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なぜ今後10年が将来のエネルギートレンドを左右するのか
――エネルギートレンドに関するIEA報告から

スピーカー
ファティ・バイロル/国際エネルギー機関(IEA)チーフエコノミスト
司会
ジャッド・モーアワッド/ニューヨーク・タイムズ紙 エネルギー担当記者

Mapping a New Energy Future

Fatih Birol 国際エネルギー機関(IEA)のチーフエコノミストで、IEAの経済分析部長。エネルギー問題をめぐるもっとも権威ある年次刊行物と広くみなされているIEA『世界エネルギー見通し』の2006年版の執筆責任者。

2007年1月掲載論文

現在経済ブームのなかにある中国とインドは、エネルギーインフラに莫大な投資を行い、発電所、精製所、送電網その他を整備しており、両国は今後50年から60年のエネルギーパターンを左右するような一連の決定を下しつつある。一方、経済協力開発機構(OECD)加盟諸国にとっても今後の10年間は重要だ。OECD加盟国が発電所、送電網などエネルギーインフラに大規模な投資を行ったのは第2次世界大戦直後で、これらのインフラの多くを新しいインフラに置き換えていかなければならないからだ。どのような技術、燃料資源、どのような設計が好ましいのかを、今後を見据えて判断しなければならない。今後の10年間は、われわれがエネルギー路線を見直すうえで非常に重要な時期になり、この間に現在の路線を見直さなければ、好ましくないエネルギートレンドを覆すのはますます難しくなる。

  • このままのエネルギー消費が続けば…
  • エネルギー部門への投資はどうなる
  • 代替政策が導入されれば…
  • フレックス燃料、中国のマイカーブーム
  • 原子力エネルギー

<このままのエネルギー消費が続けば…>
ジャッド・モーアワッド 今日のスピーカーは、国際エネルギー機関(IEA)が出版する『世界エネルギー見通し』の2006年版をまとめたばかりのIEAのチーフエコノミスト、ファティ・バイロル氏。2006年の報告では、大幅なエネルギー政策の見直しが行われない限り、今後30年にわたって世界のエネルギー消費は大幅に増えていくという予測が示され、そうした需要増を満たせるような投資が行われるとは限らないとされている。
また、エネルギー消費が拡大していくなか、石炭、重油、タールサンド、油頁岩などの、いわゆるダーティーなエネルギー資源の利用も増えていくと報告は指摘している。地球環境問題の議論が高まりをみせるなか、ダーティーな資源の利用が増えていくという皮肉な状況にあり、エネルギー安全保障と環境安全保障が互いに足をすくいあうことになる。今回のIEAの報告は、世界はエネルギーをめぐる双子の脅威に直面していると指摘している。手頃な価格での適切な供給を確保できないこと、そして、過剰なエネルギー消費によって環境にダメージが出ることだ。では、バイロルさん、お願いします。
ファティ・バイロル われわれIEAは2006年11月にロンドンで2006年版の『世界エネルギー見通し』を発表した。今回の報告では、世界的にみた今後25年間のエネルギーのトレンドと、その結果、世界が直面することになる課題を検証した。
われわれは、今後のグローバルなエネルギーシステムに関して二つの見方を示した。一つは、各国が現在のエネルギー政策を続けた場合にどうなるかで、この場合、世界は石油と天然ガスの供給をめぐって不安定な状況に直面し、環境は悪化し、エネルギー部門への高額な投資をしなければならなくなる。このトレンドは持続不可能であり、流れを変化させる必要がある。そこでもう一つのビジョン、「代替政策シナリオ」を示し、現状の路線を見直せばどうなるかを示した。
まず、現在の政策を続ければ、どのような現実に直面するか。中国とインドの需要増によって石油の需要が今後も高まっていった場合、現在から2030年までの需要増の半分は、中印2カ国によるものになると考えられる。産業的にみれば、交通部門、つまり、車、トラック、飛行機がもっとも大きな需要をつくりだすことになる。
とくに石炭の消費が増大していくと考えられる。石炭消費はすでに急速な伸びをみせている。天然ガスの消費も大幅に伸びているが、価格高騰ゆえに、2005年の予測に比べれば、2006年の需要の伸びの予測は控えめな数字になっている。一方、バイオマス、原子力エネルギーは、現状の政策が維持される限り、エネルギー生産に占めるシェアは低下していくと考えられる。もちろん、これは現状の政策が維持された場合の話だ。(ソーラー、風力、地熱、水などの)再生可能エネルギーの消費も伸びているが、エネルギー消費及び生産の全体像からみれば、とるに足らぬ比率にとどまるだろう。こうした全般的エネルギートレンドが、今後のエネルギーシステム、とくに現在の政策が見直されなかった場合に、大きな意味合いを持つことになる。
IEAがとりわけ重視したのが石油の安全保障だ。とくに、石油の需要が増大しても、生産を強化できるのはほんの一握りの産油国だけであることを認識する必要がある。石油輸出国機構(OPEC)非加盟諸国の生産能力の低下ゆえに、供給量は今後ますます少なくなっていくと思われる。われわれIEAは、非OPEC諸国による生産量は、いまから約10年後の2015年を待たずに頭打ちになるとみており、その結果、OPECの一部産油国の増産に世界は依存することになる。鍵を握るのは、サウジアラビア、イラン、イラクになるだろう。
サウジの油田開発への投資環境が、メキシコ湾や北海油田へ投資するのとは全く違うことを理解する必要がある。サウジの場合、投資をするか、生産能力の強化を図るかどうかの決定は、国営石油企業が下している。もちろん、彼らも市場動向には配慮するが、その決定を左右するのは市場動向の分析だけではない。イラクの場合、大きな潜在能力を持っているが、政治的安定、精製能力をいつ強化できるようになるかなど、数多くの不確定要因があるし、莫大な石油と天然ガス資源を持つイランも、投資環境と政治環境面で先が読めない状況にある。
こうした状況下、カナダのタールサンドなど、これまでとは異なるエネルギー資源が市場に流れ込むとわれわれは予測した。ただし、カナダからの供給増程度では、全体的な供給の構図の変化は期待できない。石油需要の伸びを満たす供給の増大については、おもに中東のごく少数の産油国に期待するしかなく、われわれは、この点からも供給量が減少しつつあることを懸念している。
天然ガスも似たような状況にある。天然ガスの需要、取引ともに上昇している。こうした需要増を満たせるのはロシア、イラン、そして中東、北アフリカの一部の国だ。アメリカにも天然ガス資源はある。だが全般的にみれば、確認済みの天然ガス資源の50%はロシア、イランという、エネルギー問題、またエネルギー問題以外でも新聞が大きく取り上げる2カ国に集中している。
次の資源は石炭だ。今回のIEA報告は論点の一つとして、石炭の利用が復活しつつあることに注目した。これには、よい面も悪い面もある。エネルギーの安定供給を助けるという意味ではよいことだ。オーストラリア、中国、アメリカ、カナダ、南アフリカと、石炭資源は世界のほぼあらゆる地域に存在する。しかし、石炭資源の利用は二酸化炭素を大気中に排出してしまうため、環境面での問題がある。石炭需要は、2003~05年の3年間で、それに先立つ23年間に匹敵する伸びをみせている。石炭の需要が伸びているのは、中国の需要増、そして、天然ガスの価格高騰で各国が石炭資源の利用へと切り替えたことが背景にある。
石炭消費の増大は二酸化炭素の排出量増大という問題を伴うことはすでに指摘したが、現在から2030年までに、二酸化炭素の排出は55%上昇すると予測されている。二酸化炭素排出の増加分のほぼ半分は、中国とインドの石炭消費によるものになる。2009年までには、中国はアメリカを抜いて世界最大の二酸化炭素排出国になり、他の途上国の排出も増え、二酸化炭素排出の増加分のほぼ3分の2は途上国によるものになるだろう。
とはいえ、中国を責めるわけにもいかない。一人あたりの二酸化炭素排出という観点からみれば、2030年になっても、中国よりも経済協力開発機構(OECD)諸国のほうが排出量は多いからだ。しかし、量的に考えれば、今後、いかなる地球環境対策を打ち出すとしても、中国とインドを枠組みに参加させない限り、効果的なものにはなり得ない。

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