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政治・文化・社会に関する論文

ベネズエラ経済の悪夢
―― ディフォルトか抜本的な
社会・経済改革か

2016年10月号

リサ・ビシディ
インター・アメリカン・ダイアログ(IAD)研究部長

すでにベネズエラ市民の4分の3以上が貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。商店の棚から商品が姿を消し、スーパーマーケットには、コメなどの基本物資を求めて、行列ができるようになった。輸出収益の95%以上を石油と天然ガスに依存するこの国にとって、エネルギー輸出が低下すると、生活必需品さえ十分に輸入できなくなる。現在の問題は、原油価格の暴落だけでなく、ベネズエラの政策上の欠陥によって引き起こされている。政府は長年、住宅や医療を無償で提供する社会政策の財源を国営のベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の収入に依存する一方、国内ガソリン価格を20年近く1リットル約1セントに維持してきた。しかも、ベネズエラ政府とPDVSAは莫大な借り入れを行っており、例えば、2017年4―6月期末には73億ドルを返済しなくてはならない。中国からの融資返済にも苦慮している。政府とPDVSAはディフォルトの危機に直面しつつある。・・・・

EUの衰退と欧州における
国民国家の復活

2016年10月号

ヤコブ・グリジェル 欧州政策分析センター シニアフェロー

いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの委譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

かつてなく危険な世界
―― デンプシー前米統合参謀本部議長との対話

2016年9月号

マーチン・デンプシー 前米統合参謀本部議長

「私の知る時代のなかで、いまや世界はもっとも危険な状態にある。それぞれの脅威は小さいとみなすこともできる。だが適切に対処しなければ、そうした課題は現在われわれが考えている以上に大きな脅威へと変化していく。ロシアや中国のような国家アクターが、ヨーロッパと太平洋でわれわれの利益を脅かしている。中ロのいずれも今のところわれわれの純然たるライバルの域には達していないが、一部の領域については、われわれのレベルに近づきつつある。一方で、イスラム国(ISIS)のような非国家アクターがいる。これらの問題のいずれも無視することは許されない。根底にあるのは、現在のアメリカが、例えば、20年といった長期的なビジョンを描いて、それを政策と権限、さらには必要とされる資源で支えることができずに、一年単位で問題を捉えてしまいがちなことだ」 (聞き手はギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長)

中国における米大学の挫折
―― 規制に屈した学問の自由

2016年9月号

ケント・ハリントン 元CIA(米中央情報局)アナリスト

中国に進出している外国の大学は20を超えるが、その半数以上がアメリカの大学と中国の大学のジョイントベンチャー(合弁大学)だ。中国の他の市場と同様に、中国の教育市場も大きなポテンシャルを秘めている。何十万もの中国人学生が外国の名門大学への留学を望んでいるだけでなく、南京のジョンズ・ホプキンス大学、上海のニューヨーク大学、昆山のデューク大学など、国内で受講できる米大学のプログラムへの参加を希望する学生も多い。だが、当局による言論の取り締まりが強化されており、米大学もその対象にされている。現地に進出した米大学側は、「中国キャンパスにおける言論活動はまったく自由だし、アメリカと同じ学問の自由が教授陣にも現地の学生にもあると主張している」。しかし、現実はそうではない。・・・

難民そしてギリシャの悲劇
―― EUに放置されたギリシャと
難民たち

2016年9月号

ソニア・シャー 調査ジャーナリスト

欧州連合(EU)の難民対策は、難民を保護し、彼らの人権を守るためではなく、難民危機を前にヨーロッパで台頭する排外主義や極右勢力への対策として考案されている。当然、「できるものなら見て見ぬふりをしたいとEUが考える難民」の権利を支えることにギリシャ政府が政治的インセンティブを見出すはずはない。しかも、ギリシャは2009年に財政危機に陥って以降、厳格な緊縮財政を強いられ、ギリシャ市民そのものが非常に困難な生活を強いられている。一方、難民たちは祖国で経験した恐怖やトラウマに加えて、「(避難先のギリシャでも)自分たちは見捨てられている」と絶望している。実際、難民の自殺や急性の精神疾患が急増している。しかも、ギリシャにいる難民が健康を維持できるかは、低賃金で、ただでさえオーバーワーク気味のギリシャの医師たちが、言葉も通じない患者に時間を費やしてボランティアで治療をするかどうかにかかっている。

ドナルド・トランプの黙示録
―― アメリカ政治思想における終末思想

2016年9月号

アリソン・マックイーン スタンフォード大学准教授(政治学)

「もっとタフにスマートになり、早く行動を起こさなければ、この国は崩壊する」。トランプはこうした黙示録的メッセージを繰り返し、「自分なら、アメリカがハルマゲドンに向かっていくのを回避できるし、アメリカを再び偉大な国にできる」と主張してきた。意外にも、こうした終末論を口にするアメリカの政治家はトランプが初めてではない。リンカーンからジョージ・W・ブッシュまで、終末論的レトリックはアメリカの政治で何度も用いられてきた。実際、憂鬱な予測を示すことで、国難に市民を立ち向かわせようとした政治家は数多くいる。アメリカにおける黙示録的レトリックの伝統は、民衆を分断するのではなく、団結させることを意図してきた。トランプに特有なのは、黙示録的な予測に危険な誇大妄想をまとわせ、分断と排除を求めていることだ。

いまや国家アイデンティティーや価値、ユダヤ主義、民主主義をめぐってイスラエルは二分され、ネタニヤフ政権はそのギャップを大きくする行動をとっている。実際、イスラエルの最終目的が「大イスラエル」なら、パレスチナ側にパートナーを見いだす必要はない。・・・一方、私たち(野党)にとって重要なのは、「ユダヤ人の民主国家」を維持することだ。そのためには、古代イスラエルの土地を二つの国に分けるしかない。イスラエルが(パレスチナの)領土を併合したら、民主国家としてのイスラエルと、ユダヤ人国家としてのイスラエルが衝突する。・・・「ユダヤ人的で民主主義のイスラエル」の実現が目的なら、(「大イスラエル」主義者が唱える)土地すべてを領土にすることはできない。二国家共存のなかでのイスラエルが必要だ。・・・二国家解決策が私たちの目標だと公言して、国際社会とパレスチナの信頼を勝ち取らなければならない。(聞き手はジョナサン・テッパーマン、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)。

欧州のシルバー民主主義と年金危機
―― その弊害をいかに緩和するか

2016年9月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

ヨーロッパの若年層が「自分たちも親世代と同じように寛大な年金を受けとれる」と考えていたのはそう昔の話ではない。だが、現実にはヨーロッパ全域で、未来の世代に重荷が押しつけられ、高齢者の立場が「政治的に」優遇されている。年金危機対策にしても、結局は、「将来の年金受給者」を対象とする見直しが行われただけで、引退世代の社会保障は温存されている。イギリス、イタリア、スペイン、フランスなどで実施された一連の制度改革は、いずれも現在の年金受給者には何の影響も与えない。しかも実際には、ヨーロッパの退職者の所得の中央値は現役労働者の所得の中央値と等しく、退職者の方が高い国さえある。年金制度の破綻を防ぐには、財政の持続可能性、世代間の連帯、世代間の公正という三つの原則間のバランスをとる必要がある。

アメリカ後の中東における
イスラエルの立場
―― 紛争の中枢から安定の柱へ

2016年8月号

マーチン・クレーマー シャレム・カレッジ 学長

中東には巨大なパワーの空白が生じている。憶測を間違えた一連の行動をとった挙げ句、アメリカは中東から遠ざかろうとしている。オバマは同盟国へのコミットメントを減らす一方で、敵対勢力をなだめ、穏健化させることを通じて中東秩序の均衡を図ろうと考えていた。だが、伝統的な中東の同盟国がこの突然の戦略シフトを全面的に信用し、受け入れることはなかった。一方で、イランに対するアラブ諸国の懸念が、曖昧で決め手に欠ける和平プロセス以上に、中東におけるイスラエルとの存在を正常化する作用をし始めている。この流れが続けば、かつては紛争の中枢にあったイスラエルが地域的安定の柱とみなされるようになる可能性もある。

漂流する米・サウジ関係

2016年8月号

F・グレゴリー・ゴース テキサスA&M大学 行政大学院教授(国際関係)

戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治で起きることすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かというしかない。・・・

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