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2025年5月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2025年5月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2025年5月号 目次

覆されたシステム

  • ナショナリズムと強権者の時代
    覆された国際システムとトランプの世界

    マイケル・キマージュ

    雑誌掲載論文

    いまや世界のアジェンダを設定しているのは、自国の偉大さを強調するナショナリストの指導者たちだ。トランプは、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと同じタイプの指導者だ。強権的なナショナリストを自任する彼らは、ルールに基づく国際システムや同盟関係、多国籍フォーラムなどほとんど気にしていない。当然、グローバル秩序に関するいつもの描写はもう役に立たない。国際システムは一極支配でも二極体制でも多極体制でもない。現在のような地政学的環境では、すでに曖昧化している「欧米」という概念はさらに後退していく。

  • 米中貿易戦争の悪夢
    アメリカの勝利はあり得ない

    アダム・S・ポーゼン

    雑誌掲載論文

    実際の戦争で、武装する前に敵を挑発するのは自殺行為だ。医薬品のストック、安価な半導体チップ、重要鉱物資源などの重要な物資を完全に中国の供給に依存していることを考えれば、貿易を遮断する前に代替の供給源や十分な国内生産を確保しないのは、無謀と言う他ない。トランプ政権にとって、これらのすべては交渉戦術のつもりなのかもしれない。しかし、そうだとしても、この戦略は有害だ。トランプ政権は経済版ベトナム戦争を始めようとしている。自ら選んだ戦争は程なく泥沼化し、アメリカの信頼性と能力に対する国内外の信頼は損なわれるだろう。その帰結がどうなるかは、誰もが知っている。

  • 経済モデルの破綻から再生へ
    人と地球に貢献できるシステムを

    マリアナ・マッツカート

    雑誌掲載論文

    いまや、少数の主要プレーヤーによる重商主義への転換が、世界経済を報復的な貿易政策の応酬という事態に陥れつつある。現在の経済モデルは破綻しつつある。トランプ政権が解決策を示しているわけではない。減税、関税、金融規制緩和の提案が詰め込まれた福袋を与えているに過ぎない。公共の価値の創造よりも企業利益を優遇している破綻した経済モデルを退け、持続可能で公平なシステムに置き換えていかなければならない。政府、企業、労働組合の関係をリセットし、地球全体の改革を実現可能なものにするために内外で連携を形成しなければならない。世界は人と地球に貢献できるシステムを必要としている。そのためにも、経済がどのように機能し、誰に恩恵をもたらすのかを根本的に再編しなければならない。

  • トランプと競争的権威主義の台頭
    米民主主義は崩壊するのか

    スティーブン・レヴィツキー、ルーカン・A・ウェイ

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

  • 勢力圏の復活
    停戦交渉は第2のヤルタなのか

    モニカ・ダフィー・トフト

    Subscribers Only 公開論文

    パワーポリティクスの復活をけん引する米中ロが、いずれも「わが国を再び偉大な国に」というストーリーを掲げる指導者に率いられているのは偶然ではないだろう。かつての偉大さを取り戻すには、中国にとっては、台湾だけでは十分ではなく、ロシアにとっても、ウクライナだけでは、プーチンのビジョンを満たすことはできない。アメリカもカナダ併合を視野に入れ始めている。現在の諸大国は、1945年のヤルタ会談で連合国首脳が世界地図を書き換えたように、新しい世界秩序を形作ろうとしている。中ロが手を組むのか、米ロが手を組んで中国と対抗する一方で、ヨーロッパ、日本、韓国は自立路線を強めていくのか。

  • 同盟の流動化と核拡散潮流
    次の核時代に備えよ

    ギデオン・ローズ

    Subscribers Only 公開論文

    最近の展開からも、ウクライナやその他の国々への防衛支援をめぐるアメリカのコミットメントが完全には信用できないことは明らかだろう。ワシントンが安全保障コミットメントを果たすとは信用しなかったフランスのドゴール大統領は正しかった。拡大抑止(核の傘)はまやかしであり、それを信じた人々はお人好しのカモだった。なぜフランスに倣って、核戦力を獲得して、国の安全を確保しないのかと多くの国がいまや考えているはずだ。このまま秩序が解体し続ければ、韓国は、おそらく、この拡散潮流に乗って最初に核を保有する国になるだろう。ソウルが核武装すれば、東京もそれに続き、最終的にはオーストラリアもこれに加わるかもしれない。ヨーロッパでも同じ流れが生じつつある。

  • 支離滅裂な関税政策
    壊滅的な間違い

    チャド・P・ボウン、ダグラス・A・アーウィン

    Subscribers Only 公開論文

    関税で何でも解決できるとトランプは考えているようだ。しかし、関税が、彼が懸念する課題に対処するための最善の策であることはほとんどない。トランプ政権が指摘する米経済の問題の多くは、国内に病巣がある。貿易相手国を叩きのめしても、こうした根本的な問題の解決につながらないばかりか、米経済に害を及ぼすだけでなく、外国からの恨みや報復を助長し、被害を拡大させるだけだ。トランプ政権がその脅しを実行に移せば、その影響は、トランプが言う「小さな混乱」よりもはるかに破壊的なものになるだろう。

  • アメリカの新貿易コンセンサス
    ロバート・ライトハイザーの世界

    ゴードン・H・ハンソン

    Subscribers Only 公開論文

    前米通商代表のライトハイザーは、製造業にほぼ神秘的なまでの経済価値をみいだし、貿易赤字だけが貿易協定を評価する唯一の指標だと考えている。問題は、明らかに正しくないものを含めて、彼の見解が米国内で支持を広げていることだ。トランプの「アメリカ第1主義」の威勢のよさを思わせる彼の立場は右派にアピールし、バイデンの産業政策と環境保護路線を受け入れることで左派への訴求力ももっている。だが、ライトハイザーの処方箋が貿易政策の標準とされても、国内の工場を復活させることはできない。むしろ、その過程で国際関係に大きなダメージを与えてしまう。彼にとっては受け入れがたいとしても、アメリカの繁栄の未来は溶鉱炉や組立ラインではなく、サービス業にある。

  • パンデミック後の資本主義
    官民協調型の経済システムの模索

    マリアナ・マッツカート

    Subscribers Only 公開論文

    多くの人が、民間部門がイノベーションと価値創造の主要な原動力だったと信じてきたために、利益は民間企業が手にする権利があると考えている。だがこれは真実ではない。医薬品、インターネット、ナノテク、原子力、再生可能エネルギーなど、これらのすべては政府の膨大な投資とリスクテイキングのおかげで実現してきた。イノベーションのために公的資金を投入しつつも、それから恩恵を引き出してきたのは、おもに企業とその投資家たちだった。COVID19危機は、この不均衡を正す機会を提供している。ベイルアウトする企業により公益のために行動するように求め、これまで民間(の企業)部門だけが手にしてきた成功を納税者が分かち合えるようにする新しい経済構造が必要だ。富の創造への公的資金の貢献を明確に理解すれば、公的投資の意味合いを変化させることができる。目の前にある課題は、よりすぐれた経済システム、よりインクルーシブで持続可能な経済を官民で形作ることであり、世界の誰もがCOVID19ワクチンを利用できるようにすることでなければならない。

中国、台湾、ヨーロッパ

  • 東アジアと台湾を捉え直す
    中国のアジア覇権を阻むには

    ジェニファー・キャバナー、スティーブン・ワートハイム

    雑誌掲載論文

    台湾はアメリカにとって重要だが、中国との戦争を正当化するほどの価値はない。政治家は中国と戦争になればどのようなコストが生じるかを米市民に伝え、アメリカの生存と繁栄が台湾の政治的地位に左右されるという誤った考えを退けなければならない。米兵を戦闘に参加させずに、台湾の防衛を支援する新しい戦略を考案する必要があるし、アジアにおけるアメリカの利益を台湾の運命と切り離し、台湾が北京に支配されないようにすることの重要性を引き下げるべきだ。重要なのは、アジアの同盟国やパートナー諸国の自衛と防衛力強化を促し、中国が台湾侵攻を地域的覇権獲得につなげるのを阻むことだ。

  • 中国とヨーロッパの地政学
    米欧対立を中国は生かせるか

    ジュード・ブランシェット

    雑誌掲載論文

    「トランプはプーチンとの関係改善に熱心で、アメリカの伝統的な同盟国に反感を抱き、貿易戦争が国内政治に及ぼす影響を軽視している」。北京は現状をこのようにみている。事実、米欧関係が大きな圧力にさらされているために、習近平は、ヨーロッパ各地に外交官を派遣して、中国を信頼できる代替パートナーとして売り込み、安定した経済協力の機会を提供できると強調している。実際、ウクライナの戦後開発を支援する上で、中国ほど有利な立場にある国はないだろう。各国がアメリカの後退の可能性に備えてリスクヘッジを試みるなか、北京は頼れるパートナーとして自らを位置づけたいと考えている。

  • 現状維持を望む台湾市民
    統一はもちろん、独立も望まぬ理由

    ネイサン・F・バトー

    Subscribers Only 公開論文

    圧倒的多数の台湾人が、北京に統治されることにはほとんど関心をもっていない。正式な独立宣言を表明したいわけでもない。独立への支持は年々上昇してきたが、半分をゆうに超える人々が「現状の維持」を望んでいる。なぜ統一に人気がないかは明らかだ。中国と統一すれば、台湾は苦労して手に入れてきた政治的自由のほぼすべてを手放さなければならなくなる。台湾は独自の歴史、文化、アイデンティティ、そして民族的プライドをもっている。ほとんどの人にとって、台湾はすでに完全な主権国家であり、中途半端な状態で存在する自治の島ではない。既成事実をあえて正式に宣言して、波風を立てる必要はない。自らの理想と現状との違いは微々たるものであり、争う価値はないと判断している。

  • 台湾の安全と平和を守るには
    最善の対策は軍事領域にはない

    ジュード・ブランシェット、ライアン・ハス

    Subscribers Only 公開論文

    多くのアナリストや政策立案者が提言している軍事領域の決定で、アメリカの全般的台湾アプローチを規定してはならない。今後5年間に配備可能な米軍の追加戦力では、台湾海峡の軍事バランスを根本的に変えることはできない。ワシントンの政策の最終目標は台湾の平和と安定の維持であり、平和を維持するには、中国の不安の原因を理解し、習近平を追い込まないようにして、統一が遠い将来の課題であると認識させる必要がある。ときには、難題の解決をあえて目指さず、先送りすることが最善の政策になる。・・・

  • 同盟の流動化と核拡散潮流
    次の核時代に備えよ

    ギデオン・ローズ

    Subscribers Only 公開論文

    最近の展開からも、ウクライナやその他の国々への防衛支援をめぐるアメリカのコミットメントが完全には信用できないことは明らかだろう。ワシントンが安全保障コミットメントを果たすとは信用しなかったフランスのドゴール大統領は正しかった。拡大抑止(核の傘)はまやかしであり、それを信じた人々はお人好しのカモだった。なぜフランスに倣って、核戦力を獲得して、国の安全を確保しないのかと多くの国がいまや考えているはずだ。このまま秩序が解体し続ければ、韓国は、おそらく、この拡散潮流に乗って最初に核を保有する国になるだろう。ソウルが核武装すれば、東京もそれに続き、最終的にはオーストラリアもこれに加わるかもしれない。ヨーロッパでも同じ流れが生じつつある。

  • 中国が支配するアジアを受け入れるのか
    中国の覇権と日本の安全保障政策

    ジェニファー・リンド

    Subscribers Only 公開論文

    現在のトレンドが続けば、そう遠くない将来に、中国はアメリカに代わって、東アジアの経済・軍事・政治を支配する覇権国になるだろう。そして、地域覇権国は近隣諸国の内政にかなり干渉することを歴史は教えている。中国に対抗できるポテンシャルをもつ唯一の国・日本は、特に重要な選択に直面している。日本人は軍備増強には懐疑的で、むしろ、経済の停滞と高齢社会のコストを懸念しており、引き続き、銃よりもパンを優先する決断を下すかもしれない。だが実際にそうした選択をする前に、中国が支配するアジアにおける自分たちの生活がどのようなものになるかについて日本人はよく考えるべきだろう。北京は尖閣諸島の支配権を握り、日米関係を弱体化させ、中国の利益を促進するために、さらに軍事的・経済的強制力をとり、日本の政治に干渉してくるかもしれない。

  • 米中対立とドイツの立場
    微妙なバランスを維持できるか

    リアナ・フィックス、ゾンユアン・リュー

    Subscribers Only 公開論文

    貿易上の比較優位を中国が戦略ツールとして利用することへの懸念を共有したことで、アメリカとヨーロッパは「ディリスキング・アジェンダ」の下、緊密な協調関係を築いている。それでも、欧米間の大きな立場の違いは依然として存在する。ドイツは、地政学リスクを慎重に回避しながら、中国との貿易を通じて繁栄を維持することを望んでいる。当然、ベルリンは反中国「ブロック」のメンバーになることは望んでいない。だが、より強硬になった中国が作り出す地政学的リスクの回避に努めずに、ベルリンが、もっぱら、経済利益を優先し続ければ、おそらく台湾をめぐる安全保障危機でも(中国に)経済的強制策で手足を縛られる恐れがある。・・・

  • トランプ政権と中国
    取引主義と競争戦略

    ラッシュ・ドーシ

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの関税引き上げの威嚇策は、中国側の行動を変化させるための交渉戦術なのか、デカップリングを達成するための確定路線なのか、あるいはこの二つのミックスなのかはわからない。いずれにしても、北京は、トランプ政権が(関税策などで)同盟パートナーシップを傷つければ、相手を取り込める余地が生じると期待している。北京は、ヨーロッパや日本との外交エンゲージメントを強化し、インドとの国境紛争の緊張緩和も模索している。さらに、中国への競争的なアプローチを実行する上でもっとも大きな障害となるのは、トランプの取引主義なのかもしれない。対中政策は、1期目同様に、大統領の「取引主義」と側近たちの「競争的アプローチ」という異なる衝動によって特徴付けられることになるかもしれない。

  • ヨーロッパの核のトリレンマ
    アメリカ後の抑止力をいかに形成するか

    マーク・S・ベル、ファビアン・R・ホフマン

    雑誌掲載論文

    欧州安全保障のために、ヨーロッパは政治的意志を固め、防衛予算を増やし、調達プロセスを調整する必要があるが、これに加えて、核の選択肢に関する戦略的トリレンマを克服しなければならない。⑴ロシアに対する信頼できる、効果的な抑止力を形成し、⑵核の先制使用を抑えるような戦略的安定性を確保し、⑶新たな核拡散(核保有国の出現)を阻止しなければならないが、ヨーロッパがこれら三つのすべてを達成することはできない。実際、どれか二つを選択すれば、三つ目は不可能になる。「アメリカ後」のヨーロッパにとって、「もっともましな」対ロ抑止戦略はどうすれば実現できるのか。

領土侵略時代と戦争

  • 領土侵略時代の復活
    形骸化する規範の意味合い

    タニシャ・ファザル

    雑誌掲載論文

    2022年にロシアが試みた大規模で大胆な領土侵略の試みは、少なくとも今のところ、例外的なケースにとどまっている。しかし、侵略者が厳格に罪を問われなければ、各国は、国際的な反応を引き起こす危険の低い、法域が曖昧な地域で領有権を主張するようになるかもしれない。このような小規模な攻撃が、領土征服を禁じる規範に大きなダメージを与える危険がある。武力行動が増えるにつれて、国際システムを構成するルールや制度の大きなネットワークが解体し始めるかもしれない。領土征服を禁じる規範が解体すれば、世界は大きな危険にさらされる。

  • ルワンダの目的は何か
    コンゴ侵略とアフリカ秩序の崩壊

    ミケラ・ロング

    雑誌掲載論文

    ルワンダとその支援を受けた反政府勢力M23が、コンゴ民主共和国(DRC)東部を短期間で制圧したことで、東アフリカの地域秩序は根底から揺るがされている。ルワンダ政府は、コンゴ東部はルワンダの「歴史的領土」の一部と公然と主張している。実際、この動きは、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻に似ている。だが、国際社会の対応は鈍く、国連も欧米諸国も、アフリカの主要な国際機関も有効な対策をとっていない。いまやルワンダは、アフリカ大湖地域の地図をどこまで塗り替えるのかを決めようとしている。コンゴ東部の「バルカン化」、「保護国化」、あるいは、「コンゴの政権転覆」など、さまざまシナリオが取り沙汰されている。

  • 領土拡張時代の到来
    気候変動と土地・資源争奪戦

    マイケル・アルバータス

    Subscribers Only 公開論文

    気候変動によって、他国による領土征服の脅威が再び地政学の中枢要因に浮上している。温暖化は勝者と敗者を作り出す。例えば、温暖化を追い風にできるカナダやロシアが勝者に、異常気象に苦しむアメリカや中国は敗者になるかもしれない。実際、異常気象による壊滅的な災害に直面しているアメリカは、グリーンランドやカナダの一部を含む北方の国への領土的野心から具体的な行動をみせるかもしれない。気候変動による深刻な脅威に直面する中国も、資源、生活可能な土地、地政学的優位を確保しようと、東南アジアへ侵入し、ロシア東部や北朝鮮の領土さえ奪いとるかもしれない。気候変動のもっとも劇的な影響を経験するのはこれからであり、土地をめぐる競争は始まったばかりだ。

  • 領土征服時代への回帰?
    世界秩序の未来を左右するウクライナ

    タニシャ・M・ファザル

    Subscribers Only 公開論文

    いまやロシアの侵攻によって、領土の侵略と征服を禁止する規範が、第二次世界大戦以降、もっとも深刻に脅かされている。国際社会がロシアによるウクライナ領土の編入を許せば、各国はより頻繁に国境線を武力で変更しようと試みるようになり、戦争が起き、帝国が復活し、消滅の危機に瀕する国が増えるかもしれない。侵略と征服を禁止する規範が薄れてゆけば、世界は領土紛争のパンドラの箱を開け、数百万の市民が無差別攻撃の標的にされる恐れもある。だが、国際社会は経済制裁と国際法廷を利用して、ロシアの粗野で違法な侵略行為にペナルティを科すことができる。国際社会が領土の征服を禁止する規範を擁護できなければ、大国と国境を接する諸国はかなりの消滅リスクに直面することになる。

  • グレーゾーン事態と小さな侵略
    台湾、尖閣、スプラトリー

    ダン・アルトマン

    Subscribers Only 公開論文

    小さな侵略・征服行動の背後には明確な戦略がある。それを取り返すのではなく、仕方がないと侵略された側が諦めるような小さな領土に侵略をとどめれば、あからさまに国を征服しようとした場合に比べて、全面戦争になるリスクは大きく低下する。だが現実には、中国による台湾侵攻、封鎖、または空爆のシナリオばかりが想定され、(金門島・馬祖島、あるいは太平島を含む)台湾が実行統治する島々を中国が占領するという、より可能性の高いシナリオが無視されている。そうした小領土の占領を回避する上でもっとも効果的なのが、(応戦の意図を示す小規模な)トリップワイヤー戦力、特にアメリカのトリップワイヤー戦力だ。だが、そうした戦力が配備されていないために、尖閣、スプラトリー、台湾など、中国との潜在的なホットスポットの多くで抑止力が不安定化している。

Current Issues

  • 「捕獲された国家」の経済的末路
    経済を蝕む壮大な政治腐敗

    エリザベス・デイビッド=バレット

    雑誌掲載論文

    実業家の大統領が富豪と組んで連邦政府の管理権を乗っ取るという事態は、アメリカ近代史ではかつてない展開だ。だが、世界的にみれば、バングラデシュ、ハンガリー、南アフリカなど、政治家、ビジネスエリートの小集団が自己利益のために国と経済をねじ曲げてきたケースは数多くある。このプロセスを描写する「国家の捕獲(state capture)」という言葉もある。政治腐敗によって、そうした国は成長率の低下、雇用の減少、格差の拡大、高インフレに直面する。トランプとマスクが米経済の捕獲に成功すれば、市場をゆがめるだけでは済まない。世界経済にもダメージを与えることになる。アメリカは、世界をクリーンな統治へ向かわせる警察官としての歴史的役割を放棄しただけでなく、豹変してマフィアのボスになりつつある。

  • ヨルダン国家存続の危機
    トランプが作り出した悪夢

    カーティス・R・ライアン

    雑誌掲載論文

    ヨルダンの政府も野党も市民も、トランプが提案したパレスチナ人のヨルダン再定住計画に激しく反発している。しかも、トランプ政権は、対外援助を90日間停止し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出をゼロにし、国際開発庁(USAID)を完全に廃止しようとしている。中東で、ヨルダンほどUSAIDやUNRWAに依存している国はない。基本的行政サービスを支えるこれらの援助・開発プロジェクトが打ち切られれば、ヨルダン社会は立ちゆかなくなる。トランプは、アメリカに依存する同盟国には何でも強制できると考えているのかもしれないが、中東の同盟国の強い訴えに配慮して、パレスチナとヨルダン、そして中東地域の大惨事を回避することに努めるべきだ。

  • トランプと競争的権威主義の台頭
    米民主主義は崩壊するのか

    スティーブン・レヴィツキー、ルーカン・A・ウェイ

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。

  • 独裁者の台頭とハンガリーの衰退
    ビクトル・オルバンの変節

    パウル・レンドバイ

    Subscribers Only 公開論文

    「われわれの力を信じれば、共産主義独裁体制に終止符を打てる」。1989年の演説で(民主化に向けて)ハンガリー人をこう鼓舞した若者は、20年間でポピュリストの独裁者に変貌していた。2010年の選挙で大勝したオルバンが試みたのは、新政権の樹立ではなく、「体制変革」だった。憲法を改正し、憲法裁判所を意のままにし、メディアを押さえつけて管理し、政権に依存する社会経済エリート層を作り出した。ハンガリーのある政治家によれば、オルバンのハンガリーは「ポスト共産主義のマフィア国家で、それを率いるのは政党ではなく、ビクトル・オルバンの政治経済派閥だ」。オルバンは政府を批判する者を非愛国的な反逆者と非難し、自らの失敗やミスを欧州連合のせいにしている。・・・

  • 新「トルコ国家の父」を目指したエルドアン
    なぜ権威主義的ナショナリズムへ回帰したのか

    ハリル・カラベリ

    Subscribers Only 公開論文

    これまで経済・政治の自由化を約束してきたエルドアンが、なぜ非自由主義的な権威主義路線の道を歩んでいるのだろうか。いまや彼は伝統的な中東の強権者となり、自分の権力基盤を固め、ライバルを追放し、反体制派を抑圧している。エルドアンの本来の目的は、保守的な社会秩序を維持する一方で、クルド人などの国内の少数派民族・文化集団との関係を修復していくことにあった。クルド人を含む、トルコ市民の多くが信奉する「スンニ派イスラム」を国の統合原理にしたいと考えてきた。しかし、クルドとの和平に失敗したことからも明らかなように、「スンニ派イスラム」だけでは、21世紀に向けた持続的な政治秩序を育んでいくトルコのアイデンティティを形作れなかった。こうしてエルドアンは、伝統的な権威主義的ナショナリズムへと立ち返らざるを得なくなった。・・・

  • マフィア国家とアメリカの泥棒政治
    政治腐敗という世界的潮流

    サラ・チェイズ

    Subscribers Only 公開論文

    政治腐敗は、弱さや無秩序の結果ではなく、権力者を豊かにするために設計されたシステムがうまく機能している証拠にすぎない。例えば、グアテマラの政権与党は「政党というより暴力団に近い。その役割は国を略奪することにある」。この国では「エリートが犯罪集団であり、国庫に入るお金の流れを牛耳る泥棒政治が横行している」。アメリカも例外ではない。民主主義システムは、政府が公益に供する活動をすることを保証する手段として作られたが、システムが腐敗してしまった民主国家にそれを覆す力が残されているだろうか。ロビイストが爆発的に増えて、企業や産業に影響する法案を産業関係者がまとめるようになった。刑務所や戦争を含む公的サービスも民営化され、政治資金上の歯止めも外された。いまや「合法的」と「汚職ではない」の意味を混同しているアメリカの政府高官と、有権者の意識との間にはズレが生じている。・・・

  • ヨルダンの新しい難民対策モデル
    人道主義モデルから経済開発モデルへの転換を

    アレクサンダー・ベッツ、ポール・コリアー

    Subscribers Only 公開論文

    難民対策の新モデルとは、避難民たちがいつか母国に戻って生活を再建する日がやってくるまで、ホスト国で学び、働き、豊かに暮らせる、持続可能で計測可能な政策のことだ。われわれはシリア難民問題へのこうした新アプローチを提案し、ヨルダン政府がシリア難民に国内の経済特区(SEZs)で働くことを許可すれば、難民たちは雇用、教育の機会を得て、自立的な生活を送るようになり、それによってヨルダン経済も成長できると提言した。論文が発表されて以降、この構想は政治家たちの支持を集め、2015年の冬にかけて、ヨルダンのアブドラ国王、イギリスのキャメロン首相、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁がこの構想を正式な提言としてまとめ、2016年夏には難民に労働許可を与えるパイロットプロジェクトがヨルダンで開始される予定だ。難民対策を純粋な人道主義的アプローチから、雇用と教育を中心とする経済開発型アプローチへ転換していく必要がある。

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