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2007年9月号 強気の政治家、ジュリアーニの外交路線とは  

2007-09-10

ルドルフ・ジュリアーニで民主党の大統領候補に勝てるのか。ヒラリー・クリントンで共和党候補に勝てるのか。党派的な争点はここにある。だが、党大会後の本選挙では、二人の大統領候補たちは、それぞれの党の中核層の支持を維持することに配慮しつつも、アメリカ市民に広くアピールしていかなければならない。国が「なすべきこと、できること、望むこと、できないこと」のバランスを判断して切り分け、時流に配慮しながら、いかに世論と市民にアピールしていくかが今後問われることになる。ジュリアーニは次のように語っている。「私は市長としての経験から、問題地域の治安をうまく確立すれば、安心して生活できる全体的秩序を速やかに回復できることを知っている」。同じことが世界秩序に関しても言える。悪い行いを放置すれば、さらに悪い行動を助長することになる。だが、「決意ある行動」をとれば、「市民社会は混沌を抑え込むことができる」。だが、「悪事を放置しない」となると、「悪事には報いない」と表明したブッシュ政権以上に強硬な路線ということになる。

テロに「ひるんではならない」とし、ならず者国家との交渉についても、「われわれを破壊しようとする相手や、合意を履行しないような相手と話し合うのはよくない」と明言し、仮に交渉するとしても、「われわれが交渉以外の選択肢を持っていること」を「相手に認識させなければならない」と彼は述べている。

イタリア系でカトリック教徒のジュリアーニは、9・11当時のニューヨーク市長として一躍有名になり、都市犯罪を厳格に取り締まり、ハーレム、その他の犯罪多発地域の再開発を進めたことで評価された政治家、それも、非常に強気の政治家として知られる。

国際システムを動揺させようとしているイスラム過激派に対抗していくため、ジュリアーニが特に重視しているのが北大西洋条約機構(NATO)だ。国際システムに対する大きな脅威に対抗していくことをNATOの任務とすべきだし、NATOのメンバーシップを、地理的制約にとらわれずに、「優れた統治体制と軍事的即応体制を持ち、グローバルな責任を果たせる国々に広く開放していくべきだ」と彼は主張し、国連については、この多国間機構が今後も永遠に機能し続けると当然視すべきではなく、「その他の手段」を考えておくべきだと切り捨てている。

「決意ある行動を求める」ジュリアーニのこうした確信は、検事時代からニューヨーク市長にいたるまで、ガンビーノ・ファミリーのボスを含む大物マフィア、都市犯罪、警察の汚職など一貫して社会悪と闘って、実績を上げてきたという自負に根ざしているのかもしれない。

ジュリアーニは、中国とロシアについても、「短期的な利益を確保するために国際的な規範を損なうような行動をとることもある」と描写し、「民主化、市民的自由、開放的で腐敗のない経済体制へと移行して初めて、グローバル市場が提供する大きな機会から恩恵を引きだせる」と北京とモスクワにはっきりと伝える必要があると牽制している。

一方、「優れた統治体制」があって初めて民主主義が根づくという事実認識を民主化促進策の前提とすべきこと、多くの問題は、国家制度が破綻している地域の貧困、腐敗、無秩序に派生していること、そして、不安定な国家、破綻途上国家に投入する安定・再建部隊設立の必要性などをめぐっては、ジュリアーニは、多くの識者と同じ認識をしているし、自由貿易路線を明確に支持し、貿易と民間投資による交流こそ、今後のイスラム社会との関係の鍵を握るという穏当な見方も示している。

ジュリアーニとヒラリー・クリントンは多くの意味で似ている。「できること」と「できないこと」をリアリストは重視し、「なすべきこと」と「望むこと」を理想主義者は重視するが、「今後の外交にはリアリズムと理想主義をうまくブレンドする必要がある」とみなしている点でも、ともに強気の政治家であるという点でも、二人は似ている。

専門家の多くが指摘するように、ブッシュ大統領の支持率が低いレベルにあるからといって、必ずしも共和党候補に不利にはならない。民主党候補と共和党候補の立場の違いを比べ、重要な案件をめぐってどのような立場を二人の候補がとっているかを市民が検討しだすのは、2008年の党大会が終わってからだ。今回の論文、「平和に向けた現実的政策を」を発表したことで、ジュリアーニはいち早く、自分の外交政策の包括的指針を自ら示したことになる。●

(C) Foreign Affairs, Japan

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