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政治・文化・社会に関する論文

サウジアラビアとイラン
―― ビン・サルマンへの権力集中の意味合い

2017年12月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学 シニアリサーチフェロー(中東外交)

最近の政治的パージによって、ビン・サルマン皇太子は政治的ライバルを追い落としただけでなく、これまでアブドラ一族が支配してきた国家警備隊を含む、サウジの軍事組織の全てをいまや直接・間接に支配している。彼は、周辺地域が抱える問題の多くはテヘランが背後で操っているとみなし、イランに対してより強硬な路線をとっている。この現状は危険に満ちている。イラン脅威論を利用して国内のナショナリズムを煽りたてるビン・サルマンが、いまやサウジの権力を一手に担おうとしているからだ。テヘランに対する強硬路線をとるビン・サルマンをイスラエルが支持し、彼がサウジにおける自らの権力基盤を固めるなか、ワシントンからテルアビブ、リヤド、そしてアブダビをつなぐ、対イランの新たな枢軸が形成されつつある。

民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
―― 中ロによる情報操作の目的は何か

2017年12月号

クリストファー・ウォーカー 全米民主主義基金 副会長(分析・研究担当)
ジェシカ・ルドウィッグ 全米民主主義基金 リサーチオフィサー

民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

政府は格差にどう対処していくべきか
―― アフター・ピケティ

2017年12月号

メリッサ・S・カーニー メリーランド大学教授(経済学)

格差は貧困の世代間連鎖の罠を作り出し、社会的流動性を低下させ、非常に多くの人を周辺化させる。このような現象が政治的余波を伴うのは避けられない。ピケティは大きな富の格差の存在は、平等主義的な政策対応を求める声を高めると指摘した。しかし、これまで以上の大きな富を手にした富裕層は、そうした変化を阻む手段をもつようになる。ピケティが特定した問題は本質的に政治問題だが、それに対処していくには政治が不可欠であることに彼はほとんど関心を示していない。・・・極端な格差が経済安全保障や社会的流動性を脅かさないようにするには、どのような政策が必要なのか。そのためには、先ず、高額な報酬が支払われているエグゼクティブの所得が市場における効率的な働き、才能を反映したものなのか、それとも、それ以外のプロセスの結果なのかを解明しなければならない。

習近平思想における共産党と軍
―― 2022年の中国

2017年12月号

サルバトーレ・バポネス シドニー大学 社会学准教授

習近平思想は一見意味のないスローガンにしか思えないかもしれない。だが、よく調べてみると、彼の言う「中華民族の偉大な復興」のための統合計画が浮かび上がってくる。習のプロジェクトを適切に理解したければ、フランス人ならフランス革命、日本人なら明治維新を想起すればよい。習近平思想とは、「共産党を中心とする中国の民族国家形成に向けたプロジェクト」なのだ。国際社会は習の演説をリベラルな国際主義のサインとして期待するかもしれない。しかし、これは軍事力の増強を後ろ盾に中華民族の偉大なる復興を目指していくという計画に他ならない。

民主国家に浸透する権威主義
―― 蝕まれるリベラルな民主主義

2017年11月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所  ディレクター

欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・

カタルーニャ危機とマドリードの誤算
――スペイン政府の正統性危機

2017年11月号

R・ジョセフ・ハドルストン 南カリフォルニア大学  博士候補生(政治学)

カタルーニャ独立の是非を問う、住民投票当日、(中央政府が派遣した警察との衝突で)900人近くが負傷する事態となった。ラホイ首相は、これを「スペインの民主主義を守るためのリベラルな行動」として正当化したが、彼は合意にもとづく平和ではなく、圧倒的な警察力によるプレゼンスで平和を手に入れようとしている。このために、スペイン政府の正統性そのものが失墜し、それまで独立には関心のなかったカタルーニャ市民、そして国際社会でこの問題を見守るますます多くの人々が、普遍的な支持など集めていたわけではなかった独立運動の立場をカタルーニャの声として受け止めだしている。いまや問われているのはカタルーニャの独立だけではない。スペイン政府の政治的正統性そのものが問われている。

イランが警戒するクルド独立の動き
――クルド独立シナリオが刺激する中東秩序の再編?

2017年11月号

アリアネ・M・タバタバイ ジョージタウン大学外交大学院 客員助教

イラクのクルド人が独立国家を作り、それを維持することに成功すれば、イランは非常に大きな余波にさらされる。イラン国内のクルド人の分離独立の動きが刺激されるからだ。これが、国内の他の少数民族を独立に向けた動きに駆り立てる恐れもある。しかも、イラク北部からイラン西部にかけてのクルディスタン地域はほぼ自由に移動できるだけでなく、言語とメディアを共有している。それだけに、イラクにおけるクルド独立運動がイランに政治的余波をもたらす可能性は高い。テヘランは、今回の住民投票を単発的な出来事とはみていない。(イラク北部に留まらず)イラン、シリア、トルコからクルド人地域を分離・独立させて、クルド人がクルディスタンに新たな国を作るためのより包括的な試みの一歩ではないかと考えている。

欧米・トルコ関係の分水嶺
――懐柔策ではなく、強硬策を

2017年11月号

ニック・ダンフォ―ス 超党派政策センター シニア・ポリシーアナリスト、イルケ・トイグール マドリード・カルロス3世大学准教授

トルコは、中東の難題に対処する上での頼りにならない協力者から、難題そのものへ変わりつつある。エルドアンが外交面で非協力的な強硬策をとり、内政面でも権威主義的なやり方を続けるのなら、いずれ欧米諸国との軍事協力も経済協力も不可能な状態に陥っていく。成り行きにまかせてそのような事態に直面するのは賢明ではない。米欧は協力して、「トルコとの前向きな関係を維持していくには、エルドアンは非自由主義的で反欧米的な路線を控える必要がある」と明確に伝える必要がある。欧米にとって、エルドアンの権威主義的やり方に目をつぶっていても、安定も協力も得られない。欧米は、トルコとの関係におけるレッドラインを設定し、度を超えた欧米批判、外国の市民を人質として逮捕するやり方を常習化させてはならないとアンカラに伝える必要がある。

トランプとヨーロッパと米英関係
―― 劇場化する米欧関係

2017年11月号

デービッド・グッドハート 英ポリシー・エクスチェンジ 人口動態・移民・統合部長

現在の米欧間の不和には劇場的な要素がある。すべてのプレイヤーたちが、危機を利用して、みずからのアジェンダや主張を推進しようとしている。ヨーロッパの「自立」を求める勢力は、「トランプの登場によってアメリカを永遠に頼りにできないことが明らかになった」という認識が浮上したことを歓迎している。トランプも、ヨーロッパの反発を、米国内における支持基盤の動員には役に立つと考えている。トランプがポピュリストの愛国主義者のふりをし、ヨーロッパのエリートたちが取り乱したふりをしているのはこのためだ。しかしどちらも実際には、本気で米欧同盟を破壊したいとは、これまでのところ考えていない。

トランプの何が問題なのか
――啓蒙的アメリカ・ファーストへの道筋を描く

2017年11月号

アンドリュー・ベーセビッチ ボストン大学名誉教授(国際関係学・歴史学)

かつてジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントンなどが考案した政策を、いまの米市民がそのまま受け入れることはあり得ない。最強の国アメリカという構想はすでに破綻しているからだ。「アメリカ・ファースト」が人々に支持されているのはこのためだ。もっとも、トランプは外交領域では「アメリカ・ファースト」ではなく、エンゲージメント戦略をとっている。問題は、十分な情報に基づかない、衝動的で、気まぐれな外交決定をしていることだ。最強国アメリカを前提とする冷戦後のユートピア的グローバリズムとトランプの愚行が混乱を引き起こすなか、必要とされているのは、戦間期に一時的に台頭したアメリカ・ファースト運動の主張をバランスよく解釈することだろう。この戦間期の運動が示した懸念と確信の多くは、現在の窮状から離れていくための健全な起点を示している。

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