それぞれに異なったアプローチが必要となる。政府系ファンドとは違ってヘッジファンドは民間の組織であり、ヘッジファンドの情報公開は、市場の規律を強化し、システミック・リスクを軽減するための重要な要素だ。ヘッジファンドの透明性が重要となるのは、ヘッジファンドと投資家、ヘッジファンドと取引相手および債権者、そして取引相手と債権者と規制当局との間でのことだ。幸い、アメリカとヨーロッパの民間部門はヘッジファンドのための最適のルールを整備しようと試みている。

システミック・リスクを軽減するための市場規律という枠組みは、政府系ファンドには適用できない。政府系ファンドは公的資金を管理する公的機関であり、利益の最大化を常に重視するとは考えられないからだ。政府系ファンドの規律は、機関投資家に対してではなく、市民と政府への配慮で形づくられる。したがって、政府系ファンドを受け入れる企業が、情報公開を制限したり、融資の条件を厳しくしたりして、市場の規律から外れていく危険がある。政府系ファンドを受け入れる企業は、ファンド保有国がすべてを保証してくれると考えるようになるかもしれないからだ。政府系ファンドによるシステミック・リスクを軽減するには、情報公開を進める必要がある。

 

<構造的な変化>

財務省は、アメリカ政府内で政府系ファンドの理解を深め、ファンドとの意思疎通を進めるうえで主導的な役割を果たしてきた。ポールソン財務長官が議長を務め、アメリカの主要な金融規制担当者と政府内の他の金融問題担当者で構成される大統領直属の「金融市場に関する作業部会」は、政府系ファンドに関する調査をすでに開始しているし、財務省も市場の傾向を把握し、公的資金による投資と買収を監視するために、政府系ファンドと市場参加者との定期的な議論の場を設けるとともに、政府系ファンドに関する詳細な調査と議会への定期的な報告を開始している。

財務省は、先に指摘した一連の原則を守っていけば、政府系ファンドと投資受け入れ国双方の利益となるような多国間ルールが自律的に形成されていくと考えている。政府系ファンドの経験と投資戦略は千差万別であり、だが、投資受け入れ国の外資規制も一様ではない以上、政府系ファンドの最善の行動規範が何であるかを広く議論し、多くが受け入れられるようなコンセンサスを形づくっていく必要がある。

政府系ファンドを含む、外国政府が関与する投資を受け入れる国が活用できる最善の行動規範を経済協力開発機構(OECD)が特定することもできるだろう。投資受け入れ国は国内の投資市場の開放性を維持していくことに責任を負っているし、OECDは開放的な投資レジームを促進してきた長い歴史を持っている。

世界銀行とともにIMFも、外貨準備の管理に関する既存のルールを基に、政府系ファンドが活用できる一連のルールを特定できるはずだ。これらのルールを通じて、政府系ファンドのための制度、リスク管理の枠組み、情報公開を含めた透明性と説明責任など、政府系ファンドの全般的な目的と原則を定めることができる。

新しく設立される政府系ファンドは、これらの最善の行動規範を指針に、どのように制度内で行動していくか、どうやってシステミック・リスクの可能性を小さくするのかという課題に対応するための明確な意思決定を下せば、懐疑派に対して「政府系ファンドも国際金融システムにおける建設的な責任あるプレーヤーであること」を示すことができる。すでに長い歴史を持つ既存の政府系ファンドも、ここにきて、その数と規模が拡大したことによって、良くも悪くも、ファンドの名声と評判に配慮していく必要があると感じだしている。

ポールソン財務長官は2007年10月に、政府系ファンドの影響を各国政府の高官レベルで協議するために、G7諸国(先進工業国のグループ)の財務相、IMF、OECD、世界銀行の首脳、そして、政府系ファンドを保有している中国、クウェート、ノルウェー、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、韓国、アラブ首長国連邦の8カ国の財務相と政府系ファンド首脳を財務省に招いて夕食会を主催した。

この会議で、世界の開放的な投資環境を維持し、金融市場の安定性を向上させることが共通の利益であることが確認された。その翌日、IMF加盟国185カ国すべてのメンバーから構成される閣僚級委員会である国際通貨金融委員会で、政府系ファンドに関連する最善の行動規範をIMFが特定することが決定された。一方でOECDは、投資受け入れ国の投資体制に関する最善の行動規範の整備に取り組んでいる。

政府系ファンドによる国境を超えた投資活動の増大が、グローバル経済を構造的に変化させる可能性を秘めていることは否定しようがない。すべての国の経済政策の立案者は、この構造的変化がもたらす影響とその対応策をよく検討しなければならない。これまでの行動から判断すると、政府系ファンドは政治的な論争を誘発するような行動を慎みつつ、より高い投資リターンを求めてきた。警戒を怠るべきではないが、政府系ファンドの投資活動が、すでに受け入れられている最善の行動規範に基づく自由で公正な競争的活動である限り、アメリカ政府は政府系ファンドからの投資に対して開放的な路線をとり、国内および外国での成長と繁栄を促進すべきだろう。●

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