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2007年5月号 エネルギー資源と政治的リーダーシップ  

2007-05-09

1917年、当時イギリスの海軍大臣だったウィンストン・チャーチルは、国内にみるべき石油資源がなかったにもかかわらず、英海軍船の動力燃料を石炭から石油へと切り替えることを決断する。ドイツ海軍を打倒するには、相手よりも足の速い船を持つことが必要だと判断したからだ。それから約15年後、石油を制する者が経済とパワーを握ると先を読み、米大統領となったフランクリン・ルーズベルトは、サウジのイブン・サウドと接触し、アメリカの石油業界の政治的支持を取り付け、民主党の長期政権の基盤を築くことに成功する。石油と戦争の20世紀を制したのは、石油資源の利用をめぐってあえて戦略リスクを引き受けた政治家たちだった。

20世紀における2度の石油ショック同様に、21世紀の原油価格の高騰も世界を大きく揺るがしている。原子力発電が再度脚光を浴び、天然ガス、再生可能エネルギー、エタノールなどの資源に新たに注目が集まっているだけでなく、原子力発電と核拡散のリスク、資源を盾にしたロシアの高圧的な外交戦略、中国によるアフリカ、南米などでの強引な資源確保戦略など、さまざまな問題が浮上している。

石油の代替燃料としては、特にエタノールが注目されている。多くの国において、石油の多くは交通部門、つまり、車やトラックを動かすことで消費されており、二酸化炭素排出が少なくて環境に優しく、政治的に不安定な中東石油への依存を軽減してくれるというイメージゆえにエタノールが脚光を浴びている。ただし、エタノールの代替燃料としての可能性をめぐっては専門家の間でも意見が分かれている。

国際エネルギー機関(IEA)のファティ・バイロルは、昨年末の米外交問題評議会(CFR)のミーティング(注)で、現在の技術レベルではバイオ燃料の原料をつくるために広大な面積の耕作地が必要になることがネックになると指摘したが、問題はこれだけではないようだ。C・フォード・ランゲとベンジャミン・セナウアーは「エタノール燃料は本当に人と地球に優しいのか」で、エタノール需要の高まりは、穀物を中心とする食糧供給システムを揺るがし、メキシコのトルティーヤ粉だけでなく、いずれ、途上国の貧困層がおもなカロリー源とする熱帯産のイモ、キャッサバの価格を上昇させるようになると指摘し、このままエタノールブームが続けば、世界の貧困層の規模はますます拡大し、その一部は、栄養失調と飢えに派生する疾病によって死亡する恐れがあると警鐘を鳴らしている。

ポイントは何を原料にエタノールをつくるのかにあるようだ。アメリカはトウモロコシを、エタノール先進国のブラジルはサトウキビをおもな原料にエタノールを生産している。問題は特にトウモロコシ、大豆からのエタノール生産にあると指摘するランゲとセナウアーは、「食糧か燃料か」という問題を別にしても、「大豆、特にトウモロコシの栽培、収穫、乾燥には大量の肥料、殺虫剤、燃料を必要とするために、土壌悪化や水質汚染を引き起こす」と指摘し、環境汚染も引き起こさず、食糧を奪い取ることにもならないセルロースからのエタノール生産の実用化に向けた技術革新への投資を求めている。

原油価格の高騰は一方で、他のエネルギー資源の価格も上昇させ、世界最大の天然ガス資源を持つロシア経済を蘇生させたが、ここでも問題が起きている。ロシアの経済的復活は、その帝国主義的野望も復活させたとウクライナの元首相ユリア・ティモシェンコは言う。(「ロシアの帝国的野心を封じ込めよ」)。ティモシェンコは、ロシアは天然ガスの供給を盾に、近隣諸国とヨーロッパに嫌がらせをしており、ロシアのパワーの拡大には、ヨーロッパが団結して戦略的対抗バランスを形成すべきだと強く求めている。

原油価格の高騰を別にしても、世界のエネルギーシステムにとって今後10年間は非常に重要な時期になるとファティ・バイロルは指摘し、その根拠として、経済協力開発機構(OECD)諸国のエネルギーインフラが今後10年間で寿命を迎える一方、中国とインドが今後50~60年のエネルギーパターンを左右するインフラ整備の決定を現在下しつつあることを挙げている。核拡散のリスクを伴う原子力発電所なのか。再生可能エネルギーなのか、化石燃料経済からの離脱に向けた代替エネルギーへのシフトなのか。エネルギーと国際政治が切り離せない以上、新エネルギー路線を定義する21世紀の指導者も、チャーチルやルーズベルト同様に大きな戦略リスクを引き受けることになる。●

(注)ファティ・バイロル、ジャッド・モーアワッド 「なぜ今後10年が将来のエネルギートレンドを左右するのか」(日本語版2007年1月号)

(C) Foreign Affairs, Japan

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