1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― 分裂するヨーロッパに関する論文

イギリスの混乱は長期化する
―― 断ち切れぬヨーロッパとの絆

2019年6月号

アマンダ・スロート  ブルッキングス研究所米欧センター  シニアフェロー

デービッド・キャメロンが、ブレグジットの国民投票に踏み切ったのは、保守党内部で長く続けられていた「ヨーロッパにおけるイギリスの立場」に関する論争に終止符を打ちたいと考えたからだった。だが、国民投票の結果、論争はさらに深刻化した。そして「EUの単一市場と関税同盟を離脱しつつ、(北アイルランドと)アイルランド間にはっきりとした国境が出現するのを回避し、イギリス全体としてのブレグジットの実現」を目指したテリーザ・メイのアプローチが、これまでのところ解決不能なトリレンマを作り出している。しかも、北アイルランドの立場も分裂している。結局、英議会の分裂は国が分裂していることを意味する。・・・

新「ドイツ問題」とヨーロッパの分裂
―― 旧ドイツ問題を封じ込めた秩序の解体

2019年5月号

ロバート・ケーガン ブルッキングス研究所 シニアフェロー

アメリカの安全保障コミットメント、国際的な自由貿易体制、民主化への流れ、ナショナリズムの封じ込めというリベラルな戦後秩序の四つの要因によって、ドイツ問題は地中深くに葬り去られた。問題は、ドイツ問題を封じ込めてきたこれら戦後秩序の要因が、いまやすべて曖昧化していることだ。ヨーロッパ全域でナショナリズムが台頭し、民主主義はあらゆる地域で逆風にさらされている。国際的な自由貿易体制もトランプ政権に攻撃され、アメリカのヨーロッパへの安全保障コミットメントもいまや疑問視されている。ヨーロッパそしてドイツの歴史からみて、このように変化する環境が、ドイツ人を含むヨーロッパ人の行動パターンを変えないと言い切れるだろうか。アメリカと世界が現在のコースを歩み続ければ、穏やかな時代があとどれくらい持ち堪えられるのかについて、考えざるを得なくなるはずだ。

ドイツにおける「ポスト真実」の政治
―― 民主主義と憲法の危機

2018年11月号

ゲオルク・ディーツ デア・シュピーゲル誌エディター

問題が起きたことが社会で広く認識されなければ、それを事件とみなし、解決策を考えることもできない。ケムニッツでドイツ人が難民に殺害された後、レイシストたちが移民や見た目の違う人々を口汚く罵り、追い回して「奴らを殺したい」と叫んでいたことについては目撃者がいるだけでなく、ビデオにも収められている。それでも、一部の右派政治家たちは、「そのようなことは起きなかった」と発言し、しかも、こうした政治家たちが責任を問われることもなかった。これまでなら、異なる見解は認められたが、明らかな嘘や間違いが許容されることはなかった。だが、アメリカ同様にドイツでも、そうして真実の時代と政治が終わりつつある。

引き裂かれたヨーロッパ
―― 多数派のアイデンティティ危機

2018年10月号

エリック・カウフマン ロンドン大学・バークベックカレッジ 教授(政治学)

ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」
―― 文明論を語り始めたポピュリストたち

2018年2月号

ロジャーズ・ブルベーカー カリフォルニア大学ロサンゼルス校 社会学教授

現在のヨーロッパのポピュリストを移民排斥論者、ナショナリスト、極右と言うこれまでの言葉で語るのは適切ではない。彼らはナショナリズムではなく、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現し、それをイスラム文明と対比させている。彼らがキリスト教を引き合いに出すのは、(他者と区別するための文明的)帰属を示すためだ。そこでは、ユダヤ人もヨーロッパの一部を構成する仲間とみなされている。右派ポピュリストが女性の権利やゲイの権利を擁護しているのも、イスラム文明との違いを際立たせるためだ。こうしたヨーロッパの文明論的ポピュリズムが問題なのは、そもそもイスラム世界の一部に存在する過激な反西洋姿勢を、イスラム教徒にとってより信頼できる魅力的な思想にしてしまう恐れがあることだ。・・・

カタルーニャのナショナリズム
―― 分離独立危機の歴史的ルーツ

2017年12月号

セバスチャン・バルフォア
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 名誉教授(現代スペイン研究)

スペインで最初に近代化を果たしたのは、他の地域とは言語・文化・アイデンティティが大きく異なるバスクとカタルーニャだった。フランスとは違って、国の力が弱かったスペインでは、中央が全国レベルでの正統性を得ることも、国を束ねるような社会的凝集力が生まれることもなかった。マドリードの支配者たちが権力を行使するには、国内周辺地域のエリートとの同盟に依存せざるを得なかった。だが、この中央と地方のパートナーシップも、米西戦争に敗れ、もっとも重要な植民地をアメリカに奪われた後に崩壊し始めた。20世紀に入ると、フランコの独裁政権はカタルーニャのアイデンティティとかかわってくる制度や組織を解体し、その言語を公的な場から一掃した。この時期にスペインのファシスト政権が民主化運動と抗議デモを弾圧したことが、今もカタルーニャ・ナショナリズムの原点とされている。・・・

ドイツにおける核武装論争
―― なぜ核武装は危険思想なのか

2017年8月号

ウルリッヒ・クーン カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー トリスタン・ボルペ カーネギー国際平和財団 核政策プログラムフェロー

ロシアによるウクライナ侵略、アメリカの対ロ政策の迷走、そして、欧州安全保障へのコミットメントに懐疑的なトランプ政権の誕生を前に、ベルリンの困惑とヨーロッパ安全保障への不安は高まった。「アメリカの核の傘による安全保障(の今後)に対する懸念を取り払う、独自の核抑止力の形成を検討すべきだ」と提案する者もいる。たしかに、ヨーロッパが「敵対的なロシア」と「無関心なアメリカ」の板挟みになれば、ベルリンはヨーロッパを政治的に守るだけでなく、軍事的に防衛することを求める大きな圧力にさらされる。だが、この国の核武装には「ドイツ問題」という歴史問題が関わってくるだけでなく、EUを中核に据えてきた戦後ドイツの国家アイデンティティそのものが揺るがされる。しかも、ドイツが核戦力をもてば、EUとロシアの関係が不安定化するだけでなく、他の諸国が核開発を試みる核拡散の連鎖が生じる。・・・

ドイツのソーシャルメディア規制
―― ヘイトスピーチVS.言論の自由

2017年7月号

ハイジ・ツーレック ジャーマン・マーシャル・ファンド 環大西洋アカデミー フェロー

2017年4月、ドイツ政府はオンライン上のヘイトスピーチに関する新たな法案を閣議決定し、夏までには連邦会議で法制化されると考えられている。これは、本質的に民主国家がどこまで言論の自由を認めるかをめぐる闘いだ。「民主主義を守るには、法律によってヘイトスピーチを取り締まるしかない」というのがドイツ政府の立場だ。これに対して、ドイツジャーナリスト協会は人権活動家や研究者、そして弁護士と共に、同法案は「表現の自由の中核をなす原則を脅かす」と警告する共同声明に署名し、抗議している。だが、ドイツが、民主的な規範を守るためには言論の自由の制限もやむを得ないとする「戦う民主主義」を標榜してきたことにも配慮すべきだ。憲法第18条には、自由で民主的な秩序を攻撃するために言論の自由などの権利を乱用する者は、基本的権利を奪われることもあると明記されている。・・・

ブレグジット後のヨーロッパ
―― 統合の本来の目的に立ち返るには

2017年3月号

マティアス・マタイス ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院(SAIS)助教(国際政治経済学)

欧州統合プロジェクトの設計者たちが欧州連合(EU)の現状をみれば、さぞや落胆するだろう。1950年代にエリートたちがヨーロッパ経済共同体(EEC)を創設したのは「第二次世界大戦後のヨーロッパで国民国家システムを再生するためだった」からだ。当時は、主権国家は段階的に市場を開放するが、国内経済が悪化したときに対処できるように、国家に一定の自己裁量権を残すというコンセンサスが存在した。だが1980年代半ばにヨーロッパのエリートたちは、統合によって国民国家システムを強化するのではなく、新しい超国家的統治システムの構築へとギアを入れ替えた。そしていまやイギリスがEUからの離脱を選んだことで、EU史上最悪の政治危機が引き起こされつつある。欧州の指導者たちは、統合の目的を新たに描き、統合プロセスの管理メカニズムを再確立する必要があるだろう。

統合で内破するヨーロッパ
―― ヨーロッパ統合とメンバー国の分裂

2017年2月号

エドアルド・カンパネッラ 金融エコノミスト

ヨーロッパ・プロジェクトの設計者たちは、単一市場を立ち上げて、共通通貨を導入し、アイデンティティを共有すれば、メンバー国の国家主権をトップダウンで弱めていけると考えていた。しかし、経済統合プロセスが、地域的なアイデンティティをかつてない形で刺激し、メンバー国の国家主権をボトムアップで脅かすようになるとは予想もしていなかった。現実には、このメカニズムによって、「ヨーロッパが統合を深めれば深めるほど、より多くのメンバー国が分裂しかねない」状況にある。統合やグローバル化から恩恵を手にできる国内地域とそうでない地域の格差を広げ、緊張をさらに高めてしまうからだ。国家分裂によって、主権をもつヨーロッパの主体が拡散していけば、EUはその調整コストのために膨大なコスト負担を強いられ、金融投資家はパニックに陥り、出口へと殺到する。ヨーロッパが分離独立をめぐる危険な先例を作り出さないように、より啓蒙的な方法を見出すべき理由はここにある。

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